キラキラヒカル 3
「キラキラヒカル 3」
〇もくじ
第1話 ~ 第17話
登場人物の履歴一覧
中野地区MAP
登場する漫画・アニメなど
あだち充、こち亀、おそ松くん、火の鳥、サイボーグ009、オバケのQ太郎、りょっこりりょうたん島、サンダーバード、初音ミク
原作: 大野竹輪
―― 光からのショートメッセージ
光「おいおいこの話はオレのサクセスストーリーのはずじゃなかったのかなぁ・・・?」
作者「光を取り巻く同学年の仲間を中心にした人間全体の様々なつながりのお話です。」
光「え、じゃあオレの存在はどうなるの?」
作者「あなたもその仲間に入っています。」
光「うん??・・・じゃあいいのか。」
>>ほんとにわかってんのかな?
第1話
ここは東京近郊のとある高級住宅地の一つにほぼ近いところである。そしてここは風光明媚なことでとりわけ人気の高い駿河台地区。
北には小高い自然の山々が一望でき、またその周辺には新緑に満ち溢れた大小さまざな木々があちこちに見え隠れ、東から西へと目を動かすに従ってなだらかなスロープのある道路の白いガードレールがわずかに見ることもできる、そんなとても自然環境の良い、その上景観もみごとな場所である。
そして地区のほぼ中央に位置するのがヨーロッパから取り入れ近代風に設計された駿河台公園があります。
そしてそこから約2キロメートルほど離れたところにある南高針地区。
中央には南高針小学校と南高針公園があり、そのすぐ西に一際目立つ花園学園大附属中学と高校がある。
ここでは常に一貫教育を目指し、早くから幼稚園と小学校も併設されていました。
今日は晴天に恵まれた清々しいそんな日和の入学式の当日、高校の門を次々とくぐる親子や教職員を気にもせずに1台のダークブルーのベンツが割り込むようにして入ってきた。
やがてベンツは1階入り口の駐車場にゆっくりと止まり、そこから光と母親が召使2人に続いて車から降りてきた。
母親はかなりの有名女優でこの近所でも知らない人はまずいないだろう。
周りの人たちは一斉に彼女に注目する。
勿論彼女の衣装はこの日だけの特注、年齢には似ても似つかぬピンクのワンピースにフリルが付いていてさらにサマンサタバサのラメの入った少し大きめのバッグ、グッチのブレスにはブランドが何なのかわからないがとにかく宝石がちりばめられている。
説明しだしたらきりが無いがその他いろいろなブランドに全身が包まれていた。
そして母親は気取りながら会場となる講堂に向かってゆっくりとまるでお姫様のように歩いていた。
その後を蝶ネクタイに紺のブレザー、少し大きめのスラックスを身にまとった光が周りを気にしながら、自らは全身固まりながらついて行く。
さらに付き人が2人、左右にぴたりとくっ付いて歩いていたのである。
翌日の授業初日。A3クラスには、松尾美咲、森幸代、西浦昇、加藤浩二、近藤浪平、月島あかりがいた。
担任の教師が時間丁度にゆっくりと教室に入ってきた。
教師「はい、みなさんそれぞれ席に着いてくださいね。」
ゆっくりまったりとした言い回しが彼の特徴だった。
最初ざわついていたが生徒がやがて席に着いた。
教師「私はこのA3クラスを担任する小袋です。よろしく。」
小袋花袋教師はやや痩せた背の高いグレーのスーツが似合うもっと顔立ちが可愛ければけっこう芸能人っぽい紳士だった。
生徒たちは一斉に小袋のネクタイに注目していた。
小袋「な、なんだか集中照射を受けてるみたいな・・・」
生徒たちは皆笑い始めた。
小袋はクラスを見渡していた。
西浦が真面目な顔つきで、
西浦「先生、ネクタイ曲がっていますよ。」
確かにそうだった。
彼のネクタイはやや右に3センチばかり大きく蛇行していた。
小袋は朝家から出る時からあわてていたのか、ネクタイが少し歪んでいたことにさえ気づかなかったようである。
いや元々そういう性格なのかもしれない。
小袋「あ、そうう・・・」
そう言いながら、気まずい様子で小袋はネクタイを軽くいじって鏡を見ることなくその場で直していた。
やがて、1度咳き込むと、小袋は数枚の印刷されたわら半紙を生徒たちに配った。
小袋「今日は皆さんの顔見せくらいで特に何もありませんので、次のホームルームまでまだまだ40分以上ありますから、まあ自分の席で静かにしていてくださいね。」
そのとき1人の生徒が、
美咲「先生トイレに行ってもいいですか?」
小袋は軽くうなずいて、
小袋「はいどうぞ。」
それを聞いた女子生徒が6、7人ぞろぞろと足早にトイレに駆けて行った。
そしてこちらは女子トイレの洗面所。
美咲「あの先生さ、ちょっと変わってるね。」
幸代「ほんとよね。ネクタイも全然似合わない感じ。チョー古臭い~・・・。服のセンスも完全に流行遅れって感じ・・・」
そんな2人の横に割り込んでやってきたのはあかりだった。
あかりは迷惑そうに、
あかり「ちょっといい?」
美咲「あ、どうぞどうぞ。」
美咲が洗面の場所を空けた。
あかりは思い切り水を出して手を洗ってそしてすぐに教室に戻って行った。
幸代「何よ、あの気取り方は・・・」
美咲「まあ、どこにでもいそうなタイプよね。」
美咲は納得したかのようにうなずいていた。
幸代「今日が初対面だよ。まったく。」
美咲「確かに挨拶くらいはして欲しかったよね。」
ちなみにこの2人、松尾美咲と森幸代は花園学園大附属中学の同級生だった。
一方こちらはA3クラス。
小袋は教室の扉側の壁にB4サイズの大きなクラスの集合写真を壁になじむようにしっかりと貼り付けた。
そして教壇にゆっくりと戻っていった。
すると多くの生徒たちが、その写真を見るためにその傍にドヤドヤと集まった。
小袋「そんなに一度に集まると見れないですよ。まあこれはずっと貼っておきますから。」
生徒たちは彼の言葉も気に留めず写真を見ながら口々に喋っていた。
小袋の方も生徒に気にせず教壇横の椅子に座っていた。
すると数人の女子生徒がトイレから戻ってきた。
小袋「では始めましょう。私の紹介はさっき配った紙にありますので見てください。」
小袋はそう言いながら、さっき配ったわら半紙を手に持った。
写真を見ていた生徒も席に戻った。
生徒たちは皆面倒くさそうにわら半紙をめくっていた。
わら半紙には小袋のプロフィールやら、職歴やら、この高校でのこれまでの出来事など、かなり詳しく書いてあった。
そんなとき二つ隣のA1クラスで拍手する音が聞こえた。
やがて1限目が終わり、休憩時間になった。
小袋はひとまず職員室に戻って行った。
するとすぐに別のクラスから光(・・・このお話の主人公です・・・)が、教室の扉をさーっと開けてみんなに向かって一言、
光「よ!」
本人はポーズも決まったと思ったようだ。
が、一瞬A3クラスの生徒は彼を見たのだが、すぐに元の状態に戻り誰も彼の方を見ようとしなかった。
A3クラスの生徒はまだそれぞれ名前も知らないはずだったが、光だけは皆に知られていた。
光が中に入ってきた。
美咲「おはよう、光。」
ただ1人返事をしたのは松尾美咲だった。
光はすぐに美咲のところに近づいて、
光「お、ひさしぶり。」
美咲「ひさしぶりってさぁ、中学の卒業式一緒だったじゃん。」
光「その時からだいぶ経つじゃん。」
美咲「1ヶ月も経ってないけどね。」
美咲は自分の髪を片手で軽く撫でながら、かなり呆れていた。
もちろんこの2人の会話を聞いていた幸代も呆れていた。
そして教室の周りをキョロキョロしていた光は、2分も経たないうちに教室から出て行った。
美咲「なんだよ、あいつは?」
幸代も顔を左右に軽く振って、
幸代「あー訳ワカメ・・・」
やがて2限目になった。
小袋が右手に束になったプリントを抱え持って教室に戻ってきた。
彼はまた数枚のプリントを配った。
小袋「まずプリントの1枚目ですが、これはクラブ紹介の案内です。ここにあるクラブのどれかに1つ入ってくださいね。入部には期限はありません。」
生徒たちは各々プリントを見ながら小声で何やら横同士でつぶやいていたのだった。
小袋「まあ、夏休みまでにはどこかに決めてくださいね。よろしくお願いします。」
その後も生徒たちはそれぞれ思い思いに『クラブ紹介』プリントを見ていた。
少し間が空いて、
小袋「では次に皆さん1人1人順番に、自己紹介をしてもらいます。」
こうして自己紹介が始まった。
加藤「オレは加藤です。中学は演劇部でした。スポーツは苦手で体育ではいつも玉拾いばかりでした。」
一部の席で笑いが起こった。
近藤「近藤です。趣味は特にありません。体育は苦手です。」
あかり「私は月島あかりです。コミックが大好きで特にあだち先生のをよく読みます。中学は体操部でした。」
西浦「西浦です。いろんなものを食べることが趣味です。」
再び教室内に笑いが起こった。
美咲「私は松尾美咲です。勉強より運動が好きです。中学はバスケ部でした。」
幸代「私は森幸代です。勉強よりも運動が好きです。中学はバスケ部でした。」
・・・・・・
小袋「では次にクラス委員長を決めたいと思います。さっき配ったプリントの中に小さい紙があったと思いますが。・・・これですね。」
小袋はそう言って、右手に小さな投票用紙を持ってクラスの皆に見せた。
小袋「この紙に1人名前を書いて、この投票箱に入れてくださいね。今から5分程でお願いします。」
こうして5分間、少しはざわついたがようやく投票が終わった。
小袋は箱から1枚ずつ出して、黒板に名前を書いて行った。
さらに複数票は正の字で書き加えて行った。
小袋が書くたびにクラスに軽いどよめきが起こったのであった。
やがて、
小袋「はいでは投票の結果、クラス委員長には月島あかりさんになってもらいます。」
クラス全員が拍手をした。
小袋「そうそうもうひとつお話があります。」
全員「えー!」
生徒たちは早く終わることを願っていたのだが・・・。
小袋「すぐに終わります。」
小袋は生徒に優しく語りかけながら、
小袋「君たちは今自分の約3年後を想像してみましょう。そしてその自分に熱いメッセージを贈ろうと思います。そしてそのメッセージを集めて卒業アルバムとは別に『過去からのメッセージ集』を作ります。」
そう言いながら、見本を手に持って、
小袋「今から見本を回すので、見てください。」
生徒たちはガヤガヤ騒ぎながら、
美咲「よくわかんないけど、なんかおもしろそうね。」
幸代「表紙は先生の似顔絵がいいじゃん。」
美咲「それチョーーうける。」
美咲がケラケラ笑い出した。
小袋「自分は卒業の時にはいったいどうなっているんでしょうか?それを想像して、その自分に熱く強い印象に残るようなメッセージを考えましょう。来週の金曜日に集めます。」
やがてチャイムが鳴り、生徒たちは教室扉の横に積まれた教科書の束を1人ずつ順番に持って帰って行ったのである。
第2話
翌日(授業2日目)のA3クラスの朝礼でクラスの副委員長にジャンケンで負けた加藤浩二が決まった。
>>余計かもしれないが、この高校では副委員長はいつもジャンケンで決めるそうです。
4限目のホームルームでは、これといってすることがなかったのか自習になった。
この日は授業は昼までだった。
A3クラスの生徒は皆一目散に帰って行った。
そのためかこの日、A1クラスの放送事件(『キラキラヒカル1』参照)を知るものがこのクラスではひとりもいなかったのであった。
翌日(授業3日目)のA3クラス。
授業が始まる前、美咲と幸代が教室の後ろにある個人のローカーに制服のジャケットをしまっていた。
すると二つ隣のA1クラスから、「余計なお世話よ!」という大きな声が聞こえてきた。
美咲と親友の幸代が2人で話していた。
幸代「何々なんか騒いでいるよ、となりのクラス。」
美咲「あー、昨日さ放課後にちょっとした事件があったのよ。」
幸代「事件?」
美咲「1クラスの黒木夏美さんが同じクラスの吉永君にお尻を触られたんだって。」
幸代「へえー、やるじゃん。」
美咲「それがね、実は触ったんじゃ無くて、当たっただけだって吉永君が言ってるらしいよ。」
幸代「ややこしいなぁ。中途半端に触らずに、しっかり触ってやればいいじゃん!」
美咲「それは同感。まあ私なら触り返しているかもね。」
>>ほんと?恐いわ。
美咲「放送室での出来事らしくてさ、その時の会話が放送用のマイクのスイッチが入っていて全てマイクを通じて校内全体に流れたんだってよ。特に大きな悲鳴がね。」
幸代「あー、それは聞きたかったなあ。もったいない・・・」
美咲「まあ、悲鳴くらいなら私たちの方が上手かも・・・」
>>何の自慢じゃ!
