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厨独 〜ちゅうどく〜

作者: acco
掲載日:2016/04/16

親愛なるユッキー。


あれからもう7年の時が経ちましたね。

昨日は突然夜中にメッセージを送ってしまい、ごめんなさい。


とても勇気が入りました。

拒絶されるのではないかと不安でした。


けれどどうしても君に会いたくなったのです。




そこにはまた、あの頃のような君居てくれて安心しました。

「元気?」そんな台詞を用意していましたが、それよりも先に君は“病気で苦しんでいる”と言いました。

もしかしたら君の歌声がまた聞けるかも、とも思っていましたので驚きました、とても悲しいです。そして浅はかでした。

たまらず「お見舞いに行きたい!」というと君は断りました。

当然ですね、7年ぶりに“会いたい!”などと言われてさぞ驚いたことでしょう。

同棲している彼女が居るのも当然です。それくらいの時が経ったのですから。


私に出来ることはただ君が元気になるその日を願い待つだけです。

出来ればまたご飯を食べて、カラオケに行きたいです。それからまた・・・いえ、これは言わないほうが良いでしょう。



さて、何故今になって君に連絡を入れたのか不思議に思うことでしょう。

それは7年前に君に宛てたお話を今になって君に伝えたくなったからなのです。

今の私はまた君を必要としています。


またあの頃のように暗くて長いトンネルの中にいます。

だから今、あの時の私達が生きていた証をここに残します。



















【厨独】




いつものように“いいとも”のあの陽気な音楽が流れ出すと、腹をくくり、ベッドから重い体を引き離した。

とりあえず顔を洗おうと洗面台に向かう。

長い髪を両手ですくいあげると、君が残した桜色のマークが顔を出す。

「夢、じゃなかった。」

髪をすくった手を離し、そっと、指を当ててみる。時間に、距離に、抵抗するように君が残したタトゥーは少しふっくらとした指触りを残してる。

“まだ消えないで・・・。”

鏡の奥の女が泣きそうな顔をするので私はたまらずベッドへ潜り込んだ。


少し眠ってから目を覚ますと不安そうな顔をしている君が隣にいる。

眉を寄せ溜息をつくと、私を抱きしめた。

「ここに居ろよ」

 こくりと、女の子のように頷いた。

 このときまで想像もできなかった、大きくて筋肉質な腕に包み込まれる。


「男の子」

「何だよそれ」


 いつものように二人でくすくす笑って、おでこを付けてまたキスをした。

「ツッキーがもうしばらくキス要らないってくらい出来れば良い・・・」

 小さくほほ笑んで、また唇が触れるだけのキスをした。

 そして私はまたいつの間にか寝むってしまった。


 次に目を覚ますと、かけっぱなしでいたスピーカーから、初めて君がギターを手に歌ってくれた曲が流れている。

 息を吸う音が、アコースティックのキュって音が愛しい。どんな色のギターで君はどんな姿で弾くのだろう。

首に手をやるともうあの愛しい膨らみは消えていた。










【君に出会う前】



「もう限界」


また店長に呼び出された、

「貴方はドライ過ぎる。仕事とプライベートを分け過ぎよ」

 なんて、それの何処が悪いんだ?ドライ?いい響きじゃない。その日も淡々と作業をこなし定時に帰宅した。

住民と無言ですれ違う。ボタンを連打しのろのろと降りて来るエレベーターを待った。

扉が開くと白い息が鉄の箱に充満した。

「ダルい」


“カチャ”黒のマニキュアが塗られた爪でこの頃主流の2つ折り携帯を開くが、恋人からの着信はやはりなかった。


「おかえり。金はー? 給料日でしょ?」

 画面の中の韓流スターを目で追いかけながら母が言った。私はパンパンにむくんだ足をブーツから開放してやると、「それしか言えないんかよババア!」と、小声で言い放ち勢いよくドアを閉めた。


 一昨年の冬に自ら大切な人を失ってから、私は訳が分からなくなっていた。何が分からないのかが分からなくなった。何の為におしゃれをするのか、何の為に生きるのか。

 名前も知らない男とキスをし、体を預け、意味のない愛を共有することをまた始めた。

機械のように同じ毎日を繰り返すだけ。笑いたくもないのにニコニコして、機嫌とって、こび売って、なぁ? 皆、それって生きてんの? 皆同じ顔に見える。何か出来るはずなのに、他人が真似できないこと出来るはずなのに、何もしようとはしない私は今日もそやって逃げているだけだった。




 今年の十一月に入り、PCの前から動けなくなった私はだんだん仕事にも行かなくなった。

朝が怖い。

目の周りに黒のアイシャドウを塗り、中古で買ったDr.マーチンに脚を突っ込むが、ドアノブに触れる指が震えた。

人に会いたくない。あんなにも簡単に信じて、愛と思っていた物を与え求めた結果、誰も信じられなくなっていた。


 カタカタと窓が揺れる。これから本当の冬が来ると言うのにまだ暖房器具はいっさい用意をしていない。指先しか出ていない手でフードを引っぱり、ジップを下げると外へ出るのを諦めた。一日がとても長く、寒くて。寂しかった。


 とうとう私はアイシャドウを付けるのをやめ、お気に入りのブーツも履かなくなった。そして鍵のかかった部屋へ。

 毎日、毎日ベッドの中で半日を過ごし、夜はPCを立ち上げて見知らぬひとと喋った。一人になりたいのに独りは嫌で、けれどそれは傷口に塩を塗るようなもので。

ネットの中で暮らし、私の居場所を探しさ迷った。かちゃかちゃとタイピングだけが早くなる。誰か私に気づいて・・・。


 アルコールを口に運んでは何十本も空き缶にタバコを刺し、ジャンクフードを抱えて部屋に閉じこもった。

そんな毎日を過ごしているといつ朝がはじまって、いつ夜が終わったのかが分からなくなる。“お昼休み”の陽気な定番ソング、いや、今となっては懐かしい曲で昼を知り、ニコニコ動画の零時の時報で夜だと知る。ショッキングピンクの黴臭いカーテンはいつしか開かれる日が来ることを待っているかのように、ただそこでじっとしているだけだった。



「俺、好きな女の子が居るんだよ。でも全然俺に興味ないみたい」

ヘッドセット越しのひと声はとても若い。


「ふーん。デートには誘った?」

コードをくるくると指に巻き付ける。


「そんなこと出来るレベルとかじゃない」

「案外女ってのはそういうのに弱いんだよ。あたしと喋ってる暇あったら、その子ん家でも行ってバイクのケツにでも乗っけてきな」

「バイクない。俺高校生だよ」

「じゃあ、チャリで良いだろ、ほらさっさと行った」

「あ、ありがとう。ねーさんも彼と上手く行くと良いね」

何よちょっとふっきれたような声してさ。


「ふんっ。大きなお世話。じゃーね」画面の中の赤い電話マークにカーソルを合わせると。通話終了となった。

 カチャカチャと、オイルが切れそうな百円ライターでやっと火を付けると、ヘッドセットを床に投げた。


「ったく。あたしが教えて欲しいってんだよ。リア充。」

 飽きたPCをシャットダウンし、マウスをコントローラーに替えps2を立ち上げると

“バイオハザード”とお決まりの低い声が響く。

リロード、ショット、リロード。極めつけにオイルをぶっかけ着火。「一生寝てろカス」

アナログからデジタルになると聞いて焦って父が購入したテレビを消すと、暗い画面に酷いクマの出来た女がいた。

「明日もまた会社には行けそうにない」

皆が必死に生きている中、私一人まだドアを開けられないでいた。







【2009.11.10.】


「Hの、時、くらい・・・・好きっ、て・・・・いっ   て」


 体を起こすのがやっとのくらい必死に腰を振る私に、冷たい目線だけを貴方はくれる。

今日も「好き」は聞けなかった。

“十分くらいの行為”が終わって直ぐに貴方はタバコに火を付けると、裸の私をそのままにテレビに夢中になる。

白く細い背中に理想の筋肉がうっすらと浮かんでいる。

 ぼぉっとそれを眺めて急に起き上がると私は貴方のタバコを横から奪った。けれど画面に夢中になっている貴方はピクリとも動かない。


“私は空気じゃないっ・・・”


手に持つそれを、髑髏の絵が描かれてある硝子皿に、ぐしゃぐしゃと押し付けると、ダラリと腕を降ろした。もう終わりだって分かってた。


 いつからだろう。sexが嫌いになったのは。半年前? 二年前?

何も感じなくなったのは何時からだっただろうか。あの日のクリスマスに一度逝ったきりだ。後にも先にもあれだけがエクスタシーと感じたものだった。あの感覚、はっきりと覚えている。あいつは今何をしているのだろうか・・・。

“軽い運動”で少しだけ落ちたアイメイクにマスカラを足す。ケバいメイクは自分の幼さを隠す為の道具。

今日も何の代わり映えもしないデートコースを、当たり障りの無い話でドライブする。


途中から気分が悪くなった私に。

「今日は真っ直ぐ帰ったほうが良い。」彼はそう言い私の家に向かう。

その間私達は口を開かなかった、貴方は黙って私を家まで送るとキスもせずに車から降ろした。私も黙って降りる。

「気をつけて」

 あっさりとした挨拶。うんとだけ頷いてとぼとぼと家へ向かった。

「帰りたくない」

 どうしてもそれは言えなかった。いつまでこんなことが続くのだろう。終わりにしなくちゃいけないのに、また今日も出来なかった。



 家に着くとブーツをほうり投げ、真っ先にPCを立ち上げてmixiに繋ぐ。まだLINEのないこの時代、私たちの出逢いはいつもここからだった。

直ぐに誰かと喋りたい。誰でも良い。私のことを知らない“誰か”が良い。タイツを脱ぎ、アバラに食い込んだのホックを左手で外しながら、コードのないマウスに手をやる。


 画面をスクロールさせ、ぎっしりと自己紹介が書いてある必死なコメや、「暇ー。誰か相手してー」よくある他人任せな言葉をスル―していく。

「はぁ。今日はまるで惹かれるコメがない。」

 足を交互に擦り合わせながらコーヒーをすする。ガタガタと窓が揺れた。外は凄い風が吹いているんだろう。そのうちに雷まで鳴りだし豪雨となった。この町ではよくあること。

 真っ暗闇の中閃光が光り、一瞬それは私の影を作る。それが終わるとまたPCの明かりだけがぼおっと部屋を照らした。 溜息をつきながら最後のコメを見ると、たった一言のシンプルな文章に手を止めた。


「誰かお話ししませんか?」


 たった一行だが多くを主張しない一文。何故だろう、凄くシンプルなのに惹かれた。

冷たくなった缶コーヒーを飲み干し、なれた手つきでキーボードを叩く。

「はじめまして(。・ω・)ノ゛ 突然だけど話さない?」Enter

 ありきたりな茶番は省き、とりあえず顔文字を付けて送信。じっと画面を見つめ人差し指でリズムを刻む。するとマヌケな音と共に直ぐに返信が来た。

「いいよ(^-^*)」


ヘッドセットのプラグを差し込み、スカイプの電話マークを押すと、なんとも言えないあの着信音が流れる。

「・・・もしもし? 初めまして」私から声をかける

「はじめまして」ダルそうな声が聞こえた。

先ほど飲み干した空き缶は灰皿へとリサイクルされる為、私の近くに引き寄せられる。

「いきなりごめんね。なんかダルそーな声だね」初対面なのに何故かタメ口を使ってみる。

「そんなことないですよ?」


 背もたれに深く腰を掛け、煙を吐いて画面を見つめる。

 なんだ、けっこう可愛い声出すんじゃん。安心したが、それと同時に無理をしているような、そんな印象も受けた。

「なんかまずかった?」

「ううん。全然。暇してた」

「よかったぁ~。君可愛い声してるね」

「そう?」

 女の子のようなその声は私に安心感を与える。

 笑顔も・・・可愛いのかな? マウスに置かれた人差し指でリズムを刻みながら、名前も顔も知らない人の事を考える。カチカチカチ。

「うんっ。いきなり通話するなんてちょっと怖いよね」

「あはは。そだね。でも良い人そうで良かった」

 そう言われくすっと笑った。良い人かどうかなんてわかんないよ?


 エタノールを含んだコットンを目に押し当て、パンダになったメイクを拭き取りながら一人ほほ笑む。ライトのスイッチをようやくオンにしてみた。

「いくつ?」

「十八」

「18!? 若いんだね・・・」驚いた。四つ下なんだ。

「そう? あなたは二十二歳? プロフィール見ました」

「うん、そーだよ。何処に住んでるの?」タバコを片手にミニスカートを脱ぎ、お喋りに夢中になる。

「東京」

「とーいな」


 「あの。女・・のこ・・・だよね?」

子犬みたいな声が鼓膜に直接振動し、一瞬ドキッとした。

「え? 女だよ? 何それ?」変な質問。思わずにやけた。


「あのね、この間怖い男の人に・・・」

「・・・」

 彼はあまりにも可愛い声なんで、ガチホモによく迫られるのが彼の悩みだと言う。失礼だがこれには笑った。

きっと容姿も可愛いんだろう。私の中ではそんなイメージが定着した。


「ノンケでもかまわないか・・・それは怖いねwww」

「でしょ?」


 可愛い。けらけら笑いながら。ずれたヘッドセットを両手で元の位置に戻した。くるくるとコードを指に巻くと、開放してやる。

「ねぇ、ホラー好き?」早口になる。

「好きだよ」

「じゃあ、お勧めの動画あるんだ」またニヤニヤして画面を見た。

「何々? 観たい」

 タバコを口の端へと追いやり、目を細める。ニコニコ動画のURLをコピペ、Enter


「張った。開いて」

「サムネ怖っwww」

「でしょ?」

「じゃあ、一緒にw」

「おーkー」

「いくよ」

『せーのっ』

  中学生のように同時にせーので動画を再生した。脱いだ型のままのスカートを尻目に、画面に食らい付く。wktk


右から左へと文字が流れていく

うp乙 乙 サムネに釣られてwww 

こっちみんなwwwwwwwwww



「ゲーム実況なんだ?」

「そーなの」ニヤリと得意げに言う。

「けっこう怖いんだよね」

「へー・・・。このプレイヤー漢字間違え過ぎww」

「わっかる。うけるよねーwww」


 パンツのままお菓子を開け、マイクを気にせずに咀嚼する。

「ツッキー何食べてん?」

「んー。$%#んにゃ」

「バリバリうっさいww]

