謎の魔法使い
[ねえ、おきてよ。]
なんだこの暖かいのは、小さくて、すごく落ち着く。
[ちょっと、なにするのよ!]
-----ドスン-----
フィーナは、手を握られてビックリして、アラベルのお腹を殴ってしまった。
[ゲホ、ゲホ、ん〜なにするんだよ。フィーナ。]
アラベルは眠りの底から一瞬にして覚醒した。
[もー、あー君がいきなりビックリするような事するからじゃない。寝ぼけてないで、早くおきてよ。
今日は遊びに行く約束でしょ!]
アラベルはまだ今の状況が理解できないでいるが、昨日のことが頭にフラッシュバックした。そして昨日の約束の事を思い出した。
それと同時に寝ていた時に何か温かいものを握っていた事も思い出した。だが、それが何なのか、わからなかった。
アラベルが顔を上げると、フィーナが顔を真っ赤にして、両手を握りしめている。
[どうしたの?顔が赤いぞ、熱でもあるんじゃないか?]
アラベルはいぶかしい目を向けながら聞いた。
[べつに、どうもしてないから。もうご飯できてるからはやく食べて。]
そう言うとフィーナは階段を降りて下の階へ姿を消した。
[朝からとんでもない目にあったな。]
秋という事もあり少し冷えるが、カーテンの隙間から差し込む陽光が心地いいあさだった。
食卓につくとそこには、フィーナが作ったと思われる食事が並んでいるが一様聞いてみた。
[これ、フィーナが作ったの?]
[そうだけど!]
いかにも自信満々な顔で答えてくる。
[そうなんだ....]
実はあまり気がすすまない。なぜなら、フィーナの料理は五品中一品は毎回、天才的は味付けなのだ。あとの四品はとても美味しいのだが、
[さあ、冷めないうちに食べてよ。]
[わかった。いただきます。]
[ごちそうさまでした。]
[お粗末様でした。どうだった?味の方は?]
フィーナが期待したような顔でこちらをみてくるので、美味しかったといっておいた。本当はまたしても、一品だけ天才的は味だったのだが、それは秘密だ。
[よし、そろそろ出かけるか。]
そういってアラベルは支度を始め、フィーナは洗い物を始めた。
そして二人は家をでて、南門から森を目指した!
二人は昨日、ミノタウルスと戦った森の広場で魔法と剣術の修行をし、そのあと、森の奥にある泉にいく予定なのだ。
[ふ〜、やっとついたな。フィーナの魔法で転移すればすぐだったのに。]
アラベルは不満そうな顔で言った。
[あれは、まだ安定しないんだ。もし、失敗したら、どこかわからない所へとんでしまうから。]
[そうなのか、所で学院に入ったばかりなのに、超高等魔法まで使えるって本当か?]
[うん、まあ、一様ね。でも、全部使えるかは試してないから、わからないけどね。それも今日試したくて。]
フィーナは少し照れくさそうな顔をして、俯き加減で言い、負けじとばかりに話し始めた。
[あー君だって、序列一位の先輩剣士に勝ったんでしょ。]
[そうだよ。よく知ってるな。]
全ての都市の魔法学院、剣術学院には、学院内に置いての序列というものが存在する。自分より上の順位の人と戦い、勝利すると、序列が上がっていくシステムなのだ。
序列上位10名は学院の中でも最強であり、様々な特権もある。
アラベルは序列一位の剣士に勝利したため、現在剣術学院では、1番強い剣士ということになるのだ。
[噂になってるわよ?街や魔法学院でも。]
そんなに噂になっていたのかと、驚いたが、フィーナの事も噂になっていたので、なっとくした。
[そろそろ、修行始めましょ。]
フィーナの声で思考を停止させられ、ふたつ返事で応じる。
するとフィーナは演唱を始めた。
光と闇に埋もれし世に、大地の力を借りて時間と空間の逸脱を我が名に置いて命ずる。我が名はフィーナ。
[タイム、アイソレーション]
タイムアイソレーション。すなわち、時間を操る魔法、「タイム」に時間を時間軸から孤立化させる「アイソレーション」の属性を加えたものである。これにより、現実の空間から切り離された空間を作り出すことができ、修行に専念できるという寸法だ。
このあとフィーナとの修行は、日が頭の上に来るまで続いた。
修行といってもお互いに戦うと言うもので、勝敗をつけるのであれば、フィーナが勝利したと言っていい。
アラベルはフィーナが、 作ってきてくれたお昼ご飯を食べ、その後森の奥にある泉へ向かった。
[・・・どこにいる。探せ!必ず連れて帰るんだ。]
[は。]
ここには魔法の痕跡がある。必ずこの近くにいるはずだ。
日はもう頭の上から二時の方向に傾いている。
[クルガ様、この先に泉があります。]
[よし、行くぞ。]
お付きの二人とクルガは泉を目指し森の木々の間を縫うようにして走っていた。
その頃泉に来ていたアラベルとフィーナは満喫していた。
秋風が気持ちよく吹いて、泉の水面を揺らしている。木々も草も揺れ、2人が座っている。原っぱには、陽光が注がれていたせいか、暖かく気を抜くと眠ってしまいそうだった。
アラベルはポカポカして眠たくなり、こんな日がずっと続けばどれだけ幸せだろうと思った。それはフィーナも同じだろう。
それから少したち、少しずつ風が強くなって来た。空を見上げると雲の動きも速くなり、光が遮られたり、また注いだりを繰り返している。
[よし、そろそろ戻ろうか?]
