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10話「おーだー ふぉあ ゆー」

 見られている。


 誰が見ているとは分からないところが上級者ということなのだろうか。居心地の悪さを感じながらアトはシアンと共にカウンターへ向かう。


 冒険者をテキパキと捌いていく受付の人たちはどの人もとても賢そうに見えた。ギルド制服に身を包み、姿勢正しく受け答えしている。

 どの受付員もその胸元に星型のバッジをつけていた。平均して一つから三つ。意匠が違うものもあるが、多く付けている人ほど冒険者から人気があるように見える。長い列ができているところもあった。


 やっぱり受付員さんによって人気とかあるんだろうね。


 そりゃあ誰もがすごい人に受け持ってもらいたいというものだろう。


「どこも混んでるね。ほら、あの辺なんかすごいよ」


「とりあえず混んでいないとこにいこうか。駆け出しのボク達ならどこでも変わるまい」


 シアンが苦笑しながら言った。

 ギルド館二階もつくりとしては一階とそう変わりは無い。半円形を描いて設置されているカウンター。その前にはパーティでの相談用のテーブルがいくつか。壁際には一階と同じように緊急のクエストが張り紙で掲示されていた。

 見渡してみれば、カウンターの一画がなんだか空いている。誰も並んでいないらしい。

 シアンの白衣を引っ張るとそこを指し示す。


「あそこ、空いてるみたいだよ」


「……そうみたいだね」


 一瞬シアンは訝し気な顔をしたものの、それ以上何も言わなかった。アトと共にカウンターへ向かう。


 席に座っていたのは、なんとも暗い顔つきをした青年だった。細い目は開いているのかどうか定かではない。焦げたような金色の髪の毛も相まって、なんだかキツネに似ているなあとアトは感じた。

 青年はアトとシアンがカウンターの前に立ったというのに気付いた様子がない。

 思わずシアンと顔を見合わせる。


「あの、もしもし? もしもーし!」


 青年は、ハッとした表情になる。その顔には驚きが存分に含まれていた。


「あ!? い、いらっしゃいませ! わたしに何か御用でしょうか?」


「クエストを受けたいんだけど、何かあるかな?」


 アトはカウンターに冒険者ライセンスを置いた。青年は手を伸ばして緑色のライセンスを取った。だが、しばらく迷ったのちに、再びライセンスをカウンターに置く。


「お二人は他に専属の受付員はおられないのですか?」


「ボク達は今日昇格したばかりでね。これから見つけていくところなのさ」


「そうですか。それなら、わたしからクエストを受けることは止めておくことをおすすめします」


 ……はぁ?

 どういうこと、ソレ。


 青年は制服の胸元を指し示す。そこには何もついていない。


「制服の胸元に付いた星、これは現在受け持っている冒険者の数を表しています。この数が多い人ほど一般的に有能な受付員と言えますね。この通り、わたしは未だ一人も受け持っておりません」


「だからやめておいた方がいいってこと?」


 なんだこの人、ギルドの職員にしては意欲がなさすぎな気がする!

 露天商とまではいかないが、もっと明るく受け付け業務をしたほうがいいんじゃないのかな。


「おいおいおい、そうじゃねえだろ?」


 いきなり割り込んできた野太い声。ドンッとカウンターの上に拳が乱暴に置かれた。なんだこの人。

 少し清潔感に欠けた顔が、厚い胸板の上に載っていた。髭男だ。モンスターの素材で作ったのであろう革鎧は力強いというより野蛮さに溢れている。


「エンキ様……」


「アンセス、そうじゃないだろ? こんな若い嬢ちゃん二人を騙しちゃあいけねえな」


「騙す……?」


 エンキと呼ばれた髭男は、いやらしい顔でニヤァと笑った。アトをちらりと、シアンをじっくりと嘗め回すように見てから、得意げな顔で続ける。


「そうさ。こいつはアンセス。“冒険者殺しのアンセス”だよ。まあ、別にコイツが殺すわけじゃないんだがな。なぜかコイツがもってきたクエストは、高い割合で致命的なアクシデントが起きる。だから誰もコイツから受けないんだよ!」


「ご高説ありがたいがね。それがどうしたと言うんだい?」


 エンキの腕を払い、白衣の裾をひるがえして、シアンはエンキに向き合った。その小さな全身から、自信とプレッシャーがあふれ出るように投射される。

 うっとひるんだのはエンキの方だった。


「誰からクエストを受けようと、ボク達の自由だろう?」


「テメェ、後悔するぞ」


「そう言う啖呵が切れるんだったら、彼からクエストを受けてクリアしてみたまえよ」


 シアンはもうエンキを見向きもしない。自分の冒険者ライセンスをカウンターに乗せると、ぽかんとしているアンセスにクエストを持ってくるように指示していた。


 いいのかな。うわコワっ! まだ睨んでるよ。ひええ。


 アトももう気にしないことにして、シアンの隣に並んだ。青年は未だ迷っているようだったが、アトが来たのを見て、心を決めたようだった。


「では、クエストを紹介させていただきます。わたしはアンセスと申します」


「私はアト。こっちはシアンって言うの」


「アト様、シアン様ですね」


 アンセスが冒険者ライセンスを確認する。スキル欄を眺める彼の目が、アトの目と合った。きっと<過去視(パストヴィジョン)>を見たのだろう。

 アトは目線で何も聞かないでほしいと訴えた。じっと見つめるアンセスの目が、ふっと優しくなったような気がした。


「シアン様は戦闘はゴーレムを利用しての後衛型、アト様は剣を使った前衛型ですね。ご希望のクエスト種類などはありますか?」


「まとまったお金が入るやつとか、あります?」


「報酬はあまり高くありませんが、攻略時に宝物が手に入る迷宮(ダンジョン)探索でしょうか。では、こちらはどうでしょうか」


 アンセスが一枚の紙を取り出してきた。

 【依頼(クエスト)】「迷宮(ダンジョン)<アセイドラ森林回廊>の壁画スケッチ」と書かれている。


中央都市(セントレア)からほど近いアセイドラ森林に位置する迷宮(ダンジョン)です。生息するモンスターも脅威度はさほど高くありません。また、今回は壁画のスケッチの依頼なので、ボス部屋を攻略する必要もありません。無事に戻ってきてくださいね」


 つまり、迷宮(ダンジョン)の途中で手に入るものは懐に入れてもよいということだ。しかもスケッチをすればその分の報酬も支払われる。確かに二回美味しいクエスト。

 クエスト登録が終わったのだろう。アトはアンセスから冒険者ライセンスを受け取った。


 アンセスに手を振って、ギルド館を後にした。最後までエンキが睨んでいたのが気になるけど。


 正式な冒険者になっての初クエスト、頑張っていこう!

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