幸代「さっそく有名カップル誕生ってかな。」
美咲は登校した朝、トイレでA1クラスの女子が事件のうわさをしているのをこっそり聞いていたのであった。
1限目は特別授業で美術だった。
生徒は全員美術室に移動して講義を受けていた。美術の講師は非常勤の鳥畑先生。
小柄な体だが声はかなりでかい事で知られていた。
黒のジャケットにグレーのズボンと何故か薄い紫の蝶ネクタイだが、何故か妙に似合っていた。
鳥畑「始めまして、私が美術担当の鳥畑元気です。」
美咲「なんか声でかーい・・・」
幸代「ほんとだね。」
鳥畑「そこの君、何か言ったか?」
鳥畑は声のする美咲の方を指差した。
幸代「い、いえ別になんでもありません。」
鳥畑「では今日はさっそくデッサンを皆に描いてもらいます。」
鳥畑はケント紙を1人に1枚ずつ配って回った。
そして題材を言ってからさっさと教室を出て行った。
やがて30分程して鳥畑は教室に戻ってきた。
鳥畑「どうかな、進んでいるかな・・・」
そう言いながら教室の中をゆっくりと回って生徒のできばえを見て歩いた。
やがて近藤の前に来たところで急に立ち止まった。
近藤はフィギアおたくで、フィギアの絵を描くことが大好きだった。
鳥畑「ほお、なかなか良く描けているねぇ。しかし今日のテーマにどうやって結びつけるのかな?」
鳥畑はかなり関心した様子で、少しの間その絵を眺めていた。
そして教壇に戻った。
やがて授業終了のチャイムが鳴り始めた。
鳥畑「はい今日はここまで。なおできなかった者は宿題です。来週持って来て下さい。」
生徒たちはぞろぞろと列をなすことなくクラス教室に戻っていった。
2限目は権藤教師の数学だった。
権藤博文教師は中肉中背の縦紺のスーツが似合うもっと若ければけっこうイケメンの紳士だった。
生徒たちは一斉に権藤の顔に注目していた。
権藤「な、なんだか集中照射を受けてるみたいな・・・」
最初の授業だったのでけっこう時間が経つのが早いように思えた。
あかりはこの時間中、最初から最後までコミックの『タッチ』を読んでいた。
そして加藤はずーっと寝ていたのだった。
休憩時間になった。
するとすぐに別のクラスから光が、教室の扉をさーっと開けてみんなに向かって一言、
光「よ!」
本人はポーズも決まったと思ったようだ。が、A3クラスの生徒は一瞬彼を見たのだが、すぐに元の状態に戻りもうそれからは誰も彼の方を見ようとしなかった。
美咲「おはよう、光。」
ただ1人返事をしたのは今日も美咲だった。
光はすぐに美咲のところに近づいて、
光「お、ひさしぶり。」
美咲「あのさあ・・・昨日も会ってるんですけどね・・・」
美咲は呆れた素振りで光の顔をじっと見つめながら言った。
光「いやあ、なんか別人かと思って・・・」
光は美咲が昨日と髪型を変えたのをじっと見て言った。
美咲「どう?似合うでしょ。」
光「いいねぇ、いいよいいよ。」
>>ほんとにわかってんのかなあ・・・
こうして休憩時間になる度に、光はA3クラスにも顔を出していたのであった。
美咲「コラコラ、あちこち見回してないで、早く自分のクラスに戻ってね。」
引きつった顔の美咲だった。
さてお昼の休憩時間のことである。
トイレ近くでA2クラスの鳥飼麗子と権藤先生が話しているのを美咲が見ていた。
権藤「鳥飼、ちょっとそれは見せ過ぎじゃないのか?」
麗子「あ、先生が近づいてきたから、ちょっとボタンを外したんです。」
>>それって、ヤバくない・・・
権藤「ん・・・教室の中だけにしてくださいね。」
麗子「は~い♪」
ニコニコしながら麗子の声が何故か甘い声になっていた。
そして麗子は教室に戻って行った。
が、権藤はすれ違うときにわずかばかりの香水のような香りを感じていた。
続いてトイレからA2クラスの五十嵐桃子が出てきて、
桃子「あ、先生。」
権藤「やあ。」
権藤はどうもわずかばかりの香りが気になったようだ。
桃子「どうかしたんですか?」
権藤「なんか、香水のような香りがしないかい?」
桃子「うーん・・・」
桃子は周りを鼻で嗅ぐような素振りをしながら、
桃子「別にそんな香りはしないですけど。」
権藤「そうう、じゃ。」
そう言って権藤は去って行った。
桃子はトイレ前のベランダに立っていた。
美咲はトイレに入った。
美咲「よくやるよ。別にブランドもんでなくてもいいんじゃないの・・・」
美咲はトイレに漂う香水の香りを嗅ぎながら独り言を言っていた。
翌日(授業4日目)。
この日は早朝だけは晴れていたのだが、朝から急に天気が崩れてしまい授業が始まる頃はけっこうな大粒のにわか雨だった。
1限目はクラス担任の社会だった。
小袋「はい今日は2回目なので地図の見方を勉強しましょう。地図帳を開いてください。それと教科書も見てくださいね。」
西浦「先生、前回もそう言いながら一度も教科書見なかったんですけど。」
小袋「そうだったの?じゃあいいです。」
美咲「なんだそれ・・・」
美咲は小さな声でつぶやいた。
小袋「えーと、この地図帳の真ん中の2つの地図ですが・・・あーと、ちょっと小さくて見にくいかな?」
生徒はそれぞれ地図帳を開いて先生の話している地図を探していた。
西浦「先生、教科書に同じ地図ありますよ。」
小袋「え?どれどれ・・・あー、ほんとですね。教科書の方が大きいですね。」
近藤「どっちを見るんですか?」
小袋「教科書の方がベターやね。(^^)/」
美咲「ベター??英語かい・・・先生の顔はバターみたいだけど・・・」
数人の笑い声がした。
あかりはこの時間中、まったく周囲を気にせずに最初から最後までコミックの『タッチ』を読んでいた。
そして加藤はいつものことだが、ずーっと寝ていたのだった。
雨は一旦落ち着きを見せ、やがて止んだ。
2限目は英語だった。
イヴ・ローラン先生は非常勤講師で片言の日本語だが生徒には人気。
ロンゲが半端じゃなくすごい、まるでテレビのテレホンショッピングでダイエットのCMのモデルに出てきそうな美人だった。
ローラン「はい、で・・は・・はじめま・・すよ・・」
この時間だけは生徒全員おとなしかった。
しかも男子は全員ローラン先生の顔か胸か腰ばかり見ていたのであった。
おさまっていた雨が2限の途中からまた降り始めた。
3限目の国語は、A1クラス担任の山中良男教師だった。
山中は右手で敬礼をするようなスタイルで挨拶をした。
地味なダークグレーの背広に紺色の斜めのストライプが入ったネクタイさらには黒の皮ベルト、かなり流行遅れのスタイルだった。
山中「はい、では今日は鳥の種類の漢字をやります。まずは、簡単なスズメ、、ヒバリ、クジャク、ツバメ、カモ、アヒル、モズ、カラス、ダチョウ、ハクチョウ。」
山中は喋りながら、黒板に書いていった。
山中「ではノートに書いてみてください。」
美咲「やはり退屈だよなあ・・・」
美咲は僅かな小声で言った。
同じ事を幸代も思っていたのだった。
授業中、美咲と幸代が丁度ナナメの席だったので、2人で小さなメモを伝書鳩のように行き来させていた。
美咲「あの先生って、いつもワンパターンなのかなあ」
幸代「そうだね。100パターンかも・・・」
美咲「何それ、あ、あの店だよね100均。」
幸代「着けてるものが皆安っぽく見えるけど」
美咲「確かに同感!」
幸代「ブランドもんには縁がなさそう(^^;)」
美咲「あのベルトも皮に見えるけど、じつは店で売ってるやつじゃないの」
幸代「同感!」
山中「では、答えあわせをしましょう。」
山中は黒板に漢字で書き始めた。
「雀、雲雀、孔雀、燕、鴨、家鴨、百舌と鵙、烏、駝鳥、白鳥」
山中「せっかくなのでついでに英単語も書いておきます。」
「sparrow、sky-lark、peacock、swallow、wild duck、duck、shrike、crow、ostrich、swan」
山中「スズメとツバメは英語が似ているので注意してください。」
授業が終わるまで2人のメモはずっと行ったり来たりしていた。
そしてあかりはこの時間中も、最初から最後までコミックの『タッチ』を読んでいた。
そしてまたもや加藤と、近藤までがずっと寝ていた。
第3話
翌週(授業5日目)のA3クラス。1限目は手塚教師の理科だった。
手塚治先生は中肉中背よりやや太目で無地のスーツが似合うもっと若ければけっこうコマーシャル顔の紳士だった。
生徒たちは一斉に手塚の顔に注目していた。
手塚「な、なんだか集中照射を受けてるみたいな・・・まあまあ。」
生徒たちは皆笑い始めた。
手塚はクラスを見渡して、
手塚「えー今日は天体の話をします。」
生徒たちは皆教科書を開いた。
手塚「まず、この宇宙は一体いつごろできたのか?どうしてできたのか?まだまだ謎につつまれていますが、太陽系の惑星について今日はお話します。」
手塚は持ってきたボードを黒板の前に並べた。
手塚「太陽系の誕生ですが、太陽からたくさんの・・・」
・・・・・・・・・・・・
手塚「さて、この宇宙には生物が存在することがわかっているのですが。」
近藤「宇宙人っているんですか?」
手塚「人ではなく、宇宙生物がいると考えてください。」
近藤「よくUFOが地球を観察するためにやってくるとか。」
手塚「おそらくUFOは本物でしょう。」
加藤「地球を支配するのに戦争をしかけてくるんじゃないか。」
手塚「その心配はないでしょう。」
近藤「え、地球を乗っ取るとかは・・・」
手塚「地球を攻撃する必要がなくなったんです。」
加藤「えー、それは地球にとって助かるなぁ・・・」
手塚「いえいえ、助かりません。地球にいる多くの生物が自然消滅するので、彼らはそれをただ待っているだけです。」
近藤「げげげ、俺たちは自分で自分の首を絞めてるってことか。」
手塚「そのとおりです。」
いつものように授業の終わりまであかりはコミックを読み続け、近藤と加藤はやはり寝ていた。
2限目は山中教師の国語だった。
先週とまったく同じ地味なダークグレーの背広に紺色の斜めのストライプが入ったネクタイさらには黒の皮ベルトのスタイルだった。
山中「はい、では今日は文学をやります。」
美咲「やはり退屈だよなあ・・・」
美咲は欠伸をしていた。
幸代「ほんと。」
山中「今日は二葉亭四迷という人のお話です。」
近藤「へんな名前の人だな。」
加藤「くたばってしまえ・・・」
近藤「ははは、よく似てるじゃん。」
加藤「いや、そこから名前が付いたとか聞いたことある。」
近藤「冗談でしょ。」
加藤「いや本気・・・」
山中「はい、そこの2人うるさいですよ。」
加藤「どうも。」
加藤は右手で頭の髪の毛を撫でるようにしながらペコペコと頭を軽く上下に動かしていた。
授業が終わったあとの休憩時間。
近藤「さっきの話本当か?」
近藤はさっきから気になっていたのだ。
加藤「くたばってしまえか?」
近藤「そうそれ。」
加藤「なんでも彼の親父が息子の性格が気に入らなかったから、よく怒ったとか。」
>>これは一説です。
近藤「それで・・・」
加藤「ああ。」
近藤「よく知ってるなあ。」
加藤「文学は好きだからなあ。」
近藤「クラブどうするんだ?」
加藤「演劇部にする。」
近藤「演劇?」
加藤「そう、舞台稽古みたいな事をしたいんだ。」
近藤「へえー。オレまったく興味わかねえなあ。」
ところが加藤が体育館で必死になって練習している姿を何度も見ていた近藤は、数日後演劇部に入ったのであった。
それから忘れていたが、美咲と幸代はやはりバスケ部に入った。
もう1人、あかりは体操部に入った。
翌日(授業6日目)のここは女子のトイレ。
あかり「なに、この匂い?」
あかりはあまり香水が好きではなかった。
1限目は美術だった。
生徒は全員美術室に移動して講義を受けていた。
美術の講師の鳥畑先生。今日はピンクのジャケットにグレーのズボンと何故かどこかのTVで見たことのあるようなスタイルだった。
鳥畑「さあ、今週もやりましょう。」
美咲「あー声でかい・・・」
幸代「ふふふ。」
鳥畑「そこの君、何か言ったか?」
鳥畑は声のする美咲の方を指差した。
幸代「いえ別になんでもありません。」
鳥畑「今日はさっそくコラージュを皆にやってもらいます。」
鳥畑はケント紙を1人に1枚ずつ配って回った。
そして題材を言ってからさっさと教室を出て行った。
やがて30分程して鳥畑は教室に戻ってきた。
鳥畑「どうかな、進んでいるかな・・・」
そう言いながら教室の中をゆっくりと回って生徒のできばえを見て歩いた。
やがて近藤の前に来たところで急に立ち止まった。
前にも述べたが近藤はフィギアおたくで、フィギアの絵を描いていた。
鳥畑「ほお、なかなか良く描けているねぇ。しかし今日のテーマにどうやって結びつけるのかな?」
鳥畑はかなり関心した様子で、少しの間その絵を眺めていた。
やがて授業終了のチャイムが鳴り始めた。
鳥畑「はい今日はここまで。なおできなかった者は宿題です。来週持って来て下さい。」
2限目は数学だった。あわてて権藤教師が教室に入って来た。
権藤「連絡です。来週は校内の競技大会があります。そのためいつものカリキュラムを少し変更して、しばらく体育が増えます。」
生徒全員「やったー!」
生徒全員の声が揃った。
この日は2限目の数学が無くなり、急遽2~4限目の体育に変更となった。
体育は男子と女子が別れて授業を受けることになっていた。
美咲と幸代が女子更衣室に入っていった。
美咲「校舎の女子トイレさ、いっつも匂わない?」
幸代「そうよね、私も気になってたんだ。きっと香水よね。誰なのかしら?」
美咲「生徒は禁止じゃん。」
幸代「そうなのよね。清水先生かなあ?」
美咲「うん、私もそう思ってるんだ。」
横であかりはまったく2人の会話に気にせず着替えていた。
校内競技大会の前日。
1限目の国語は、A1クラス担任の山中教師だった。
山中はやはり右手で敬礼をするようないつものスタイルで挨拶をした。
地味なダークグレーの背広に紺色の斜めのストライプが入ったネクタイさらには黒の皮ベルト、今日もかなり流行遅れのスタイルだった。
山中「はい、では今日は魚の種類の漢字をやります。まずは、簡単なサバ、イワシ、カレイ、ヒラメ、フグ、タイ、マグロ、ニシン、キス、ブリ。」
山中は喋りながら、黒板に書いていった。
山中「ではノートに書いてみてください。」
幸代「わからないのばかりだわ・・・」
そう言って副読本の国語をパラパラめくっていた。
美咲「70ページだよ。」
ナナメ横から美咲が教えた。
幸代「あ、ありがとう。」
70ページには魚の漢字の一覧が載っていた。
美咲「やはり退屈だよなあ・・・」
美咲は僅かな小声で言った。
同じ事を幸代も思っていたのだった。
授業中、美咲と幸代が丁度ナナメの席だったので、2人で小さなメモを伝書鳩のように行き来させていた。
美咲「あの先生って、いっつもワンパターンなのかなあ」
幸代「そうだね。100パターンかも・・・」
美咲「何それ、あ、あの店だよね100均だっけ。」
幸代「着けてるものが何回見ても皆安っぽく見えるけど」
美咲「確かに同感!」
幸代「ブランドもんには縁がなさそうよね(^^;)」
美咲「あのベルトも皮に見えるけど、じつは店で売ってるビニルじゃないの」
幸代「同感!」
山中はいつもは教壇横の椅子に座ったままだが、今日は何故か生徒の様子を見て回った。
山中「君は何を読んでるのかな?」
加藤の席のところで山中が立ち止まった。夢中でコミックを読んでいた加藤がびっくりして、
加藤「は、はい。教科書・・・」
山中「へえー、教科書にしては挿絵ばかりですねぇ。君、授業中ですよ。」
加藤はしっかり注意を受けてしまい、特別に宿題をもらってしまった。
山中「では、答えあわせをしましょう。」
山中は黒板に漢字で書き始めた。
「鯖、鰯、鰈、平目、河豚、鯛、鮪、鰊、鱚、鰤」
授業が終わるまで美咲と幸代の2人のメモはずっと行ったり来たりしていた。
そしてあかりはこの時間中、最初から最後までコミックの『タッチ』を読んでいた。
そして近藤は・・・・・ずっと寝ていた。
そして休憩時間。加藤は先生に注意されたことを近藤に話した。
加藤「おもしろくないよな。」
近藤「ほんとだ、漫画くらいいいじゃん。」
春日「ほんとだよねー。」
加藤「わ!なんだ・・・この人は?」
加藤が急にそばに現れた春日にびっくりした。
春日「あれれ?教室間違えたかな?」
そう言いながら1学年上のひょうきんな春日は笑いながら出て行った。
そしてしばらく不機嫌だった加藤。
加藤「そうだ、こうなったら『漫画部』をつくろう。」
近藤「おお、それはいいよな。」
第4話
こちらは加藤の家。
もともと加藤の父親は漫画が大好きで自分の若いころの漫画、とくにコミックを大量にコレクションしていた。その数500冊に及んだ。
父「そうか、漫画のクラブなあ・・・いいんじゃないか。」
加藤「本貸してくれる?」
父「勿論さ。どうせこの本はお前にやろうと思っていたんだ。500冊持って死んでもなあ・・・」
加藤「ありがとう。」
父「この棚ごと運んだらどうかい?」
加藤「1つが4段で、1列が30冊か・・・」
父「そうさ、480冊以上はあるな。」
加藤「わかった。学校に話してみるよ。」
このあと加藤は教頭と話して、漫画部の設立と、部室に漫画480冊を設置する許可をもらったのである。
こうして漫画部が設立された。加藤はさっそく下駄箱に入部案内のチラシを貼った。
この日。ここは校長室。
教頭「呼ばれましたか?」
校長「ああ・・・」
校長は座ったまま右手で机の真ん中を軽く叩いていた。
そのリズムが何となく2拍子から急に4拍子に変わった。
校長「新しくクラブを作ったそうだね・・・」
教頭「ああ漫画部のことですね。」
校長「それはいいが、授業中漫画を読む生徒が最近多いらしい。」
教頭「え?・・・そ、それは・・・」
校長「このまま授業の妨げになるようなら即刻廃部にします。」
教頭「わ、わかりました。し、しかし・・・」
校長「何だ?」
教頭「校長もコミックが好きでは・・・?」
校長「そんなことはない。君こそ好きなんじゃないか?」
教頭「い、いえ・・・私は嫌いです。」
教頭は部屋から急いで出て行った。
校長室の扉を閉めながら、
教頭「まずいな・・・嘘をついてしまった・・・」
実は教頭は大のコミック好きで、漫画部の顧問をする予定だった。
ところが数日後。ここはリサイクルショップ「利再来」。
コミックを買いに教頭が立ち寄った。
もちろん黒のサングラスにマスク・・・まるで怪しい犯罪者にも見えた。
教頭「うん。今日は新作を買おう。」
教頭が奥に設置された新作コーナーに進んだとき、そこには校長が立ち読みしていた。
こちらもわからないようにサングラスにマスクだったが、長年の付き合いか教頭はしっかり校長を見破ってしまった。
教頭「こ、校長・・・」
校長「あ、これは・・・」