 そんな感じではしゃいで何時間も喋りまくった。


こんなに笑ったのは何年ぶりだろう。幼い頃、確か毎日のように年下の従兄と、一日中ゲームをしては、夜もこっそり布団の中でお菓子とゲームを持ち込んではしゃぎすぎて怒られてた、それと近い感覚に陥る。嬉しくて、楽しくてしかたなかった。

 最近のこと、好きなバンドのこと、好きな動画のこと。まるで友達みたい。

 他の誰かから見たら私達はきっとよく遊ぶ友達と思われるだろう。人見知りな普段からは全く想像出来ない私がそこには居た。腹から声出して笑って、涙を浮かべてまで笑い続けた。なんだよ、こんな楽しいの。うまく言えないけど、ほんと最高。



 私達のお気に入りの動画の配信者は“ミッキー”だから私達のあだ名も直ぐに決まった。


“勇気”はユッキー

“月”はツッキー


 ミッキーはちょっと漢字が弱いけど愛と勇気をくれる配信者だ。ビビりながらホラーゲームを進め、泣きながらも実況を続ける勇敢なる実況プレイヤー。動画が終わるとたくさんの文字がまた右から左へと流れた。

ミッキー乙 乙 おつかれ~ GJ



「ユッキーはよくログインするの?」爪の中のジャンクフードを取り除きながら喋る。

「全然。普段は仕事ばっかで、そんな暇ないよ」

「じゃあどうして、コメなんて書いたの?」なかなかバーベキュー味のそれが取れてくれない。

「珍しく連休なんだ。でも、俺に気づいてくれたのはツッキーだけ」


「そっか」爪から顔を上げて画面を見ると、しょぼんとまた顔を下ろした。


「六連休なのに良いことないんだ」

「ふーん。・・・じゃあ、この休みが終わったら忙しくなるんだね」

 なんだ。こんな楽しい日がずっと続くように思っていたのは私だけか・・・。



「ユッキーあのね。 私、今日彼とデートしたんだ。なんかもう終わりって感じ」

つい口から溢れてしまった自分の言葉にしまったと、はっとした。

楽しい時間にみるみると雨雲がかかっていく。


「・・・。実は俺もなんだ。俺も・・・」

 可愛い声が急に影を作りだす。想定外の反応に私はリアクションの用意を忘れていた。


「ツッキーも辛かったね」

「うん。」

「俺、泣けないんだ、美しい物見ても眩し過ぎてさ」

「うん。」


「はは、情けねえぇな。何か、何しても何も感じねーんだよ」

 うん。分かるよ。


「楽しいことも・・・。俺には楽しむ資格なんかなくて」

「・・・。」


「ずっと眠れないんだ」

「・・・。」あたしもだ。


「・・・仕事をしてる時は平気なんだ、・・・けど帰ってくると、一人になると、やっぱきちーよ」

「うん・・・。」


「寂しいよ」

「うん。寂しい。」


「辛いよ」

「苦しいよ」

「独りぼっちだよ」


「・・・死にたいよ・・・」

・・・。 


 彼の可愛い仮面にどんどんとヒビが入っていく。私は、ぽろぽろと零れ落ちる破片を拾うことも。彼を抱きしめることも出来なかった。

こんな楽しい気分になったのは、酷く久しぶり。そして、こんなにも自分は無力なんだと気づかされた。

 何もかもが面白くない世界で見つけた小さな光。


 唇を噛み、またタバコに火を付けた。しばらく無言の時が続く。

煙が消えて火が浸食してくる。ボトルに手をかけ思いっきり回すと、こびりついた炭酸が浮かんではまた消えてゆく。


 しばらくするとヘッドホンからゲン楽器の色が静かに聞こえ始めた。

「それギター?」すっげー。

「うん。いつも弾きながら話したりするんだ」


「すごい!もっと弾いて?」

「適当に指慣らししてるだけだよ」


 だめっ「弾いて」

「我儘だな。わかったよ」

 笑いながらユッキーはそう言った。吸いかけたタバコの火を消し、静かにヘッドホンに耳をあて待った。君のタイミングを壊さないように、君がいつでも弾き出せるようにと。


「ツッキー何か喋ってよぉ」

 子犬みたいな声。


「えー。待ってるの」はっ☆やっ☆く。

「・・・。わかったよ」

 私は再びヘッドホンに手を当てて“待ち”に入った。自然と口角も上がる。するとしばらくして、聞きなれないメロディが流れた。

 柔らかい音だ、良い音。普段はハードロックやメタルばかりを聴く私には新鮮だった。

温かい音色にうっとりとする。すごく上手。そうやって聞き惚れていた次の瞬間、

息をすーっと吸う音が聞こえた。


“え?”


 柔らかな音が私の鼓膜を、心臓を震わせた。

 さっきまで子犬みたいに話していた声が、美しい歌へと変わる。君の声が優しく私を包んでいくのが分かる。それはこれまで味わったことのない不思議な感覚だった。優しくて、少し悲しげで、けれどしっかりとしている君の振動が遠い国から私の耳だけに届く。そしてそれが次々メロディへと変わっていった。再び目を閉じベッドに倒れ込んだ。囁き話しをしているような、泣いてるようなそんな声だった。

 私は君だけを感じることに集中した。切な過ぎて苦しくて。終わらないで。そう願った。


“まさか、歌ってくれるなんて思わなかったんだ”


 息が聞こえてしまわないだろうか? 震える指でマイクをそっと口から離し、ギュッとヘッドホンを押し当てる。ヘッドホン越しだから、声を押し殺して歌う声が尚悲しくて、優しくて、愛しかった。今思えば、君のほうが最初に私を抱きしめてくれたんだね。

「辛かったね。寂しかったね。僕も一緒だよ。」って

 そんな風に歌ってる気がした。



 一曲が終わり、私はしばらく声を出すことを忘れていた、はっと我に返り夢中で手を叩く。

嬉しくて、嬉しくて。ありがとうを伝えたくて。

貴方は美しい。

「ありがとうユッキー。初めてだよ。私だけのライブ!」

 SA☆I☆KO☆U


 私が手を叩くとユッキーもふっと笑った。隣に居るみたいだね・・・。

「あはは。ありがと、俺もだよ。ヘッドホン越しなんて初めて」


「まさか歌ってくれるなんて思わなかった!」めっちゃ興奮したぁ!

「俺も歌うつもりなんてなかったんだけどさ、ギターだけだと寂しいかなって。ツッキーに届くように心込めて歌った」


“ユッキー。届いたよ、しっかり。”


あれからこの曲が好きになって、このバンドが好きになって、

7年が経った今もiPhoneにお気に入りの曲として入れてるんだ。辛いときに聞いて、元気出して、で、また君を思い出すよ。


「ユッキー会いたいよ」

「ツッキー会いたい」


「好きだよ」

「うん。好きだよ」


 また二人して笑った。恋じゃなくて、友情じゃなくて。あ・・・い? よくわかんないんだ。けど君が好き。そして君も私が好きなのがわかるよ。こんな自然に「好き」という言葉を言い合えるなんて自分でも驚いた。こういう時にこの言葉はあるんだね。こんなにも人とたくさんおしゃべりして、疑うことなく深い話しをして。心を開いたのは生まれて初めての経験だった。


 結局朝日が昇ってからのお開きになった。初携帯メールを送る。

[やっほ(^O^)♪初めまして谷塚月です★]

しばらくして受信ボックスにメールが届く。

[アドレス教えてくれると思わなかったから感激です! 初めまして。西形勇気です]

夢じゃなかった。にんまりと笑顔になった。

[あたし久々に男同士の友情思いだしたよww なんか今日ふっきれた。ありがとう。なんかバカバカしくなった。別にあんな奴に依存する必要なくね? って。写真立てとか、誕生日プレゼントの包み飾るとか、待ち受け彼にしてるあたしって重症。ばっかみたい]


[ホント、重症だよなw でも俺も、月のおかげで元彼のこと少しふっ切れた]

[ちょっと! 誤字脱字! ちょっとちょっとちょっと!www 

わかるよ。なんかどーでもよくなった。ユッキーと出会って、今まで馬鹿みたいに悩んでたこと、全部どーでも良いじゃん。って。二人でミッキー見て笑ってりゃ良いじゃんって(^O^)/]


[突っ込む元気ありゃ全然おーkーだわww ツッキーありがと。ちょっと前まで落ち込んでた自分がアホらしいわ。ツッキー大好き]


[あたしも大好き]


[なんか久しぶりだ、人を好きになったの。月姉の存在に感謝!]


 君に出逢わなかったら私はずっと今のままだった。先のない物にしがみ付いて、何が本物なのかを知らずにまだ生きていた。愛が何なのかまだ知らなかったよ。私達は飼い主を探してる子犬同士でガラス越しに鼻をつけて仲間だってこと確かめたんだ。




 だけどやっぱり魔法は直ぐに解けてしまう。パソコンを閉じるとまた一人。結局隣には誰も居ないとこを思い知らされる。再び寂しさが私を襲った。


ユッキーは遠いね・・・・。

目を閉じるとそのまま私は夕方まで寝りに付いた。

 

 水道水が沸点に達し。コトコトと鍋が揺れる。煙がプロペラに吸い込まれて行くさまをぼおっと眺めた。

[今日タラコとか糸コンとか煮るw あとポテト揚げる]

夕食の支度をしながら携帯をいじる。


[タラコも糸コンもポテトも大好きなんで、もう俺の嫁になれよ。 やっぱ料理出来ないと駄目だよなー]

 にやりとし、タバコをくわえながら安いワインの栓を開ける。着信が鳴る度急いでボタンをプッシュする。私のメールの打つスピードはまるで高校生並み。


[うん。結婚しよう。それいいな。 うん、料理はね、生きてけないしな]冗談なのに凄くドキドキしながらメールを打つ。このドキドキは君には届かないんだよね……。


[ツッキー可愛いー。惚れるの分るわ。そうそう。大事だぜ]

 やっぱ、ダメだよね・・・・。あっさりスル―。少しはドキドキしながら打ったのに。


[ふんっ。そんな可愛い事言ってないもん。ユッキーは十八なんだよな、あー、あたしがしっかりしなきゃねぇ]

 膨れっ面でメールを打つ。

[甘えた声が聞きたい。歳なんか関係ないよ。ツッキーは十分しっかりしてるしさ。少なくても俺はそう思ってるから]


 遠いよ・・・。会いたい。


[そんなことはないよね。同じく甘えた声が聞きたい。同じもの欲しがって、ダメだねぇ。同じ道を行く仲間って感じだ]

[俺達は仲間だ♪イェイ]


 順調に支度をし、またワインに手を伸ばす。そう、私達は仲間、そんだけ。

[すでに酔っぱらってきた、まずい酒に・・。独身女の休みなんてこんなもんだよ。さみしーねー]


[お酒飲んでるんだ! 俺も美味しい酒が飲みたい。寂しいけど、俺と大差ないわww]

[ちょ、未成年]

 忘れていた鍋の噴きこぼれる音に驚き火を弱めた。ふーっと胸を撫で下ろし、机に置いてある携帯をじっと見つめた。急にそれを取り上げると思った言葉を一気に並べた。

[あたし、彼と別れる。うん。別れるね。あたし]送信。


 あっちへ行ってみたり、こっちへ着たり。蓋を開けては閉めてみて。ユッキーからの返信がなんだか凄く長く感じた。早く来て。机につっぷし携帯を見つめる。すると七色の光と共に着信が鳴りだす。ビクッとし、直ぐに画面を開いた。

[ツッキーにキスしてあげたい。気持ちを込めて通じると良いな]

 画面を見てほほ笑むとまた夕食の準備を再開した。しばらくし、良い匂いが漂う。これで完成。そっと皿を置くと私は携帯を取り、彼にメールを送った。君のおかげでようやく決意が出来た。失うものは何もないんだ。


[やっぱり別れます。さよーならっ。あれ、読んだら返して★ 疲れ様です]

 一方的に送りつけ携帯をしまった。さよなら。もうおまま事に付き合う必要、ないよ。

 やっと言えた。なんだか凄く肩の力が抜けていく。そのまま椅子にストンと座るとまたタバコに火を付けた。

 しばらくして外が騒がしくなる、皆が帰って来たんだ。急にキッチンがにぎやかになる。

「どう? 美味しい?」

 頬杖を付いて妹を眺める。

「うん」

 私の料理は最高なんだから。君にも食べさせたいよ・・・。

「ねーちゃんおかわり」

「あはは、たくさんあるからね」





 ご飯が終わるとまた私は部屋に閉じこもった。ふとPCを見るとメッセージが来てる。ユッキー? 急いで開くと、彼と付き合うずっと前から通話をしていた顔の知らない友人からのメッセージだった。なんだ、サトか……。

 [よお、最近どう?]

 [昨日可愛い子犬に出会った。]


 [そんで昨日俺の相手してくんなかった訳?]

 [まぁね]


 [今日は相手してくれんの?]

 [おk]


 直ぐにお気楽な着信が鳴った。プラグを刺してヘッドセットを装着。

「よっ」

「おう」


「寂しい」やっぱ一人だ。

 ノートパソコンを持ち上げてベッドへ向かう。


「良い人と出会ったんだろ?」

「うん」けど遠い。


 PCをベッドへ着地させると自分も一緒に寝転んだ。

「俺んとこ来いよ」

「遠い」行けるわけ無い。


「来りゃあ良いのに」

「彼と別れた」

 横を向いてつまんない顔をして口を動かす。


「やっと別れたのか」

「寂しい」


「そうだな」

「誰も居ない」


「俺が居る」

「ありがとう」……。


「これって恋なのかな? 友達みたいなんだよ。けど自然に好きって言えるの」

「分んねーな」


「彼に会いたい」ユッキーに、会いたい。けど……。

「会いに行けば良いじゃん」


「行けない……でも一人嫌……」

「来いよ」


「何でそんなこと言うの?」

「好きだから」


「私は好きじゃない、好きだけど、好きじゃない」

「分ってるよ」


「あんたの気持知ってて利用してるんだよ!」ベッドから起き上がりシーツを握った。


「あはは。ばーか。 利用されてるなんて思ったこと一度もないよ。そう言ってもお前が苦しむことくらい知ってるけどな」

「どうして何でも分っちゃうの?」どうして誰も分らないこと、彼にも分らないこと、あっさりと見抜くの?


