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29話「すとーん てんぷる」

 『石の民』。


 石材、岩石、鉱石、宝石といった石を自在に加工したり操ったりする特殊技能(スキル)を生まれ持った人種だ。この世界には様々な人種が存在するが、そのうちの一つである。

 見た目で分からない人種も多かったりするのだが、『石の民』はわかりやすい。成人男性でも子供のような背丈なのだ。実際この石工さん達もアトより背が低い。だが筋肉量は多くがっしりとした体形をしている。

 筋肉質な小男のような彼らは、それでいて繊細な鍛冶仕事が可能だ。火への耐性がある人もたまに生まれるらしく、そういった人達は鍛冶屋に、そうでない人は石工になると言われている。ドンツ達は典型的な『石の民』と呼ばれる人種だ。いわく、石を割ったりするために弱いところが的確に視えたりするらしいというが。

 そうであれば石系のモンスターを撃退できたのは頷ける。


「あまり無茶はしないでね。こっちでまともに戦えるのはイドラだけだと思う。足手まといにならないように動く。それだけ考えよう」


「おう。もとより無茶はする気はねえよ」


 にかっと笑って石工が言った。アトは頷く。あとはやるだけやるしかない。


 意を決して神殿へと歩を進める。いつでも戦えるように直剣はすでに抜いていた。

 先頭をアトが、その後を石工さんたちが続く。最後はイドラだ。


 街は廃虚のような有様だったのに、神殿は美しさを保っていた。直立する柱は傷一つなく、柱と柱の間を巨大な石像が並べられていた。頭部が動物の人型や美しい人間の巨大な石像が延々と続く。壁際には等間隔に設置された松明は赤々と燃えている。左右の壁は走れば二十秒ほどで到達するだろう。奥へは広くなっており、横の数倍はあるだろうか。

 しんと静まり返った空間が、逆に恐ろしい。アトはごくりと唾を飲み込んだ。その視線がそこかしこに向けられる。


 ボスモンスターと戦うのなら、情報が欲しい。【接合点(ノッツ)】がないか探す。見える範囲には無い。視える過去になるほどのことがなかったのか、そもそも誰もここまで到達したことがないかだ。


『来る……』


 真っ先に反応したのはイドラだった。奥の暗がりへと鼻先を向ける。

 闇の中からまず出て来てたのは、大きな鋏だった。硬質な白色の鋏。次いで細長い脚。まるで蟹のような甲殻を思わせる体。ゆっくりと全体像が明らかになる。

 それは大蠍だ。大きさで言えばイドラに匹敵する。

 二本の大きな鋏。八本の脚がついた胴体。そして禍々しい針がついた尻尾。そのすべてが白い石で出来ている。さしずめ“石大蠍(ストーンスコルピオ)”とでも呼ぶべきだろうか。


「さがって!」


 石工さん達が緊張するのが分かった。アトと石工さん達がさがり、代わるようにしてイドラが前に出る。イドラは警戒の唸り声を上げた。


「嬢ちゃん、左側の二本目の脚、右の鋏の付け根、尻尾はダメじゃ、一番堅い!」


 石工の道具なのか、片眼鏡(モノクル)をかけた一人が叫んだ。どうやら石の材質的に弱い部分らしい。


「イドラ!」


『承知!』


 イドラが即座に反応して攻撃をしかけた。突撃からの前脚の一撃。即座に反転したところを“石大蠍”の尻尾が貫いた。噛み付き攻撃なら体に刺さっていただろう。

 アトは<物体操作(キネシス)>による援護射撃を試みた。シロタイト石の弾丸が跳ぶが、まずもって命中しない。カサカサした動きは思ったより素早いのだ。まだ動く的に命中するほどの精度はない。アトは自分の未熟さを歯がゆく感じていた。

 ぐっと直剣を握る。それを感じたのか、石工さんが腕を押さえて止めてきた。


「やめとけ。その剣じゃ刃が折れるのが関の山よ。打撃できる武器の方がよいじゃろ」


「打撃……、打撃……?」


 アトは直剣を鞘に納めると辺りを見渡す。何か武器になるようなものはないか。


 ――――あった。


「ねえ、あなた達ならあの石像の根っこを破壊できる?」


 アトは晴れやかな笑みと共に言った。神殿内には巨大な柱と巨大な石像が交互に配置されている。どちらもアトが両手を広げても回しきれないほどの太さがある。柱は天井と繋がっているが、巨大な石像はその限りじゃない。あの根っこを破壊し、“石大蠍”の上に倒すのだ。充分すぎるほどの打撃になるはず。


「わかった! やってみようじゃねえか!」


 石工さん達が素早く柱の一つにとりついた。息を合わせて柱を削りにかかる。みるみるうちにヒビが入り、準備ができたことを知らせてくる。


「イドラ! “石大蠍”をこっちに寄せて!」


 見れば“石大蠍”はすでにダメージを負っていた。イドラは何度も攻撃を繰り返し、六本の脚のうち四本を叩き壊していた。どうやったのか片方の鋏すら取れている。

 上からついばむように降る蠍の尾を危なげなく回避し、イドラはこっちに戻ってきた。適度に速度を落とし、“石大蠍”が着いてこられるようにして、だ。


 脚を失い、動きがぎこちなくなった“石大蠍”が通る。


「今ッ!!」


「オオオッ!」


 アトと石工さん達が全力で石像を押す。普段ならこの程度でこけるものではない。だが、足下を削られた今、巨大な石像は不安定になっていた。

 ギイイイイイイという“石大蠍”の断末魔。

 巨大な石像は重しとなり、“石大蠍”をゆっくりと押しつぶす。押しつぶされたまま蠍の鋏を振るうが、その程度では石像は動かない。そこに容赦なくイドラが攻撃を加えていった。もともとイドラだけも勝てそうだったのだが、こうなれば安全だ。

 “石大蠍”が黒い塵へと還るまで、さほどの時間はかからなかった。


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