校長は大失態をしたかのように、体裁を悪くしてしまい、
校長「あ、ここに来たことは内緒で・・・」
教頭「校長、この間コミックが嫌いだと・・・」
校長「す、すまん。学校では言えないのだよ。このことは内緒で・・・」
教頭「いいですよ。でも漫画部・・・」
校長「いい、いいよ。どんどんやってくれ。」
校長の態度は180度変わってしまった。
さらに教頭の漫画部の顧問も認められたのであった。
もうひとつ、あわて過ぎていたのか教頭が嘘をついていたことがいつの間にかすっかり忘れられていたのである。
校内の競技大会の当日。
空はけっこう晴れ渡って風もなく穏やかだった。
生徒たちは全員グラウンドに集合し、整列していた。
幸代「あーなかなか気持ち良い日だよね。よかった」
幸代は大きく背伸びをして深呼吸をしていた。
美咲「ほんとだよね。まあ変なやつが来なければいいけど。」
美咲はそう言いながら首を左右に軽く振っていた。
すると光がどこから来たのか急に割り込んできて、
光「ほーんとだよね~♪」
美咲「な、何よ!」
あまりの急に、美咲が大きくびっくりしたのだ。
光「そんなにびっくりしなくても・・・」
幸代「あっちに行ってよ!」
幸代が気持ち悪い昆虫でも追い払うような仕草をしながら言った。
いつものごとく光は笑いながらスキップをして、つぎのターゲットのところへ。
光「やっほーい!」
あかり「何よ。」
光「あかり、中学は同じクラスだったじゃん。」
あかり「だから何?それと何で呼び捨てなのよ。」
光「お友だちだからさ。」
あかり「キモーー!」
光「何だよ、それはないだろう。でもメガネでないと美人だね。ずっと気づかなかったよ。」
あかり「まったくもう・・・ずっと気づいてくれなかったほうが良かったわ。」
周りが笑っていた。
光「もしかして、コンタクト?」
あかり「だったら何よ!」
光「ひゃー、にらまないでよー・・・」
あかり「じゃあ、にらむことするなよー。しっし!!」
あかりも幸代と同じように追い払った。
ようやく光は男子グループの方へ去って行った。
美咲「馬っ鹿じゃないの。」
幸代もうなずきながら呆れていた。
幸代「私言葉でないわ・・・」
ところで試合の結果だが、バスケットボールの女子はB1クラスのバスケ部である荒川さおりのチームが優勝した。
2位は美咲と幸代のいるA3クラスだった。
男子は3年のクラスが優勝した。
A1クラスは光が参加したが、光のチームはボールのパスもうまくいかず他のメンバーがまったく俊敏に動かなかったために相手にすぐボールを取られ、1点も取れずに1回戦でボロボロに負けてしまったのであった。
そしてここはA3クラス。あかりが教室のあちこちを探し回っていた。
そこに西浦がやってきた。
西浦「あれ?もうみんな帰ったかと思ったよ。」
あかり「あー、コンタクトを失くしたのよ。」
あかりは寂しそうに言った。
西浦「一緒に捜してあげるよ。」
あかり「ありがとう。」
しばらく2人は教室の中をあちこち探し回っていた。
あかり「やっぱりないか・・・」
あかりは諦めかけた。
西浦はあかりのサイドポーチに光る物を見つけた。
西浦「なんか光っているよ。」
あかりはポーチを手に持って、
あかり「あ、あった!」
あかりは安堵の思いでそこに座り込んだ。
西浦「よかったね。」
あかり「ありがとう。」
西浦「じゃ帰るよ。」
あかりは教室から出て行く西浦をじっと見ていた。
何日か過ぎてある日のクラブ活動の時間。
体育館の横でたまたまA2クラスの麗子がA1クラスの西城とすれ違った。
西城「ん???」
西城はピタリと止まった。
どうも香水が気になったようだ。
ハンカチを取り出して2回くしゃみをした。
麗子は体育館の角の陰に回りこんで、その様子をじっと見ていたのであった。
そこに光が現れた。
光「よ、どうかしたのか?」
西城「たいした事じゃないけど。たぶん香水の香りに弱いんだよ。」
光「なんだ、香水ぐらいで?」
西城「ああ、鼻水が出てきてしまう。」
西城はハンカチで鼻を押さえた。
光「それは大変だね。花粉症?」
西城「香水の匂いだけだよ。」
光「ふうん・・・そんな病気あったっけ?」
光はそう言いながら去って行った。
そしてこちらでは、
麗子「ん・・・やっぱり嫌いかあ・・・」
麗子はこんなところで西城が香水が苦手である事に気づいたのである。
そんないくつかの光景をしっかりと、練習中のB1クラスの荒川さおりは小まめに見ていたのであった。
そして彼女のボールが西城のところに転がっていった。
7月初旬。高校体操選手権地区大会があった。
附属高校からは、先輩でB1クラスの冬木マリ、月島あかりの2人が出場した。
2人とも素晴らしい出来で最後まで首位争いをしたのだが、最後のリボンであかりが絡まって減点となり、マリは1位、あかりは4位になったのであった。
そしてこれを境にあかりは急にやる気を失くし、後に9月からはクラブを軽音楽部に替えた。
第5話
ここは下駄箱の前。
1クラスの吉永と1学年上B1クラスの春日の2人が掲示板を見ていた。
春日「あれ?何々漫画部。漫画読み放題。おおお、いいじゃんいいじゃん。」
それを聞いていた吉永。
吉永「ん?漫画・・・」
そう言ってすぐに春日のいる場所に近づいた。
吉永「漫画読み放題!!おお、すごいな。」
春日「だよね。これは入るしかないな。」
>>クラスが違うんだけど、軽い奴・・・
吉永「そうだな。」
>>こちらも同類か・・・
2人は妙に気が合っていた。
ある日の日曜日。ここはあかりの家。
あかり「やった!読破!!」
あかりは読んでいたコミックを思いっきり自分の机に叩きつけた。
彼女は自分の部屋でようやく『タッチ』の全26巻を読み切ったのである。
あかり「あー、次はどうしようかな?」
彼女は部屋にあるコミック誌の本棚を眺めていた。
そこにはたくさんのコミックがぎっしり詰まっていた。
有に100冊はあるようだ。
あかり「あー、もう・・・どれも読み飽きたなあ・・・」
しばらく椅子に座って考えていたのだが、
あかり「よし。」
急に何か思い立ったように、外出する衣装を選んで急いで着替えて、そして出かけて行った。
ここは南高針地区、スーパー「ゲキヤス」の西側にあるリサイクルショップ『利再来』。
店構えはこじんまりしていたが、特に学生に人気のある店だった。
あかり「よし、ここで何か新しいのを探そう。」
あかりはコミックをよくここでセット買いしていた。
中古なので単価も安く、十分自分のお小遣いで買えたのである。
と、そこにマリが店にやって来た。
マリ「あ、これかな?」
マリはちょうど『タッチ』を読み始めたところだった。
この店は立ち読みも認めていたので、マリはここで毎週日曜日は1時間か2時間立ち読みをし始めたのである。
あかりはマリの傍に行った。
あかり「マリさん。」
マリ「ああ、あかり。」
マリは体操部の先輩だった。
マリ「こんなところで会うなんてね。」
あかり「ほんと。あれ?」
あかりはマリが『タッチ』の第2巻を持っていたのを見て、
あかり「マリさん、あだち充を読むんだ。」
マリ「ええ、読み始めたのよ。だって体操部だしね。」
あかり「そうね、南ちゃんもね。」
マリ「そういうあかりは何を読んでるの?」
あかり「今日はね『陽あたり良好』を買って帰ろうかなって思って。」
あかりは手に持っている第1巻をマリに見せた。
マリ「へえー、それもあだち充だよね。」
あかり「そうなんだ。」
あかりは笑みを浮かべながらしっかりと念を押していた。
マリ「あ、そうだ。近くのお店に行かない?何か食べたくなっちゃった。」
あかり「ええ、いいですよ。行きます。」
こうして2人は近くの32アイスに入って、店内でアイスを食べていた。
あかり「マリさん。うちに『タッチ』全巻あるから、よかったら読んでください。」
マリ「えー、全部持ってるの?」
マリはかなり驚いた様子だった。
あかり「はい、私あだちファンなので。よかったら家にきて、コミック選んでもらってもいいし・・・」
マリ「えー、いいのかな・・・?」
マリはやや厚かましさを感じていた。
あかり「ええ、先輩ですもん。」
マリ「ありがとう。来週の日曜日に行ってもいいかな?」
あかり「いいとも。」
2人は食べ終わったカップを触りながら仲良く笑っていた。
次の日曜日。ここはあかりの家。
マリが予定よりやや早くやってきた。
最初2人はあかりの部屋で賑やかに話していたのだが、急に静かになった。
母「おや?・・・いやに静かだねえ。」
あかりの母親は急に心配になって、時々あかりの部屋に近づいてはみたが、時折聞こえる笑い声で安心したのかすぐに下に降りて行った。
そしていつもになく元気に手料理を作り始めた。
お昼ごろになってマリが帰ろうとしたのだが、あかりが母親からお昼を作るからと聞いていたので、
あかり「いいじゃん、マリさん。ゆっくりしていったら。」
マリ「でも・・・」
あかり「いいからいいから。」
あかりは気にせずマリを部屋に引き止めた。
マリは自宅に携帯で連絡し、そしてこの日は1日中2人が2階のあかりの部屋で読書していた。
その後夏にはマリの母親があかりの家にお中元を贈っていた。
こうしてあかりとマリは仲良しになり、この2人は先輩後輩の関係すらなくなった。
そして再びここは下駄箱の前。
マリ「ねぇ、あかり。漫画部ってあるよ。」
あかり「どれどれ?」
マリ「行ってみようか?」
あかり「うん。」
次の日の下駄箱の前。
1クラスの軽辺マキが掲示板を見て、
マキ「あれ?漫画部・・・」
興味があったのかマキはその部室に行ってみた。
そこではみんなひたすら漫画を読んでいた。
マキ「なんだぁ・・・読んでるだけじゃん・・・」
マキにとっては考えていた予想とはかなり期待はずれだったようで、大きなショックを受けたのである。
当然入るつもりはまったくなかった。
こうして漫画部は創設わずか2週間で部員が6名になった。
ところで漫画の本だが、加藤の父が漫画好きで集めた約480冊は、彼が若いころ、はまっていた作品で、今の加藤にとってはかなり古い作品が多かった。
部室には30冊4段の棚が横1列に4つ置いてあった。
離れてみると、それは見ごたえのある漫画本の宝庫に思えた。
夏休みに入る少し前。ある日の漫画部の部室にて。
数人の部員がおとなしくコミックを読んでいた。
が、春日が部室に入ってきて雰囲気が変わった。
春日はすぐに近藤のそばに行って、
春日「近藤、何読んでるんだ?」
近藤「これ?『火の鳥』。」
春日「火の鳥、鳥を燃やす・・・焼き鳥の話か。」
近藤「お・・・・・い。全然違います。とんでもなくレベルの高いコミックです。」
春日「何々?」
近藤「話が歴史上いろんな時代に行ったり来たり(ワープ)して、それぞれの時代のショートストーリーの連続。ストーリーはそれぞれ繋がりがないけど、必ず火の鳥が何かの場面で登場する。」
春日「なるほど。」
近藤「え?わかったんですか?」
春日「いや、まったくわからん。」
近藤「まあ一度読んでみてくださいよ。」
近藤はそう言うと『火の鳥(黎明編)』を春日に渡した。春日はそれを持って元の自分の席に戻り、読み始めた。
こちらはあかりとマリ。
2人で仲良く並んで読んでいた。
そしてやはりあだちシリーズ。
マリ「あかり、『陽あたり良好』はもう読んだの?」
あかり「まだ3巻まで。」
マリ「あだちを読み始めるとけっこう巻数が多いからねえ。『タッチ』、『陽あたり良好』、『みゆき』、『ナイン』、『ラフ』、『H2』・・・・・、全部で何巻あるんだ?」
あかり「でもさ、加藤君とこの趣味だから、あだち系が1冊もないのよね。」
マリ「それで持ち込んだんだ。」
あかり「そうなの。マリ先輩も?」
マリ「同じく・・・」
2人は女子向けコミックがほとんどないために、レンタルして部室へ持ち込んで読んでいたのである。
春日「ワハハハ・・・」
近藤「何だよ急に。うるさいよ春日先輩。それと『火の鳥』はギャグコミックじゃないし・・・」
春日「あっそうう。しかしこれはおもしろい。」
近藤「ちょっと待ってよ。その本『火の鳥』じゃないでしょ。」
春日「あ、それはココ。」
春日の尻の下に『火の鳥』があった。近藤は落ち込んで、
近藤「やっぱりなあ・・・座布団代わりにしないでくれよ。で、それは何ですか?」
春日「うーん、えぞ松、チョロ松、かど松・・・?、う・・・ん?いや何松?」
近藤「ははん、なんだ『おそ松くん』か。」
春日「そう、それ!トゥース!」
近藤「黙って読んでください。」
このあと部室は急に静かになったのであった。
夏には毎年恒例の花火大会が東中野商店街近くにある中野北公園で行われた。
公園だけでは場所が狭いので、近くの中野神社の境内や広場も縁日や櫓に利用されていた。
また公園がさほど広くなかったために、花火の打ち上げ場所は公園から北に2キロほど山よりにいったところで準備された。
同じバスケ部の美咲と幸代がいっしょに花火を見に来ていた。
美咲「幸代そのワンピ可愛いね。」
幸代「美咲も可愛いよ。ねぇねぇ来年はワンピお揃いにしようか?」
美咲「それもいいかもね。」
美咲は内輪をゆっくりとあおりながら、
美咲「まあ、こんだけ混んでいたら、うちの生徒には会わないだろうね。」
急に何やらやかましい一団が美咲たちの近くにゆっくりと近づいていた。
光「いえーい!いえーい!いえーい!おー!おー!おーーー!!」
叫んでいるのは光だけだったが、あまりの大声だったので一緒に来ていた吉永にとっては迷惑千万だったようだ。
吉永「お前と来るんじゃなかったよ、まったくもう・・・。」
そんな吉永の言葉さえ気にしない光は、通り過ぎる女子中学生や高校生を見つけるたびに話しかけていた。
光「ねえねえ、ちょっとそこのおねえさーん、可愛いねぇ。どこから来たのかな?」
柏木由紀子は急に鳥肌が立ったようで身震いしながら、
由紀子「きゃー!きもい・・・」
光「何それ、オレお化けじゃないよ。」
>>お化けの方がましかも・・・
由紀子のすぐ後ろの方から、
めぐ「ちょっと、何カモってんのよ。私の妹よ!」
光「ひやー!これはこれは・・・」
そこにいたのは同じ高校のバレー部の2年生柏木めぐだった。
めぐ「相手間違えてるんじゃないの?」
光「失礼しました!」
柏木姉妹は関わりたくなかったのでさっさと消えて行った。
呆れているのは一緒に来た吉永だった。大好きな1リットル入りコーラをまた一気に飲み干していた。
吉永「まったく・・・」
そう言って、近くのゴミ箱にペットボトルを投げ捨てた。
光「コーラ飲み過ぎじゃないか?」
吉永「近くでもう1本買うよ。」
光「ギョ!・・・」
少しすると、打ち上げ花火が何発か上がり始めた。
光には花火はどうでもよかった。
また周りの女の子ばかりを眺めてしつこく声をかけていた。
光「ねえねえ、ちょっと君。」
山中「おい光、何やってんだ!」
急に現れたのは担任の山中だった。
何故かジョギング用の深緑色の上下ジャージ姿で、まるで生徒たちを監視するために来たようにも見えた。
光「うーわ!ここまでオレたちを追いかけてきたのかよ。」
吉永「まさかそれはないでしょ。」
山中「何言ってんだか、オレの家はこの近所なんだよ。」
吉永「うわ、最悪・・・」
山中「吉永何か言ったか?」
吉永「いえ別に・・・」
2人は担任から離れるべくさっさと群衆の中に消えて行った。
この様子をうかがっていた美咲と幸代も、
美咲「なんだぁうちの学校の国語の担任じゃん・・・」
幸代「ほんと世間は狭いもんだね。さ、行こう行こう・・・」
この2人も山中から離れるようにさっさと縁日の方に消えて行った。
ちなみにこの日。月島家では、親子でTVの特番「懐かしの名場面集・ザ宝塚」を観ていた。
ある日の漫画部の部室にて。
数人の部員がおとなしくコミックを読んでいた。
が、そこに春日が入ってきた。周りの雰囲気が急に緊張に変わった。
春日はキョロキョロしていたが、すぐに加藤を見つけて彼のそばに行って、
春日「部長、何読んでるんですか?」
加藤「これは『オバケのQ太郎』、藤子不二雄のやつだよ。」
春日「オバケ?、オバケがおもしろいのかなあ・・・」
加藤「読んだらわかるよ、ほら。」
加藤はそう言うと『オバケのQ太郎』の本を1冊春日に渡した。春日は元の自分の席に戻り、読み始めた。
数分後。
春日「ハハハハハハ・・・」
加藤「何だよ急に。」
春日「いやー、おもしろいや、これは。」
加藤「でしょ。」
春日「ハゲラッタ!」
加藤「それ、バケラッタですよ。」
春日「え!そうだったか・・・あ、ああ。しかしハゲラッタでもいいじゃん。」
加藤「まったく・・・大丈夫かよ。」
マリ「すいません。そこ、うるさいんですけど。」
マリはそう言いながら、部室の扉に貼ってある『部屋では静かにして読みましょう』の貼り紙を指差した。
加藤「ごめん。」
春日「トゥース!」
加藤「・・・・・」
第6話
9月。今日は今月の最初の授業。
1限目は山中教師の国語だった。
先週と同じ地味なダークグレーの背広に紺色の斜めのストライプが入ったネクタイさらには黒の皮ベルトのいつものスタイルだった。
山中「はい、では今日は文学をやります。」
美咲「またかあ・・・やはり退屈だよなあ・・・」
幸代「ほんとだよね。まさかのワンパターン・・・」
山中「今日は枕草子をやります。」
ほとんどの生徒はいやいやながら教科書を開いた。
山中「では夏休みの宿題になっていた暗記文・・・できたひとは?」
教室が一瞬にしてシーンとなった。
少し間が空いて加藤が手をあげた。
山中「はい、じゃ加藤。」
加藤は周りをまったく気にせず、立ち上がり宿題になっていた枕草子の暗記文をスラスラ読んだ。
山中「はい、よくできました。加藤来週もやってくれ。」
加藤「はあ・・・?」
加藤はちょっとビックリしたような顔つきになった。
山中「今度は徒然草で。」
加藤「はあ・・・」
加藤はちょっと呆れた素振りをしていたが嫌いじゃなかったので、
加藤「はい。」
軽く返事をして座った。
斜め後ろの席にいた近藤が、
近藤「すごいな。」
加藤「まあ好きだからな。」
そしてこちらはあかり。最初から最後までずっと西浦の方を見ていた。
放課後のここは校門前。
数人の女子生徒がミニスカで下校しかけていた。
光「最近ミニスカが流行ってるのかな?」
光は校門を出る時、気になっていた。
そして急に空模様が変わり雨になったのである。
女子生徒「きゃーどうしよう・・・」
>>どうしようって、あなたが決めることです。
翌週になって、とうとう下校の時女子がスカートを短くするスタイルが学校で流行し始めた。
一番ライバル視していたのは、やはり麗子と桃子の2人だった。
当然多くの男子生徒が校門に集まる。
西浦「いいのかあ、こんなんで?」
加藤「いいじゃないか、目の保養にもなるしさ・・・」
>>はあ?????