「お前と何十時間喋ったと思ってんだよ。何だって分るさ」

「どうして? 何で彼と付き合ってた時も毎日ログインして待ってたの? 普段しないくせに、何で何カ月も私なんかを待つのよっ!」


「戻って来ること知ってるから、お前には帰る場所、必要だろ?」

 どうしてそんなこと言うの?

 ユッキーから聞きたいよ、その言葉。


「ねぇ……。会いに行ったらどうする?」行かないけどさ……。

「そうだな……。とりあえず抱きしめる」


「それで?」

「寝る場所を確保する」


 別に「いいよ、一緒で」どうせ行かないんだからさ。

「そうか」


「仕事、辞めたい」あんなとこ行きたくない。

「辞めりゃあ良い、お前一人くらいどうにかなる」


「馬鹿言わないでよ……」居ないくせに。今此処に……。

「馬鹿じゃねぇよ。ホントだよ」


 ユッキーが良いの。ユッキーに会いたいの。苦しい。苦しい。でも逃げたい。こんなとこもう嫌。


 体を小さく丸めぎゅっと目をつぶった。

「……限界だよ、サト」

「だから来いって言ってんだろ、俺は何処にも逃げねぇよ」


「私最低な女だね」ゴメン……。

「最低じゃねぇよ」


「……サトの故郷見て見たい」

「俺の実家めっちゃでかいんだぜ」


「ねぇサトの話聞きたい」

「俺の?」


「うん。何でも良い。小さい頃の話とか。話して」ほしい……。


 それから何十時間くらいだろうか。サトの昔話を聞いて、次に私の昔話をして、何度も喋った内容なのに彼は黙って聞いてくれた。



「昨日ごめん。現実逃避してたんだ。サトと話したくなかった。苦しくなるから。デートでね、空気やってみた。やっぱあたし空気にはなれなかった。もっと一緒に居たかった。「帰りたくない」って言えなかった。心の穴埋める為にその子と喋った、サトじゃなくて。もう苦しいの嫌だった。その子に“キスしてあげたい。気持ちを込めて通じると良いな”って言われた、それだけで通じた。それが欲しい物だった。sexしたいわけじゃない。でも隣に誰も居ない」



 どんな時でもサトだけは直ぐに反応してくれる。

一日中“辛い” 寂しい”そんなことばかり言ってても通話を切らないでただ聞いてくれた。寂しい時にはサトに連絡して、彼に会えない日も、ユッキーと連絡がつかない日も、一人の時も、ずーーっと音信不通でも、サトだけはいつもそこに居た。何度ありがとうを言っても言い足りない。いけないと分っていながらも、どうしてもサトを頼ってしまう弱い自分が情けなかった。無償の優しさが怖い。だって何も返せない。ごめんね。本当にごめんね。


 知らぬ間に一日が終わり朝が来た。昨日は何て馬鹿な話をしてたのだろう。今日こそ仕事に行かなければ。


外に出ると昼なのに真っ暗闇の空が怖い。足がすくんでその場から動けない。携帯を取り出し・・・サトに電話をかけた。




「サト。行っても良い?」足が、手が震える。

「どうしたんだよ急に」


「今直ぐ行っても良い?」動け、ないよ・・・。

「今?」


「ダメなの?」う、そ・・・。

「・・・」


「嘘つき!」

 怖さのあまり返事も聞かずに通話を切った。ほら一人ぼっち。やっぱり一人。大っ嫌い。人間なんて大嫌い。サトも、彼も、ユッキーだって大嫌い。誰一人私の側に居ないの!

 誰も抱きしめてくれない!


 着信の鳴らない携帯を握りしめ私は一人小さくなった。









【Magic Time】


その晩ようやくユッキーからのメールが来た。

[ツッキー大丈夫?]

[別れた……。別れようって言ったら“分った”だって]


[意外とあっさりやったな。大丈夫?]

[朝が来て、『あ~また朝だぁ』って気付く。魔法は終わったの。シンデレラは靴を割って落としちゃいましたとさ、おしまい。また独りだよ。ずっと見て欲しくて、欲しくて待ってたんだ。やっと欲しい物わかった。ユッキーに感謝してる。けどやっぱ一人だった。身も心も抱きしめて欲しい。嘘に付き合ってくんないかな? ちゃんとわかってるから付き合ってくんないな?]


 人間はどうしてこんなにも脆いのだろう。何も成長していない。結局は抱きしめてくれるのなら誰でも良いのだ。自分が嫌い。大嫌い。ねぇ。お願い。今すぐに私をここから連れ出して。抱きしめてよ。

[世界は広い筈なのにね。今見えてる此処は何故か狭いの。一人はやっぱり辛いんだ。でも一人だからこそ見えるもんもあって。

……なんか頭の中ごちゃごちゃしてる]

 ユッ、キー……。

[うん。わかるよ。あたし馬鹿なこと考えてさ、今日ここから飛び出そうって。ここから。どれも捨てれなかった。なんも。出来ないんだって 思い知らされただけだった。変えたいんだよ。今を未来を、私を]

[難しいよなー。うん、本当に難しい。俺達には出来るだけの力が備わってる筈なのに。やっぱり甘えてるだけなんかな]

 勇気は違う。私とは違う。勇気は甘えてなんかない。


私が慰められてるはずなのに、いつもそう。今にも破裂しそうな爆弾をすっかり忘れて、君の事で頭いっぱいになるんだ。してあげたい。守りたい。伝えたい。会いたい。

・・・だけど届かない。


[ユッキー、ちょと待ってて。良い物あげる]

[え? 何]

君を抱きしめることの出来ない私は筆を取り、一枚の絵を描た。唯一君の容姿を知ることのできる画像を真似て。

 君はこんな顔?  それとも・・こう? 

やつれた顔の男の子が小さな画面の中で笑っている。


「貴方は生きています」

この言葉を添えて描いた絵を送った。


[すっごくイケメンに描いてくれたなー。思わず笑ったわ。ありがとう。一生大事にする。ツッキー本当に大好き。ちゃんと生きてるね、俺達]

[歌のお礼]


[感動したよ。最高のプレゼントやわ!]

[やったねん♪ ってことで、また歌ってね❤]


[調子乗んなー。あんな声で良ければ、いくらでも歌うよコノヤロー!]

[大好き]


 見たことのない君の笑った顔が浮かんだ。私も笑顔になった。私達はこんなやり取りを毎日続けた。動画を見ては笑って、可笑しい友達の話しで笑い合って。また寂しさを増しては傷を舐め合って。そしてまた私だけのライブをしてくれた。 

「今日は何処まで見る?」

「そうだな。四話くらい見ようか?」


「そんなに? 二時間ドラマなみだね」

「あはは。よしっ。いっせーのーでっ」

再生

『ぽちっとな』


 ずっとずっと前からの親友みたい。私の半分は貴方で出来ていて、貴方の半分は私なの。やっと見つけた私の半分。

「月。もう遅いから寝よう」

「・・・嫌」


「明日仕事だろ?」

「嫌。今日が終わったらもう・・・」もう・・・・。


「ばか。ちゃんと寝ろ」


やっぱり楽しい時間は直ぐに過ぎ去って、君との六日間はあっという間に終わりを迎えた。PCを落とすとまた現実世界に舞い戻る。息を吸って、空気が肺に溜まり。ドアノブを握って冷たいと感じる。そんなのいらない。“リアルなんて私大嫌い”


[おはよう短い間だったけどいつも朝までありがとう。とても必要な時に出会えて良かった。ホントとても逢いたくなりました。こーゆーの近くであったら良かったな。いっつも一緒にカラオケ行って、二丁目行って、疲れて寝て、起きて『あっ!仕事じゃん』うちら大人だったー! ってネバーランドから戻るの]

[もう会えないみたいな言い方すんなよなっ!]

 溢れだす思いを止めることが出来ない。けれど届くはずもない。


[ユッキー、今すぐ会いたい……]

[ばか、会いたくなるだろー。これでも気持ち抑えてるんだからな! それに二丁目はいかん!] 


[いつでも行ける。いつでも]

[本当に愛しそうやわ。素直に嬉しい]


[ごめんね。会えなくて]

[謝らないでよ! ツッキーありがとう!]


 本当にあれは奇跡みたいな六日間だった。もうあれ以来勇気とは通話をしていない。毎日何の手当てもない長時間のサービス残業、週に一度だけの休み。同級生が“時間潰し”の大学に行っている中勇気は一人黙々と仕事をしているのだろう。隠してるけど、喋っただけで分るよ。君は凄く頭の良い子だって。世の中ってさ、不公平だよな。残酷だけど、でも生きなくちゃなんない。全部なんて順調に行かない、良いことも、悪いことも、平凡でつまんないことだって、そんなもんなんだって生きるって、運のないやつは何時まで経ったって此処に居るだけ。小説みたいに上手くなんかいかない、映画みたいにスカっとなんかしないんだよ。グダグダで答えなんかないんだ。答えがないから生きるんだね。


 たまたまの休み、たまたまの書き込み、たまたまの出逢い。

 君に出逢って私はまた生きる意味を思い出し始めた。


「熱、大丈夫だった?」

「もう仕事して平気?」


「良かった。治って」

 久しぶりに仕事をしている私。なんだか皆が優しく見えた。

 ただ、ちょっと玄関を開けられないだけなのに、こんなにも皆が優しい。皆……ごめんなさいもう休まないから。

 何だか今日は楽しかった。来て良かった。ひと段落して休憩の間に携帯を見ると着信がある、ユッキーからだ、喜んで携帯を開けるとイルミネーションの船の写メだった。

「すごく綺麗」

 [そっちまで連れってってくれんかなーって思いました]

メールを下までおくるとそう書いてあった。


[会いたいね]

[会いたいね。本当に会いたい]

 きっと絵のお礼なんだろうな。パタリ画面を閉め握りしめた。なんだか少し強くなれた気がした。


 仕事が終わりまた薄暗いエレベーターで上がり玄関を開ける。ポケットを探るがなかなか鍵が見つからない。あーもーいーや。“ピン ポーン”

 ・・・。

 返事が無い。苛々してもう一度チャイムを鳴らす。“ピンポーン”

やっぱり返事はない。鞄を地面に叩きつけるように置き、中を探る。あった。凍える手で鍵穴に突っ込もうとするが、寒さで手が振るえなかなか嵌らない。ようやく穴を見つけて急いで回す。

「ただいま」

「・・・」

 しんと静まりかえった部屋に自分だけの声が響いた。そうか、今日は誰も居ないのか……。真っ暗な部屋の電気を付けると荒れ放題の部屋を照らす。夕食も食べずにワインのボトルに口を付けゲームの電源を入れた。画面の中の女の子が可愛く笑う。私もこんな風になりたいな……。でもあんたは画面から出れないんだね。なんだか一瞬キャラクターが悲しげな表情をした気がした。電源を落とし仰向けに倒れ込んだ。

「あーあ。やることないや」

 ユッキーと話したいな・・・。でも、もうユッキーからの着信はない。

 サトを利用するのはもう嫌だ。中毒のようにまたネットの中でフラフラと人を探してはさ迷う。

 

 ユッキーと知り合ってから、年下の男の子への見方が変わった。

「はじめまして」

「はじめまして」


「凄い良い声。声優とか?」

「あはは、ありがとう。でも違うよ」


「そうなんだ、何か、ほら、執事みたい。紅茶が飲みたくなる」

「買いかぶりすぎ」


「そんなんじゃないよ。ほんとに良い声」

 ユッキーが一緒に馬鹿やってはしゃぐ友達だったら、光さんは落ち着く話し相手。いっこ下だけどお兄さんみたい。こんなお兄さんが居たら良いな。ゆっくりとして穏やかな時間が流れる。まるでカフェでおしゃべりしてるみたい。


「ねえ、光さんは好きな人居る?」

「居るよ」


「そっか。上手くいくと良いな」

「月もね。月にはきっと良い人現れるよ」


「そうかな?」

「うん。大丈夫。月には幸せになって欲しい。俺はその手助けが出来れば良い」


 光さんにそう言ってもらえると嬉しい。温かい気持ちになる。

「ねぇ。光さん。私真っ黒なんだ。黒は白にはなれないよね。もう何が何だかわかんないよ。ユッキーも好きだし、彼もやっぱり好きで……」

「違う。月はクリスタルなんだ、色んな色を出せる。光が当たると凄く綺麗な光を放つんだ。けど光があるから輝ける。今は暗いとこかもしんないけど、光はまた射すから。今流行ってる、あの映画なんかよりも、月のほうがずっと潤愛だ」


「光さん……」

 

 こんな大人びた年下もいるんだ。マイクを置くと、直ぐに私は携帯でメールを送った。


[いきなりアド教えたらあかんやん。でもよろしく。笑]

[何で?]


[不用心だから、だめだろ]

[でも光さんは私を悪いようにするつもりないでしょ?]


[あるわけないよ]

 えへへ。凄く良い人と出会った。人間は信用出来ない、それなのに会う人、会う人皆が優しい。私の顔を知らないのに。皆私を疑わずに喋ってくれる。本当に私は恵まれているんだね。



























【誰もいない】


 あの日から十二日間ユッキーとは通話をしなくなった。また君がログインしてないのを知りながら毎日の習慣になったPCを開く。オタク? キモイ? 知らねー。外で何も考えずに人を傷つける人間と喋るくらいだったらこっちのほうがずっとまし。けして目を見て話すことはないけれど。会うことはないけれど。彼らは私の心を見てくれる。リア充爆発しろ。


 パソコンを起動させると今日はユッキーが居る、珍しい。私もインするとユッキーからのメッセが届いた。

 [急にツッキーの声が聞きたくなったww]

私よりも君はずっと大人びてるのに、たまに見せる幼さがとても悲しげだった。

 [話そっか?]

