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28話「でいりぃ らいぶ おぶ ぱすと」

 奥へ進むほど、後ろから追いかけて来る“石蛇(ストーンサーペント)”の数が増えている気がする。後ろからの圧がすごい。

 とにかくアトは走っていた。ダンジョンは奥に進むにつれ、崩壊した壁やら家やらが少しずつ現れていた。まるで廃墟となった大都市だ。白い石を基調として造られた建造物は清潔な美しさを保っている。

 その家々の隙間、元は路地だったであろう場所を駆け抜ける。その後ろを警戒しながらイドラがついてきていた。

 走っているアトに、ぼそりとイドラが呟くのが聞こえた。


『よくない……』


「何……? どしたの……?」


 すでにアトの息は上がっている。レベルが上がったことにより身体能力が上がっているとはいえ、こう走りっぱなしではキツい。

 ちょっと休みたいが、イドラは止まることを許さなかった。それでも少しペースを落とし、話しながら走る。


『これは……走らされている』


「追い込まれてるってこと?」


『先ほどから追いついてこず、姿もいまいち見せないのはそういうことだと言えよう』


 “石蛇”達はアト達が止まりそうになるか、奥へ向かうルートから逸れそうになると姿を見せていた。なるほど、言われてみると狩りの得物となっているわけだ。

 奥が行き止まりになっていてそこで追い詰められるか、奥に獲物を献上したい大物がいるということか。


「なら、やつらの目的地に辿り着くまでは安全ってことね?」


『奥は危険かも知れない。貴公の安全を考えるなら、対峙して殲滅するという方法もあるが……』


 アトは少し考え込んだ。イドラの方法も検討する。だが、首を左右に振った。


「走ってきた途中に、石工さん達の死体は無かった。もしかすると同じように追い込まれてる可能性が高いと思うの。だから、案内されるままでいい」


 道中【接合点(ノッツ)】もいくつか見えていたが、触れるような余裕はなかった。確かめる術は無いが、予想通りであってくれればと思う。


「それにしても、数が多くない? あんなに“石蛇”がいたら、


 アトとイドラはあらためて奥を目指す。

 <アズースの石切り場>の奥がこんな風になっていたとは、アトは知らなかった。この廃墟都市は中央都市(セントレア)に匹敵するほど大きいのではないだろうか。アンセスの情報の中でも、そこまで奥まで行くことを想定していなかったから聞いていなかったのだ。

 路地を抜けると中央広場のようなところに出た。崩れた噴水を中央に、石製のベンチなどが設えられている。どうもメインストリートらしい大通りが見えた。ずっと奥には神殿のような建物が見える。


「あれ……?」


 崩れた噴水が青く光っているのが見えた。【接合点(ノッツ)】だ。石工さん達の情報が分かるかもしれない。アトは残骸にそっと触れる。


 ――――

 広場を人々が行き交う。

 私は高い視点からそれを眺めていた。


 街行く人達の服装は見たことのないものだった。ゆったりとした腰巻にサンダル。上半身を露出している人もいれば、大き目の首飾りで装飾している人も多い。シロタイト石のように色白の人と、石工さんたちのように背が低くガッチリとした体形の人の二種類がいるようだった。

 屋台があり、活気と、熱気と。人々の営みが。

 ――――


 何だ。今の。


『どうされた?』


「ううん。大丈夫……」


 様子がおかしかったのだろう。心配するイドラに何とか返事を返す。

 今、見たのは何だったのだろう。 

 <過去視(パスト・ヴィジョン)>は過去を見る。すなわちここで人々が生活していたということなのだ。

 迷宮(ダンジョン)の中で? まさか?

 でも、そういうのもありえるのかな……?


 疑問が膨らむアトの背中をイドラの鼻先が押した。どうやら足が止まっていたらしい。


「ごめん……。どうかした?」


 振り返ってみたイドラは宙を見ていた。鼻や耳を使って索敵しているらしく、遠くを見る目をしている。


『やつら、動きを止めたようだ。どうやらあの神殿に導きたいということであろうな』


「私達はボスへの献上品ってわけだね」


 もう焦る必要はない。警戒は大事だが。

 アトとイドラはゆっくりと大通りを進む。通りに沿った建物も廃墟となっており、完全に形を残しているものは一部だ。アトの目にはそこに働く人達を、通りを歩く人たちが視えた気がした。


 遠くからでも神殿の偉容は見えた。巨大な柱が何本もそそり立ち、巨大な壁と屋根を支えている。外からの形は長方形や正方形などの箱を重ねたような外観だ。特徴的なのは人の姿を模した石像も一緒に並べられているところだ。これも柱と同じく、見上げるほどの大きさで出来ている。一体どうやって作られたのか気になるくらいだ。

 入り口もかなり大きく、アトを縦に五倍以上引き延ばして頭が当たりそうにない。もしかするとストーンゴーレムとかが通れるようにサイズが考えられているのかも。


 神殿入り口前は階段になっていた。

 その階段に座り込む人影をアトは発見した。石工さん達だ。


「おおおい! 大丈夫ですかああ!?」


 アトの大声にハッとした顔になった石工さん達。だがすぐにその顔が凍り付いた。イドラの姿を見たからだ。


「う、うぉわぁ! なんじゃ! ボスモンスターか!?」


「だ、大丈夫ですよ! ええと、とにかく噛み付いたりしませんから大丈夫です!」


「ほ、ホントじゃな!?」


「ええ。それより皆さん無事でよかった」


 アトは胸をなでおろす。神殿前にそろっていたのは三人の石工さんだ。やはりアト達と同じようにここまで追い込まれたらしい。ボスモンスターが出るだろう神殿の中に入ることもできず、ここでうなだれていたのだ。

 ドンツ達も無事に脱出したことを伝えると、安心した顔になる。


「そうか、アイツらは無事に脱出できたか。じゃあ、ワシらも脱出できるのかの?」


「ええ。そのためにちょっとコワイ思いするかもしれませんけど」


「は?」


「ボスモンスターを倒します。それしか出口がありません」


 石工さんたちはあんぐりと口をあけたまま固まった。

 だが、視線をイドラに向けて納得したように頷いた。


「このままココにおっても、餓死するだけじゃな。ワシらも微力ながら手伝わせてもらう。これでも『石の民』の末裔じゃ。石系モンスターのことなら任せるがええ」


 三人の石工さんはアトに向かって力強く頷いてみせた。

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