近藤「うちの高校で流行してるみたいだよ。」
加藤「だからこのままどんどん流行ればいいじゃん。」
吉永「信じていいのか・・・この景色。」
光「やれやれー!もっと短く!」
>>やはりこいつは別人です。
吉永「パンツ見えちゃうじゃんか。」
>>妙に変なところを心配していますね。
光「見えていいよ。どんどん見せろー!」
吉永「やっぱり、こいつにはついていけないや・・・」
>>ついていくことないです。
吉永は諦めムードだった。だが、当然先生たちにバレない訳は無かった。
この2週間後、学校側ではスカートを短くすることを禁止した。
と言っても、下校時のときだけである。
女子生徒たちはカラオケに入るや否や、スカートを短くしていたのであった。
そうしてこのスカートの流行は、やがて近くの中野高校にまでも及ぶ事になったのである。
さて秋の芸術祭の行事のために演劇部がすでに夏休み頃から練習を進めていた。
今年の作品は「レ・ミゼラブル」だった。
近藤「なんだって、主人公が罪人で、悪い奴が警部。よくわからんなあ。」
加藤「お前、警部やれよ。」
近藤「お前は?」
加藤「オレはジャンバルジャン。」
近藤「ジャンバル・・・なんじゃ名前もなんとかなんないのか?呼びにくいや・・・」
加藤「そう言う訳にはいかんだろうが。作品なんだから。」
近藤「しかし、歌の方はどうするんだ?」
加藤「軽音楽部の協力でなんとかなるよ。」
近藤「しかし、軽音のやつらは講堂でライブするんだろう。」
加藤「女子の2人が合唱に参加してくれるって。」
近藤「そうなのか。」
近藤はやや納得した様子だった。
加藤「月島あかりと冬木マリ先輩。」
近藤「冬木さんて体操部じゃないの?」
加藤「うちの学校は2つ兼ねることができるからさ。軽音楽部は芸術祭の期間だけいつも演劇に入ってくれるんだよ。先輩が教えてくれたんだ。」
近藤「そうだったのか。」
マリはあかりが9月から軽音楽部に変わったので、自分も軽音楽部に籍だけ入れておいたのであった。
その後、何回も学校で練習を始め、夏休みの終わりごろはバックコーラスも一緒に合同練習することになった。
西中野地区に新しいカフェ『リラックス11』がオープンした。
店員「いらっしゃいませ。」
あかり「やっぱり新しい店はいいね。」
マリ「あそこなんかいいんじゃないの?」
マリが角の席を見ながら言った。
あかり「そうね、そうしようか。」
2人は背丈2メートル50程もある観葉植物が傍に置かれた角のテーブルについた。
あかり「なかなか造りもシャレているね。綺麗だし。」
マリ「ほらあそこの壁さ、とってもクラシックに思うけど。」
あかり「ほんとだね。ローマ建築に近い物があるよね。」
2人は内装のシャレたデザインをいろいろ観察して楽しんでいた。
あかり「で、どうよ。台本すすんでる?」
マリ「でしょ。ただ歌うだけかと思ったら、台詞があるのよ。」
あかり「結局私たちも劇に参加するわけね。」
マリ「仕方ないよね。どうせ漫画部は籍だけだし。」
マリはあかりの様子をしばらくじっと見ていた。
マリ「ねえあかり・・・」
あかり「なに?・・・」
マリ「最近妙に大人しくない?」
あかり「私?」
ふと考え込むあかり。
マリ「そう。」
あかり「そ、そうかな?」
マリ「なんか急に静かになってさあ・・・」
あかり「そんなことないけどね。」
このあともけっこうくだらない話が続くのであった。
店員「いらっしゃいませ。」
マキと2クラスの小柳昌子が入って来た。
マキ「ほら、あそこがいいと思う。」
昌子「よし、あそこだ。」
2人は入るや否や、場所取りでもするかのように急ぎ足でテーブルについた。
昌子「すっごいね。何か見た事のないデザインの壁。」
マキ「ほんとだ。天井の形も変わってるよ。何だか古代のヨーロッパみたいな。」
昌子「あっ、そう言えばそんな気がする。」
マキ「今度のイラストの背景に使ってみようかな。」
昌子「私も同じ事を考えてた。」
昌子とマキは芸術祭に向けていろいろアイディアを出し合うために、時々変わった店や新しい店を見つけては立ち寄っていたのである。
第7話
芸術祭の当日。今年のテーマは『友情』だった。
校門の前には美術部が全員で創り上げた大きなコラージュアートのはりぼてが展示されていた。
ここは漫画部のコーナー。
教壇側に漫画480冊をぎっしりと設置。
その前に受付係と返却係。入口側が受付である。
教室の壁には漫画のリスト表が貼ってあり、教室のほとんどが机と椅子の読書コーナー。
入って来たものはまずリスト表から読みたい本を選ぶ。
受付で「貸し出し票」をもらってそこに記入。
受付ではその本を後ろの棚から探す。
借りてる本は貸し出し中マークをリスト表に貼る。
読み終わった本は返却係のところに持っていく。
朝10:00から夕方4:00までの6時間を部員6人で2組の1時間ごとに交代制を考えていたが部員のほとんどが演劇に参加していたため、急遽受付を吉永1人でやっていた。
当然吉永もずっと座ってるだけではない。
コミック読み放題だから喜んで引き受けたのであった。
そして講堂ではかなりやかましい騒音とも十分とれるくらいの高校生バンドの生演奏が休むことなく午後3時頃まで、そのサウンドといえない程のややこしい音?リズム?が校内中に響いていた。
ボーカル担当のB3クラス菊池令はけっこう丈の短いピンクのワンピースと真っ赤なスカーフにポニーテール姿で、黒のキラキラ光るラメの入ったベルトをしていた。
令「おーい!みんな、のってるかー!!」
観客「はーい!!」
令「よっしや、次いくぜ~ぃ!!」
観客「はーい!!」
そして再び演奏が始まった。
令「いいよ、乗ってるねェ!!音楽は爆発だーー!!」
観客「イェーイ!!!」
一方こちらの音楽室では演劇部の「レ・ミゼラブル」が熱演されていた。
観客の中には礼子とマチコがいた。
礼子「まあたいした事はないなあ。」
礼子は大きなため息をついた。
マチコ「ふうん。私作品そのものをよく知らないから、なんとも言えない。」
そして観客席の隅では、マキも観ていた。
バックコーラスのマリとあかりは頑張っていたようだが、近藤はよく台詞をとちっていた。
さて今度は教室の外を見てみよう。グラウンドの一角には各運動部のバザーのブースが点在して不自然に並んでいた。
ここはバスケ部のブースである。
さおり「はーい!焼きそばいかがですかぁー!」
中では西城が焼きそばを作っていた。
そこに登場したのはB2クラスの春日。
春日「トゥース!」
さおり「またかぁ・・・」
いい加減呆れるさおり。
春日「またかはないでしょ。今年こそ本気で買いに来たんですよ。」
西城「いくつ欲しいんだ?」
奥から西城が尋ねた。
春日はほとんどの生徒にまったく先輩扱いされていなかった。
春日「そうだなあ・・・」
西城「考えるんだったら、決めてから来い!」
春日「おお、そう。そうだよねー・・・」
そのまま春日はどっかに消えて行った。
西城「何だああいつは?」
さおり「うちのクラスの癌よ。それも末期癌。」
>>そこまで言うかぁ・・・
そしてそのころ美咲と幸代は焼きそばのチケットをあちこちで売っていたのであった。
この日ばかりは学校内は年に一度の生徒たちの活躍でバザーの方も大盛況だった。
やがて時も夕方4時をまわり、バザーのブースでは完売した店から次々とぼちぼち片付けに入るブースも出てきた。
それにつれて人だかりも徐々に減っていき、そしてブースの周りの掛け声もそれと共に減っていった。
そしてボランティア部のメンバーが最後にバザー周辺のゴミ掃除をしていた。
芸術祭が終わった後、それぞれの持ち場にいた多くの生徒は芸術祭の打ち上げをするために、スーパー「ゲキヤス」の向かいにある「リトル・キッチン」に集まっていた。
そして彼らは窓際の一角を堂々と占拠していた。
がしかし、こちらはカフェ『リラックス11』。
バスケ部の女子が集まっていた。
さおり「やっぱここがいいね、新しいし。」
美咲「癌もいないしね。」
美咲は笑っていた。
幸代「確かに。」
ここは中野商店街にあるもんじゃの店。演劇部の打ち上げをやっていた。
加藤「なんでここなんだ?」
近藤「あかりにきいてよ。」
加藤「なんでここなんだ?」
あかり「TV観れるから。」
近藤「そ、それだけ・・・」
あかり「それだけ。」
横でマリが笑っていた。
マリ「いいよここで。だって安くて済むしね。」
加藤「まあ、確かに・・・」
加藤は場の雰囲気に納得していた。
あかり「近藤君、漫画コーナーはどうするの?」
近藤「明日学校が休みなので明日部室に全てを運ぶよ。」
マリ「手伝うね。」
近藤「ありがとう。吉永はずっと受付してくれたんで、明日の本の運びは手伝わなくていいって話してある。」
あかり「そうよね。1人で6時間ずっとだもんね。」
加藤「今日も疲れていたんで先に帰ったよ。」
>>ん?疲れるかな?
マリ「あれ?春日先輩は?」
加藤「バンドにも参加していたんで、やっぱり疲れたんだろうね。先に帰るってさ。」
近藤があかりの方をみて、
近藤「でもさ、あかり最近暗くないか?」
マリ「そんな言い方ないでしょ。」
加藤「いや、確かにそう思うよ。何か悩んでないのか?」
しばらく沈黙が続いた。
あかり「みんなゴメン。私気になる男子がいるのよ。」
加藤「おお、やったね。誰誰?」
マリ「そうだったんだ。」
あかり「西浦君。」
加藤「なんだあいつかあ・・・」
加藤は想像していた相手と違った様子だった。
マリ「えー!」
近藤「あいつけっこう真面目だからなあ。」
こうしてあかりの気持ちを察した周りのメンバーは、なんとかあかりと西浦がデートできるように作戦を立て始めた。
数日後の放課後。ここは下駄箱。
マキが誰かを待っているような様子だった。
加藤と近藤が一緒に帰ろうとしていた。
近藤「あれ加藤?あそこに誰かいるんじゃないか?」
加藤「どこ?」
声がしたのか、マキは急に隠れた。
加藤「いないよ。さ、行こ。」
2人はいつもの帰り道を歩いて行った。
マキ「加藤君って言うのかぁ・・・」
マキは芸術祭のとき、顔は覚えたが名前は知らなかったのだった。
数日後、加藤の下駄箱に小さな手紙が入っていた。
加藤「何だ?」
近藤「どうした?」
加藤「いや、なんでもない。」
加藤は近藤に気づかれないように手紙を自分のカバンに素早く入れた。
やがて帰宅した加藤は自分の部屋で、手紙を読んでいた。
加藤「ふうん。なんだよ、劇が良かったからって、別にどうでもいいじゃん。」
マキの手紙はコンサートの誘いだったが、加藤は全然興味がなかったのでその手紙を捨ててしまった。
第8話
11月のある日。下校のとき、近藤と加藤、マキと昌子がたまたま一緒になった。
近藤と加藤が前を歩いていた。
2人はいつものようにギャグを飛ばしながら会話が弾んでいた。
すると後ろにいた2人が、
マキ「うふふ・・・」
昌子「あはは・・・」
急に笑い出した。
近藤が振り返って、
近藤「そんなにおもしろいかあ?」
昌子「はい。」
2人はうなずいていた。
近藤と加藤の会話はさらに続いて行き、中野商店街に着く頃には4人がけっこう話すようになっていた。
2日後、マキは加藤の下駄箱に再び手紙を入れた。
加藤はそれを自宅で見ることにした。
ここは加藤の部屋。
加藤「なんだ、またコンサートかあ・・・」
手紙にはクリスマスにイルミネーションを4人で見に行く誘いだった。
加藤「駄目だ、オレは寒いの嫌いだし、何でわざわざ高針川まで行かなきゃいけないんだ。近所のカフェでいいじゃん。」
こうしてマキの手紙はまたしても捨てられてしまったのであった。
そしてあかりと西浦の方だが、演劇部メンバーの協力でなんとかデートできるようにはなったのだが、ここは中野北公園のベンチ。
あかり「西浦君。私お弁当作ってきたの。」
あかりはニコニコしながら言った。
西浦「へえー、じゃあ食べてみる。」
西浦はあかりの手作りのお弁当を食べていた。
あかりはその様子をドキドキしながら時々視線を合わせながらすぐ横に座っていた。
西浦「うん、まあちょっと味付けに調味料が欲しいかなあ・・・」
あかり「そ、そうなの?」
やや焦り気味のあかり。
西浦「バジルとかを加えるといいよ。」
あかり「バジル?」
西浦「そう、トマトには合うんだよ。」
あかり「へえ・・・」
そして次のデートでもあかりは手作り弁当を作ってきた。
西浦は1つ食べるごとにいろいろあかりに話しかけ、その度に西浦は調理方法のアドバイスをしていた。
あかりはそれを注意深く聞きながら、次に作るときの参考にしていたのであった。
12月。今日は今月の最初の授業。
1限目は山中教師の国語だった。
やっぱりいつもと同じ地味なダークグレーの背広に紺色の斜めのストライプが入ったネクタイさらには黒の皮ベルトのいつものスタイルだった。
山中「はい、では今日は古典文学をやります。」
美咲「またかあ・・・いい加減退屈だよなあ・・・」
幸代「ほんとだよね。まさかのワンパターンかぁ・・・」
山中「今日は更級日記をやります。」
ほとんどの生徒はいやいやながら教科書を開いた。
山中「では先週の宿題になっていた暗記文・・・できたひとは?」
教室が一瞬にしてシーンとなった。
少し間が空いて加藤が手をあげた。
山中「はい、じゃ加藤。」
加藤は周りをまったく気にせず、立ち上がり宿題になっていた更級日記の暗記文をスラスラ読んだ。
山中「はい、よくできました。加藤頑張ってるね。」
加藤「はあ。」
加藤はちょっと寝起きのような顔つきになった。
山中「次回もよろしく。」
加藤「はあ?・・・」
加藤はちょっと呆れた素振りをしていたが嫌いじゃなかったので、
加藤「はい。」
軽く返事をして座った。
斜め後ろの席にいた近藤が、
近藤「やっぱすごいなお前。」
加藤「まあ古典は好きだからな。」
そしてこちらはあかり。
ずっと西浦の方を気にしながら見ていた。
クリスマスイヴのランチタイム。こちらは『Mr.ステーキ』。
お店に中学生の2人がやってきた。
近藤エリナは近藤浪平の妹で、もう1人の五月もえは彼女の友達である。
エリナ「久しぶりだから、しっかり食べよ。」
もえ「そうだね。ほんとお久だ。」
2人はいつもより1ランク上の注文で満足していた。
やがて料理がずらりと並び始めた。
もえ「わーすごーい!写メ写メ。」
もえは携帯で料理の写真を撮っていた。
エリナ「よーし食べるぞー。」
もえ「気合十分だね。」
2人はいつもの『こいかつ』の話にはずんでいた。
エリナ「ふうー・・・食べたァ・・・」
もえ「何飲む?」
エリナ「私ジンジャー。」
もえ「私も。」
話題はさらに続いた。
周りの客はランチ時間が終わるにつれ帰っていった。
もえ「何、テーブル片付けないね、この店。」
エリナ「ほんと、いいのかぁ・・・」
エリナはメニューを見ながら、
エリナ「ああ、3時で一端閉めるんだ。」
もえ「どこどこ?」
エリナ「ほらメニューに書いてあるよ。」
もえ「そうか。何だただ楽してるだけじゃん。」
エリナ「ほんとだよね。」
もえ「フツー片付けるでしょ。」
エリナ「お客が皆いなくなってから片付けるんだ。」
もえ「なんだ、ただの手抜きかぁ。やな店だね。」
エリナ「店長不在とか。」
もえ「きっとそうだよ。」
エリナ「どうする?」
もえ「そろそろ行くか。」
エリナ「そうね。」
クリスマスに少し離れた南高針地区を流れる高針川の河川敷で今年からイルミネーションが見られることになり、何人かの生徒たちが見に来ていた。
こちらは美咲と幸代。
美咲「わあーすっごいわぁ、ほらあそこ・・・予想以上にすごいよね。」
幸代「ほんとだね。滅っ茶苦茶綺麗だよね。感激しちゃうわ私。」
2人は微動だもせずただただ興奮状態だった。
さらに初めてのイベントとあって、見物客もかなり大勢いた。
河川敷はほぼぎっしり、通路も埋まった状態であった。
こちらはあかりとマリ。
あかり「来てよかったね。」
マリ「ほんとだ、予想以上だ。」
あかり「来年も来る?」
マリ「そうだね。でもさ、もしかしてその頃2人共相手が出来ちゃったりしてね。」
あかり「じゃ4人で来ようよ。」
マリ「その前に私・・・相手が出来るかな?」
あかり「確かにその心配は私も大有りだわ・・・」
あかりは西浦との交際がいつまで続くのかが不安であった。
こうしてそれぞれの2人は生まれて初めての最高のイルミネーションを思い思いに楽しんでいた。
女子アナ「は~い皆さん、こんにちは。TV西東京の水曜日は『突撃インタビュー』の時間ですよ。