 [うん]

 発信ボタンを押す。


「あっ、ユッキー? 大丈夫?」

「うん。ごめんね、メールできなくて。心配してたんだ」


「ううん。ありがとう」

「うん」


「ユッキー。なんかあった……よね? 話して欲しいな」

 ユッキーの誰も触れたことのない傷口にそっと触れた気がした。


「……」

「聞かせて」


「俺さ……。やっぱ未練たらたらなの」

「うん」


 何だか今日のユッキーはいつもと違うこと。直ぐに分った。

手を伸ばし透明な液体を喉に流し込む、ヒリヒリと二酸化炭素の泡が喉を通り過ぎた。


「やっぱさ、会えるもんなら会いたいよ」

「元・・・カノに?」

「うん」


「そっか・・・。まだ好きなんだね。私と、一緒なんだ」

「俺、ずっと心から笑えなくてさ、でもツッキーに出会って毎日楽しくてさ、初対面なのになんか懐かしくて。すげー笑ったの久しぶりで。いっつもツッキーに会うの楽しみにして……。でもダメなんだよ。俺は心から笑っちゃいけねーんだよ」


「え?」

「俺、無知でさ、無力でさ、なーんも知らなかったし、何も出来なかった」


「・・・」

「何ひとつ変えられねぇ」

私はユッキーのこと何も知らない。運命なんかと勘違いして舞い上がってた、

“結局は私達他人同士なんだよ”

けれど、だからこそ君を知りたいんだ・・・。君の言葉には重みがある。本当のことだからこそ重いんだ。でも私は受け止めるよ。しっかりと。


「俺、もう持ちたくないよ。・・・。何もかも捨てられればどれだけ楽か・・・。」

「・・・」

 今の私には言葉は見つからなかった。それから彼はずっと閉ざしていた心を私に見せてくれた。ひとつひとつ溶け出すように。私は小さな返事をして頷くばかりだった・・・。


「元カノはさ、酷く男に依存してた。ずーっと、小さいころから父親に虐待されて育ってきてさ。そんでダメな男ばっかにひっかかって、また傷作って帰ってきて。変えたかったんだよ、あいつの人生。俺の全てを捨てても良いって思ってた・・・間違ってること教えて、抱きしめて、離してっていくら抵抗されても離さなかった。でも本当は結構しんどくて。俺が何やってもあいつに届かないんだよ。でも俺が見捨てたらあいつマジで一人になっちまう」

「・・・うん」

「今思うと俺が無理してんの全部気付いてたんだろうな、あいつ・・・。いつの日かすっげー喧嘩した日があってさ、何で喧嘩したとか、何を言ったかなんて忘れたけど、なんか酷いこと言ったんだよ、俺。しばらくして“死にたい”って電話がきて、俺は本気にしなかったの。いつもそんなんばっかだったからさ。またかよって。それから音信不通。自然消滅。あんなずっと一緒だったのに、こんな終わりなの。信じられる? 」

「・・・うん」


「何でもっと優しく出来なかったんだろ・・・」

「うん」


「こんなこと話したのツッキーが初めてだよ」

「そっか」


「なさけねー。ツッキーが居ると弱くなっちゃうな俺。ダメだ」

「・・・」


 ねぇ? な・・・いてるの? 小さくなる君を、私は遠くから見ている事しか出来ない。無力なのは私だ。言葉が見つからない。

「いつも皆俺の前から居なくなるんだ。本当のこと、何も話してくれない“嫌われそうで、離れて行きそうで怖い”んだって。離れて行ってるのはそっちだっつーの。何でわかんねーかな」

 カーテンに手をかけ少しだけ開いてみるが、すりガラスには暗い闇しか見えなかった。


「そうだね・・・」

「俺の願いは届かなくてさ。やっぱ何も変えらんねぇの。また無力さを痛感するだけ」

ユッキー。私達は双子なのかな? ユッキーが悲しいと私も悲しい。ユッキーが辛いと私も苦しいよ。

「私も・・・男に依存しててさ、いつも彼氏が居ないと生きてけなくて。今、初めて彼氏が居ないんだよ。寂しいの。独り・・・怖いんだ。ホントの愛、あたし知らない。誰でも良いんだよ。抱きしめて欲しいだけ。男ってさ、sexの時は私のことだけ見てくれる。だから、ずっとsexしてる。朝も。昼も。夜も。それが終わると急に魔法が解けちゃうんだ」・・・おかしい? そうだよ。

「俺はしない」

「何で? 男なのに」

「必要ないから。ツッキーに、sexがなくても十分なんだってこと教えたい」

Sexをしなくても良いなんて言う男がいるの? 

初めは驚いて疑った。けど、ユッキーは一人真剣だった。

「誰でも良い訳じゃないだろ? ツッキーは一回、一回本気なんだよ。ただそれに答えられるほどの愛の返し方を皆知らなかったんだ」

 すりガラスを窓の半分まで開け放つとスーッと風が吹き込み、冷たい外気を肺に入れた。

「私は・・・。私を見て欲しかっただけ。職場でドライなのも、彼に甘える私も全部私。人形じゃない。彼の選んだドレスを着て、同じ笑顔を作って。そんなの、あたしじゃない・・・」

「うん。全部月だ」

「ユッキー・・・」


「ツッキーはずるいよな、俺には出来ねぇよ。俺達欲しいもんは一緒なのにさ、やり方が全く逆なんだよ。足して割れば調度良いのかもな」

「Sex、してみれば?」


「ははっ。できねえよ。好きな女じゃねーと抱けねぇ」

「じゃあ、あたしとやれば?」


「バーカ」

 冗談ですよ。


「・・・俺でホントに良いのかって思うんだ、俺なんかで汚したくねーんだよ」


「でも・・。ホントは」


「本当は怖いんだ。俺・・・」

・・・ユッキー。


「ずっと誰にも言えなくてさ。だいたいそんなの言える状況じゃなかったんだよ。辛い事が有りすぎてさ。でも唯一まだ赤ん坊だった妹だけが救いだった、なんも知らないで笑ってんの。俺が強くなんねーとって。それから毎日筋トレしたり、知り合いに格闘習ったり。筋肉が付きにくい体質で苦労したよ。中学んときの奴らが俺を見たらまず気付かないだろうな。ちびで、白くて、ガリガリだった俺しか知らない奴はたいてい“ホントに勇気?”って聞くからな」

 

 可愛く笑う君はとても大きな荷物を抱えているんだね。そして潰れないように必死に歩いてる。もう持たなくて良いんだよ。泣いても良いんだよ。甘えて良いよ。信じて良いよ・・・。

 私が貴方のお母さんになる。恋人になる。親友になる。だから、お願い信じて。薄っぺらに理解したふりなんてしない。絶対に貴方の前から居なくならない。貴方を裏切ることなんてしないから。・・・そう、言いたかった。


「でも俺も弱くてさ、知らない間に親に心配かけてたんだな。カウンセラーが何人も家に来て・・・大っ嫌いだったよ。“お前の物差しなんかで計りきれねぇだろ?” って、型に嵌んねーことだってあんだよって。分かったふりしてんじゃねーよって。来る度に追い返してた」

「あまのじゃく」

 そう言って五分の一になった炭酸のボトルに直接口を付け一気に飲み干し、タバコをくわえた。


「ホントだよな。あん時が一番辛かったな、でもギター弾いてる時だけは少し忘れることが出来た」

「そんでギター上手なんだ」


「まぁね」

 私はふーっとタバコの煙を吐いた。


「何本目だよ」

「うーん。わかんない」


「吸いたくなんだろ?」

「えへへ」


「・・・やめろよ、ガキ、産めなくなんだろ?」

「じゃあ止める★」

 誰にどんなに止めろと言われても止めれなかったタバコを、この時の君の一言で“ほんとうに”最後の一本にした。君は不思議な力を持っている。


「ツッキーが最初にコンタクトしてきたとき、俺実は二回目の自殺図ろうとしてたの」

「え?!」


「形式的な挨拶とか一切抜きでさ、ツッキー行き成り話しかけてきたじゃん?」

「あぁー。そうだね。やっぱあれまずかったんだ?」


「ううん。逆。ほんと感謝してる。あん時さ、何もなくてほんと、生きるのもう疲れちゃっててさ、絶望しかなかった。俺、ツッキーに救われたんだ。一回目は中学んときで、大量の睡眠薬飲んで救急車に運ばれてそんでも生きててさ、俺って不死身なんだな。あはは。」

「笑い事かよっ!」


「笑えねーよ、そん時はさ。んで、今回は一気に肘から腕切って水に沈めようかなーって」

「おい」


「でもマジでやろうとしてたんだぜ? もう持てねーって。まーっ暗だった。そしたらユッキーが馬鹿みたいな声で話してくんだもん。馬鹿らしくなちゃった」

「ばかって。一言多い!」


「ははは。ありがとな」

「間抜けな声で?」


「素直じゃねーのっ」

「お互いなっ」


「ぜってー切んなよ?」

「切るわけない」


「ホントかよー」

 くすくす私達は笑い合った。


 ねぇ、貴方を今すぐ抱きしめたいよ。空の手を握り締め一人胸を抱いてみたが何も変わらなかった。


 神に文句言ってる暇あったら、変わってみろよ。勇気みたいにさ。

 あたし、本当出してみろよ。




「ユッキーはホントに強い、私だったらもうとっくに折れてる。ホント、偉いよ、よく我慢したよ」

「俺だって、強いだけじゃない。あんときネットで知り合った人によく会ってた。その人達も一人一人悩み抱えててさ、出会っては頭撫でて間違ってることは教えて。そーすると何故か本気になられて、そんで俺じゃないだろ? すじ通―ってねーだろ? 前見ろって、自分でしたことは最後までケツ持てって、自分の足で立てって。結局このパターン。自分で面倒なことに頭突っ込んじまう」

「うん」


「皆俺ばっかに頼って、流されやがって、貫くことしねぇ・・・」

「・・・」

 何かが違う。そう感じた。


「高校でもさ、何か面倒な事が起こるとすぐ俺に頼ってきやがって、俺が断れないこと知ってんだよな。あはは。結局解決してやって。そーすっと何かと目立つだろ? 女が勘違いすんだ。だからまたチゲーだろ? って、前見れるようになるまでは面倒見るけどその後はお前で歩けって」



 すりガラスとカーテンを閉め、再び暗闇戻す。


「・・・」

「勇気はそんなんばっかりだ・・・。女に迫られては叱って。好きな女も自分で立たせるまでして送り出して・・・、俺じゃないって、もっとふさわしい奴が居るって」

おかしいって、何でだよ・・。誰が決めんだよ。何であんたが決めんだよ・・。

決めんのは相手だろ? 相手があんたが良いって言ってんのに・・・。何でだよ。何でもかんでも拾ってさ・・・。ユッキーが、壊れちゃう・・・。

 小さな涙を浮かべて画面を睨んだ。


「それが俺の使命なんだよ。要はそれしか出来ねぇんだよ。拾ってなんかいねーし、愛しいと思うから、好きだからそうしたんだよ」

「彼女も? 何で行かなかったの?」


「死にたいって言ってるうちは人間死なねーんだよ」

「だから行かなかった。そんなのおかしいよ」


「一人にして欲しいって、絶対探さないでくれって」

「ばっかじゃないの! そんなの来て欲しくて欲しくてたまんない人間の言葉なのに!」


 どうして拾うの。飼えないの分かってて。

何で拾うの? 。ツグナイ? ばっかじゃないの?


「ばか! ばか! ばか!」

「何だよ」

「もういい」

 私は一人熱くなってた、何でか自分でもよくわかんない。ただただ“違う”漠然とそう思った。勇気は間違ってる。と・・・。


”薄っぺらに理解したふりなんかしない”


 私はそれから毎日noteに思いを書き出した。伝えないといけない。そんな使命感に溢れていた。今度は私が貴方を抱きしめる番。




【ノート】


今のユッキー

・もうどうでもいい=死にたい

・空、抜け殻

・償いたい=一生負目を感じてる=一生縛られたまま、背負ったまま

・捨て猫1匹1匹を拾ってしまう→人のことばかり=自分をちっとも大事にしてない

間違いに気付かせる

・おかしい、隣にだれも居ない

「すじ通ったこと、貫く、償う」

違うただのカッコつけだ!


何でお前が他人にそこまでしなきゃなんねーんだ?

その人に必要なのはお前じゃねーんだよ。1人立ちできるようになるまで責任持って面倒見る? それは綺麗ごとだよ。

→今。隣にいなきゃ意味がないんだよ。また路地裏に捨ててんだよ。

今度は温ったかさを知ってさ。

1人は1人しか救えない。スーパーマンじゃないんだ。


「抱きしめて。離さない」・・・離してんだよ。

半端なんだよ。勇気が一番ケツ持つ意味わかってねーよ。

「嫌い、要らない」何度言われようとずっと離さないんだよ。

そして今。その人の隣に居ないといけない。


私のすべきこと=愛を注ぐこと

一生、嫌われても、要らないと言われても、愛し続けること。

何度ケンカしたって、何年会わなかろうが、心にいつも居る。私の心に。貴方の心に。

嘘は付かない。いつでも全力で向き合うから、覚悟しとけよ!


ユッキーの中の愛=けつ持つ。1人で立たせる

大人にさせる。成長させること。それが俺の役目

それは愛ではない


愛とは

思っていなくてもその人が心に居ること。

側に居なくても一緒に居ること。たとえ相手に嫌いと言われても愛すること。

一生、相手が死んでも、自分が死んでも。




ユッキーがして欲しいこと(きっと)

・見て欲しい

・安心して生きたい

・揺るぎない愛が欲しい

・荷物を置きたい

・満たされたい

・側に居て欲しい。ずっとずっと・・・愛する人に


私がユッキーにすること

・しっかり見ること、決めつけず。もっとよく聞いて。

・揺るぎない永遠を教える。与える。

・勇気は白いこと教える。

・まだ逃げる時じゃない。

・愛とは何なのか教える。

・自分自身で雁字搦めにした鎖を私が外してあげる。

・まず自分が変わる。勇気にはこんなにも人を変えれる力があるって、あんたは特別だって。

一生愛してやる。恋人としてでなく、友達としてでなく、

谷塚月として、西形勇気を愛するよ。形なんてくだらねーって、

嫌われても、いらねーって言われても愛する!



これから楽しいことばっかなんだよ  

勇気は幸せになる権利あるんだよ・・・。


ペンを置いて、すーっと息を吸った。目を閉じてベッドに倒れこむ。いつか私達が出逢う日が来たらこれを渡そう・・・。

一枚しかない君の写メをまた見つめる。何度これを開いただろう。

あの六日間が過ぎ、私達は嘘のように喋らなくなった。朝まで笑って、泣いて、愛を確かめ合って。君の歌を聞いた日々を思い出す。

ユッキーの仕事は平日の朝早くから。私の仕事は休日が一番忙しく、午後から。生活リズムも。場所も。年齢も全く違う私達。


けれど心は一番近いよね?

