22話「すとーん くぁーりぃ」
普段通りの喧騒。冒険者達の静かな熱気が建物内には立ち込めていた。皆が身に付けた武器や防具が天井からの証明に照らされて輝いている。
陽が昇ってからすぐのこの時間帯でも冒険者の姿は多い。いつ寝ているのだろうと不思議に思う。
アトは冒険者ギルドのカウンターの前に立っていた。先ほどからアンセスが広げたクエスト用紙を穴が開きそうなほど見つめている。
「決まりましたか?」
「あ、いや、ごめんね。クエストでもないのに」
「いえいえ、こういった紹介も専属受付員の仕事ですから」
あのクエストの顛末についてはアンセスにも伝えてある。キツネ目を開きそうになるほど驚かれていたが。
そのままアンセスにはアトとシアンの専属受付員になってもらうことにした。胸元の星バッジが嬉しそうだ
。
今日は依頼を探しにきたのではない。もしそうならばアトはシアンと一緒に来ている。パーティを組んで行動することが多い二人だが、今日の様に別々に行動することもあった。
アトが探しているのは弱いモンスターが出る迷宮だ。
今日のアトは自分自身に磨きをかけることを目標としている。先日のアセイドラ森林回廊の件でアトのレベルは3に上がっていた。もっと上がってもいいのにと思いつつも、このあたりはなるようにしかならないのだろう。
とにかく、得た技能や従魔について習熟しておこうと考えたのだ。
「人目につかなくて、それでいて敵が弱い……」
それだけならいくつか存在する。ただ、敵が虫系だったりネズミで数が多くて環境が劣悪だとか、行きたいとは思わないものなのだ。
「あまり初心者向けとは言えませんが、ここなどはどうでしょうか?」
そう言ってアンセスは一つの迷宮を指し示した。
<迷宮:アズースの石切り場>。
中央都市から北に向かった国境近くの迷宮だ。
この中央都市は三つの国に囲まれた特別自治区という形になっている。
南西は豊富な穀物地帯を擁する食料大国ザッスリア。南東を治めるは魔術という技能に力を入れたガンドゥール帝国。大きく北を有するは科学が発展しているマショネイト王国。
中央都市はそれぞれが睨み合い三すくみを起こしているど真ん中に位置しているのだ。冒険者を多数有し、各国の中央拠点となりつつも第四勢力として戦力を派遣する特殊な国ということになる。
<アズースの石切り場>はそんなマショネイト王国の国境沿いの迷宮となる。
馬車を乗り継ぎ、徒歩での移動をすること三日、ようやく国境沿いへと出ることができた。そこからはすぐである。一番近い村で準備を整え、いざ迷宮へ。
「はあぁ~。でっかいなあ……」
<アズースの石切り場>に辿り着いたアトは思わずそんな声を上げた。
草一つ生えていない、ごつごつとした岩壁ばかりだ。白っぽい岩石地帯はこのあたりの名産石シロマイト石を産出するらしい。今も忙しそうに多数の石工達が忙しく働いていた。迷宮への入り口もあるが、通常の石切り場でもあるのだ。
巨人でも働いているのかと思うほどの巨大な縦穴。何度も何度も切り出され、どこもかしこも四角く欠けている様が、自然物を人工的な風景に作り替えていた。
アトは意を決すると石切り場の奥へと向かっていく。そこに迷宮の入り口となる光の鎖で封印された扉が存在していた。
芸術家の手による彫刻作品のような、白一色の石扉。美しい男女のペアが、扉の左右に彫り込まれている。
「じゃあ、行くとしますか」
一人だとなんだかしまらないな。
気分を出すための独り言だ。アトは懐から取り出した冒険者ライセンスで光の鎖を解除する。そしてゆっくりと開いていく扉をくぐっていった。
<アズースの石切り場>はとにかく広い空間だった。足下は白い石で出来ており、ごろごろと石が転がっている。ときおり大きな岩が点在しているのがアクセントといえるか。これまでの迷宮のように部屋があるという概念はないようだ。
その辺の森や原っぱと同じように考えればいいのかな?
足下に石や岩が落ちているので、<物体操作>の練習にはもってこいだ。入り口近くだとほかに入ってきた人に見られたりするかもしれないので、少し奥へ行くことにする。
「お、出た!」
ぐごごごご、と重い音を立てながら現れたのは、“動く彫像”と呼ばれる<アズースの石切り場>で主に出て来るモンスターだ。貫頭衣を纏った男性の姿で、その手には棍棒を握っている。
アンセスの情報によると、その体は硬度の高いシロマイト石で出来ており、斬撃、射撃を通さず生半な魔術すら弾くと言われているらしい。もちろん今のアトの武器では歯が立たない。
無傷で倒さないかぎり芸術品としての価値は無く、なんとか倒せても体のほとんどは黒い霧となりドロップするシロタイト石も少ない。冒険者にとっては実入りの少ない迷宮なのだ。
「でも、足が遅いんだよね」
その通り。圧倒的な防御力を誇る代わりに、“動く彫像”はとても足が遅いのだ。
アトは落ちていた石を<物体操作>で持ち上げると、勢いをつけて射出する。ぶつかった石弾は、ガツンと良い音を立てて肩の一部をえぐり取る。いけそう。
「まずは<物体操作>の練習だね!」
弾はいくらでも落ちている。アトは無心になって<物体操作>を発動し続ける事にした。