今日は東京近郊南高針地区に昨年から開催されていますイルミネーションにやってまいりました。
そしてここは高針川河川敷で~す。」
アナウンサーは歩きながら説明していた。
女子アナ「そして今日のゲストはこちら、大野竹輪さんで~す。」
大野が現れて、
大野「こんばんは、大野竹輪です。よろしく。」
女子アナ「は~い。よろしくお願いします。」
2人は河川敷をゆっくりと歩いて行った。
女子アナ「けっこう冷えますね。」
大野「そうですね。」
女子アナ「ところで突然ですが、大野さんは出身はどちらですか?」
大野「私は京都です。」
女子アナ「え。京都ですか。しかし観光の町とは言っても、この寒い時期はどうなんですか?」
大野「何をおっしゃる、この時期は紅葉がきれいですよ。」
女子アナ「紅葉って秋じゃないんですか?」
大野「京都の紅葉は12月が最高なんですよ。嵐山なんかすごい人ですよ。」
女子アナ「へえー、これは是非行ってみたいですね。」
大野「ははは、向こうでインタビューしてください。」
2人は笑っていた。
大野「そうそう、この間嵐山に行きまして、短歌を一句書きました。」
女子アナ「ほうー、小説だけじゃないんですね。」
大野「たまたま浮かんだだけです。」
女子アナ「で、その句は?」
大野はバッグから1枚の色紙を出してきた。そして、その色紙に書いてある自分の句を読んだ。
『しは走る 映える紅葉に かげ薄く 流れる風に 時を感じる』
女子アナ「大野さん、しわがあるんですか?」
大野「ははは、その通り。この『しは』はしわです。しわができるとその線に沿って薄い影ができるでしょ。」
女子アナ「ああ、なるほど。で、時を感じるんですか?」
大野「紅葉を見ながら、自分も年をとったものだなあと感じるんですよ。」
女子アナ「時じゃなく、年ですか?」
大野「そうです。引っ掛けってやつですな。」
女子アナ「けっこう凝ってますね。」
大野「短歌ってそういうものです。これは嵐山での句なんで、紅葉といっても12月なんです。そこで師走と掛けています。」
女子アナ「え、まだあるんですか?」
大野「昔は友達やら先生をよく見かけたはずなんだけど、時が過ぎて、まったく見かけることもなくなったんですよ。」
女子アナ「そう言えば、私も中学の友達に今は出会うことはないですね。」
大野「でしょ。」
さらに川面にも色取り取りのイルミネーションが美しくしとやかに、ときに鮮やかに時間と共に写って、まるで大きなキャンバスに描かれた動画のようだった。
第9話
翌年の1月3日。ここは中野神社。
けっこう多くの初詣客が広い境内の中を右往左往していた。
入り口右側では巫女さんたちがおみくじやら絵馬やらを客に説明しながら渡していた。
あかりとマリが初詣に来ていた。
あかり「マリ、何をお祈りしたのかな?」
マリ「フフフ・・・」
あかり「ひゃー何その不気味な笑い方は???」
マリ「ご、ごめん。実はね、私昨日夢でさ、今日の初詣を先に見てしまったのよ。」
あかり「へえーそうなんだ・・・」
マリ「それで、すでにあかりが言う質問を昨日見てしまったっていうわけ。」
あかり「あらー、そうだったんだ・・・」
そう言いながらあかりも含み笑いをしていた。
マリ「あれれ??あかりも変じゃないの?」
あかり「実はね、私もなんだ。夢でマリが聞いてきたので、私もその質問をしてみたの。」
マリ「へえー、そうだったの。おもしろいね。」
2人は一緒に笑い出した。
一方寒いのが大嫌いな加藤は、1日中自宅でこもっていた。
ここは彼の部屋。
本棚にはたくさんの古典小説が所狭しと並んでいた。
しばらく寝転んでいた加藤だったが、ようやくテレビを点けた。
加藤「ちょうどいいや。天気予報をやってる。」
アナ「明日の天気ですが東京は曇り時々雪で、中野は曇りいつも雪。」
加藤「ゲー!!雪かよ。」
加藤は窓の外を見ながら、
加藤「ん?・・・曇りいつも雪。何だそれ?」
アナ「失礼しました。中野は曇り一時雪です。訂正します。」
加藤「時々?・・・一時?・・・ん?・・・どう違うんだァ・・・」
しかし翌日の天気はしっかり晴れて、見事天気予報は外れたのであった。
月が変わり2月。今日は13日。
スーパー「ゲキヤス」には多くの女性が新設のコーナーを占拠していた。
勿論目当てはチョコ。とくに女子高校生の集まりは多く、押し合いもみ合いながらまるでそこは戦場になっていた。
その人数は特売日か年末の人手のようになっていたのだ。
担当の警備員すら手のつけようがない状態だった。
そしてそこに中学生の2人がやってきた。近藤エリナはと五月もえである。
エリナ「わーすごい人。」
もえ「つーか、すごい女性パワー!」
エリナ「スーパーのバーゲン会場だね。」
もえ「はっきし言って私こんな中に入れません。」
エリナ「もうこの際何でもいいや。」
もえ「えープレゼントでしょー、そんなことで大丈夫?」
エリナ「だって兄ちゃんのだから・・・」
もえ「えー、エリナのお兄さんって彼女は?」
エリナ「いないわよ。」
もえ「えーそうなんだぁ・・・」
エリナ「私と母からのチョコを待ってるのよ。」
もえ「えー、ちょっとそれって暗くない?」
エリナ「しょうがないじゃん、モテナイ男の代表なんだから。」
もえ「ひぇー、代表ですか・・・」
エリナ「母さんが父さんに似て不細工って言うのよ。」
もえ「あはは、うちの母さんと言ってる事同じだぁ・・・」
エリナ「えー、もえんとこのお父さんかっこいいじゃん。」
もえ「うーん・・・、人それぞれで・・・みたいな。」
エリナ「うちははっきし言って父さん不細工。」
もえ「きえー、直刺しこわー。」
エリナ「母さんといつもそう言い合ってる。」
もえ「すっごい家族・・・」
エリナ「でしょ。」
もえ「この際エリナのお兄さんに整形すすめる・・・」
エリナ「あはは。」
こうして楽しい会話が続く中で、2人は激戦の末チョコを何とか買ったのであった。
3月に入った。ここは冬木マリの家。
マリ「お母さんどうしたの?」
マリの母は応接間に座りながら悩んでいた。
母「マリ、あんたバス旅行に行くかい?」
マリ「旅行って・・・」
マリはテーブルの上に置いてあったポテトチップスを食べながら、
マリ「どこ?」
母「伊勢神宮。」
マリ「伊勢神宮?どこそれ?・・・ううんと・・・伊勢は聞いたことがあるなあ・・・」
母「だいぶ遠いけど、夜出発して朝着いて、神宮の周辺を散策して・・・、えーと昼は肉のバイキングかな・・・で夜に戻ってくるのよ。」
マリ「そうっかあ・・・お母さん肉類ダメだもんね。」
母「まあそれもそうなんだけど、まさかスーパーの買い物でもらった応募券が当たるとは思わなかったんだよ。」
マリ「へえー、タダなの?」
母「そうだよ。それもペアだからね。あんた誰か一緒に行くお友達いないの?」
マリ「ああ、あかりに一度聞いてみるね。」
母はやっと肩の荷が下りたのか、キッチンへ行ってバナナを2本持ってきた。
母「マリ食べるかい?」
マリ「うん。」
2人はバナナを食べながら、バスツアーのパンフレットをあちこち眺めていたのであった。
そして2年ほど前に家族旅行でここに寄り道したことをマリは母親から聞いた。
月島あかりから翌日返事が来て、マリとあかりの2人はそのバスツアーに参加することになった。
そして今日はそのツアーの当日。ここは集合場所の新宿駅。
あかり「マリー!」
手を大きく振ってあかりが小走りに集団の中へやって来た。
マリ「あかり。」
マリは両手を上げて見せた。
あかり「ほんとにいいの?」
マリ「いいのよ。だってタダなんだから。」
あかり「そうなの?、でも何か悪いような・・・」
マリ「うちの両親都合が悪くなっちゃってさ。それと焼肉は食べるの大丈夫?」
あかり「大丈夫だよ。私はほとんど好き嫌いがないの。」
マリ「へえーそれはすごいわ。」
しばらくして高速バスが来た。
マリ「きっとあれだね。」
あかりはとてもルンルン気分だった。
こうして多くの高齢者と若い2人を乗せたツアーバスは、午前0時、伊勢へと向かったのである。
翌朝。ここは伊勢神宮。
マリ「わー、すごい人だ。」
あかり「ほんとだね。こんな所なんだ。」
マリ「あかりは初めてなの?」
あかり「うん、マリは?」
マリ「私は2年ほど前に奈良に家族旅行した帰りにここに寄ったことがあるの。でも覚えてないけどね。」
マリは笑っていた。
あかり「そうなんだ。うちはまず家族旅行で遠くに行くことってないからなぁ・・・」
マリ「そうなの。」
あかり「うん。近場に行ってばかりだよ。」
やや落ち込み気味のあかり。
マリ「あっ、あそこに橋があるよ。」
元気付けるマリ。
あかり「行ってみようか?」
2人は五十鈴川に架かる有名な橋に着いた。
2人は橋の中央で立ち止まり、
マリ「へえー、何だか落ち着くね。」
あかり「ほんとだよね。私たちの住んでるところの景色とはとてもほど遠い感じがするわ。」
マリ「何か良い匂いがする・・・」
あかり「あっ、何だろ、行ってみる?」
マリ「うん。」
2人は近くの海鮮ものをいろいろ焼いている店に着いた。
焼いている香りが辺りを漂って、客がどんどん店にやって来ていた。
あかり「でもさ、昼ってバイキングなんでしょ・・・」
マリ「そ、そうだった。今あまり食べない方がいいよね。」
2人はここは我慢して、昼食を楽しみにするのであった。
バスは移動して、お昼の食事をする店に到着した。
やがて昼のバイキングタイムになった。
あかりもマリも食べることに夢中でお互い言葉がなかった。
天候にも恵まれて2人が参加したバスツアーはとても楽しかったようである。
そしてマリの母はしっかりと旅行話を聞かされたのであった。
母「あー、やっぱり行けばよかったかなあ?」
マリ「今さら・・・」
2人は応接間でポテトチップスを食べながら笑っていた。
そしてすでにお土産の和菓子はしっかり食べつくされていた。
1週間後マリの家にあかりの両親からお礼の品物が宅急便で届けられた。
春休み。ここは中野から少し離れた山手地区にある「ユニークローバ」の店。
エリナが店の前でもえを待っていた。
もえ「お待たせぇ。」
エリナ「やっほー。」
もえはリレーのバトンを渡すかのようにエリナの右手に左手でタッチした。
エリナ「入ろう、入ろう。しかしすごい人だね。」
もえ「春休みだしね。」
エリナ「そっか。すると今年の流行もうやってるね。」
もえ「ほらあそこのコーナーよ。」
エリナ「わー、すっごい人・・・」
もえ「みんな考えてる事同じだね。」
店の一角では今年流行すると言われているフルーツのツートンカラーのブラウスやシャツがかなり並んで積まれていた。
エリナ「これだね。グレープフルーツ&パープル。」
もえ「私はレモン&ショッピングピンクかな。」
エリナ「えー、それすごい大人。」
もえ「そっかぁ・・・私はガキでいいや、これどう?」
もえはバナナ&グリーンを手に持っていた。
エリナ「ほんとガキっぽー。」
エリナも似たシャツを見つけて、
エリナ「レモンマスカットよ。」
こうして2人は店内で十分楽しんでいた。
もえ「ほらほら、あの子さぁ・・・」
エリナ「どれ、どの子?」
もえが軽く指差す。
エリナ「わーちょー今っ子。」
もえ「今っ子?・・・ナウ子よ。」
エリナ「えー、雑誌に今っ子て書いてあったしー。」
もえ「それをナウって読むのよ。」
エリナ「ひぇーちょーナウいー、今を英語のNOWと読むのかぁ。」
もえ「だよー。」
第10話
学年が2年になる。
この高校は1年A1~A4、2年B1~B4、3年C1~C4というようにクラスが分かれていて3年間クラス替えがなかった。
4月の第1日曜日。ここはあかりの家。
あかり「よかった、晴れてる!」
ガッツポーズをしたあかりはベッドから飛び起きた。そしてしばらく化粧台から動かなかった。
母「あかり、ごはん。」
1階の方から母の声がした。
あかり「は~い、すぐ行く。」
この時ばかりは元気な声のあかりだった。
あかりはすぐに下へ降りていった。
母が朝食用にホットケーキを作っていた。
あかり「いい匂いだ!」
母「あなたの好物でしょ。」
あかり「うん。」
あかりは急いで大きなホットケーキを2枚食べてしまった。
母「何だかすごく急いでいるのね。」
あかり「うん。」
母「まだ7時半だよ。」
あかり「わかってるよ。」
そう言いながらも時計ばかりを気にするあかりだった。
母「まあ、いい感じだね。」
母はあかりの着こなしをしっかりチェックしていた。
あかり「え?どこへ行くのかわかるの?」
母「どーせデートでしょ。それも初めてだから・・・」
あかりはハッとした。
母「多分映画か・・・美術館だね。」
あかり「当たってるわ・・・」
母「やっぱりね・・・」
母はうなずいた。
あかり「お父さんには言わないでね。」
母「どうしてさ、悪い事じゃないでしょ。」
不思議そうにする母。
あかり「後でしつこく聞いてくる気がするから。」
母「ははーん、この前の事ね。」
母は思い出したようである。
あかり「そうだよ。」
実は以前、あかりが冬木マリと1泊のバスツアーに出かけた時、父が相手が誰なのかとしつこく聞いていたからであった。
母「今度も冬木さんだって言っといてあげる。」
あかり「ありがとうお母さん。じゃ行ってくるね。」
母「まだ早いっていうのに・・・」
あかりは家を出た。
ある日の部活の帰り道。
加藤「近藤って、フィギア集めてるって言ってたよな。」
近藤「ああ、いろいろあるよ。」
加藤「1回見たいな。」
近藤「いつでも。今日でも。」
加藤「本当か、じゃ行ってもいいか?」
こうして加藤は近藤の家に寄り道した。
ここは近藤の部屋。
部屋の一角にはずらりと5段の棚にぎっしりフィギアがところ狭しと並んでいた。
加藤「いろいろあるんだなぁ・・・」
近藤「ほとんどはオヤジのさ。もらったんだよ。昔のものばかりだけどね。もっとも昔はプラモデルと言ったらしいよ。」
加藤「そうか、どおりで見たことのない物ばかりだ。」
加藤は何か見つけた。
加藤「あっ、これアトムだ!」
加藤はコミックでアトムを覚えたのだった。
近藤「そうそう。そしてこちらが鉄人28号、マグマ大使、さらにここにはウルトラマンと怪獣シリーズ。」
加藤「しかし、すごい数だなあ・・・」
近藤「優に300以上はあるよ。」
加藤「あはは、オバQとパーマンもある。」
やはり加藤のコミック通はすごい。近藤も関心していた。
近藤「シェーをしているイヤミも。」
加藤「ほんとうだ、しかしすごい出っ歯!」
近藤「だろ。」
2人はイヤミのフィギアを見て笑い合っていた。
近藤「こっちはサンダーバード。」
加藤「おお、プラモか。昔NHKでやってたとかいう・・・DVDで観たよ。」
近藤「本当に?」
加藤「ああ、宇宙ステーション。あっ!これだ!」
加藤はサンダーバード5号の宇宙ステーションを見つけた。
近藤「ここに3号がドッキングするんだ。」
加藤「なるほど。」
近藤はサンダーバードの写真集を2、3冊持ち出してきて、加藤に見せた。
このあと2人はサンダーバードの話で盛り上がっていた。
そこへ妹のエリナが入ってきて、
エリナ「兄ちゃんなんかにぎやかだね。」
浪平「あ、エリナ。紹介するよ、これが同級生の加藤。」
エリナ「こんにちは。」
加藤「あ、こんにちは・・・」
加藤は少しびびっていた。
浪平「どうしたんだ加藤?」
加藤「いや、すごい妹がいるんだ。」
加藤がエリナの服装を見て驚いたのである。
エリナ「でしょ。これ全部コスプレ。」
エリナは中学校で流行っている『こいかつ』のコスプレをしていた。
エリナ「『こいかつ』って知ってる?」
浪平「何だよそれ?」
エリナ「えー、今ちょー流行ってるカードゲームだよ。」
浪平「なんだよ、そのカードゲームって?」
エリナ「衣装やら、装飾品、靴、帽子のカードでコスプレするのよ。」
浪平「なんだかよくわからんなあ・・・」
そこへ近藤の母親がお茶を持って入ってきた。
母「にぎやかですね。」
エリナ「母さん、『こいかつ』がわからないんだって。」
母「ああ、昔の着せ替え人形の現代版よ。母さんのころはリカちゃん人形でよくコスプレしたわ。」
エリナ「ほらあ、母さんでも知ってるよ。」
浪平「わかったよ。ご苦労チャン・・・」
エリナ「なによそれ・・・」
浪平は『こいかつ』に興味がなかったので、エリナが早く部屋から出て行ってくれるのを待っていたのであった。
加藤「す、すごい家庭だな・・・」