私達を逢わせてくれてありがとう。神様。


どうか君が幸せになれますように・・・。


君に出会った日から私は少しづつ変わって行った。特にそうしたわけではなく、自然と変わって行った。まず、仕事に毎日行くようになった。そして仕事が楽しくて楽しくて仕方がなくなった。洋楽ばかりでなく、君が歌ってくれた歌をよく聞くようになった。そして、歌詞の意味を考えるようになった。



綺麗になる努力をし始めた。メイクの勉強をするようになった。料理を毎日するようになった。

リアルな人と少ししゃべるようになった。 

そしたら人が優しくなった。少しだけ自分に自信がついた。


そして君を毎日思うようになった。



[ありがとうユッキー。私良い女になる、失望させない。ネットで知り合った女の子が想像以上に可愛かったら、人生良いことありそうな気しない? 笑]

[そこっ! 自重しろ。笑 でもツッキーの声聞くと元気が出るんだ。ホンマに出逢いに感謝やわ。昨日は助かりました。出会えて本当に良かった]


[いつでも呼んで、泣きたいときは泣けば良いし、苦しい時は苦しいって言えば良い。本当苦しい時は我慢すんな。一人くらい甘えれる場所作っとけば良い。それがあたしだから]


以前の私からしたら。私は凄く強くなった。まだまだ寂しいけど。ちょっとづつだけど確実に変わってる。ダイエットだって楽しいと感じる。綺麗になった私を勇気に見せたい。だから頑張れる。仕事だって皆に感謝してる。だから恩返ししたいんだ。もう部屋に灰皿もない。

すると突然着信が鳴り出し、慌てて画面を開いた。


「はい・・・」

「月?」


「・・・光さん?」

「元気?」



「うん。元気。あたし、子犬ちゃんのこと毎日考えて一晩中ノートに書きまくった。少しは整理出来たし、答えが出て来そう。もっと考える。彼に私が出来ること」

「月は子犬に恩感じてるからね。多少の無理はするだろうね。だからきっと無理しすぎちゃう」


「無理が何処までなのかわかんないや」

「俺はそれを止められたら良いんだけど・・・」


「死なせない。どんなことしてでも」

 何処か遠くをしっかりと見つめる。強い気持ちだけが私の見方になる。


「月の気持ちを伝えたら大丈夫さ」

「うん」


「全部終わったら、月に良い人が現れれば良いのにな」

「えへへ。光さんありがとう」

でも、ユッキーじゃないんだよね?


「元気だせ、そこは余計なお世話だーって言うとこやろ? 今は大変やからあれだけどさ、やっぱり笑ってて欲しいからさ」

「うん。私は笑ってる。ありがとう」


「それなら良かった。また寂しくなったり悩んだらいつでも呼んで」

「はい」


「俺は木でさ、月が疲れた時、寄りかかってくれれば良い。そしたら少し雨とかしのげて、また止んだら月は歩いていくんだ」

「なんだか悲しい」


「良いんだよ。俺は皆が笑顔になってくれたらそれだけで嬉しいから」

「うん」

光さんありがと。とっても温かいよ。私。


















【別れ】


メールで別れを切り出してから今日まで一度も貴方と連絡をとらなかった。貴方もそうしたように。楽しいだけの関係はお終い。

「ごめんね、わざわざ来てくれてありがとう」

「あぁ。これ、返すな」

小さな小説を、貸した時と同じラッピングで渡される。

「うん」

これで貴方と会う口実もなくなった。毎回待ち合わせになってるこのコンビ二も、もう貴方の車が止まることもない。

「じゃあ、ね。元気で」

車のドアを開けて出ようとするとぎゅっと腕を掴まれた。

「・・・」

振り向いて優しく笑顔を作ってみる。もう決心が揺らぐことはない。自信があった。

「何?」

「ん・・・」

「わかった。もう少し」

なんだか不思議。あんなにもしがみ付いていた物を手放すというのに、こんなにも落ち着いている。ユッキー、光さん。ありがとう。

それから私達は他愛もない話をし、ぎくしゃくしながらも笑い合った。やっぱり貴方と居ると笑顔になるね。もうこれも最後、本当に楽しかったんだ貴方との日々は。だからやっぱり切ない。でもお互いに必要なのは違ったんだ。やっと認めることが出来た。

「ねぇ、もしも貴方の友達が死にたいって言ったらどうする?」

貴方はしばらく考えてから口を開いた。

「何も言わない」

「え? 何それ」 

 ちょっと予想外の返事に思わず口角を上げた。

「死にたいやつに、死ぬなって言って。あの時死んでれば良かったって言われても。死ねって言ってそれで死なれても困る。だから何も言わない。無責任じゃない。だからこそ言わない」

「そっか・・・」

そんな考えがあるなんて知らなかった。

「親友いる?」

「いるよ」


「よく会うの?」

「馬鹿、親友なんて会わないもんなんだよ」


「そうだよね」

「会わなくても、連絡取らなくても、お互いを思ってるんだよね」

幼少期からの友達とユッキーを思い、温かい気持ちになる。

「でも、裏切りはあるよ」

ほほ笑む私を尻目に冷たく貴方は言った。この時貴方は、初めて影を見せてくれたんだ。

「無いよ」

「ある」

「ない!」

「本気で人を信じるって決めた時は、同時に裏切られることを覚悟しなくちゃなんない、それから金は築き上げた友情すら簡単に壊す……」

貴方自身の話しを聞いたのはこれが最初で最後だった。

「最後の俺からの教え」

「・・・」

貴方とはホントに楽しいことばかりだった。深い話しも、お互いのことも、未来も、影も、何にもなかった。まるでネバーランドの遊園地みたい。楽しいだけ。だから貴方も楽しいだけの人だと思ってたの。けど、違った。大違い。ちゃんと泣いて、苦しんで、それで今笑ってるんだね。見ていなかったのは私のほう。私ばかり見てって主張して……。私最低だったんだね……。

ずっと泣けなかった瞳から次々と涙が溢れ出した。

「やっぱりおかしいよ」

「え?」


「やっぱり無責任だよ!」

「なんだよいきなり。・・・おい? 泣いてんのか?」


「だって死んだら嫌だ! 何も言わないのは無責任だ!

最初はユッキーが死にたいっていうなら、本当に苦しいなら、

“もう頑張らなくて良いんだよ”って、そう言うつもりだった。けど、違う! 生きてて欲しい。私が、生きてて欲しいって思うから。・・・だから」

私は気付くと涙を流し息を切らしてた。そんな私を真っ直ぐな瞳で見つめる貴方。目を逸らせない・・・。そう思った瞬間私の体が彼の方へとギュッと引き寄せられる。訳が分からないまま私は彼の胸で泣いていた。

「こっち見ろ」

ぼーっとしながらゆっくり下から貴方のほうを見上げると、行き成り口を塞がれる。頭が真っ白だ。何も考えらんない。だから目をつむり、貴方を受け入れた。

「ごめんなさい」

「何を」


「私、自分ばっかりだった。見てないのは私のほうだった」

しがみ付いて貴方を見上げると。ふっ、と貴方は笑った。


「見せなかっただけだ。お前は悪くない」

「私達終わり?」


「お前から言ったんだろ」

「うん」


「良いのか? はっきり言って」

「・・・。うん」


「そうだな、恋人としては終わりだな。けど、友達だったら付き合ってやっても良いぞ」

「あはは。嫌だよそんなの。私はゼロかイチしかないの。だから・・・」


涙、止め方・・・、忘れちゃった。私は俯いて止まることを忘れた涙を流した。そんな私を引き寄せ彼は最後のキスをくれた。抵抗は・・・出来なかった。

「・・・だから・・・。期待させないで、馬鹿猫に餌、与えないで。また貰えるもんだと勘違いすんだよ?」

 付き離して涙の溜まった瞳で貴方を睨んだ。


彼はバツが悪そうに悲しく笑った。


それからのことは正直覚えてない。ただそれ以来彼は私に指一本触れなかった。 “ばーかっ!”そう言って車を降りた。

今度こそホントに一人ぼっちになっちゃった。怖くないって思ってたのに・・・。携帯を握りしめユッキーにメールを送る。遠い遠い国に住む貴方に・・・。けれど、いくら待っても返事は来なかった。

 もう抱きしめてくれる相手は居ないのだ。

すぐにでも切れそうな細いけれど、金色に光る細い糸で私達は繋がっている。

「ユッキー、会いたいよ」

今にも泣き出しそうな空にそう言った。


ねぇ、やっぱり好き。でも側に居ない、触れられなければ意味なんてないんだよ。苦しいよ。ほら、やっぱり電波でしか繋がってないんだ。辛い時、抱きしめて欲しいよ。空なんてなんも見えないよ。


すると鞄から聞き慣れた着信音が鳴りだす。

「光さん?」

「月、大丈夫? ごめんね連絡できなくて」


「ううん。忙しいの知ってるから……」

「どうだったの?」


「うん。キスされたらね。意思とか吹っ飛んだ。最低だねあたし。寂しくてしかたないよ。欲しいもの欲しい。そんだけ。やっぱり彼のこと、好きだよ」

「人は弱いものだから月を責める人は居ないさ。よかったね。これで寂しくなくなったね。子犬も幸せにしてあげてね」


「人の為とか無理、自分が幸せじゃないと人も幸せに出来ない」

 小さくなって行く女性の背中を眺めていると雨が降り出してきた。


「ごめんなんか傷つけること言った気がする。俺が一番最低だ。肝心な時相談に乗れなかったのに傷つけること言って月は自分を最低だなんて思わないで」

「ありがと、でも、ちゃんと振られたから・・・。私やっぱり一人なんだ。もう立ち上がれないよ。どんな言い訳したって、覚悟とか貫くとか、勝手なこと頭で決めて、他人に頼って決めて貰って。けど、たった一瞬でガラガラと崩れて、ただの意地だったのかなーって、悔しい。奴隷でも良い貴方が欲しいって・・・」


 土砂降りの中、傘を持たない人達が足早に私を通り過ぎて行った。


そのままのびしょ濡れで家に帰るとやはり家族に心配された。

「大丈夫だよ」

 面倒臭そうに返事をしてシャワーを浴び、温かい湯船に浸かったが、冷え切った体はなかなか暖まらなかった。何時間入っていたのだろう、もう皆寝る支度をしている。

 だれたスエットに片足を通すと急に部屋から携帯が鳴り響き、急いでもう片足を入れズボンを上げた。部屋に行くととメールの主はユッキーだった。


[ツッキーが辛い時に側に居てあげられなくてごめん]


勇気・・・。あたし・・・っぱりダメだった。人はそんなに直ぐには変われないんだね。寂しい。寂しいよ・・・。あんなに泣いたのに涙が滲み出てきた。ポタポタと冷たくなりかけた水滴が肩に、床に、髪から流れ落ちる。


[もう頭ん中真っ白で、奴隷にして下さいって感じ。やっぱ、欲しいもんは欲しいよ・・・]

[辛かったね]


[ユッキー。私を抱いてよ]

 言うつもりのない言葉ばかりが口からこぼれる。

[ばかっ。怒るよ。俺は玩具にはならないよ。なんか寂しくなったわ]


[最低だね。ゆきちゃんに会いたいよ]

[最低じゃないよ。そんな女の子じゃない。会いたい抱きしめたい]


「・・・あたし・・・あたし」そう呟きながら携帯を握り小さくなった。


[私。勇気のことノートにびっしりストーカーみたくまとめたの。上手く言えずバカバカばっかしか言えんくて悔しかった。だから順序良く並べて思いつく限りのこと書き出した。間違ってること伝える為に。そんで寂しくないよって。薄っぺらに分かったフリなんてしないよって。その場限りで適当なこと言わないよって]

 

“勇気だけは私が守る。その気持ちだけが今の私を支えている”


[やっぱ、勇気間違ってるよ。昔の彼がね。小さな女の子に“年齢なんて関係ない”ってこと伝える為にその子抱いたんだ。そしたら捕まった。それ、やっぱ可笑しいよな。本気でそれ伝えんなら、お前が歳とるまで待ってやっからって言うべきだよな。その場限りの愛のようなものなんて、要らねーんだよ。人は一人しか愛しちゃいけないんだ]

 目を逸らさないで、私から。もっと泣いても良いよ。涙見せて。全部受け止める。その場限りなんかじゃないよ。そこらの男と一緒じゃないよ。勇気は特別なんだよ。これからずーっと一生、一緒だから。

 もう寂しくなんかないよ。

 ずっとずっと叫んでたんだね。ずっとずっと我慢してたんだね。

ユッキーにしか出来ないことしたかったんだよね。もうしてる、出来てるんだよ。気付いて。ユッキーにしか出来ないことしてる。疲れたね、ゆっくり休もう。ゆっくりで良いんだよ。あったかいやつあげるから、一緒に居よう。死んじゃだめ。あんな優しい歌、くれるんだもん。

 初めて歌ってくれた時、とっても心に響いたんだよ。本当に、本当に。

「あなたはそこに居ます。僕もここに居ます」って

、彼女の心に貴方は居るよ。だからもう自分を責めないで。彼女は許してる。それどころか感謝してる。もう気付こう。自分を許そう。そうメールを送ってパタンと携帯を閉じた。するとキラキラと光と音が直ぐにメールを運んで来た。





[ツッキー電話番号教えて、寝ちゃいそうだから、寝る前に声が聞きたい。どうしても声で伝えたい]



一瞬ドキッとした。


勇気・・・心臓飛び出しそうだよ。行き成り男の子みたいなこと言って、不意を突かれた私は、ただ脈拍が上がっていくのを戸惑うだけだった。

番号を送って、おどおどしていると、お気に入りの着信が鳴る。

「あっ、はい!」

 やけに声が高くなってしまう。


「ツッキー。ありがとな」

PCとは違う声が少し遠い気がする。やっぱり、遠いんだね。

「う・・・ん」


「いや、それだけなんだけどさ、声で伝えたかったんだ」

 何だか何も考えれない。


「うん」

「なんだよ。さっきまでの威勢はどうした? 笑 元気出せよ」


「うん」

「変なやつ。笑」


 ゆっくりと静かに携帯を閉じた。“うん”しか言えないよ。

“切らないで”また言えなかった。


でも嬉しかったよ。やっぱり嬉しいよ。君の声が聞けたから、君にまた会えたから、君が私のことを思っててくれたから。

“一人じゃない”君が居る。そう思った。


アドレス帳に君の情報がひとつ増えた。二コリと笑ってベッドに潜り込んだ。それ以来恋愛中毒の私はしばらく一人になることにした。もう寂しくないから。私達はどちらかが倒れそうになっては支えて、支えられてるのも忘れてまた支えて。そうやって生きてく。強がらないで寄りかかって。そしたらまた代われば良い。

そうやって生きていこう。


久々に小さな町に出かけてみた。どんなアクセサリーを買おうかな。

 十字のネックレスを外して、ピンクゴールドのネックレスを付けてみた。

黒尽くめの服には似合わないネックレスがショーウィンドウに写った。


するとポケットが振動する。着信1件。

[ツッキー寂しい] 


 君のそのたった一言で、キューッと胸が締め付けられた。

[私も]

 ぐっと抑えてたものが溢れだす。ばかユッキー。寂しいよ。

寂しい。寂しい。寂しい。

 

「会いたい・・・」




 どれだけ分かり合っていても結局私達は細い線でしか繋がっていない。

[ユッキー好き・・・大好き]

 直ぐさま返信が来る。冷たい手で受信boxを開いた。

[俺も。好き」

少し笑顔になった。でも恋じゃないよね? 今迄で初めての感覚。私の知ってるどの恋とも全然違う。そんな軽い言葉で終わらせられないよ。


[この感覚今まで味わったことある?]

