27話「ぷれす ふぉーす」
さっきとは逆に、迷宮の奥に向かって進む。ひとまずはドンツ達が入り込んだという穴まで行きたい。
そこまでのルートは聞いていなくても、【接合点】を辿ればわかるはずだ。
アトは<過去視>をオンにすると目を凝らした。そこかしこに青い輝きが見える。壁や突き出した岩、モンスターを倒した跡なのだろう残されたドロップ品などだ。
アトはそっと触れて過去を視ていく。
――――
ドンツ達が手に持った武器で“動く彫像”を叩き壊す。モンスターの体が塵になるのを見ている暇はない。“石蛇”が姿を現した。あわてて逃走に入るドンツ達。
「クソッ! まだ追ってきやがる!」
「おい、追いかけてくるってことはアイツらは……」
「うるせえ!」
悲嘆な声をドンツが怒鳴り声で上塗りした。
「アイツらが無事に逃げたからワシらを追いかけてるのかもしれねえ!」
「くっ……!」
呻き声を残して、石工たちはその場を離れていく。床に落ちた私を残したまま。
――――
「…………ふう」
残された過去からはドンツ達が必死に逃げてきたのがわかった。いくつかの情報を統合すると、最初に入ってきた場所もわかりそうだ。
アトは後ろで控えるイドラを見上げた。イドラがいるだけでかなりの安心感だ。モンスターもどんとこい。
「場所は分かった。急ごう。ドンツさん達が逃げたってわかったら、たぶんあの“石蛇”も探すだろうし」
『了解した』
突き出た岩や巨大石の形を目印に進んでいく。奥に行けば行くほど、隠れられそうな大岩や倒れた柱のような彫刻が増えていく。もしかすると迷宮クリア報酬は美術品だったりするのかもしれない。
ただ、これだけ隠れられる場所があるなら、まだ生きている可能性も高い。
それなりに歩いた後、ようやくドンツ達が入ってきた入り口が見えてきた。大きな壁の途中に洞窟のように穴が空いている。そこに縄梯子がかかっており、途中からちぎれていた。あれがドンツの言っていた梯子だろう。
アトはその下まで行くと見上げた。けっこうな高さにあり、よじ登れる気はしない。
ずるり、と何かが動いた気がした。
色が似ているから気のせいかとも思ったが、倒れている柱が動いていた。ぐにゃりと持ち上がったかと思うと、頭を巡らせてこちらを見た。“石蛇”だ。
『任されよ』
ずあっとアトの傍から一陣の風が起こった。一筋の流れとなってイドラが“石蛇”に迫る。“石蛇”が石をこすり合わせるような威嚇の音を上げた。大きな口が開かれる。
だが、イドラはその顎ごと叩き伏せた。上から片手で床に押さえつけると、首を噛み切ってしまう。ごろりと“石蛇”の頭部が転がった。早業だ。
「うわあ……」
『この程度なら問題にならないな』
倒された“石蛇”がぼしゅっと黒い霧になる。残されたのは石の鱗だ。アトはそれを拾う。掌サイズの大きな鱗。シロタイト石より美しく、なめらかだ。軽くはじいてみると石というより金属をはじくような音がする。
剣が通りそうな硬さじゃないけど、イドラの牙はよく通るものだ。さすが元ボスモンスター。
よくこれに勝ったものだよ。ほんと。
アトが回想に浸っている暇はなかった。もう一匹“石蛇”が姿を現す。
「ちょっと、一匹じゃなかったの!?」
確かに誰もそんなことは言っていない。一匹いるならば複数いることも考慮すべきなのだ。わかっていてもつい愚痴ってしまう。
アトの喉が干上がる。一匹だけじゃない。さらに二匹、岩陰から這い出して来るのが見える。さらに遠方から何かが這いずる音も。
『集まってきておるようだな。さきほどの威嚇音。仲間を呼んだな』
アトはすぐさま視線を巡らせる。退路はさらに奥、ボス部屋の方にしか空いていない。
「イドラ、こいつらを倒すことはできる?」
『できぬことではないが、数が多い。貴公は自分で自分の身を守ることになる。それは可能か?』
ずるずると、話し合っている間にも“石蛇”は集まってくる。エンキが使ったようなアイテムは持っていないから、レベルがいくつかはわからない。アトより高いのは確かだろう。
イドラの先ほどの様子なら、“石蛇”達を殲滅することも可能だろう。だが、一匹でも回り込まれれば、アトになすすべはない。
攻撃するも通らず、石の弾丸も当たらない想像が視える。
「いやあ、ちょっと厳しいかな?」
どうする? とイドラが視線を寄越してきた。決断まで時間はない。
「……奥へ行こう。イドラがいるなら、ボスを倒して脱出する方が確実かもしれない」
『よし。ならば走れ!』
バネがはじけるようにして“石蛇”が飛び掛かってくる。イドラはそれを跳ねのけた。倒すことよりいなすことを意識している。
「ひ、ひえええええ!!」
イドラが道を空けてくれている。アトは全力で迷宮の奥へと走った。




