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11話「いん ふぉれすと るーいん」

 中央都市(セントレア)から南へ、馬車で揺られること二日。途中で小さな村の宿も挟んだあたりにアセイドラ森林地帯は存在する。

 出発前にアンセスに聞いた情報によると、気候、足場は安定、森林のため見通しは少し悪いものの、水や果物といったものも豊富にあるため難易度は低めなんだそうだ。

 実際、アトの目の前には自然の息吹とも言える木々が拡がっていた。幹は太く、枝は太い。葉は高い位置に密集しているが、木漏れ日がうまいこと漏れていて明るいのが不思議だ。心なしか空気もとても美味しい気がする。


 うん、動きも快適だし、問題ないね。


 アトは<マルヴァの館>で得たお金で装備を慎重していた。

 ただの村娘スカートから、ズボンとミニスカート風の戦闘服に変えている。スカート部分にはモンスターの甲殻が使われており、軽くて硬い。デザインも可愛い(重要)ので文句なしだ。

 ポーチも大き目のものにして、回復ポーションなるものも初めて購入した。万全だ。作物を作るのと一緒、冒険者も最初の土台作りが大切なのだ。


 森林に来ても変わりないのがシアンだ。相変わらず大き目の白衣を着ている。それでも動きに遜色ないのはすごいと思う。飄々とした顔で根っこを浮き上がった根っこを避けて歩いている。


「それで、この前取得した技能(スキル)はどうだったんだい?」


「あ、うん。見てて」


 <物体操作(キネシス)>。アトが<マルヴァの館>で取得した技能(スキル)だ。

 アトはシアンに見えるように両手を突き出した。目線てターゲットを指定、気合いを込めると落ちていた枝が浮き上がる。


 アトが意識した物を持ち上げたり操作できる。これが<物体操作(キネシス)>の力だ。とりあえずフォークやらスプーンやらは動かすことに成功。猫や犬はダメだった。


「おお。これは、魔術……とも違うな。現象がない。重力操作? いや、第三の手?」


 シアンの目線の高さで浮いている枝。シアンがそれを掴んだ瞬間、枝は重さを取り戻した。


「……?」


「この技能(スキル)ね。誰かが触れてると効果が発揮されないみたいで」


「なるほどな」


 アトが試した限り、基本的に<物体操作(キネシス)>が掛けられるのは無生物に限った。生きている物、または生物が触れている物体については効力を失うらしく、動かすことができなくなる。ただ、犬猫は無理だが、植物は動かせたりと、この“無生物”の範疇も定かではない。便利なのか便利でないのか。


「けっこう役に立ちそうじゃないか」


「そうかなぁ?」


「そうさ。自分が持っている技能を、どう使うかがポイントなのさ。頭を柔らかくして、様々な発想を身に付けるといい」


「シアンはそういうの得意そうだよね」


「まあ、天才機巧師だからね!」


 シアンは自慢げな顔になると足を止めた。その視線を追いかけると、大きな岩でできた扉がそこにあった。山を刃で切り拓いたかのように切り立つ崖。その壁面に扉はあった。<マルヴァの館>と同じく光の鎖で封鎖されている。迷宮(ダンジョン)だ。


「さて、行くとしようか。スケッチ用の紙とペン、インクは持ったね?」


「うん。予備も含めて大丈夫。行こう」


 冒険者ライセンスを触れさせると、甲高い澄んだ音を立てて光の鎖は吹き飛んだ。開錠だ。

 手で押すまでもなく、大きな岩の扉は開いていく。ガコォンと大きな音を立てて、扉は開き切った。


 <アセイドラ森林回廊>の攻略開始だ。


 ちょっとおっかなびっくりしながらアトは扉を抜けた。抜けた瞬間の、空間が歪んだ感触が肌を粟立たせる。


 ひんやりとした空気が頬を撫でる。明るい夜。そんな薄暗さの中シアンと先に進む。

 アセイドラ森林回廊は、見た目廃墟の遺跡といった風体だった。崩れた壁、何かの欠片。さらには蔦が絡みついた柱が何本も等間隔で立っている。回廊というだけあって廊下のように見えるが、それが大量にあるのでまるで迷路のようになっていた。


「これ、迷ったりしない?」


「ボクは覚えるのは得意だ。通った道筋くらいは暗記しておこう。心配ならマッピングしておくといい。あとで採点してあげよう」


 頼りきるのもどうかと思い、用意した紙を使ってマップを描こうとしたものの、数分で投げ出した。これ、難しすぎる。なんとなく大雑把に描いておけばいいか。

 シアンの自信たっぷりな顔を見ると、それでいいかなと思ってしまう。


 回廊は四方に伸び、その時々で扉のない小部屋のような空間で区切られている。おそらく<マルヴァの館>のようにちょっとしたお宝なんかもあるのかな。

 気が付けばシアンがそのあたりの瓦礫を寄せ集めていた。この前の時より量は少ない。


「素材は十分。さて、それじゃあ攻略を始めていこうか。<機巧兵創造(ゴーレム・クリエイト)>! 来い、壱号!」


 薄く青い燐光を纏いながら、瓦礫が持ち上がる。今回は大理石だかなんだかの石を使ったゴーレム、ストーンゴーレムだ。組み上がっていくその姿は、アトより少し背が高い普通の人型サイズだった。仮面のように何も描かれていない顔部分には、尖った鼻だけがついている。


「壱号は使用魔力もそれほど多くない。コストパフォーマンスに優れるゴーレムさ。トラップがあるかもしれないから、壱号を先行させよう」


「すごいね。シアンがいれば楽に攻略できる気がする」


「アト、壱号は汎用性は高いが戦闘力は普通だ。モンスターが出たら君にもしっかり働いてもらうからね」


「了解!」


 壱号がシアンに敬礼すると、ゆっくりと先を進んでいく。

 アトはシアンを守れるように、横に並んで進むことにした。

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