[ない」


[これって何? 恋?]

[さぁ?]


[家族愛みたいな? 兄弟愛? でもキスしたいし、やりたい」

[おい。笑 答えなんてないだろ? そもそも答えなんていらないんじゃないか?]


[特別?]

[そう、特別。それで十分]

 その特別な優越感に浸るが、少し寂しいんだ。君のことが私の頭のほとんどを占めている。大好き。お互いそう思うのに『付き合う』この言葉の選択肢だけは二人にはなかった。遠い、一度も逢ったことがない。そんな理由じゃない。あまりにも大切過ぎるから、あまりにも特別過ぎるから。絶対に失いたくなかったんだろう。私達にそんな薄っぺらな契約は必要なかったんだ。

 それと、私達はお互いに一緒にはならない運命なのをなんとなく分ってた・・・。


[偉そうなこと言ってたけど、ツッキーに逢ったら俺、手ぇ出しちゃいそうだ]

[いいよ] 


[いや、ダメだ。ツッキーは特別だ。ぜってー軽く抱いたりしねぇ]

[ありがと]


[・・・でも。未練タラタラな俺を誰か殴ってくれー!]

[あはは。ちゅっ。目ぇ覚めた?]


[うん・・・(ノω・、) 優しいね、ありがとうツッキー]

[さっき日記見た。好きじゃない人と付き合うのはダメだよ。特に今は。そんな事出来ないの知ってるけど、その生き方は君には無理。誰かさんの真似しないのっ。笑]


[しないよ。ただ少し限界なだけ]

[あたし達には“絶対裏切らない人”が必要だよね]

絶対に捨てない飼い主が必要なんだ。もう冷たい路地裏は嫌。だけどたった一度温もりを知ってしまうとまた求めてしまうんだよね。悲しい結末なのを知っててもさ。


[そうだね。最近なるべく外には行きたくない・・・]

[何で?]


[やたらキラキラ光ってるやつがうざいからっ]

[あははは。うちらクルシミマス愛好会やもんね]


[愛好してねー! どんな集いやねん!]

 雪がイルミネーションを浴びてキラキラと恋人達に降り注ぐ。


[それよりユッキーもうすぐ誕生日でしょ? アドレス。誕生日でしょ?]

[そうだよ]


[やっと十九か・・・若いな。なんか欲しいもんある?]

[え? なんかくれんの?]


[うん]

[うっそ!? すっげー嬉しい]


[でしょ? で? なにか?]

[なんでもええの。貴方から貰えることが嬉しんよ]


[そっか。じゃあ期待しないで待ってて]

[わかった。めっちゃ期待してるわ]


 一度も会ったことのない男の子にプレゼントを贈るなんておかしいと思う? そうだよね。だけどユッキーの笑った顔が見たかったの。君が笑うなら私はサンタにだってなるんだ。

[俺初めて会ったことない人に住所教えたわ。笑]


[安心して。悪用しないから]

[あはは。そんなの心配してない。ツッキーありがとな。こんなに温かい気持ちになったの久しぶり。ツッキーに出会ってから、色んな事をプラスに考えれるようになったと思う。後ろばかり見ていても仕方ないからね]


[私も全く同じ気持ちなの。本当にとてもとても感謝してる。ありがとう]

[俺、前見て頑張って生きるよ]

 

それからしばらくして君は遠い雪国から、優柔不断でプレゼント一つ決めるのにも、てこずるサンタから贈り物を受け取ることになる。

「ツッキーありがとう。ツッキーに出会えて本当に良かった。ありがとう。大切にするからね」













「谷塚さん、最近仕事楽しい?」

「はい。すっごく」


「ほんと人が変わったみたい。新しい男出来た?」

「・・・。そんなんじゃないんです。良い友達と巡り合えたんです」


「そっか。それはよかったね。大切にするんだよ」

 そう言うと店長はまたデスクに戻って行った。


「はいっ!」

 深々頭を下げる。

 ユッキーありがとう。なかなか声が聞けないけど、会えないけどユッキーはいつもここに居る。顔も知らない、君の癖も知らない。  

けれど誰よりも君を信じている。根拠はない、心が君に向かってる。





「えー何その髪型。失敗でしょ?」

「ちょ、やめて下さいよー」

 何だか騒々しい。仕事が終わり帰りの支度をしていると、いじられキャラの同僚が今日もいじりまわされている。けれど何だかいつもと様子が違う。


「本当にそれが良いと思ってんの?」

「・・・」

 その時、今にも泣きだしそうな瞳を下に背けたのに気付いたのは、私一人だった。今まで気づかなかった。きっと彼は今までも辛かったのだろう。どうして気付かなかったんだろう。そう思っている間にも彼へのいじりはどんどんとエスカレートして行く。けれど私は

“本当に気付かぬフリをした”

 帰り道その同僚とたまたま同じエレベーターで一緒になった。

「気にしないほうが良いですよ」

 シンとした個室の沈黙を破ったのは私だった。

「えっ?」


「私おかしいと思います」

「谷塚さん・・・。谷塚さんもおかしいと思いますよね・・・谷塚さんだけだ、そう言ってくれるの」

 彼はまた泣きそうな顔で笑っていた。ありがとう、僕に気付いてくれて。そう言いたそうだった。

 恋人達が寄り添う中、きつくなった服を再び着る為に、自転車にまたがる。

 そんな顔しないで。エレベーターで見た彼の顔が目に焼き付いて離れない。私はあの時止めることが出来た、なのにしなかった。悔しかった。足が動かなかった。

冷たい風を切り、泣きながら家まで走った。ごめんなさい。私、変わりたい。


 その夜はすごく魘された。助けて、助けて・・・遠くからサイレンが周波数を上げて近付いて来る。来ないで、怖いよ。

 ふと目を開けると携帯が光っている。寝ぼけて電話を取ると、一番会いたい人の声がした。

「ツッキー寝てた?」

「ゆっ、きぃ?」


「あはは、ごめんな。ちょっと酔っぱらっちゃってさ、どうしてもツッキーの声、聞きたくなった」

「う・・・ん」


「ごめん。眠いよな、ありがとな、出てくれて。おやすみ」

「あ・・・。う・・・ん。好き」


「あはは。すっげー可愛い。うん。好き。ありがと、じゃーね」

「バイ・・・バイ」

 叩き起こされたのに、なんだかすごく温かい気持ちになれた。よく覚えてないけど、温かい。少し目が覚めた私は君にメールを送った。


[ユッキー大丈夫? 酔ってるとはいえ、声が聞けて良かった]

[ごめんな、起こして。でも可愛い声聞けて良かった。いつもそれくらい可愛いと良いのになっ。笑]


[何よそれー! 笑]

 寝ぼけた声をはじめて可愛いと言われた。恥ずかしいけど嬉しい。


[今日な、忘年会の後初めてピンキャバ行ったんだ。初めて、好きじゃない人とキスした。なんか普通に出来て自分で驚いた。自分落ちたなーって思ったよ]

ユッキー・・・。


[抱きしめられると気が緩むよな。温もり知ると抜け出せないよ、人間は]


 メールを打ちかけたその手を止め君への発信を押す。

「ユッキー」

「うん」


「ユッキー会おう」

「え?」


「絶対休み作って! 休みがないとはいえ、元旦くらいは休みでしょ?」

「あ、あぁ、そうだと思うけど・・・」


「じゃあ絶対会おう! おいでよ! 日本酒飲んで、刺身食べて。年越しソバ食って・・・」

「ツッキー・・・。ツッキーに会えるの?」


「うん! 会えるよ! 私、ユッキーに温かいものあげられると思う。そしてユッキーも同じものくれると思うんだ」 

「ツッキー・・・」


「だから絶対会おう」

「うん。会いたい」


 もう止めることなんて出来ない。会いたい。会いたい。会いたい。

 君を抱きしめたい。この手で、抱きしめるんだ。

 神様、彼に合わせて。ユッキーに会えるのならどんな罰にも耐えられる。だから、だからどうか会わせて、私達を・・・。

 

幻を現実にする為私は必至だった。急な企画にホテルは何処も満室だった。休みもなんとかとれるよう、上司に頼み込んだ。

 ユッキーも休みかどうかわからない。けれど、今しかない。そう思った。新幹線も取れるか分からない。元旦に会うなんて、私もよく考えついたものだ。

「あー、無理、無理。今更休みの変更なんて出来ないよ」

「そこをなんとかお願いします」 


「うーん。誰かに頼んで休み変わってもらうしかないな。悪いけど」

「・・・。そうですか」


 絶対に会う。このチャンスを逃したらもうない気がしていた。

最後に同僚に声をかける「あの・・・。本当に申し訳ないのですが、三十一日と、二十九日を変わって頂けませんか?」

「良いですよ、調度五連勤だったんで、ありがたいです」


 神の声は意外にもあっさりだった。思わず叫びそうになる。

「ありがとう。ありがとうございます!!」

会える! 会えるんだ!


「ユッキー。休みとれた!」

「俺も。三十一と元旦。休みだって!」


「やったね!」


それからの私は忙しかった。ホテルの予約に、居酒屋の検索、観光、ググってはにやけて、君を思う。昼食をサラダにし、ようつべってメイクの勉強をし、髪のパックをしながら、作業用BGMを聞いて、動画を見て。うp乙。ミッキー。



「ねぇ、もし外れだったらどうする?」

「うーん。帰る」


「酷い!!」

「あはは、ツッキーはきっと綺麗だと思う」


「うっそ! あり得ない! 期待しないで」

「わかった。しないよ」


「でも、もし本当に酷い不細工だったらどうする? 人間は所詮顔なんだよ。なんだかんだ言って結局は容姿。外からしか判断できないんだ」

 そんなの、ユッキーは痛いくらい分ってる、口先だけの私なんかよりもずっと・・・。


「例えそうだとしても、そんなの関係ない」

 今までだったら、普通だったら。どうせ会ったら・・・男はいつもそう。そう思ってた。けれど、君なら本当にそんなの気にしないでくれると思う。私が、不細工だろうが、美人だろうが、君は変わらず“ツッキー”として私を見てくれると思う。

だって私も同じことを思うと思う。例えユッキーがそうだとしても私は何も変わんない。君が好き。






 どんな服を着て行く? どんなメイクをしていく? 髪は巻く? お団子? 毎日練習してはウキウキしていた。クリスマスだってへっちゃら。恋人達が繋いだ手に同じ形の指輪があっても。その真ん中に小さな手が繋がれていようとも。私には心から笑顔で見守ることが出来る。でもマイナス思考な私はまた嫌なことを巡らすんだ。

“私達、会ってしまったらどうなっちゃうんだろう” 

楽しく遊んで、二日間が終わったらどうなっちゃうんだろう?

その後の日々を想像したくない。怖い。それは今一番考えたくないことだった。  


 それでも良い、どんな仕打ちも受ける。そう神に誓ったのだから。

一目で良い。君に会いたい。一度で良い。君を抱きしめたい。

 

 どうしても君に触れたい。


「明日だね」

「うん。明日だね。遅刻厳禁」


「月もな」

「早く寝ないとっ!」


「そうだね。おやすみ」

「おやすみ」
















【2009.12.31―2010.1.1】


a.m.8:30

 はぁ、目が覚めてしまった。寝たんだか、寝てないんだかよく覚えてない。とうとう今日が来てしまった。何度この日を思い描いてきたことだろう。アイシャドーはブラウン? ピンク? どっちで行く? 何度も練習したのに指が震える。なんだかちょっと濃くなってしまった。どんな強風にも負けないよう、スプレーでお団子にした髪をバリバリ固めた。ユッキーちゃんと起きているだろうか? 新幹線には乗れただろうか? 今日を忘れてしまっていないだろうか? 結局心配でメールをした。


[おはよ。こっちは雪ないから、ブーツとかじゃなくてへーきだよ]

[おはよう! それ迷った。分った!] 

 

 少ししてちゃんと返信が来たことにすごく喜んだ。夢じゃない。今日が来たんだ。ユッキー。ユッキー。どんな顔をして会えば良いんだろう。不細工だって思われないかな。会わなければ良かったとか言われたりして。笑

 てんぱり過ぎてよく分かんなくなってきた。そんな事を巡らせながら一人にやける。バスを待つおじさんに変な目で見られても、ぜーんぜん恥ずかしくない。

[あっ!降ってきた]

[遅いよ! ツッキーのブーツ借りるわ。笑]

 ばか。また携帯の画面を見ながら一人にやける。バスから見える景色に雪がちらつき始めた。ユッキーは雪見たことあるのかな?  

あっ、南国に住んでいる訳じゃないんだもんな。どんな顔をして会えば良いんだろう。思わず抱きしめちゃうかな? 泣いちゃうかも。 

いつものようにメールのやり取りをしているとあっという間に到着した。駅に着くと予想以上の強風に髪をかばいながら歩く。


a.m.12:00

[雪風、自重してー! せっかくセットしたヘアが最低ー]

[ツッキーまだ?]


