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19話「かーど おぶ えーす」

 残骸と化したルクセトくんの向こう、森獣と目が合う。明らかにこちらを認識していた。エンキの攻撃をいなしながら、ターゲッティングしている。

 倒す策はない。逃げる術はない。


 アトは剣を抜いた。奥歯を噛みしめる。

 駆け出す前にシアンがぼそりと呟くのが聞こえた。


「アト、少しだけ時間を稼いでくれないか?」


「わかった」


 アトには何も思いつかないが、シアンなら何か思いついたのだろう。天才だからね。

 もし、シアンが逃げるのなら、一人は逃げられるってこと。それも上出来だね。


「ああああああああッ!」


 駆けた。踏み出した脚が震えなかったのは上出来だ。森獣からだいぶ遠いが剣を思いっきり振りかぶる。


 武器屋のおっちゃん、ごめん!


 アトは全力で剣を投げた。投げるには重すぎて、すっぽぬけるように上空へ舞う剣。


「何やってんだ!?」


 エンキ、うるさい。狙い通りだから!


 森獣もエンキと同じように考えたのか、ちらりと見たあとに興味を失ったようにすぐに視線を外す。

 そうだと思った!


 <物体操作(キネシス)>。空中の剣は、何者も触れていない物体である。

 意思の力は空中の剣をひっつかむ。アトの思い通りに森獣に向かって加速させる。森獣の驚いた気配。


 剣は刺さらなかった。否。刺さったのだが、毛皮に弾かれた。頭の一振りで弾かれ、どこかへと飛んでいく。

 だが、驚かしたことに変わりはない。短く吠えると森獣はまるで疾風のように突撃を仕掛けてきた。死ぬ。これは死ぬ。


 まるで大きな枝を叩くような音。


「ったく! 何だってんだ!!!」


 鎧馬に乗ったエンキがいつの間にか目の前にいた。森獣の攻撃を、いつのまにか取り出した丸い盾で受け止めていたのだ。何か光る破片が舞っている。

 どれほどの勢いで駆けつけたのか、鎧馬の足下は抉れて煙を上げていた。


技能(スキル)を複数発動させてもこれか! まったくなんてバケモン!!」


 無理がたたったのか鎧馬ががくりとひざを折る。エンキが投げ出された。一回転してから、すぐさま戻ってくる。


「ディアト! くそ、スマン!」


 吼え声が空気を切り裂いた。大きな枝槍が何もないところから出て来る。魔術だ。エンキが顔をゆがめながら、大槍を構えた。


 宙を浮く枝槍が放たれる。


 宙を、浮く?

 

 アトの脳裏にイメージが走る。

 魔術の理論は知らないが、誰も持ってないのに浮くってことは、何かの力が働いているのだ。出来る。


 あの枝槍も、()()()()()()()()()()()だ。


 掴め。


 掴んだ!


「やあああぁぁあぁああッ!!」


 放たれた巨大な枝槍の軌道を、ひん曲げた。

 巨大な物が通り過ぎた風がアトの髪を乱す。重い音を立てて地面を転がる枝槍。さらに放たれる数本の枝槍。全てをアトは捻じ曲げた。


 焦れた森獣が牙を剥いた。エンキが立ちふさがり、代わりに受けるものの一撃で吹き飛ばされる。

 

 アトの額を汗が伝う。状況は全然よくなっていない。防げるのは枝槍を撃つ魔術だけだ。森獣が再び疾風のような体当たりをアトに繰り出せば終わりだ。血を流すエンキがもう一度あれを防げるとはアトは思えない。アトの体なんて、文字通りバラバラになるだろう。


 再び淀む、死の予感。

 そこに風が吹いた。


「待たせたね、アト。あとは野蛮人くんに謝っておこう。君の従魔、借りるよ。まったく。なんて素晴らしい状況なんだ。超えようか、限界を!!」


 森獣に一歩も臆さず、彼女は立っていた。

 白衣をはためかせ、自信満々に胸を張り。

 その表情は獲物に噛み付く前の猛々しい獣。

 牙を剥く科学者がそこに居た。


「――――<機巧兵創造(ゴーレム・クリエイト)>。来い、弐号ッ!!」


 世界の雫が集束する。技能(スキル)が世界の在りようを変質させる。

 ゴーレムの材料ならある。それも、どれほどの重量で、質量なのかわからないくらいの。


 ルクセトくんの残骸が光り輝いた。ねじ曲がりながら形を組みあげていく。素材の量だけに、かなり巨大なゴーレムができていく。四足の脚に人型の上半身を持つ屈強なゴーレムだ。両手は指は無く、左腕は盾、右腕は巨大なハンマーと化していた。


 逆転のカード。シアンは切り札を切ったのだ。


「反撃だ! このボスくらい、倒してみせよう!!」


 弐号が踏み出す。両脚を掲げ、地面をめくり上げるほど叩きつけながら走り出す。

 驚いたのは森獣だ。噛みつけど鋼の体は牙を通さぬ。枝槍はいなされる。重い一撃が降り注ぎ、かろうじて避ける。

 速度とパワー。なんともバランスの悪い攻防が始まった。


 とりあえずアトは血まみれのエンキに近寄ると、持っていた低級ポーションを飲ませる。エンキの手振りによると、もっと高位のポーションがあるらしく、彼の鞄から取り出して渡した。

 ポーションの効果がすぐに発揮され、エンキの傷が癒えていく。


「スマンな。助かった……。ありゃあ、アイツの技能(スキル)か?」


「うん。すごいよね」


「確かにスゴイが……。こりゃあ、らちがあかねえな」


 エンキの目線は弐号と森獣の攻防を見ていた。疲れることなく攻撃を仕掛けるゴーレム。無尽蔵のスタミナで回復しながら回避する森獣。このままではこちらが餓死するまで続きかねない。


 終わりないダンスを見ながら、アトはふと思いついた。

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