[うん。]
フィーナが立ち上がり帰ろうとしたその時、アラベルはフィーナの服を引っ張った。そしてそのまま、帰り道の方の森に視線を向けている。
[あー君どうしたの?]
フィーナは不思議そうな顔をしてアラベルに問いた。
[何か来る]
アラベルはそう言うと剣のつかを握りフィーナを自分の後ろに下がられた。
次の瞬間、森の奥から光の粒子のようなものが飛んで来た。そして、アラベルたちの前で弾けて広がり、辺り一帯が光に包まれた。
[いやはや、捜しましたぞ、魔法使いさん]
言葉を発した男は、黒いローブを着ていてフードを深く被り顔は見えない。
前に2人いる物も同じくローブ着ていてフードを被っているが、フードの奥から笑みを浮かべているように見えた。
[お前たちだれだ?なんのようだ。]
[私たちが用があるのは貴方ではありません。背後にいる彼女を渡しなさい。]
[渡すわけが無いだろ。]
アラベルはいまいち状況が掴めずにいた。なぜフィーナが狙われているのか。
奴らは魔法使いと言っていた。と言うことはフィーナの正体をしっている。
ここまでのことを一瞬のうちに思考に巡らせ、アラベルはフィーナの方をチラリ見た。
フィーナは落ち着いてはいるものの、アラベルの服をつかんでいる手は震えている。
[そうですか。追ってもきそうですし、あまり時間がないみたいです。手荒な真似はしたくなかったのですが、止む終えません。
お前たち、あのガキを片付けろ。]
アラベルは剣を抜き交戦の構えを見せる。
フィーナは先ほどの修行で魔力を使い過ぎたせいか、今は、大掛かりな魔法は使えなそうだ。
ここは、何としてでも食い止めると、誓い。
フィーナに無理はしない程度に後方支援を任せ、敵の2人めがけて飛び出した。
相手が魔法使いの場合の戦い方は、とにかく間合いを詰めて接近戦に持ち込むことだ。
なのでアラベルは敵2人との間合いを一気に詰めるべく真っ正面から突っ込んだ。
相手も左右に分かれアラベルに向かって走ってきた。右側の男が炎系の魔法を放ち、それを右に交わし男に斬りかかる。
だが、左側の男が氷魔法を放ちそれがアラベルの足に命中し凍って動けなくなった。
そして、敵2人はアラベルに追加攻撃をしようと炎魔法を使ってくる。
これはまともにくらうとアラベルは思ったが、後ろから電撃のような雷魔法が飛んできて敵2人に命中した。
敵2人はすぐに後退する。
アラベルのフィーナの炎魔法のおかげで足下の氷が溶け一旦後ろへ下がった。
[フィーナ助かった。]
[うん!]
[あいつらの動きを止めることできるか?]
[うん、やってみる]
フィーナは作ったような細やかな笑顔を見せ言った。
アラベルは先ほどと同様に真っ正面から突っ込み相手と接近する。
フィーナは炎魔法をアラベルの突進に乗じて相手からは見えない様、アラベルの身体に重なる様に魔法を放った。
そして、相手と近距離になったところで、潜めてあった、炎魔法の火の玉を相手の足元に落とし爆発させた。
爆発によって土煙が上がり、視界が悪くなる。
アラベルはこれを逃すまいと全速力で土煙に突っ込み、動きが止まっている右側の敵の胸を剣で貫く。敵は悲鳴をあげ、もう1人の方は視界が悪く、何が起きているのかわからないまま、立ち尽くしていた。
敵は、アラベルの気配に気づくがもう遅い。敵の背後に回り込み右肩から、左太腿にかけて切る。
敵は声を上げることなく、頭から倒れた。
アラベルはフィーナの近くへ戻ると、クルガが少し動揺した様な顔で、倒れた2人を見ていた。
[なかなか、やる様ですね。私もあなたの相手をしたいのですが、今はやめて起きます。また、戦う事がある様な気がしますから。]
クルガは少し笑みを浮かべると右手を高く掲げて、親指と中指を合わせ打ち鳴らした。すると、クルガの姿が消え、背後からフィーナのか細い喘ぎ声が聞こえた。
アラベルが振り返ると、そこにはクルガがフィーナを拘束している。
[それではまた。]
クルガは小さい笑みを浮かべると、フィーナとともに後方へ下り、足の下に魔法陣が発生した。
あれは空間転移の魔法であり、よくフィーナも練習していたので、アラベルも見たことがあった。
アラベルは全力で飛び出すが間に合いそうにない。
すると、アラベルの後方から、炎魔法がクルガに向かって飛んでいった。
直撃したかと思われたが、クルガとフィーナの姿はそこにはなかった。
アラベルは涙を流しその場に立ち尽くしていた。