9話「らんく あっぷ」
冒険者ギルドの扉を、勢いよく開けた。
あまりに勢いよく開けたものだから、思ったより音が響いて注目が集まった。ちょっと恥ずかしい。
いや、毅然とした態度を取れ。私達は勝者だ!
カウンターまで歩くと、いつもの受付嬢がにっこりと笑顔を見せた。
知っている、それは作り笑いだ。
「アト様、シアン様ですね。いらっしゃいませ。本日の御用は何でしょうか」
「規定クエスト六つをクリアした。確認してくれたまえ。これで昇格できるのだろう?」
シアンの言葉に、刹那の間カウンターがざわついた。鋼鉄の笑顔が一瞬揺らいだ気がしたが、すぐに持ち直した。鉄壁だね。
アトとシアンはカウンターの上に見習い冒険者ライセンスを置いた。クエストはクリアできているのだから何も問題はないはずだ。
「確認いたしますね……。これは……本当に、まさか……。ええ、確かに規定クエストをクリアされていますね」
やった! これで“見習い”が取れる!
心の中でガッツポーズ。顔はできるだけ冷静を心掛ける。一人前の冒険者ってそういうものじゃない?
受付嬢は何度もライセンスを操作して見直すが、そこに示された情報は変化するわけがない。
なおもしばらくいろいろ試していたが、やがて本物だという結論になったのだろう。アトとシアンのライセンスを持ってスタッフルームへと引っ込んだ。
しばらくして出てきた受付嬢の手には、緑色のライセンスが握られている。あれが冒険者ライセンス!
「お待たせしました。こちらが冒険者ライセンスとなります」
「へぇー。綺麗な緑色」
アトは緑色のライセンスを受け取った。アトの名前が刻まれている。なんだか表示される情報も増えている気がする。とりあえずレベルを確認すると、いつのまにか2にあがっていた。このレベルっていうのもよくわからないな。とにかく強くなったってことだと思うんだけど。
おお、スキル欄も新しくなってるのね。
アトは驚きと共にそこを見る。見習い冒険者ライセンスの時と違って、スキルの説明も載っている。
スキル欄にはさっき手に入った<物体操作>も記載されていた。あとで詳しく見よう。
「基本的な機能は見習い冒険者ライセンスの時と変わりません。ですが、見習いの時より受けられる依頼の種類が増えますね。昇格するごとに幅は拡がっていきます」
ふむふむ。ランクの高い冒険者ほど難しい依頼を受けるのは当然だね。
「昇格には規定のクエストを受けていただくものに加え、ギルド側からの推薦があって可能になります。その際にはまたお声かけさせていただきますね」
「わかりました」
「それと、この緑ランクでは一匹まで“従魔”を持つことができます。機能については冒険者ライセンスをごらんくださいませ。それでは、良き冒険者ライフを」
受付嬢はそれで全て説明を終えたとばかりに一礼した。
ええーとばかりにシアンを見るが、あまり気にした様子もない。あっさりとカウンターから離れた。アトもあわててついていく。
「ちょっとひどくない? 説明が少なすぎると思うんだけど」
「専属の受付員でもないんだ。こんなものさ」
疑問の顔をしていると、シアンが呆れたような目を向けてきた。
「君はもう少し冒険者の勉強をしたほうがいい。このギルド館のラウンジに居て情報収集するなり、先輩の冒険者に聞くなりして知見を深めないと危ないと思うのだけどね」
「ご、ごめんね?」
「冒険者は基本的に専属の受付員を決めることになる。クエストの履歴やこちらの戦闘スタイルの癖を知ってもらったほうが適したクエストを取っておきやすいしな」
クエストを、取っておく?
「クエストって壁に貼ってあるやつじゃないの? あれを持って行って受領するんだと思ってた」
アトは疑問を感じたことを、シアンにそのまま質問する。
「それも一つの方法だよ。でもそれじゃ早い者勝ちになってしまうし、ギルドに人が詰めかけてごったがえす事態になる。焦ったあまりにクリアできそうもないクエストを持って行ってしまったりね。クエストは大体専属の受付員がギルドに卸された段階で握っておいてくれるものなのさ」
「へぇ~。便利なものなんだねぇ」
「まあ、実際やってみると分かるようになるのかもしれないね。それじゃあ、二階に行くとしようか」
シアンはそう言って階段を指し示す。
シアンによると、実は冒険者ギルドの一階はクエストを持ってくる依頼者用のフロアになっているらしい。あとは緊急性が高く、張り紙として出されているクエストが見られるエリアがあるくらい。クエストを受領するのは二階だという。どうりで他の冒険者の姿を見ないわけです。
階段は軋むことなくアトを受け入れた。よく見ると補強が入っている。
さほど長くない階段を登り切ると、広いフロアに出た。入った瞬間に空気が変わったように感じたのは、アトの気のせいだろうか。何人かの冒険者がちらりとこちらを見た。しかし、すぐに視線を外して自分たちの用事に戻っていく。
アトが考えていたような冒険者ギルドの姿がそこにあった。テーブルで何かを相談している冒険者達。強そうな鎧を着ている者から、魔術師なのかローブに杖の姿の者もいる。顔つきが違う、気がする。
自分もその一員になったことを思い出し、アトは気合いを入れた。




