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23話「ぶらっしゅ あっぷ」

 ごごん、と“動く石像”が崩れた。お腹の部分を破壊され、上半身が地に落ちる。

 しばらくしてから、ざあっと黒い霧となって散っていった。迷宮(ダンジョン)特有の消失。後にはドロップアイテムとなるシロタイト石が残されていた。


「うんうん。いい感じ」


 アトは頷くとシロタイト石を拾う。拳大の丸い石だ。彫刻の素材にするには質がいまいちらしく、安値で取引されるレベルらしい。もっと小さければ玉砂利として使う道もあるのだとか。絶妙に使いにくいサイズだと石切り場で働く石工さんに聞いたのだ。


 市場にとって使いにくいサイズでも、アトの<物体操作(キネシス)>にとっては別である。


「ふんふふーん。ふんふーん」


 アトは鼻唄混じりで拳大の石を浮かせる。このくらいのサイズが操作しやすい。ちょうど石弾として使うにはもってこいなのだ。


 倒せば倒すほど補充される石弾。無限に撃ち続けるサイクルの中、どうやら<物体操作(キネシス)>も技能(スキル)レベルが上がっていた。冒険者ライセンスには<物体操作(キネシス)Ⅱ>と示されている。


 操作技能が上がったのがアトにもはっきりわかる。いまや石弾は浮かせるだけでなく、細かく動かしたり、回転させたりといった動作ができるようになっていた。


 くるくるぎゅんぎゅんと回転させるのは無性に楽しい。どこまで速度を上げられるか試したりもしていた。



 太陽が高くなるころ、迷宮(ダンジョン)の外で休息をしながら昼食を取っていると、不意に強烈な地響きと何かが崩落する音がした。もうもうと吹き上がる粉塵と、悲鳴のような怒号が飛び交っている。

 聞こえてくるだけの情報でも慌ただしい様子がわかった。


「事故……? とりあえず行ってみよう。助けになれるかもしれないし」


 アトはポーチに収まった回復ポーションを確認すると、騒ぎの中心に向かって歩き出した。



「うわあ……」


 アトは思わずそんな声を出した。

 石切り場は酷い物だった。アトの背丈より大きな石材が崩れている。まるで積み木で遊んでいて、土台から壊したかのような有様だ。

 石工さん達は崩落現場の前に集まって、頭を掻きながらこまっている。何が起きたか確かめるためにも、アトはそこに近付いた。


「大丈夫!? 怪我人とかは!? いくつか回復ポーションならあるよ」


 石工さんはがっしりとした体形のおっちゃんだ。樽のように丸く小柄だが、その体にはぎっしりと筋肉が詰まっている。

 おっちゃんはアトをチラリと見て、その装備を確かめた。


「お嬢ちゃんは……冒険者か?」


 アトは冒険者ライセンスを取り出すとおっちゃんに見せた。おっちゃんが一つ頷く。まあ、石工さん以外にこんなところにやってくる奇特な輩は冒険者くらいなものだろう。


「見てのとおり崩落事故だよ。どうやら切り出した下側の石質が脆かったらしい。負荷がかかってコレよ」


 おっちゃんは親指で惨状を指示した。どうやら作業拠点のテントも潰されているらしく、落胆した雰囲気が漂っていた。おっちゃんの説明も、最後の方はアトに言っているというよりぼやきになっていた。


「幸いこんな崩落程度で逃げ遅れるクズは雇っちゃいねえ。怪我人がいねえのは良かったんだがよ……。こりゃあ、困ったな。これじゃあ石をどけて作業再開までどれくらいかかるもんか分からねえな」


「瓦礫をどかすの、私も手伝おうか?」


 アトは自分を指差して告げる。人が埋まっていない大小様々な瓦礫がたくさん。これは<物体操作(キネシス)>の練習にはちょうどいいかもしれない。技能(スキル)については助ける代わりに口止めすればいいだろうし。

 おっちゃんはアトの言葉を聞いて一瞬呆けたような顔で目をパチクリとさせていたが、やがて盛大に噴き出した。


「嬢ちゃんが!? わははは! 気持ちはありがてえがよ、その細っこい腕じゃちょっとな! まあ、冒険者に依頼するってのはいい考えかも知れねえかもな」


「それじゃ、やるよ~」


「おい嬢ちゃん! 近付くとまだ崩れるかもしれねえからよ! 待て――――」


「ほいっ、と!」


 アトはとりあえず一番大きな瓦礫を<物体操作(キネシス)>で持ち上げた。ちょっとした小屋くらいのサイズはあろうか。それが浮かび上がる。

 レベルⅡになって何となく理解したことだが、<物体操作(キネシス)>で持ち上げられる重さは、アト自身の腕力と関係がない。アトが持ち上げられないような重さや大きさのものでも、操作することができるのだ。

 どこまで大きなものが操作できるのか試していないからわからないが、とりあえずこの巨石くらいのサイズならいけるということがわかった。


「それで、どこに置いたらいいかな?」


 アトはあんぐりと口を開けて固まっているおっちゃんに問いかけた。おっちゃんの精神が復活して指示を出すまで、アトはしばらく浮かせ続けなければならなかったくらいだ。


 瓦礫の撤去はものすごく練習になった。おっちゃんの指示の下大きな瓦礫からどけていき、人海戦術が取れる小さな瓦礫は、石工さん達に任せていく。

 陽が傾くまでには、あらかたの撤去作業は終わっていた。


「いやあ、助かった! ありがてえ! まさか嬢ちゃん魔術師だったとはね! さすが冒険者サマよ!」


「う~ん、ちょっと違うんだけどね!」


「何でもいい! また会ったら何でもいってくれ! 町なら酒の一杯でも奢るからよう!」


 なんだかカン違いされている気もするけど、まあ、これはこれでいいか。

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