[今着いたよー]

 早く起きたはずなのにいつの間にか約束の十二時になってしまっていた。誰かさんが髪に時間をかけ過ぎたせいだ。

 ユッキーは何処から降りたんだろう。歩き回っていると行き成り着信が鳴る。


「ツッキー寒い」

「あはは。こっちは寒いでしょ? ユッキー今何処に居んの?」


「待合室があるとこ」

「う~ん、分った」


「ほんとにー? 行こうか?」

「地元! 大丈夫! そこで待ってて、今行くから、動かないでね」

 とは言ったものの駅にはめったに来ないし、駅は広くていくつもの入り口がある。そして、私は史上最悪の方向音痴。ぐるぐる駅を回っては電話をし、あっちでもない。こっちでもない。焦ってまたテンパって。朝からあたしは何をやっているんだ。やっとそこであるだろう場所に着いた時にはすでに息切れをしていた。履き慣れない高いヒールを引きずって携帯をかける。

「はぁ。はぁ。ユッキー。何処―」

「その店の裏だよ裏」


「もー。疲れたー」

「お疲れ、帰る?」


「いーやっ!」

 もう、冗談きつい。やっとここまで来たんだ。裏に回ってユッキーらしき人を探す。立ち食いソバを食べているサラリーマン。大きな荷物を抱えるお兄さん。ユッキーは居る? まるで間違い探しをしているよう。カッコよく歩くのを忘れて焦る気持ちだけが空回る。そういえば、ユッキーを見たことないんだった。

探しよう・・・ないよね・・・。


「早く来てー凍えちゃう」

 電話の奥の笑っている君はいつもと変わらない。

けど今日は同じ空気を吸ってるんだね。

「もー何処に・・・」

 そう言いかけた時、携帯電話を耳に当て、今聞いている声と同じタイミングで笑っている横顔を見つけた。楽しそうにほほ笑んでいる姿が静止画としてではなく、短い動画として忘れることのない記憶として刻まれる。もっと感動的なものだと思ってた。けれど唖然とし私の時計はスローモーションになる。

 笑った横顔が正面を向いて眉を上げた。


『あっ。いた』

 お互い同時にその言葉を発し。見つめ合う。

・・・。


「はぁ、やっと会えた」

「お疲れ」

「貴方もっ」

 少し緊張する。

「なんか全然感動的じゃないのっ」

「ホントだよ。想像以上にあほ過ぎて驚いたわ」

「何よそれー」

「あはは・・・。初めましてっ」

「初めましてツッキー」

 笑っては君の顔をチラチラ見て笑顔んなって、また笑って。リアルでも変わらずハナから息ぴったり。きっと私達を見かけたら、またあいつらバカやってるよーって思うだろう。


p.m.12:30

「さて、お腹は空いた?」

「めっちゃ空いたー」


「だよねっ。ちゃんと名物予約したから行くわよ!」

「おー!」


 駅から出るとかなりの風が吹いている。

「すごいね」


「雪より風だからね」

「そうなんだ」


凍える寒さでも本当に温かかった。


 駅から直ぐの“たれカツ屋さん”はもの凄い列が出来ている。

「すっごい列」

「人気なんだね」


「でもー。私達予約済みー」

 お腹が空いてちょっとイライラしている人達をかきわけ店内に入って行く。本当に入れるのだろうか。ちょっぴり不安になる。


「あのぉ・・・。予約していた谷塚ですが・・・」


「あっ。お待ちしておりました! 谷塚様入りましたー!」

「いらっしゃいませ! 谷塚様入りましたー!」

 

「超―恥ずかしー」

「あはは」

 まさかこんな大勢の前で名前を呼ばれるなんて思わなかった、空腹の人達の視線が怖い。ユッキーのキャリーバッグを店員に預けると、二人だけなのに大きな座敷に案内された。


「やっと落ち着いたね」

「すでにぐだぐだ」


「まぁ、いつものことだよな」

「おいっ」

 ちょっと年季の入ったメニューを手に取る。


「このカツの二段重ねがおすすめらしいよ」

「へーそうなんだ」


「じゃあこれで良いんじゃない?」

「うん」

 新人そうなスタッフがオーダーをとっていった。


「大丈夫かな? あの人」

「さぁ?」


「おいしいのかな?」

「ツッキー食べたことないの」


「うん」

「おいっ! 大丈夫かよ」


「あはは」

 頬に手を着いてユッキーを眺める。


「なんだよさっきから」

「えへへ。嬉しいんだ」

 それから延々とおしゃべりは続いた。いつも以上のマシンガントーク。何を話したとかはあんまり覚えていないけどすっごく楽しかった。あたし幸せだったよ。

あれだけのお客さんが居たから料理が来るまで少し待たされた。慣れない手つきで店員が持って来たカツは予想以上の迫力だった。


「ちょ、待って、ふたが閉まってないってどういうこと?」

溢れんばかりのカツがお椀からはみ出している。


「ちょっと。ミスった?」

「これいける?」


あまりのでかさに絶句。二人して顔を見合わせて笑った。

「んーおいしい」

「ホント美味しい」


やわらかいカツに頬が緩む。

「会ってみてどうだった? 期待外れだった?」

 もごもごさせながらもお喋りは止まらない。

「・・・。それね。あまりにも一緒過ぎて笑った」


「嘘? 想像通りだったってわけ?」

「そうっ。リアルツッキーは想像よりアホやったってことだな」


「ひどーい」

 おどけて君を突いて笑った。

「あはは。想像より綺麗だったよ」


「え?」

 瞬間的に顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。

「全く、ツッキーは期待を裏切んないよなぁー」

 ごはんを頬張りながら照れる君はちょっと可愛い。二人して顔を赤くして。凄い幸せだね。


そうやって弾む会話をしていると隣にカップルが座った。何だか凄く重い空気流れてくる。

「ユッキー、何かやばい」

「わっかる。空気違う」


 案の定事件勃発。

「だから嫌って言ったのよ!」

 先に仕掛けたのは女のほうからだった。そして黙りこくっては無言の永遠が隣では過ぎて行く。方やこっちではまた笑い合っては

“もう食べれなーい”そんなのんきなことを言って時間が過ぎていった。


結局一杯の丼に一時間以上も居座ってしまった。

「おなかいっぱいで歩けない」

「おいおい。でもよく食べたよな」


「でしょ、偉いでしょ? そうだプリクラ撮るんだった」

「そうだったね」


「この日の為にどの機種が良いか妹に聞いてきたんだよ」

「あはは。俺も全然撮ってないからなー。どれが良いかとかわかんないや」


 “どんだけ楽しみにしてたんだよ!” 

 ってつっこんでくれるかと思ったのに、君はこれに関しては全然つっこんでくれない。君も楽しみだったんだよね? やっと会えたんだもんね。

 機械に入ると眩しいライトが迎える。


「しかたがないから脱いであげる」

 歩きにくいヒールを脱ぐとユッキーよりも小さくなった。


「嫌な感じー」

 ぎこちなく笑ってピースを作る。全然良いポーズが思いつかない。狭い個室でユッキーに少し体が触れる。緊張が全然溶けない。何枚か撮った後落書きのコーナーに移るが、さっぱりペンが進まない。 

とりあえず今日の日にちを書く。“2009.12.31.初対面”隣を見るとユッキーも同じことを書いていて笑った。あんなに毎日朝まで喋って、毎日、毎日メールして。ミッキー見て。笑って。

そして今日が私達の初対面。

「同じこと書いてる」

 笑いながらユッキーにタッチした。またドキドキしてる私。初対面なんだもんね。まだ慣れないや。

思うように書けなかったので、早々そこから去ることにした。ま、これで良いよね。いつもは得意の落書きなのに。今日に限って上手くいかないんだ。かっこ悪いな私。


「チェックインまであんまり時間がないね」

「そうだね」


「駅で日本酒買ってから行こうか?」

「うん」

 店を出るとさっきよりも凄い強風が歩きを妨げる。本当に息が出来ないくらいの風にユッキーは驚く。ここには住みたくない。そう笑った。

 駅で何本が有名な日本酒がセットになっている物を購入し。

ホテルに着く。


p.m.15:00

私の荷物をソファーに置き、ユッキーにマフラーを預かっててもらった。予約した私が手続きをして戻ると、ユッキーが私のウサギ毛のマフラーを自分の首に巻いて両手で押さえている。

「温ったかった?」

「・・・いや、置く場所なくて・・・」

 そう言って君はちょっとだけ慌ててマフラーを外した。なんだかすごく可愛い。キュンとなった。少しだけ会話が少なくなって私達はエレベーターで上へ上がった。


「えーっと、502ここだね」

部屋に入ると小さいながらも綺麗な室内にテンションが上がる。そして部屋の半分以上を占めているダブルベットに君は唖然とした。


「だ、ブル?」

「そっ。ベッド二つも要らないでしょ?」

 そう言うけどめちゃめちゃ緊張する。今日は強がってばっか。荷物を置いて君のジャケットをハンガーにかけてあげる。なんだか恥ずかしくてベッドに座ることをためらい床にちょこんと座った。


「なんでそこ?」

 笑いながら君もちゃんと隣に座る。


「ねぇ、もう開けちゃわない?」

 日本酒の箱を顔の前に出してニヤッと悪だくみを考えてる子供みたいな顔をした。


「もう?」

「うん」

 買ってきたばかりの日本酒を率先して開ける。フンフン♪


「乾杯」

「乾杯」

 部屋にあったグラスに日本酒を注ぐ。少し口を付けて君は顔を歪めた。


「うーん。微妙?」

「微妙」

 また笑って飲んで、テレビ見て。夕食までを過ごした。


「ちょっと酔っぱらった」

「もう?」

 日本酒は好きでも酒に弱い私は早速ベッドに仰向けに倒れこんだ。


「もうお腹いっぱいなのー」

 呆れ顔のユッキーもベッドに座る。


「おいおい、夕食食べれんのかよ」

 目をつむってぼーっとしていると、ふと、暖かい重みがのしかかる。


 驚き目を開けると柔らかい物が唇に触れた。

「ゆっ・・・きぃ?」


「やっと会えた」

 ギュッと大きな腕に包まれた。ずっと、ずっとこうして欲しくて、ずっとずっと夢見てた。会いたい。会いたい。どれだけそう願ったことだろう。 

絶対忘れない。 


 もう一度キスをして、またキスをして。何度も触れあった。 


「初めてなのに不思議と何度も会ってるみたい」

「そうだね、不思議」


 見つめ会ってはまた唇を重ねた。さらりと乾いた唇に触れる。何度も押し当てて私達を確かめ合った。目の前には君が居て温かい君に触れている。

「ユッキーは私のこと想像と変わらないって言ったけど、私は全然違ったの」

「どう違った?」


 君に包まれて私は上目使いで話しかける。

「想像では可愛くて小さくて、私が包み込みたいって思ってた。けど、実際はもっと男の子っぽくて、マッチョだし、全然腕なんて回んなくてびっくりした。私がギュってされてる・・・」

 そう言ってて自分で恥ずかしくなり頬を染めた。


「あはは。そっか。でもある意味女の子味わえて良かっただろ?」

「うん、」



 まさかこんな男の子みたいだとは思わなかったの。だって受話器の向こうの君はとっても優しくて可愛らしいから。

想像もしなかったこんな事態。でも今はそんな君の腕の中に居るの私。 

それからまた何度も何度も唇が触れ合うだけのキスをしていて、気付くと夕食の時間になっていた。



 p.m.17:00

「全然お腹空かないね」

「昼のチョイス間違ったよな」


「うん。ごめん」

「あはは。いや、おいしかったよ。ありがとな」


 そんな話をしながらホテルで予約していたレストランに行く、小さなホテルだけどモダンでおしゃれな雰囲気を醸し出している。若い女の店員に個室に案内された。

「個室なんだね」

「凄い」

席に着くと二度目の乾杯をした。でも感動するのはこれからだった。出てくる料理一つ一つが大きくて、おいしい。お腹いっぱいなのにどんどん食べれちゃう。ダイエットは何処に行ったのかしら? 笑

「うん、おいしい」

「これもいける」

 大きなぶりかまを切り分けるのに悪戦苦闘している私。


「不器用」

「実際のあたしなんてこんなもんよ。笑」


「貸して」

 さくっと取り分けると私の前に料理を置いてくれた。

「やるじゃん」

 ちょっと女の子ぶってピンクのアルコールを飲み君を眺める。ふと携帯を取り出して君を撮った。この瞬間を止めたい。欠片でも良い残したい。

ほんの少ししか飲んでないのにもうくらくら、何を話したかすっかり忘れてしまった。けど、たくさんしゃべってまた笑って凄く楽しかった。それだけは覚えている。

 もうお腹いっぱいになった私達は部屋に戻ることにした。

「ツッキーふらふら、ホント弱いんだな」

「うん」

 ベッドに倒れて少し眠ってしまった。次に目を開けると君は年末恒例「ガキ使」見ながらベッドに座っていた。ぼけっとしてるとグラスに注がれた水が口に触れた、ユッキーが水を飲ませてくれたのだ。そして頭をポンポンと撫でられる、まるで私。君のペットになったみたい。


 テレビを見ながら笑ってまた日本酒に口を付けた。

「まだ飲めんの?」

「うん」


 テレビに夢中になってる後ろ姿にちょっと寂しくなり、ぴっとっと君にくっついた。

「どうしたの、ツッキー?」

「ううん」

 何でもない。ただ温かい君に触れたかった。君が振り返るとまたキスをした。


「お風呂入ろっか?」

「うん」


「一緒に」

「え?」

 君は目を丸くした。


「大丈夫、何もしないから」

「おかしいだろ、そのセリフ。逆」


 お互いクスクス笑って君をお風呂に入るよう促す。バスタブにはたっぷりの泡が溢れている。

「凄い泡」

「でしょ?これ一本使ったの」

 そう言ってボディソープの空き瓶を揺らす。


「ばか」

「えへへ」

 さっと脱いで湯船に浸かる。自分で誘っといて何だか恥ずかしくて裸を直視出来なかった。


「あっ、そのネックレス」

「やっと気付いた?」

 そう言って君にあげたプレゼントを揺らして笑った。


「俺、女の子とお風呂入るの初めてなんだけど」

「そうなんだ。楽しいのに」

 そう言って泡をすくってフッと息を吹きかけた。その泡は君の頬に付く。


「何すんだよ」

 笑って君も私に吹きかけた。

「やったな」

 にやけて泡をかけ合いっこした。まるで小さな子供みたい。二人とも良い感じに泡だらけになってそのまま湯船で頭を洗った。お互いの手を交差させ洗い合う。何だか変なことしてる。


「ばかじゃん」

 また笑って洗い合う。

「出来た、猫」

 君は楽しそうに私の頭の上でアートする。ユッキーは私のほっぺの泡を親指で拭って笑った。


「なんだツッキーのスッピンって童顔じゃん。化粧映えするのっぺり顔なんだね」

「ちょっ、何それ」

そんなこと言われたの初めてだった。派手顔にケバケバしいメイク、大人びた顔、そんなことしか言われたことのない私にとっては、最高の褒め言葉だった。口角を上げ君とキスをした。