加藤もかなりびびっていたのであった。
第11話
5月になった。
体育館では男子バスケ部の練習試合が行われていた。
たくさんの女子生徒が体育館を埋め尽くす中、隅の一角でマリと2年から体操部に移った桃子とが器械体操の練習をしていたのであった。
桃子「まったく・・・うるさすぎる。」
西城がシュートを決めるたびに悲鳴が体育館中に響いた。
桃子「だめだあ・・・、集中できんじゃん。」
桃子は時折休んでバスケの試合風景を見ながら、にらんでいた。
一方のマリはとにかくマイペースで周りを気にせず練習していた。
マリ「何か新しい技法を考えたいなあ・・・」
少ししてマリが休憩に入った。
腰を下ろしてあらかじめ置いていた水筒を手に持って、軽く一口飲んだ。
そして何故かマットの横には、あかりから借りているコミック『タッチ』が1冊置かれていた。
その2日後。空はやや曇り空ではあったが校内の競技大会が例年通り無事に行われた。
さてバスケットボールの試合だが、女子はC1クラスの荒川さおりのチームが優勝した。
2位は美咲と幸代のいるB3クラスだった。
これは前年度と同じクラスの順位となった。
男子は2年のB1クラスが光の活躍でなんとか優勝した。
2年の西城はバスケ部だったが何故か今年もバレーボールに参加したのだった。
ここはリサイクルショップの「利再来」。
加藤がDVDを買っていた。
そこに近藤が来たのだ。
近藤「やあ。」
加藤「近藤じゃん。」
近藤「何か買ったのか?」
加藤「ああ、例のサンダーバード。これで全部揃うんだ。」
近藤「ほう・・・ハマってるんだ。」
加藤「なかなか素晴らしいよ。最近はサンダーバード基地にも興味が出てきてさ。」
近藤「ああ、うちにあるよ。」
加藤は急に思い出して、
加藤「そう言えば、この前見たよな。」
近藤「だろ。」
加藤「で、近藤は何か買いに来たのか?」
近藤「ああ、ひょっこりひょうたん島。」
加藤「何じゃそれ?」
近藤「ドンガバチョのフィギアを探しているんだよ。」
加藤「よくわからんな?。」
近藤「物語の内容はほんと単純だから、加藤の好みじゃないかもなァ・・・」
加藤「そうか、また近いうちに遊びに行ってもいいか?」
近藤「いいよ。」
こうして2人は別れたのであった。
近藤は妹のエリナがこの時間はいつもゲーセンにいることを知っていたので、まっすぐにゲーセンに向かった。
スーパー「ゲキヤス」の専門店街の一角には若者に人気のゲーセンコーナーがあった。
ゲーセンでは今日も多くの若者が興奮の坩堝と化してエンジョイしていた。
そして、最新型の大型3Dのピンボールマシーンには問題のエリナがいた。
子供「エリナ様ーーすごーーい!またしても1位―!」
エリナ「フフフ、いつでも相手になってやるよ。」
エリナは小学生の男の子に向かって含み笑いをしながら腕を組み、まるで女王様さながらの様子だった。
そこへ近藤がやってきた。
近藤「エリナ、まだするのか?」
エリナ「あ、兄さん。もういいよ。」
エリナは兄を見るとあっさりその場を離れた。
と同時に横でエリナのパワーを見ていた子供がそのあとマシンに釘付けになったのである。
エリナ「兄さん、ちょっとこれ見て。」
エリナの指差したところには、UFOキャッチャーがあった。
近藤「なんだ、ただのUFOキャッチャーじゃん。」
エリナ「機械はどうでもいいのよ。景品。」
近藤「ん?」
近藤はじっと景品のクッションを見ていた。
そこにはどでかい女の子のキャラクタが描かれていた。
近藤「誰だこれ?・・・えーと、ミク・・・」
エリナ「そうよ、初音ミク。今流行のキャラよ。覚えといてね。」
近藤「どうしたんだ、このクッションが欲しいのか?」
エリナ「そう、お願いだからゲットして・・・」
近藤「しょうがないなぁ・・・」
実はエリナはUFOキャッチャーが苦手だった。
そして近藤はしっかり1回でゲットした。
エリナ「さすが!」
近藤「いいよ、そのウインクは・・・」
エリナはいつもこんな感じで兄を困らせていた。
何せそのしぐさは初音ミクそのものだったからである。
エリナ「あーチョー金髪ロンゲにしたいなぁ・・・」
近藤「それ、無理だろ、これはただのキャラなんだし。」
エリナ「ふん、いいわよ。コスプレ探してやるから。」
近藤「またかい・・・」
そしてこのあとすぐに自宅に着くと近藤は初音ミクについてインターネットで細かく調べ始め、1週間も経たないうちにとうとうファンにまでなってしまったのであった。
数日後のここは近藤の家。
加藤が遊びに来ていた。
そして浪平の部屋には巨大な初音ミクのポスターが2枚貼ってあった。
近藤「ほら、これがひょっこりひょうたん島だよ。」
加藤「わー、けっこうでかいな。」
近藤がケースを開けながら、
近藤「こちらがやっと手に入れたドンガバチョ。」
加藤「うっわ、変な顔、それに何このひげ?」
近藤「このひげが面白いんだよ。」
にぎやかな会話が聞こえたのか、そこへまたしても妹のエリナが入ってきて、
エリナ「こんにちは。」
近藤浪平「なんだよ?」
エリナ「だってひょっこりひょうたん島を見たがるのがおかしくて・・・」
加藤「あ、エリナちゃん。これ・・・」
加藤はそう言ってポケットからカードを出した。
エリナ「何々?」
エリナはそのカードを見て、
エリナ「わーすごい!レアの四星ベルトじゃん!」
浪平「な、なんだぁ・・・加藤どうしたんだよ?」
加藤「昨日ゲーセンでゲットしたんだ。」
浪平「へー、お前『こいかつ』するんか?」
加藤「オレじゃないよ。妹だよ。」
エリナ「えー、すっごい・・・」
加藤「エリナちゃんにあげるよ。」
エリナ「えー、ほんとお、ちょーうれぴぃー。」
浪平「何語なんだ?」
エリナ「兄ちゃんはどうでもいいの・・・」
完全にエリナは加藤が気に入ったようであった。
エリナ「ありがとう。」
エリナは丁寧に加藤に挨拶とお礼をして、そして部屋から出て行った。
そうしてこの時から以降エリナのバレンタインのチョコが2つから3つに増えたのであった。
第12話
夏休みに入る少し前。ある日の漫画部の部室にて。
数人の部員がおとなしくコミックを読んでいた。
春日が近藤のそばに行って、
春日「近藤、何読んでるんだ?」
近藤「これですか?『サイボーグ009』。」
春日「サイボーグ、おお何か強そうな、しかし009って、007の真似?」
近藤「お・・・・・い。全然違いまーす。とんでもなくレベルの高いSFコミックです。」
春日「何々?」
近藤「世界平和のために世界中から選ばれた9人のサイボーグたちが悪いやつらと戦うんです。ちなみに9人のサイボーグのうち1人は赤ちゃんです。が、この赤ちゃんが一番強い。」
春日「なるほど。」
近藤「え?わかったんですか?」
春日「いや、まったくわからん。」
近藤「まあ一度読んでみてくださいよ。」
近藤はそう言うと『サイボーグ009』を春日に渡した。
春日はそれを持って元の自分の席に戻り、読み始めた。
数分後、
春日「ははははは。」
近藤「何だよ、またかい。」
春日「これはおもしろい。」
近藤「そんなシーンあったかなあ?」
春日「いや、006と007の顔が。」
近藤「春日先輩の方がよっぽど・・・」
春日「何、よっぽど・・・」
近藤「いえ何も。」
春日「トゥース!」
マリ「すいません。そこ、うるさいんですけど。」
マリはそう言いながら、部室の扉に貼ってある『部屋では静かにして読みましょう』の貼り紙を指差した。
近藤「すいません。」
春日「トゥース!」
加藤「またかよ・・・」
夏休み前の最後の授業の日。
B3クラスでは、今年から中野高校から転任してきた英語科の藤森講師がクラス担任になった。
そしてここはA3クラスの英語の授業。
藤森「明日から夏休みに入ります。今日はこれまでの中間経過の成績表を配ります。」
藤森はそう言って成績表を1人ずつに配った。
たまたま松尾美咲と森幸代が隣同士の席になっていた。
生徒はみなそれぞれ自分の成績を覗き込んでいた。
幸代「あー今年も英語だめだぁ・・・」
美咲「そうだね。」
美咲と幸代は1年のときから英語が苦手で成績もよくなかったのだった。
幸代「あ、そうだ。今日クラブ行く?」
美咲「挨拶くらいしとこうか・・・」
幸代「そうね。」
2人はバスケ部の部室に行った。
さおりはまだ来ていなかった。
美咲「あ、ちょっとトイレ行って来る。」
美咲はトイレに行った。
このあと予想もしなかったことが起こった。
たまたま美咲はカバンを置いて行ったのだが、チャックが開いていて、中から成績表の一部が見えていた。好奇心からか幸代が美咲の成績表を覗いてしまった。
幸代「え!英語・・・」
そうなのだ、英語の成績が98点!
幸代「し、信じられない・・・」
幸代が悩むのは無理も無かった。
2人は1年のときから英語の成績ではドベ争いだったからで、勿論2年になってもまったくお互い変わりばえしない成績のはずだったからである。
幸代「何でだろう・・・」
とりあえず、幸代は成績表を元に戻しておいた。
しかしこの悩みが後々大きな問題になっていったのである。
さて、いよいよ夏休みに入った。
女子バスケ部の夏休み練習は人数が少ないのでほとんどやらなかった。
そのためか暇をもてあました幸代は、中学時代の友達とカラオケに来ていた。
が、たまたまそこで担任の藤森先生と美咲の母親しのぶが2人でカラオケから出てくるところに出くわせてしまった。
幸代「な、なんで・・・」
幸代はあまりの光景に落ち着きを失ってしまった。
そしてさらに幸代の疑問はどんどん膨れ上がっていったのだった。
幸代は帰宅した。
やがて夜母親が帰宅したときにカラオケでの出来事を話した。
母親はいつものようにTVでサザエさんを見ながら、
母「ああ、松尾さんのお母さんはPTAの副会長だから、担任と話すこともあるでしょう。」
幸代「そうなんだ・・・副会長・・・」
なんだかよくわからない母の説明に幸代は自然と納得させられたような気持ちだった。
>>ほんと、よくわからない説明。
そしてこちらは美咲の家。
美咲は母親のしのぶとTVを観ていた。
しのぶ「ほら観てごらんよ。小さな子供が物を売ってるよ。」
美咲「あれは何?」
しのぶ「何か果物っぽいね。」
美咲「ほんと小さいね。小学生くらいかな?」
しのぶ「いいえ、もっと小さいわよ。言葉がカタコトだから。」
美咲「へえー、あんな国があるんだ。」
しのぶ「そうよ。世界にはまだまだたくさんの貧困者の多い国があるのよ。」
美咲「可愛そうだね。誰も助けないのかな?」
しのぶ「そうだね。助ける人はまあいないだろうね。あまりに貧困者が多すぎて、ごく一部の人に援助しても、逆にそれが贔屓としかとられないからかもね。」
美咲「それでも、1人でも多くの人が助かるなら、いいんじゃないの?」
しのぶ「母さんもそう思うけど、現実がそうなのよ。」
美咲「そうか・・・」
しのぶ「あんただって小さい頃から店を手伝ってるじゃない。」
美咲「そうだね。今思うと信じられないわ。」
しのぶ「そうよ。あれは確か5歳くらいじゃない?」
美咲「私、覚えてないわ。」
しのぶ「でしょうね・・・」
こちらは演劇部。
今年は映画にもなったダスティン・ホフマン主演の「卒業」をすることになった。
夏休み前から加藤と近藤がもめていた。
近藤「どうするヒロイン?」
加藤「誰かに頼むしかないな。」
近藤「主役が加藤だからな・・・」
加藤「だから何?」
近藤「いや何も・・・」
加藤「そうだ、1年に外人の女の子がいたなあ。」
近藤「あっ!いたいた。」
加藤「あの子に頼んでみよう。」
近藤「いいかもね。実際の映画も外人だしね。」
こうして加藤はA2クラスのローラに話を持ちかけた。
ローラ「いいよ。でも台詞多いと駄目だからね。」
加藤「まあ、それはしかたない・・・」
こうしてヒロインが決まった。
夏には毎年恒例の花火大会が東中野商店街近くにある中野北公園で今年も行われた。
公園だけでは場所が狭いので、近くの中野神社の境内や広場も縁日や櫓に利用されていた。
また公園がさほど広くなかったために、花火の打ち上げ場所は公園から北に2キロほど山よりにいったところで今年も準備された。
同じバスケ部の美咲と幸代がいっしょに花火を見に来ていた。
美咲「幸代そのウサギのイラスト写真可愛いね。」
幸代「美咲も可愛いよ。来年もワンピお揃いにしようか?」
美咲「それがいいかもね。」
美咲は内輪をゆっくりとあおりながら、
美咲「まあ、こんだけ混んでいたら、まさか昨年みたいにうちの生徒には会わないだろうね。」
急に何やらやかましい一団が美咲たちの近くにゆっくりと近づいていた。
>>やっぱり来たか。
光「いえーい!いえーい!いえーい!おー!おー!おーーー!!」
叫んでいるのは光だけだったが、あまりの大声だったので一緒に来ていた吉永にとっては迷惑千万だったようだ。
吉永「お前と来るんじゃなかったよ、まったくもう2年目だぜ・・・。」
そんな吉永の言葉さえ気にしない光は、通り過ぎる女子中学生や高校生を見つけるたびに話しかけていた。
光「ねえねえ、ちょっとそこのおねえさーん、可愛いねぇ。どこから来たのかな?」
由紀子は急に鳥肌が立ったようで身震いしながら、
由紀子「きゃー!きもい・・・」
光「何それ、オレお化けじゃないよお・・・ほらぁ・・・」
>>お化けの方がましかも・・・
由紀子のすぐ後ろの方から、
めぐ「ちょっとちょっとぉ・・・何カモってんのよ、まったく。いい加減にしなさいよ、私の妹よ。早く覚えろっちゅうねん!」
光「ひやー!これはこれは・・・」
そこにいたのは同じ高校のバレー部の3年生柏木めぐだった。
めぐ「相手間違えてるんじゃないの?何なら私が相手しようかぁー!」
光「失礼しました!」
柏木姉妹は関わりたくなかったのでさっさと消えて行った。
呆れているのは一緒に来た吉永だった。
大好きな1リットル入りコーラをいつものごとく一気に飲み干していた。
吉永「まったく・・・昨年とおんなじことしてやがる・・・」
そう言って、近くのゴミ箱にペットボトルを思いっきり投げ捨てた。
少しすると、打ち上げ花火が何発か上がり始めた。
光には花火はどうでもよかった。
また周りの女の子ばかりを眺めてしつこく声をかけていた。
光「ねえねえ、ちょっと君たちさあ・・・」
山中「おい光、何やってんだ!」
急に現れたのは担任の山中だった。
昨年と同じジョギング用の深緑色の上下ジャージ姿で、今年も生徒たちを監視するために来たように見えた。
光「うーわ!ここまでオレたちを追いかけてきたのかよ。」
吉永「今年は案外そうかもしれない。」
山中「何言ってんだか、オレの家はこの近所なんだって昨年言っただろうが。」
吉永「うわ、最悪・・・怒ってきたぜ。」
山中「吉永何か言ったか?」
吉永「いえ別に・・・」
2人は担任から離れるべくさっさと群衆の中に消えて行った。
この様子をうかがっていた美咲と幸代も、
幸代「またうちの先生じゃん・・・」
幸代はじっと山中を眺めて、
幸代「しかし、スーツも似合わないけど、ジャージも似合わないなあ・・・」
美咲「早く行こうよ。」
幸代「そうだね。」
2人はすぐに消えて行った。
10月。ここは「リラックス11」。
幸代が母とランチをしていた。
母「あら?壁に写真が増えてるわ。」
幸代「そうなの?いつも気にしないで来るから・・・」
母は壁に数枚の新しい写真を見つけた。
母「あ、これって先週の映画の・・・」
幸代「映画?」
母「TVで一緒に見たでしょ。」
幸代「あああ、あの映画すごかったね。確か国境・・・」
母「そうそう『国境のない町』」
幸代「そう言えば、こんな場所があったような?」
母「そう、ここよ、ここ。」
母は写真をじっと見続けていた。
幸代「女性は損だね。」
母「考えようによってはね。」
このあと2人はリサイクルショップ「利再来」に行って、DVDを借りてきたのであった。
第13話
季節は秋。
秋祭りが中野神社で行われた。
神社前の広場ではいくつかの縁日が催されていて、「金魚すくい」、「輪投げ」、「ヨーヨ釣り」などの店に幼稚園児と小学校の1、2年の子供たちがたくさん集まっていたのだった。
ここは「金魚すくい」の店です。
子供「おじさんどいてよ。」
光「何で、オレが先じゃん!」
子供「早く取ってよ。次待ってるんだから。」
光「しょうがないだろ、このアミすぐ破れるんだから。」
子供「何枚でやってるの?」
光「うーん、9枚目だな。」
>>へぼ!
