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2話「だんじょん ふぁーすと あたっく1」

 アトは冒険者ライセンスを見つめていた。


「どんな技術が使われているのか知らないけど、すごいよね……」


 薄く発光し、文字を出現させる薄い板。冒険者ライセンス。

 そこにはステータス画面に昇級指定クエストが映し出されていた。


 冒険者が見習いから脱するための条件。それは十五の指定クエストのうち、六つをクリアすればいいのだ。こう聞けば簡単に思えるが、冒険者のクエストというのは多岐にわたる。


 冒険者としてこなしていくクエストは大きく三つに分けられる。


 一つ、『資材採取(エクストラクト)』。

 都市の外に出て、草原や森で薬草や毒消し草といったポーションの素材となる素材を採取してくる。

 希少鉱石の採掘や泉や湖の水といったものもここに含まれる。もちろん、モンスターを倒して得た素材などもこれだ。毛皮、爪、牙は武器に、心臓や内臓、眼球、肉といったものは素材や食材として納品されることになる。


 二つ、『依頼達成(クエスト)

 都市に住む人や、商業ギルド、大きくは王侯貴族から任じられる依頼のこと。

 部屋の掃除から情報の売り買い、護衛や傭兵、強大のモンスターの退治や危険な場所の調査など、様々な依頼が存在する。

 そのどれもが、依頼主がおり、報酬を受け取ることができるという点は変わらない。


 そして、ダンジョンを攻略する『迷宮攻略(ダンジョンアタック)』。

 都市内、またはフィールドに点在する『迷宮(ダンジョン)』。

 モンスターが生息、徘徊し、縄張りとしてるエリア。世界の雫(エッセンス)が濃すぎるからか、通常の法則とは違った法則が成り立つ異空間と化しているという。

 モンスターから得られる素材、時折何故かある宝箱の宝物。実入りはいいのだが、脱出するためにはもときた入り口から戻るか、存在するダンジョンボスを倒すことでこの異空間からの脱出が可能となるらしい。


 「と言う」とか「らしい」というのは、このへんはヨサ叔父さんからの話しか聞いてないからだ。

 一番想像がつかず、アトがやっていけるか分からない部分。


「と、言うわけでさっそくやってきました!」


 アトは大きな扉の前に立っていた。扉は光の粒子で出来た鎖で施錠されている。

 ここは都市内に存在する<マルヴァの館>だ。見た目は大き目の洋館にしか見えないが、れっきとした『迷宮(ダンジョン)』だ。

 人間によって管理されている『迷宮(ダンジョン)』は、このように魔術的に施錠(ロック)されている。対応する鍵がないと、『迷宮(ダンジョン)』には入れないようになっているのだ。


 まあ、勝手に街の人が入ったりすると死んだりする人が出るかもしれないから、かもしれないね。


 考えながら冒険者ライセンスをかざすと、ロックが解除される。

 パキンと小気味いい音を立てて、光の鎖がバラバラになった。

 あとには重く佇む扉が残るのみだ。教会の入り口のような両開きの扉。それが触ってもいないのにゆっくりと開きだした。


「お、お邪魔しまぁす……」


 迷うこと少し。アトはそろそろと足を踏み入れる。

 扉を通る瞬間、ひやりとした空気が全身を包んだ気がした。


 おおう。今のが、異空間に入ったってことなのかな。


 思わず腰に提げている剣に手が伸びる。抜いておいたほうがいいのか、それともモンスターが出てからのほうがいいのか。


 とりあえず、すぐに逃げられるように抜かないでおこう。

 どんなところか見に来ただけだし、戦いに来たわけじゃないからね。うんうん。


 <過去視(パストヴィジョン)>はオンにした。このスキル、実はオンにしたとしても見たいものをピンポイントで見られるわけでもないのだ。鍛冶屋では運がよかったが、これまでの経験から重大な物事ほど視える確率は高い。『迷宮(ダンジョン)」なら、もしかしたら誰かが死ぬ瞬間を()てしまうかもしれないけれど。


 村での嫌な思い出が、一瞬よぎる。


「……ええい! 自分で暗くなってちゃ意味がないよ! 度胸だけはヨサ叔父さんにも褒められたでしょ!?」


 ばちぃんと響くほど、アトは自分の両頬をはたいた。


「よしッ! 気合はいった!」


 きっと前を向く。どうせやんなきゃならんのだ。こんなスタートでまごまごしている場合ではない!

 慎重に気を付けながら、しかしどんどんとアトは歩を進めていく。


 <マルヴァの館>は、内部もまた洋館のような構造になっていた。廊下を照らす燭台は明々と燃え、見づらいといったことはない。そのことにほっとする。長く続く廊下に、ところどころ見える客室の扉。


「たぶん、これに入れってことだよねぇ?」


 入りたくない。

 これ、どう考えてもモンスターが出ますよーってことだと思う。


 アトは慎重に、扉の取っ手に触れた。


 ――――


 私が開く。そこから見える部屋の中も、廊下と同じく明るい。

 中はどうやら物置のようで、様々ながらくたが散乱していた。

 残念ながら長年放置されていた場所らしい。古びて、崩れている。

 無事に残っているのは頑丈そうな木箱がいくつかのみだ。

 私を通って、男性が部屋に入ってきた。緊張した面持ち、抜き身の剣。

 しばらくあたりを見回して、何もいないことに安心した顔をする。

 ガラクタをつっつき、木箱を開けるのが見えた。

 木箱の中にはちょっとした小銭。あけて回る男性。

 最後に残った部屋の隅の木箱が、急に男性に噛み付いた。

 木箱の内側に、牙が。

 噴き出す血。叫び声と振り回す剣。木箱に突き刺さって。


 ――――


「はぁッ!!」


 戻ってきた……!


「なにあれ、木箱の一つがモンスターってこと……?」


 扉を開くと、中にはさっき視たのと同じ部屋が待っていた。

 ご丁寧に木箱の位置まで同じだ。


 ということは、アイツは……。


 部屋の隅の木箱。アトはそこから目を離さないようにしながら、剣を抜く。

 ぎりぎりまで近付き、気合と共に振りかぶる。


「えええいッ!!」


 剣閃は鋭く、アトが思った以上に真っ直ぐ木箱に吸い込まれた。

 ずぶり。

 肉を斬る手応え。深々刺さった傷口から吹き上がる紫の血。


「うぅわっ!?」


 あわてて何回か剣を叩きつける。焦っていたわりにちゃんと斬れたのは<剣術(ソードマスタリ)>のおかげだろうか。


 気が付いてみると、木箱もどきはピクリとも動かなくなっていた。


 モンスターとの初戦闘、勝利。


「よ、余裕ね! よっし、これならやれそうやれそう!」


 一応他の木箱も剣先でつついて確認してから、中から小銭を頂いた。一部屋目、クリアだ。

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