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17話「あん えくすぽーず」

 綱渡りのような時間だ。

 アトは大きく息を吐いた。ロブフェット、エンキ、シアン、誰がどう動くか分からない。今、アトに注目しているから止まっているだけの時間。


 ちょっとの付き合いだけど、シアンが悪い娘じゃないことは分かっている。だから、どうなったとしても助けたい。アトの中でそんな気持ちが芽生えていた。


「私の技能(スキル)、<過去視(パスト・ヴィジョン)>は触れたモノの過去を視ることができるの。さっきロブフェットに触れた瞬間に、彼が人を刺すのが見えた!」


 信じて、とは言わない。


「なるほど。ミミックの選別、隠し部屋の発見。その技能(スキル)によるものだったのか。合点がいったよ」


 シアンは納得がいったというような顔をして。つないだ手をさらに握り込んだ。アトを追い越す勢いで距離を取る。アトとシアン、エンキ、ロブフェット。ちょうど三角形の頂点のように陣取ることになった。

 愕然とした顔をしたのはロブフェットだ。


「そ、そんな言い分を信じるのか!? うそだろ!?」


「君よりは彼女を信じるよ、ボクは。それにね、君の笑顔は気持ち悪い。信用に(あたい)しないね」


 シアン……!


「クッ。はははッ! こんな小娘にも見破られてんじゃねえか。ざまあねえな!」


「うるさい! クソッ!? なんでこんなことに!」


 じゃり、とエンキが一歩踏み出した。アトとシアンは眼中にない。切っ先はしっかりとロブフェットを向いている。


「こいつはルーキーの冒険者を狙った快楽殺人者だ。騙してダンジョンまで連れてきて、そこで殺す手口だ。最近まで尻尾を掴ませなかったんだが、情報提供があったんだよ」


「刺された女性の冒険者さんのこと?」


「オマエ……ホントに視えてんのか」


 エンキが一瞬だけちらりとアトを見た。感心した表情をしていたような気がする。


「おおかた詐欺かなんかの技能(スキル)があるんじゃねえか。ともかく、オマエらのことも危なくなったら人質にでもする気だったんだろうよ」


 もう一歩エンキが詰める。わざわざ解説しているのは、万が一にもアトとシアンが邪魔に入らないようにするためだろうか。それなら、エンキは一体何者なんだろう。


 ロブフェットは苦い顔をしていた。今やどこを見ても逃げ場はない。戦闘技術に拙いアトでもわかる。エンキはロブフェットが逃げ出せないように位置取りをしているのだ。唯一の勝機があるとすれば、剣技だけでエンキを上回ることだろうが、さっきの打ち合いを見ているとそれはないだろう。


「まったく、上手くはいかないものだね」


 ロブフェットから焦りが抜けた。懐に手を入れると一枚の真っ黒なカードを取り出した。冒険者ライセンスに似ているが、デザインが邪悪だ。何か黒いオーラが出ている。


「サモンカード……ッ! 黒色ってことはボスモンスターもありえるってか」


 エンキの呟き声には、悪い情報しか詰まっていない。

 どう考えてもあのカードからモンスターが出てくるってことだよね。


「まさかもう使うことになるとは思わなかったよ。僕もどんなモンスターが出るか分からないが、彼女たちを守ってやらねばならないよねえ、騎士サマ?」


 ロブフェットはニヤリと笑うとマントをひるがえした。同時に放り投げたカードが宙を舞う。カードの奥て、ロブフェットの姿を薄れていった。まるで空気に溶け込むように。


隠蔽(ハイディング)技能(スキル)!? くそッ!」


 今までばれなかった犯行。ロブフェットはいきなり現れて話しかけてきた。姿を隠すことのできる技能(スキル)持ちだったのだ。もしかするとあの時も最初から部屋の中に居たのかもしれない。

 アトにはもう見ていることしかできなかった。

 サモンカードが地面に舞い落ち――――なかった。くるくると回転しながら空中に浮かんでいる。


「アト……、それは、何だい……?」


「え、あ、何これ、光って……!」


 アトの鞄が光っていた。中身を探って取り出してみると、急いで丸めたスケッチだ。開けなくてもわかる。さっき描いたモンスターの絵だ。


 なんだかこれ、サモンカードと反応してる……?


「きゃっ!?」


 カードが放電を始める。同時にスケッチも放電し始めた。バチッと手が弾かれてスケッチを取り落とす。

 一瞬の出来事だった。サモンカードから噴き出した黒い霧が、大きな球体となったかと思うと弾け散る。


 そこに居た全員が動きを止めた。モンスターが召喚されたのだ。


 まるで森を体現したようなモンスターだった。

 狼のようなフォルム。艶やかな毛皮は緑のグラデーションを描いている。新緑のようなエネルギーと湖のような落ち着きを感じさせる。頭から生える二本の枝が、角のように天を向いている。

 鼻先は鋭く、口腔内には鋭い牙が生えているのが見えた。瞳は赤い。まるで宝石のようだ。


 アトが描いた壁画の獣そのものだ。

 それが、今目の前に存在していた。


「ぁあ……? 何だ、こりゃ。レベル六十オーバーって嘘だろオイ……!」


 呆然とした声はエンキのものだった。見れば大き目の虫眼鏡のようなものを通して出現したモンスターを見ていた。


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