泳いでいる金魚たちが笑っていた。
また、「カラアゲ」、「りんごアメ」、「綿菓子」、「フランクフルト」、「たこ焼き」、「広島焼き」、「焼きそば」などの店には、中高生から20代までの若者たちが多く集まっていた。
神社の奥の方では火の見櫓が置かれ、その周りで盆踊りをするために準備がされていた。
あかりとマリが来ていた。
あかり「あんまり変わってないね。」
マリ「ほんとだね。昨年すぐに帰ったから、今年こそゆっくり観察しようと思ってたけど、やっぱり止めようか?」
あかり「これだったら本屋さんに行く方がいいよね。」
マリ「そうだ、そうしよう。あそこまだ空いてるかな?」
あかり「まだ明るいし、いいと思う。」
こうして2人はいつもの『利再来』に行く事にした。
マリ「そうそう西浦君とはどうなの?」
あかり「うん、明日会うの。」
マリ「そうかよかった・・・」
翌日、あかりは西浦とデートしていた。
西浦「今日は僕がおいしい店に案内します。ハンバーグでもいいですか?」
あかり「はい。」
元気な声で返事したあかりだった。
そして2人は怪しいスナック街に入って行った。
当然あかりが不安がった。
あかり「こ、こんなところにあるんですか?」
西浦「あ、ごめん。場所がちょっと変なところだけど、大丈夫だから・・・」
元気付ける西浦。
あかり「う、うん。」
そして2人はあるビルの1階にある「Mr.ステーキ」に入って行った。
そして店を出てから、2人はさらに怪しいホテル街の前を通って行った。
西浦「あかりさん。いやじゃないんですか?」
あかり「え?何が?」
あかりは西浦の言う事がよくわからなかった。
西浦「ここ、ホテル街ですよ。」
あかり「知ってるけど。」
西浦「入った事ないでしょ。」
あかり「ええ勿論。」
西浦「もし僕が誘ったら、入りますか?」
あかり「い、いいですよ。」
西浦は躊躇せずホテルに入って行った。あかりもその後を付いて行った。
ここは201号室。
あかり「わあー、いっぱい飾ってあるんだ!」
あかりはあちこち見回していた。そしてベッドに座って、
あかり「きゃー、フワフワだぁ・・・」
あまりにはしゃぐあかりに西浦はその姿をずーと見ていたのであった。
秋の芸術祭は例年通り週末に行われた。
今年のテーマは『協調』だった。
今年も昨年と同じく校門前に大きなコラージュアートのはりぼてが見学者を出迎えていた。
さらに講堂では迷惑なくらいやかましい高校生バンドの生演奏が今年も昨年と同じくらいに校内中にズシンズシンと響いていた。
令「おーい!みんな、のってるかー!」
観客「はーい!!」
令「よっしや、次いくぜ!」
観客「はーい!!」
観客たちはみなサーチライトを手に持って準備していた。
令「音楽はー!」
観客「爆発だーー!!」
令「イエーーーーーーーィ!!!」
一方こちらの音楽室では演劇部の「卒業」が熱演されていた。
音響も大きなスピーカーを設置し、挿入歌のサイモンとガーファンクルの曲は音響担当がCDを流していた。
観客の中にA2クラスの由紀子がいた。
由紀子「あ!ローラだ!」
クライマックスシーンでは、主人公が花嫁を見て叫びそして式場から花嫁を奪って2人でその場所から逃げる場面だったが、主人公の加藤は花嫁のローラが着ているウエディングドレスの裾で滑ってこけ、さらに花嫁を担いで去る場面でも、担ぎ損なってまたこけた。
会場は感動で泣くシーンだったが大爆笑の連続になっていた。
バックコーラスに少しだけ参加したマリとあかりも我慢できずに笑うほどだった。
由紀子「うちの学校はやっぱりたいした事はないなあ。でもあの主人公は誰かな?」
由紀子は主人公役の加藤のことがずっと気になっていた。
そして漫画コーナー。
今年も昨年と同じ配置で設置され、またもや吉永が1人で受付をしていた。
といっても今回も受付でひたすら漫画を読んでいるだけなんだが。
ただひとつ変わったのは、今年は窓に大きな「初音ミク」のポスターが5、6枚飾ってあった。
もちろん近藤の趣味であることは間違いなかった。
この日ばかりは学校内は年に一度の生徒たちの活躍でバザーの方も大盛況だった。
やがて時も夕方4時をまわり、バザーのブースでは完売した店から次々とぼちぼち片付けに入るブースも出てきた。
それにつれて人だかりも徐々に減っていき、そしてブースの周りの掛け声もそれと共に減っていった。
そしてボランティア部のメンバーが最後にバザー周辺のゴミ掃除をしていた。
芸術祭が終わった後、多くの生徒が文化祭の打ち上げを今年もスーパー「ゲキヤス」の向かいにある「リトル・キッチン」に集まっていた。
そして彼らは窓際の一角を再び占拠していた。
ここは中野商店街にあるもんじゃの店。
演劇部の打ち上げをやっていた。
特別参加したローラもいた。
加藤「またなんでここなんだ?」
近藤「あかりにきいてよ。」
近藤が含み笑いをしながら言った。
加藤「なんでここなんだ?」
あかり「TV観れるから。」
近藤「そ、それだけ・・・」
あかり「そう、それだけ。」
横でマリとローラが笑っていた。
マリ「いいよここで。だって安くて済むしね。」
ローラ「私もんじゃが食べたかったの。」
加藤「まあ、確かに・・・て、昨年も同じようなことを・・・」
そしてこのあとはあかりの恋の進捗状況の話題になったのであった。
第14話
数日後。ここは校長室。
教頭「呼ばれましたか?」
校長「ああ・・・」
校長は座ったまま右手で机の真ん中を軽く叩いていた。
そのリズムが何となく2拍子から急に4拍子に変わった。
校長「この間の芸術祭で、講堂でやっていたバンドの演奏なんだが・・・」
教頭「ああ、女性ボーカルで最近流行のハードロックをやっていた連中ですね。」
校長「それはいいが、近所の住民から苦情が来てね。」
教頭「え?何と・・・」
校長「やかまし過ぎる。言ってる事が無茶苦茶だと。何やら『音楽は爆発だ』とか言って叫んでいたとか。」
教頭「『音楽は爆発』・・・そのまま演奏で爆発してしまったか・・・」
校長「冗談言ってる場合ではないよ。来年は中止してくれたまえ。」
教頭「はっ、承知しました。」
教頭は部屋から急いで出て行った。
校長室の扉を閉めながら、
教頭「『芸術は爆発』だよな・・・まあ音楽も爆発していいか・・・」
教頭は訳の分からない悩みを抱えながら職員室へ戻って行った。
この日の放課後。ここは下駄箱。
由紀子が誰かを待っているような様子だった。
加藤と近藤が一緒に帰ろうとしていた。
近藤「あれ加藤?あそこに誰かいるんじゃないか?」
加藤「どこ?」
声がしたのか、由紀子はとっさに隠れた。
加藤「いないよ。さ、行こ。」
2人はいつもの帰り道を歩いて行った。
由紀子「加藤君って言うのかぁ・・・」
由紀子は芸術祭のとき、顔は覚えたが名前は知らなかったのだった。
さらに数日後、加藤の下駄箱に小さな手紙が入っていた。
加藤「何だ?」
近藤「どうした?」
加藤「いや、なんでもない。」
加藤は近藤に気づかれないように手紙を自分のカバンに素早く入れた。
やがて帰宅した加藤は自分の部屋で、手紙を読んでいた。
加藤「ふうん。なんだよ、劇が良かったからって、別にどうでもいいじゃん。」
由紀子の手紙はデートの誘いだったが、加藤は全然興味がなかったのでその手紙を簡単に丸めて捨ててしまった。
11月の下旬。
下校のとき、近藤と加藤、由紀子がたまたま一緒になった。
加藤ら2人はいつものようにギャグを飛ばしながら会話が弾んでいた。
由紀子はしばらく2人の会話を聞いていた。
そしてその会話の中で、2人のうちどちらが加藤先輩なのかがわかるようになった。
少しして由紀子は急に2人の前に出た。
加藤「わ!なんだよ・・・」
びっくりした加藤は立ち止まった。
由紀子は加藤の顔をじっと見てそのままスキップして先に帰って行った。
由紀子「なんだ、たいした事ないじゃん。」
由紀子は問題の加藤の顔が思ってたよりイメージが違っていて気に入らなかったようだ。
クリスマスに少し離れた南高針地区を流れる高針川の河川敷で今年もイルミネーションが見られることになり、何人かの生徒たちが見に来ていた。
こちらは西浦とあかり。
西浦「綺麗ですね。」
あかり「ほんとだ、綺麗・・・どうしたらあんな光ができるのかしら?」
西浦「綺麗なのはあかりさんですよ。」
照れくさそうに西浦が話す。
あかり「またまた・・・言葉がうまくなったみたいね。」
まったく動じないあかり。
2人はしばらく硬直したままになっていた。
そして2つのシルエットはやがて1つに重なっていったのである。
第15話
翌年の2月。今日は13日。
スーパー「ゲキヤス」には多くの女性が昨年同様リニューアルした新設のコーナーを占拠していた。
勿論目当てはチョコ。とくに女子高校生の集まりはやはり多く、押し合いもみ合いながらまるで特売日か年末の人手になっていた。
マキ「すっごいね、今年も人だらけ。」
昌子「ほんとだ。」
そして今年もこの2人が来ています。
エリナ「わーすごい人。」
もえ「つーか、すごい女性パワー!」
エリナ「相変わらずスーパーのバーゲン会場だね。」
もえ「はっきし言って今年も私こんな中に入れません。」
エリナ「もうこの際何でもいいや。」
もえ「えープレゼントでしょー、そんなことで大丈夫?って昨年も言ったような・・・」
エリナ「今年は兄ちゃんがメインじゃないから・・・」
もえ「えー、エリナのお兄さん彼女できたの?」
エリナ「いないわよ。」
もえ「えーそうなんだぁ・・・」
エリナ「今年も私と母からのチョコを待ってるのよ。」
もえ「えー、ちょっとそれってますます暗くない?」
エリナ「しょうがないじゃん、モテナイ男の代表2年目なんだから。」
もえ「ひぇー、連続代表ですか・・・」
エリナ「近所に敵なし。」
もえ「すっごい家族・・・」
エリナ「でしょ。」
もえ「この際エリナのお兄さんに特殊整形すすめる・・・」
エリナ「あはは。」
こうして2人はチョコを買ったのであった。
そしてエリナの買ったチョコだが、加藤にあげるチョコだけがかなり高級だった。
ところで昌子の言うのは大当たりだった。
翌日の放課後、ここは下駄箱。
西城の下駄箱の中にはたくさんのチョコが所狭しとギュウギュウに押し込んであった。
加藤「す、すごいな。」
近藤「ほんと噂どおりだ。」
加藤「アレ?オレの所にもチョコが・・・」
確かに1つチョコが加藤の下駄箱の中に入っていた。
そこに麗子が通りかかって、
麗子「わー、キモい・・・」
加藤「な、何でだよ?」
麗子「あげる子がいるんだぁ・・・」
加藤「いたら悪いかよ。」
麗子「これは大事件だわー。」
横で近藤が笑っていた。そして、
近藤「悪い、加藤。そのチョコ入れたのはオレだよ。」
加藤「何だって!何でそんなことをするんだよ。」
近藤「そりゃ、西城みたいなことは有り得ないから、せめて雰囲気だけでも・・・」
加藤「い、いらんわ。」
加藤はチョコを近藤に返した。
近藤「麗子さん、チョコ要りませんか?」
麗子「いらんわ、失礼ね。普通もらい物の又貸しする?・・・それに今時ミルクチョコレートって、何時の時代?」
近藤「安かったから・・・」
麗子「それが失礼なのよ。ぷい!」
麗子が顔をしかめた。
加藤「ほらほら、麗子さんだったら最低でもGODIVAくらいは・・・」
麗子「GODIVAねえ・・・相手によるけどね・・・」
加藤「そこまで・・・」
かなり落ち込む加藤だった。
ちなみに加藤は有名なのがGODIVAしか知らないのだ。
近藤「加藤、一緒にチョコ交換しようぜ。」
麗子「キモー!」
完全に呆れた麗子はさっさと帰って行った。
当然麗子はクラスの女子にこの話を振りまいた。
そしてこの時から加藤と近藤のあやしい関係が学校中の噂になった。
第16話
学年が3年になる。
近藤浪平の妹のエリナはA1クラスに入った。
まだ4月ではあったが、
加藤「昨年はヒロインで失敗したから、今年は男子だけの劇にしよう。」
近藤「何だよそれ。やっぱ女子がいないと誰も来ないと思うよ。」
しかしそれでも加藤は意志が固く、苦い経験からまったく女子を呼ぶことはしなかった。
近藤「で、何をするんだ?」
加藤「忠臣蔵がいいな。」
近藤「うーん・・・」
近藤はしばらく考え込んでいたが、
近藤「まあ、任せるよ。」
結局近藤もいいアイディアがなかったのか加藤の計画に合わせる事になった。
校内の競技大会の当日。
空はけっこう晴れ渡っていて風もなく穏やかな日だった。生徒たちは全員グラウンドに集合し、整列していた。
美咲「あー気持ち良い日だよね。」
美咲は大きく背伸びをして深呼吸を2、3回していた。
幸代「ほんとだよね。」
幸代はそう言いながら首を左右に軽く振っていた。
すると光がどこから来たのか急に割り込んできて、
光「ほーんとだよね~♪」
美咲「何よ!」
光「そんなにびっくりしなくても・・・いいでしょう~♪」
幸代「そのしゃべり方がめっちゃキモイの、あっちに行ってよ!」
光は笑いながらスキップをして男子のグループの方へ去って行った。
幸代は大きくため息をついた。
2人はともにバスケット部だったので種目もバスケだった。
そして1年のエリナは卓球を選んだ。
ある日のここは校長室。
教頭「呼ばれましたか?」
校長「ああ・・・」
頭を抱えた校長が、椅子に座ったまま机に両肘を突き、両手を組みその上に顎を乗せながら、
校長「もうすぐ合同キャンプだよな。」
教頭「そうですね。」
校長「君も知っているだろう。」
教頭「ええ、毎回何人か問題になっています。」
校長「頼むよ今回は。」
教頭「は、はい。頑張って問題が起きないように、心得ております。」
校長は椅子を半回転させて、
校長「よろしく。」
教頭は困った顔つきで、
教頭「他にご用件は?」
校長「それだけだ。」
教頭「では失礼します。」
教頭は部屋から出て行った。校長室の扉を閉めながら、
教頭「ああ、またいやな時期がやって来たわ。」
そうつぶやいていた。
夏休みの最初、3年に1回の学校の行事で部活の合同キャンプがあった。
これは運動部の部活同士の横のつながりを深めることが目的だった。
学年も1年から3年まで多くの運動部が参加した。
このとき3年のグループには光、西城、夏美、麗子、さつき、ユキ、美咲、幸代が参加した。
担当の山中先生が小さなハンディ拡声器を持って話しかけた。
山中「午前中はオリエンテーリングで、森の中をぐるっと歩いてもらいます。」
山中は生徒代表の1人に地図をまとめて渡した。
その代表は生徒に1枚ずつ地図を配った。
山中「地図にあるポイント地点にはそれぞれスタンプが置いてあるので、この地図の所定の所にそのスタンプを押してください。」
光「おもしろそうだな・・・」
>>実はまったくよくわかっていない。
夏美「あー朝から何で・・・ややこしいことをするんだろう。」
西城「ポイントが20もある。多くないか?」
西城の横に麗子がいた。
麗子「ほんと、朝から疲れそうだわ。」
ため息の麗子。
さつき「ユキ、一緒に回ろ。」
ユキ「うん、いいよ。」
幸代「こんなのどうでもいいのにね。」
美咲「ほんと疲れるだけじゃん。やる気しねぇー。」
ほとんどの生徒は嫌がっていたが、
山中「昼までに全部押して戻って来て下さい。では、スタート!」
生徒たちは塵々バラバラになって歩き出した。
あるポイント地点で麗子がスタンプの場所がわからずにあちこち探していた。
麗子「うーん、どこだろう???」
ちょうどそこへ豊がやって来て、
豊「ここですよ。」
豊は親切に麗子に場所を教えた。
それを見ていたのは美咲と幸代の2人。
幸代「あの子なんかかっこいいね。」
美咲「そ・・う・・興味ない・・・」
美咲と幸代は親友だったが異性に関してはかなり好みが違っていたのだ。
キャンプ初日の夜、ロッジの外にて。
西浦「あれ? こんなところでどうしたんだ。」
美咲「あっ、西浦君。」
美咲は少し不思議そうにしながら、でも気にするほどではなかった。
西浦「寒くないの?」
西浦は自分の上着で美咲の体を覆った。
美咲「ありがとう。何か今日、よく眠れないの。」
西浦「そうか、そういう日もあるよな。」
美咲「西浦君も?」
西浦「うん、まあそういう事だ。」
>>うそつけ!