「今幸せ」

「そうだね」


「ユッキー」

「なに?」


「何でもない」

「何だよ」

 また触れ合ってほほ笑んで見つめ合って。 


男と女が裸なのに全然厭らしい気分になんてならなかった。凄く不思議。


“必要ないから。ツッキーに、sexがなくても十分なんだってこと教えたい”


お風呂からあがるとガクッと倒れそうになった。

「大丈夫?」

「うん」

 お酒が入ってて長湯をしてしまったので思いっきりのぼせてしまった。


「ちょーし乗るから」

 君は困った顔をし、重たい私を軽々持ち上げる。

「やだっ」

年下の男の子にお姫様抱っこされるなんて凄く恥ずかしい。けれど体がぐったりしていて貴方に身を任せる他なかった。

そっとベッドに下ろされ目をつむっていると、柔らかいものに触れ冷たい液体が流れ込む、びっくりして目を開け、必死に飲み込んだ。一筋の水が頬を伝って、乾いた唇が初めて貴方によって光を放つ。

目を見つめると、そっと君を噛んだ。

 優しく舌で唇をなぞる。両手で君の頬を包み目をつむって君を感じた。


「怖い。また会えなくなるの怖いよ」

 ぎゅっと抱きしめて君の胸に顔を埋めた。


「俺まだここに居んだろ?」 

少し悲しそうにほほ笑んでまた君はキスをくれた。何度も。何度も。


a.m.0:30

時計を見るともう十二時を回っていた。

「ユッキー、知らない間に年越しちゃったよ」

「カウントダウンもしないでキスしてて年越しちゃったんだね」


「残念だね」

「でもある意味絶対忘れることの出来ない年越しになったな」

 クスリと笑った。


「明けましておめでとう。ユッキー」

「明けましておめでとう。ツッキー」

 そのまま私達は抱き合ったまま眠りについた。




a.m.8:30

ふと、目が覚めると君は不安そうな顔をする。

きょろきょろと辺りを見渡し、私を見つけると、笑顔の溜息を出し、私を抱きしめた。

「ここに居ろよ」

こくりと、女の子のように頷いた。

瞬間まで想像もできなかった、大きくて筋肉質な腕に包み込まれる。

「男の子」

「何だよそれ」

いつものように二人でくすくす笑って、おでこを付けてまたキスをした。


「ツッキーがもうしばらくキス要らないってくらい出来れば良い・・・」

小さくほほ笑んで、また唇が触れるだけのキスをした。積もった雪に朝日が反射してキラキラと光りを放ち、私達を輝かせる。その中で私達は一生分のキスをした。 

朝食の時間も忘れて、ただ抱きしめ合った。

 結局ホテルで昼食をとることになり、玄関でスニーカーを履く君を見て驚いた。


「ねぇ、それ私も同じの持ってる」

「うそ?」


「ハイカットでしょ? 同じ色のサイズ違い持ってるよ」

履きこんだブラックのスニーカーがすっぽりと君の足を包む。私のお気に入りを君も持ってるんだ。

うきうきしながらレストランに入るとずらりとスイーツが並んでいる。

「うっそ。最高」 

 またたくさんおしゃべりをしてご飯を食べて時を過ごした。


「たくさん持ってきちゃった」

「そんなに食べれるの?」

 そう言って君のお皿を覗くと私と同じスイ―ツ達が乗っている。お互い指差して笑った。ホント私達の趣味って一緒。


「想像以上にここの料理美味しいよね。この二日間。ホント外れなし、何もかも完璧」

「うん。そうだね」

見つめ合ってはまたほほ笑んだ。


「さて、今日どうする?」

「そうだな・・・カラオケでも行く?」


「恥ずかしいな・・・ユッキーの前で歌うのか・・・」

「じゃ決定」

 ちょっと恥ずかしいけどユッキーとは楽しい時間を過ごしたい。ただのカラオケだって私達には特別なことなの。


「ユッキーから歌って」

 とは言うもののやっぱり恥ずかしい。

 普段は押し殺して歌う君の声が今日は力強い。ユッキーの生の歌声が聞けるなんて幸せ。凄く上手。やっぱり私の番、来るよね・・・。上手に歌えるように心を込めて歌った。お腹から声を出して君にありがとを送るように伝えるように歌った。歌い終わるとユッキーはしばらく画面を眺めている。

「どうしたの? ユッキー?」

「いや・・・聴き惚れてた」


 えっ? 

「ホント、この歌いろんな人が歌うけど、ツッキーが一番上手だ。ツッキー上手いんだね」

 凄く嬉しかった。それからは緊張も解けて楽しく歌った。はしゃいで盛り上がって、何時間も歌った。 


あっという間に時間は過ぎて君とのお別れも近付く。

「ユッキー何時に帰る?」


「何時でも良いよ」

「うん・・・」

 俯いた私の顎を上げ優しい唇が触れてマイクを離した。音楽だけが流れて私達はキスを夢中でした。私の首に口を付けると、そっと赤いマークを君が付けた。

 私達が出逢った証。私も同じように証拠を付けた。消えないで。

 淡く願った。



p.m.19:00

「そろそろ新幹線乗らないとだね」

「そうだね」


「ユッキー」

「なん?」


「ううん」

「なんだよさっきから」

 駅で君はたくさんのお土産を買って新幹線が来るまで待合室で二人腰かけた。たくさんの人がスクリーンを見ている。最近良く見る女優がさっき二人でカラオケで歌った歌を歌っている。私達の中学時代を思い出す、懐かしい恋の歌だった。

 ユッキーに寄り添って肩に頭を乗せ眺めていると涙が溢れてきた。次々に溢れだして止めることなんて出来なかった。絶対泣かないって決めてたのに次々と溢れだす。せめてユッキーには気付かれないようにそっと押し殺した。けれど震えが止まらない。楽しい思い出だけにしたかったのに。


「ツッキー、泣いてるの?」

 いい大人が若い男の子に寄りかかって大泣きしている。もう周りの人なんて目に入らなかった。そんな私の肩をユッキーは引き寄せずっと頭を撫でてくれた。


「俺まだここに居るって」

「うん。・・・ごめんね不細工な泣き顔で」


「ううん。・・・愛しいよ」

ホームまで重い足取りで行く、とうとうきてしまった。


「また会おう」

「うん。絶対会おう、絶対」


「約束」

 また涙が止まらない。新幹線の扉の前で人目を気にせずわんわんと泣いた。


「ここ入り口だよ」

 そう言って笑いながら私を撫でる。そして最後の唇をくれた。


「バイバイ」

「またね、だろ?」

するとドアが閉まり私達の前に壁ができる。必死に涙を拭いて最高の笑顔で思いっきり手を振った。新幹線が動き出し君が少しずつ、少しずつ、遠くなって行く。



 p.m.20:45

君が見えなくなってしまった。

直ぐに階段を駆けて下り、ホームから出た。止まらないものをそのままに、じっと前だけを見た。











朝になって君とお揃いの靴を履いてぎゅっと紐を締めた。iPodであの歌を聞きながらスキップしてチャリを漕ぎだす。

いつもはあんなに息が出来ないほどの風が、今日は後押ししてくれてびゅんびゅん進んで行く。


何度も君の名前を呼んでなん? って聞かれて、最後まで言えなかった言葉を、7年経った今も私は後悔している。



仕事から帰りいつの間にか私は寝むってしまった。

次に目を覚ますと、かけっぱなしでいたスピーカーから、初めて君がギターを手に歌ってくれた歌が流れている。


「懐かしい」

息を吸う音が、アコースティックのキュって音が愛しい。どんな色のギターで君はどんな姿で弾くのだろう。腕を伸ばすとクシャリとシーツが沈んだ。


君の居ない朝がまた来た。


そっと、股間に手をあてる。中指と薬指を少し入れてみた・・・。わっと、涙が溢れる。今年が始まってから私は、泣く場所を見つけては涙を流している。毎日。

皆が好きな歌なんて興味なかった、歌詞なんて気にしたことなかった。一人と孤独の違いなんて知らなかった。寂しくて股間に手を当てたことなんてなかった。そしてこんなことで涙が止まらなくなったことなんて初めてだった。

涙。とまれ。けど、とまるな。


「ユッキー・・・。ユッキー・・・。会いたいよ」

届かない君の名を叫んだ。小さくひっそりと。悲しいのに、寂しいのに、君を少しでも感じていたくて・・・。

 

 それから少しづつユッキーとのやりとりはなくなっていった。今年から今まで以上に忙しくなると言っていたのは知ってる。予想はしてた。けれど現実を突きつけられるとやはり辛い。

“いつか絶対に会おう”そんな曖昧な約束だけで私は強くなれなかった。どうしてこんなにも人は弱いのだろう。貴方を思うだけで強くなれたのに。いつ会えるかわからない友を思うだけでまた強くはなれなかった。もう魔法は使えなくなっていた。


「谷塚さん。最近調子どう? 元気ないみたい。ちょっと元に戻ってきてるかも。大丈夫?」

 この言葉にはっとした。自分では変わっていないつもりでも。店長にはなんでもお見通しだ。

このままじゃだめだ。もうあの時の自分にはけして戻りたくない。

 私はがむしゃらに仕事をした。


「ずっと眠れないんだ。仕事をしてる時は平気なんだ、けど帰ってくると、一人になると、やっぱきちーよ」

「寂しいよ」

「辛いよ」

「苦しいよ」

「独りぼっちだよ」




あれから私はがむしゃらに生きた。時間を見方にしたくて。そして恩師の送別会で一カ月ぶりに駅に来た。たくさん飲んで、楽しくて。同僚が飲み過ぎて帰れなくなってしまった。解放して、急いでタクシーを手配して送り出して。皆に感謝されて、歯痒くて・・・。

 でも、いくら飲んでも“あの時”みたいに酔わせてはくれない。

「谷塚さんありがとう。ほんとに貴方変わったわね。いつまでもそのままでいてね」

 それが恩師との最後だった。


 そんなんじゃない。感謝なんてされる覚えなんてない。私はただ寂しかった。埋めようのない寂しさと、 “してあげたい”そんな行き場のない気持ちがふらふらと宙をさ迷う。

そしてけしてぶつかることはないのだ。

気付くとあの日二人で歩いた道を一人歩いていた。


「勇気・・・会いたい」

 お願いだから返事して・・・。鳴らない携帯を握りしめて寒さで震える指でボタンを押す。今日も星は見えない。雪まみれのブーツから水が滲みてくる。諦めて受話器から耳を離した。

高いヒールで無理して歩いたのが懐かしい。私の第一印象は“変な歩き方の女”そう言ってたね。



 君は何処に行ってしまったのだろう。




 君に何かあった時。君が辛い時。側に居てあげられなくて、抱きしめられなくてゴメン。


 時間が経つにつれ君との連絡はなくなっていった。十一月から毎日欠かすことのなかったメールも一日一通になり、週に一度になり、今では君からの連絡はない。どうしてだろう、どうして送れなくなったのだろう。もう会えないことを知っているかのように私達は除々に距離を置いた。これ以上の孤独はもうたくさんだった。

たった一度君に“一緒に住もう”なんて言ってしまったことがある。返事は聞かなくとも分っていた。けれど言わずにはいられなかった。それ以来私は君に再び会えるよう、今度は胸を張って会えるよう変わろう、そう決心した。もう本気で叱ってくれる恩師も居ないのだ。ここからが本当の自分との戦いだ。このまま君に会いに行ったとしても帰れと言われるだろう。勇気はそういうやつだ。



いつも私の我儘と弱音を何も言わずにただ聞いてくれたサト。いつも私を温かく見守ってくれた光さん。本気で叱ってくれた店長。そして、私を信じて愛してくれた勇気。

私がどんな奴かも知らないのに、疑いもせず本気でぶつかってくれた皆にお礼が言いたい。

真っ暗闇から私を光へと導いてくれた皆に感謝を。どうしても伝えなくてはならない。絶対にもうあの頃には戻らない。“私の方法”で感謝を表さなければいけない。


そしてこの不思議な出来事を永遠に記憶する必要がある。人間はいつか忘れるから。こんなにも不思議で素晴らしい出来事でさえ忘れてしまうのだ。

今まで眠ってた自分の中の何か熱いモノが燃えてんだ。


それからは無我夢中で“コレ”を書き続けた。伝えたい。伝えたい。

約束したんだ、伝えるって。このまま終わりになんてしない。自然と風化することなんてさせない。君を愛してる。


だから君も生きて。




 




【7年後】

いつものようにが8:30を知らせる電子音が響くと

薄くなったiPhoneを掴む。


歯を磨いて。薄い化粧をし、ペットのうさぎに挨拶をしてから家を出る。

もうずいぶんと見慣れたこの街を歩くと

満開の桜が目に映る。


イヤホンを耳に入れ、

君が初めて歌ってくれた歌の再生ボタンを押した。




「風の日」

こんな顔を見せるのは

ほんとは好きじゃないけど

僕だっていつも ピエロみたいに

笑えるわけじゃないから


雨の日には濡れて 晴れた日には乾いて

寒い日には震えてるのは当たり前だろ

次の日には忘れて 風の日には飛ぼうとしてみる

そんなもんさ


泣いたことのない君は

とても弱い人だから

誰かに見られて

優しくされると

崩れそうになるけど でも


雨の日には濡れて 晴れた日には乾いて

寒い日には震えてるのが当たり前だろ

次の日には忘れて 風の日には飛ぼうとしてみる

そんなもんさ 僕らはほら


Go Cry

Go smile

it's something good to do to live as you want

I'm on your side

Your life is all yours

So don't let other people force you to be good

Be kind to yourself


(泣いていいんだよ)

(どんどん笑いなよ)

(君が望むように生きるには それがいいから)

(僕は君の味方だよ)

(君の人生は全部君自身のものなんだから)

(他人からいいようにされたらダメだよ)

(自分自身を大切にしないと)


雨の日には濡れて 晴れた日には乾いて

寒い日には震えてるのは当たり前だろ

次の日には忘れて 風の日には飛ぼうとしてみる

だから

雪の日には凍えて 雷には怯えて

月の日には辺りがよく見えたりもしてて

次の日には忘れて 風の日には飛ぼうとしてみる

そんなもんさ 僕らはそんなもんさ


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