12話「さすぴしゃす しゃどう」
アセイドラ森林回廊は、美しい。
森に吞み込まれた建造物。
滅びた無常さというのだろうか。人の気配がない回廊。蔦の這う石碑や壁。時折滝のように流れ落ちる水。これらが一体となって美しい景色を造り出していた。村の広大な畑とはまた違った趣だ。
こういった美しい景色を見ることができるのも、冒険者の醍醐味なのかもしれない。
アトとシアンはゆっくりと回廊を進んでいた。壱号を先行させているが、目立ったトラップやモンスターは出てきていない。あまりに何も出ないので拍子抜けしているくらいだ。
いくつかの部屋を覗き込み、何もない外れ部屋を繰り返すこといくつか、ようやくモンスターに出会った。
手足の生えた丸太というべきウッドフットというモンスターだ。こどもくらいの大きさしかないが、腹部分の木のうろが顔に見えてけっこう怖い。ヴォオオオオという雄叫びは、うろから吹く音だ。
「アト! 壱号を行かせる! 隙を見て攻撃しておくれ!」
「わかった!」
壱号は思ったより機敏な動きを見せた。大きく腕を振りかぶり、振り下ろす。めきぃっと大きな音がして、ウッドフットの一部が欠ける。
攻撃されたことがわかったのか、ウッドフットが吼えた。充分に壱号にヘイトが集まっていることを確認して、アトは動く。円を描くように後ろに。
「やあああッ!!」
狙いは脚。膝裏っぽいところを思いっきり斬りつける。<剣術>によって鋭い一閃となった剣戟。ウッドフットの脚を断ち切った。
がっくりとバランスを崩したところを、壱号が思いっきり殴りつける。なかなかいい連携じゃない?
「アトっ!?」
「っとお!? っぶなぁ!!」
アトの目の前をウッドフットの腕が通り過ぎた。振り回した腕は思ったより伸びる。気を付けないとまずい。今はコイツに集中だ。
とにかく壱号とアトで前後を挟むようにして攻撃を繰り返す。危なくなったら離脱する。
しばらく続けていると、ようやくウッドフットが動かなくなった。ドラゴンの時と同じく、黒い塵となって散っていった。|アトは残された木の皮を拾う。
「そういえば、戦闘中シアンは支援攻撃できたりとかしないの?」
「ボクもそうできればと思ってるんだがね、ゴーレムの操作というのはこれでいて難しい。ある程度自律行動できるゴーレムを創造するには、技能レベルが足りない。今は汎用型の壱号、パワー重視の弐号を創るのが精いっぱいなのさ」
「なるほどね」
アトは頷いた。
技能にはレベルが設定されている。使えば使うほど、習熟するにつれレベルがあがってくるのだ。レベルが上がることで出来ることの幅が増え、強化されていく。
アトの<過去視>も初めはとにかく手当たり次第に過去を視せていたものだ。勝手にレベルが上がった結果、オンとオフを切り替えられるようになったのだ。
ということは、<物体操作>もレベルが上がると強化されるかもしれない。安全なところでちょっと頑張ってみようかな?
その後も大型ネズミの“マッドマウス”、動けない代わりに紫色の毒粉を撒く花“ポイズンプラント”を撃破していく。マッドマウスは壱号との挟撃で、ポイズンプラントは<物体操作>で革袋を飛ばして被せた後に、壱号に叩かせる安全策で倒した。
アセイドラ森林回廊は貨幣が手に入るというより、素材が多く手に入る感じなのかな。ドロップした爪や牙のみならず、ところどころに生えている薬草も見逃せない。薬草のことをもっと知っている人がいたらすごい宝庫なのかもしれない。
少し余裕が出てきたアトは、<過去視>をオンにすることにした。不用意にシアンに触れると、彼女の過去を視てしまう。警戒しながら少し距離を空けて進む今なら、その心配も少ないだろう。
けっこう進んで来たから、もう少しするとボス部屋な気がする。それまでに何か情報でも集められるといいけれど。
「……ふむ」
「あれ? ここの部屋、宝箱あるのに空いてる」
外れ部屋かと思われた一画に、開いた宝箱が設置してあった。なんだか不自然な気がする。それ自体がトラップの可能性もある。アトとシアンは気を付けながら部屋に入った。
何も起こらないことを確認して、宝箱を調べる。もちろん中は空だった。シアンが部屋の他の場所を調べに行っている隙に、アトは視てみることにする。
そっと宝箱に触れ。
――――
部屋の中にはモンスターが溢れていた。フットウッドを中心に、凶悪な顔付きをした狼のようなモンスターもいる。部屋の中で一番威圧感を出しているのが、黒い大猿だ。
私を隣に侍らすようにして、眠っていた。ここにいるモンスター達が、私を守っているのだ。
そんな部屋に、一人の冒険者が入ってきた。野蛮な髭男。こいつは見たことがある、エンキだ。
エンキは大きな鉈のような武器を振り回し、瞬く間に取り巻きのモンスターを一層すると、黒い大猿に向き合う。
大猿はのそりと立ち上がり。
――――
詰めていた息を、ゆっくりと吐きだした。宝箱からそっと手を離す。
シアンが腕組みをして宝箱を見ていた。その眉は顰められている。
「この迷宮、どうやらボク達以外の人がいるようだね」
「うん、私もそう思う。もしかしたら、前にギルド館で会った人が後をつけてきたのかもね」
「ああ、あの野蛮人か……? かもしれないね。モンスターより怖いのは人なりけり、か」
シアンは右手をそっと押さえながら言った。