美咲「一緒ね。」
美咲は少し笑っていた。
ところで今日の夜空はとてもじゃないが絶景の日で、輝く星屑はまるでそのまま優しく地球を包み込んでいた。
さらに時々流れ星も見えた。
夜空の星の輝きが2人を深いロマンの世界に引き込んでいったのである。
うつむきかげんの美咲の姿を横から見ていた西浦は、
西浦「美咲・・・」
美咲「何?」
西浦「オレと付き合ってくれ。」
美咲「私とあかりとどっちが綺麗?」
美咲は左手で西浦の髪をそっと撫でながら、そして顔はニッコリしながらやや流し目で言った。
西浦「それはもちろん、美咲だよ。」
美咲「じゃ、付き合うわ。」
西浦「ほんと!」
>>ほんとか??
美咲「し!静かに・・・声が大きいよ・・・」
西浦「ご、ごめん・・・」
西浦と美咲は森の茂みに消えて行った。
西浦は運動部には入っていなかったのだが、運動部の合同キャンプに、生徒の食事の準備の手伝いということで特別にキャンプに呼ばれていたのであった。
ところで帰宅部の西浦はこの年から夏休みにバイトで「Mr.ステーキ」のキッチンを手伝っていた。
ほとんど毎日バイトに入っていたので、当然ながらあかりが期待していたデートなどなかった。
だが、あかりと美咲は時折この店に食べに来ていたのである。
2人は偶然にも同じ日に重なることはなかった。
そして2人ともステーキを食べにきたのではないので、注文もデザートとか、ドリンクだけとかばかりであった。
ある日の店内。
あかりが窓際に座っていた。
店員「いらっしゃいませ。」
店員があかりの席に来た。
あかり「あの、オレンジジュースをお願いします。」
こうして、ただ時の経つのを待つあかりであった。
何故ならすぐそこに西浦がいるからである。
仕事なので当然キッチンから席は見えないし、勝手に休めない。
こちらはキッチン。
店員「西浦君。来てるわよ。」
西浦「そ、そうですか・・・」
やや照れくさそうに話す西浦だった。
店員「うらやましいわねえ。」
西浦「先輩は彼氏は?」
店員「まあ、いろいろあってね・・・」
このあと先輩の恋の物語が始まった。
店員の藤田知子は「Mr.ステーキ」が開店した年からずっと手伝っていた。
店のマスターは荒川景子で知子が困っていた自らの借金返済を少しずつ協力して援助してくれていたのであった。
当時知子の彼氏はいたのだが、彼はサラリーマンをしていた。
店は知子とキッチンの本田の2人が中心となってやりくりをしていた。
年が経つにつれ、本田と知子が何でも話し合えるほどの間柄になり、ある日のこと・・・
本田「知子さん、今日は閉店後、一緒にお茶しませんか?」
知子「いいですよ。」
この日が2人にとって大きな恋の始まりでもあった。
居酒屋を出た2人は、
知子「そういえば12月・・・イルミネーションがきれいね・・・」
本田「そうですね。見に行きますか?」
知子「ええ。」
軽い返事の知子だったが、河川敷ではしっかり2人はくっ付いていた。
本田「寒くないですか?」
知子「本田さん。知子って呼んでください。」
本田「え、いいんですか?」
知子「ええ・・・」
本田は知子の揺れる髪をそっと撫でた。
すると知子が体を本田の方に擦り寄った。
本田はしっかりと彼女を抱きしめた。
そして、イルミネーションを見ながら2人は深いキスをしていた。
1時間ほどして、
知子「そろそろ行きませんか?」
本田「ええ。」
本田は知子の手をしっかりと握りながら、
本田「きれいですね。」
知子「そうね、綺麗だわ。」
本田「いえ、知子さんです。」
知子はしっかりと本田を見つめて、
知子「もう・・・」
そして、
知子「知子って呼んでください。」
本田「知子。」
知子は急に目をつむった。
本田は彼女を強く抱きしめていた。
数分後、2人はホテル街に入って行った。
こうして恋に落ちた知子は、彼氏がいながらどんどん本田を好きになっていくのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
西浦「えー、そんなことありですか?」
知子「人生は色々あるのよ。」
西浦「よくわからないや・・・」
知子「わからなくていいの。恋ってそういうものだと思うわ。彼女とうまくやってね。」
西浦「は、はい・・・」
知子「あれれ・・・?もしかしてまだ何もしてないのかな?」
西浦「ホテルには行ったんですが、何もしてません。」
知子は笑っていた。
知子「あはは、それはすごいわ。」
西浦「つうか、俺がどうしていいのかよくわからなんです。」
知子「え?ほんとに?」
西浦「はい。」
知子「よし、私が教えてあげる。」
こうして、この日の閉店後、2人はホテル街に行った。
何もかもすべて知子がリードしていた。
西浦はされるままに、そして新しい何かを感じ取ったのであった。
第17話
秋の芸術祭の季節がついにやって来た。
今年のテーマは『信頼』だった。
今年も昨年と同じく校門前には大きなコラージュアートのはりぼてが見学者を出迎えていた。
さらに講堂では例年には無く一転して美しいコーラスのハーモニーが聞こえていた。
女1「今人気のグループ・フルーツの曲を歌います。」
女2「最初はスウィート・レモンズさんのメモリーズです。」
今の気持ち・・・ どこに持っていけばいいのかなぁ・・・♪
・・・・・・・・・・・・・
女1「続いてカスタメロンさんの『Blue Rose』です。」
ここに居るよ・・・と 水色に光る
ルルル ルルル ルルル ルルル
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女2「今度はアップルでニッシュさんの『言い訳はいらない』です。」
優しい言葉 いつも言ってたの
そっと肩に触れ 時々笑うけど
私の心 それ程甘くない
言葉の化粧 言い訳はいらない
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ところで美術室では、
礼子「昨年よりレベルは断然上がってる。」
マチコ「ふうん、そうなの。」
礼子「これからの若い子たちがどんどんレベルの高い素晴らしい作品を見せてくれたら、私たちにも励みになるのよね。」
マチコ「へえ・・・」
一方こちらの音楽室では演劇部の「忠臣蔵」が男3人だけで妙に熱演されていた。
観客は誰もいなかったが、そこに様子を伺うかのように由紀子が少し入って行った。
由紀子「やっぱたいした事はないなあ。だいたい女子が1人もいないし・・・」
由紀子は最後まで観ないで1分も経たないうちにさっさと出て行った。
そして大変な事にこの日観客席は最後まで誰もいなかった。
さてこちらは美咲と幸代。
やはりたこ焼きのチケットをあちこちで売っていた。
美咲「たこ焼きいかがですか・・・」
通り行く人々はほとんど気にせずに素通りだった。
幸代「なかなか売れないね。」
美咲「だってさ、男子が作ってんだし・・・それに高いし・・・味も???」
幸代「だよね、商店街で買った方が安くて美味しいもんね。」
美咲「そうだよ。私だったら買わないよ。」
2人は売れないチケットだったが、それはそれでお互い納得していた。
こちらは漫画コーナー。
今年の1年生、A1の大友雄太が入部したので、吉永、あかりと3人交代で受付を担当していた。
そして窓際ではエリナがずっと自分の好きなコミックを読んでいたのであった。
エリナ「うーん。来年は何か面白いことがしたいなぁ・・・」
結構欲求不満のエリナだった。
こちらは問題のバスケのブース。
西城「ハッ~クション!」
松本「先輩大丈夫っすか?」
西城「何か噂されてるみたいだな・・・」
芸術祭が終わった後、多くの生徒が打ち上げを今年もスーパー「ゲキヤス」の向かいにある「リトル・キッチン」に集まっていた。
そして彼らは窓際の一角を再び占拠していた。
こちらは商店街にあるFFバーガー。
近藤「おいおい、何でここなんだよ。」
加藤「もうこの際どこでもいいじゃん。」
近藤「なんかヤケクソになってないか?」
加藤「そりゃなるでしょう。誰も観に来ないんだから・・・」
加藤の声が大きくなっていた。
近藤「まあ、男3人だけでやったんだからお粗末と言われればそれまでだね。」
加藤「ハンバーガーもう1個追加!!」
いきなり大声で追加注文をする、この日は大荒れの加藤だった。
12月。TV映画「いちごの丘」が放映された。
ここは美咲の家。
母しのぶと美咲がTVを見終わったところである。
美咲「ああ・・・かわいそう・・・」
そう言いながら美咲は涙を拭いていた。
しのぶ「ほんとだよね。全然ハッピーエンドになってないじゃない。」
やや不満のしのぶであった。テーブルの上に山になったハンカチがあった。
こちらはマリの家。
ここでも同じような光景が・・・
マリ「何で? 信じられない・・・」
母「ちょっと残酷よね。」
2人とも涙を拭きながら話していた。
やはりテーブルの上にはハンカチが積み木のように盛り上がっていた。
クリスマスに少し離れた南高針地区を流れる高針川の河川敷で今年もまたイルミネーションが行われた。
あかりとマリは特に予定がなかったし、最近会う機会がなかったので2人で見に行くことにした。
どこからかBGMが聞こえていた。
ワムの「ラスト・クリスマス」である。
マリ「わあーすっごいわぁ、ほらあそこ・・・予想以上にすごいよね。前よりすごくないかな?」
あかり「ほんとだね。滅茶苦茶綺麗だよね。感激しちゃうわ私。」
マリ「ねえ、西浦君は?」
あかり「今日もバイトなの。」
マリ「そうかあ・・・。でも彼真面目だよね。」
あかり「そう、だから好きなの。」
マリ「わかるわ、うちの高校はなかなか真面目な男子がいないから。彼は貴重な存在よ。」
2人は微動だもせずただただ興奮状態だった。
さらに特別のイベントとあって、見学客もかなり大勢いた。
河川敷はほぼぎっしり、通路も埋まった状態であった。
こうして2人はそれぞれ最高のイルミネーションを思い思いに楽しんでいた。
さらに川面にも色取り取りのイルミネーションが美しくしとやかに、ときに鮮やかに時間と共に写って、まるで大きなキャンバスに描かれた動画のようだった。
翌年。
正月、東中野商店街の喫茶「309」。
美咲と幸代がいた。
美咲「あー、疲れたぁ・・・」
幸代「ほんと、初詣はいいけど、けっこう人が多いね。」
幸代はミルクティーを飲みながら、
幸代「そうそう美咲はどこに就職するの?」
美咲「私、駅前の」
幸代「へえー、そうなんだ。私は」
花園学園大附属高校の卒業式に今年は特別に大野竹輪がゲストとして招かれていた。
そして卒業生がリチャード・クレイダーマンの曲「渚のアデリーヌ」に合わせて入場した。
山中「只今より第40回花園学園大学附属高校の卒業式を行います。一同起立!」
校長が中央の教壇に進んだ。
山中「一同、礼!」
校長が礼をした。
山中「着席!」
校長があらかじめ用意しておいたメモ原稿をそそくさとポケットから出した。
校長「では簡単に祝辞を述べたいと思います。・・・」
校長の話は意外や長かった。
その後役員のこれまた長い話やどうでもいい行事での優秀者の表彰があって、続いてゲストの大野竹輪が壇上に立った。
大野「みなさんこんにちは。私が大野です。ご存知の方も多いと思いますが、今年ミステリー賞という大きな賞を頂きまして、現在も『もう1人の自分』に続く作品を現在執筆中であります。・・・」
大野氏の話は短かった。
やがて卒業式が終わった。
講堂から親と一緒にそれぞれの卒業生が胸に何か新しいものを抱きながらぞろぞろと出てきた。
加藤「やっとかい。」
近藤「ほんとだー!」
加藤「何だ、気合入ってるじゃん。」
近藤「もう勉強しないで済むと思うと元気がでるさ。」
加藤「そうだな。」
変に納得する加藤。
そしてこちらは、
美咲「うーん。色々あったけど、やっとだね。」
幸代「うん。けっこう長かったようにも思うけど、こうやって振り返ると短かったのかなぁ・・・?」
美咲「そうよね。んーよくわかんないわ。」
幸代「それでいいのかも。」
美咲「そうしとこう。」
この2人は何でも良い方に考えるようになったらしい。
さて今度は少し離れて問題の二人、
あかり「ねえ、卒業したらどうするの?」
西浦「ん?今は何も考えていない。」
あかり「えー!何も考えていないの?信じられない・・・」
このあと2人はしばらく沈黙が続いた。
最後にこの話の主人公です。
校門前にダークブルーのベンツが入ってきた。
やがてベンツは1階入り口の駐車場に止まった。
そこには光と母親が待っていた。
出迎えた召使2人にドアを開けさせると2人は車に乗った。
周りの人たちは一斉に彼女に注目した。
そして母親は気取りながら髪を1、2回触った後で運転手に声をかけた。
ベンツはゆっくりと校門を出て、狭い道路をすり抜けるように走っていった。
ー 完 ー
この小説は「キラキラヒカル」全集の第3巻です。
キラキラヒカルは新しいカテゴリ、「4次元小説」の1冊で、これまでにはない新しい読み手の世界を考えて描いてあります。
なお、「もくじ」は配布している冊誌の表紙裏を入れました。
このシリーズでは、「登場人物一覧」以降は「ハンドブック」に記載しています。そちらをご覧ください。
<公開履歴>
2017. 6.27 (3)配布
2018. 5. (3-1)「小説家になろう」にて公開