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15話「あじていたー」

 ロブフェットが素早く動いた。アトとシアンを守るように前に出る。肚から力を込めた声を出した。


「二人とも気を付けて! コイツが強盗だ! 向こうはもうこっちを殺す気。ここで迎撃しないと危ない!!」


 ロブフェットが腰の短剣を抜き放つ。ククリナイフのような肉厚な刃が光った。


「後ろから尾けてくるしかない卑劣な犬野郎には、僕は負けない! 油断を誘ったつもりだおるね。目論見は外れた。ここで返り討ちだ!」


 エンキの顔に青筋が入り、剣を握る手に力が入る。


「よく吠えるじゃねえか。こっちも生かして帰すつもりはねえよ。ここで処刑してやる!」


 エンキは怒声をあげた。その声量に身がすくむ。


「君たち、一緒に戦おう! このままだとこいつに殺されてしまう。今にもあの凶器で斬りかかってくるだろう。サポートをお願いだよ!」


 有無を言わさぬ視線をロブフェットは向けてくる。思わずアトはシアンの顔を見合わせた。気が付けばシアンのゴーレムの姿がない。目線で奇襲をかけるかと訊いてきてくるのがわかった。だが、今仕掛けていいのかわからない。


「一緒にってオマエ……」


「黙れ強盗が!」


 ロブフェットの叫び声にエンキが反応した。眉をひそめると何かに気がついた顔をする。


「何を言ってやがる、オレは……」


 言いかけて口をつぐむ。イラついた表情で盛大に舌打ちした。ぼりぼりと頭をかくと、剣を構えた。


「いいさ。オマエだけは逃がさねえ」


 殺気が。


 殺気が膨れ上がる。


 ドラゴンのような自然界の脅威が放つ威圧感とも違う圧力をアトは感じた。手足が竦みそうになるのを、必死でこらえた。

 エンキが踏み出した一歩が、ものすごく重く感じる。全身を押してくる風のようなプレッシャーに、アトは何とか抗った。


 隠れていた壱号が動いた。睨み合いの外側から走り寄り、エンキに向かって攻撃を仕掛ける。シアンだ。見れば殺気に抗っているのか奥歯を噛みしめた表情で操っている。


 壱号は限界近い速度で走り込み、振りかぶった右腕を叩きつける。いや、叩きつけようとした。

 エンキの動きはほとんど見えない。剣持つ手が霞んだと思えば、攻撃しようとした壱号の右手、胴体の順番でなます斬りにしていった。崩れるまでさほど時間はかからない。

 この辺のモンスターならそれなりに戦える壱号がこれ!? エンキ、一体レベルはいくつだっていうの?


 気合の声を発しながら、ロブフェットが斬りかかる。遠い間合いから何度か斬りかかるも、軽くいなされている。エンキが反撃に出ないのは他に壱号のようなゴーレムがいないか警戒しているからか。


 シアンが一歩下がった。アトの近くまで来ると、いつでも逃げられるよう半身になる。

 ここはまずい。シアンのゴーレムの素材になるものが無いんだ。そうは言ってもこのゾーンへの入り口はエンキの背後だ。あとはボス部屋しかない。


 迷っているアトのもとへ、後退してきたロブフェットが並んだ。一瞬切り結んだだけなのに、腕が傷だらけ、汗をたくさんかいている。


「一度距離を空けよう! さあ、こっちへ!」


 ロブフェットは導くようにアトの手を取っ。


 ――――


 ずぶりと突き刺さる大振りの短剣。信じられないものを見る瞳が目の前に。

 ぬるりと引き抜かれた短剣は血にまみれていた。目の前の体を蹴り飛ばすと、女性冒険者は人形のように倒れた。

 そのお腹が血で染まっている。まだ生きている顔が、死んでいく体を認めて絶望していた。

 視界が小刻みに震えている。怖いんじゃない。刺した私は笑ってる。笑ってるんだ。


「いつもいつも信じられないくらいうまくいくからサァ。笑っちゃうよね」


 ロブフェットの声だ。私の口から出ている。

 しゃがみ込むと、弱々しくうごめくだけになっている女性冒険者を舐めるように見る。


「いいねえ。その表情だよ。一番興奮する。僕は好きなんだよ。優しくして、おだてて、何も知らないヤツを騙してさ。そういう表情にさせるのがさ」


 私はもう一度短剣を突き刺した。苦痛の声が耳に入る。耳はふさげない! 聞きたくないのに!

 さらに一撃を加えようと振り上げた手を、私は止めた。


 視界は辺りを見渡す。

 何かを判断したのか私はすぐに駆けだした。近くの木の裏に身を隠す。その直後にエンキが姿を現した。

 エンキが女性冒険者を手当しているのが見えた。だが、二度刺しているあの傷では助からない。


 私は舌打ちする。


「チッ……。騎士団の犬め。この辺を警邏してるのか? ここらで狩るのも、そろそろ潮時かもね」


 小さな愚痴が、私の口から漏れた。


 ――――


「あああああああああッ!?」


 声が出ていた。やるせないものを見た時に出る叫び声。

 ロブフェットがつかむ手を、思いっきり振り払う。

 まさか振り払うとは思わなかったのだろう。ぽかんとした顔をしていた。


 やばい。吐きそう。気持ち悪い。逃げなきゃ。


 ぐるぐるする思考の中で、<過去視(パスト・ヴィジョン)>をオフ。シアンの手を取ると、ロブフェットから距離を取る。


「アト!? どうしたんだ!? まとまっていないと危険じゃないか?」


「駄目! 全部嘘! ロブフェットの方が人を殺しているんだから!!」


「な、なにを言ってるんだい、アトちゃん!」


「ふむ……。 アト、根拠はあるのかな?」


 シアンは真剣な目でアトを見ていた。

 アトはぐっと詰まった。示せる根拠などない。

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