交流
「……遅かったわね」
会場の扉の前に到着するなり俺はギロリとアニエス王女に睨まれた。
まぁ、時間ギリギリに到着した上に、彼女が男嫌いであるから睨まれるのは当たり前なのだろうけど。
「すみません」
「……ふん」
王女は腕を組んでそっぽをむく。
……なんなんだその態度は……。
でも俺もやる気も出さずにダラダラしてたから同じか。
国王が王女の男嫌いを治すためにこの夜会を開いた、と言っていたけど……正直無理だろうとは思う。
男嫌いが一晩で治るわけがないし。
俺がここに来てから王女は仏頂面続きだし。
「はぁ………」
「……なによ」
「いえ……」
「……アニエス王女、ユウキ殿下、お時間です」
使用人が丁寧に頭を下げて知らせてくれる。
「…行きましょ」
アニエス王女は早足かつ綺麗に会場へと足を踏み入れた。
「あら、アニエス王女よ!」
「なんてお美しいこと……!」
王女が現れると皆彼女に注目し、騒ぐ。
(空気じゃん俺……)
「アニエス王女、お久しぶりでございます」
「ええ、元気でいらした?」
「はい…!最近は……」
王女は相変わらず女性と楽しく会話をしている。
(これ、俺が居なくてもよくないか?)
「……ところであの方は?」
アニエス王女と話していた女性が俺の方を向いていた。
「あー……今回、お互いの友好を築く為にこの夜会に来て下さったユウキ王子です」
彼女はニコリと微笑むと俺に挨拶しろと視線を向ける。
「…ご挨拶が遅れました。私はシュヴェートニアから参りました、第四王子のユウキと申します」
昔父親から教えて貰った礼儀作法を思い出しながら挨拶をする。
「まぁ!しっかりしていらっしゃるのね……!シュヴェートニアにこんな立派な殿下がいらっしゃるとは知りませんでした」
「はは……」
実際、今まで政治に関わってきたのは兄上たちばかりだったから俺の顔なんぞ知らなかったんだろう。
式典には兄上たちと並んで立っていたが、皆が注目するのはいつも兄上たちだった。
今日の夜会だって、暇してる3番目の兄上に任せれば良かったのに。
すると上座の方にこの国の国王と王妃そして俺の父上、もといシュヴェートニア国王が現れた。
「ねぇ」
「……何でしょう」
アニエス王女が上座に目を向けながら言う。
「……お父様の隣にいる方は貴方のお父上?」
「……はい」
答えると王女はさして興味もなさそうに「ふーん」と呟いた。
カーティスラント国王が咳払いをすると、場内は水を打ったように静まった。
「皆、今日はよくこの夜会に来てくれた。存分に楽しんでくれ」
その挨拶が合図の様に次々と料理が運ばれてきた。
「美味しそう……」
思わずそう呟いてチラリと彼女の方を向くと
「ふふっ…………」
誇らしげにこちらを見て笑っていた。
何だそのドヤ顔………。
食事を少しずつ楽しんだり、他の国の貴族の方と交流をしたりして時間はあっという間に過ぎていった。
「ねぇ」
王女の変わらない短い呼びかけにも慣れて今までと同じように振り向く。
「何でしょう」
「何でしょう、じゃないわよ」
突然アニエス王女が怒ってこちらにやって来る。
「…貴方ねぇ、なんでそんな仏頂面なのよ!」
「……はい?」
あまりにも王女のおかしな発言に思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「仏頂面、とは」
「そのままの意味よ!どこに行っても誰と話してても貴方ずっと無表情じゃない!ここは社交界なのよ!」
「はぁ……」
王女の言っていることは分かる。分かるが、何故それをわざわざ言ってくるんだ。
笑顔だろうが無表情だろうが俺がどんな表情でもいいじゃないか。
「大体ね、始まる前からため息ばっかり!そんなに嫌なの?」
「いや、嫌では……」
「アニエス」
突然、真っ直ぐな声が2人の耳に届く。
「マ…マーガレット姉様……!?」
アニエスとそっくりな顔の女性がこちらに歩み寄ってくる。
「アニエス、その言い方は駄目よ」
「で、でも……」
「社交界で喧嘩をするのもどうかと思うわ」
「…!」
彼女の正論にアニエス王女は黙り込んでしまった。
「私の妹がご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「いえ…気にしていません」
「ありがとうございます…申し遅れました、私はアニエスの姉のマーガレットと申します」
綺麗にお辞儀をされこちらも釣られて頭を下げる。
「私はー」
「存じています。シュヴェートニア王国のユウキ殿下でしょう?」
「はい……」
アニエス王女と違ってマーガレット王女は大人しく上品な人だ。
しかも初めて顔を合わせたのにも関わらず、俺の名前まで覚えていてくれた。
「妹が夜会に出ると聞いて飛んで帰って来ましたの。」
「姉上、あちらの国は大丈夫なのですか?」
「大丈夫よ。彼も私が里帰りするのに賛成してくれたわ」
そういえばアニエス王女の姉は隣国へ嫁いだと聞いたな……。
「ユウキ殿下」
「はい……?」
「こんな妹ですが、これからも仲良くして下さると嬉しいのだけれど」
「あっ、姉上?!」
アニエス王女がぶんぶんと首を横に降る。
「私には無理です!」
「…私はアニエス王女と是非とも仲良くさせて頂きたいです」
そうマーガレット王女に伝えると、彼女は嬉しそうに微笑み、アニエス王女は絶望感に満ちた表情になっていた。
「嬉しい。これで土産話ができたわ」
マーガレット王女はまた綺麗にお辞儀をして、この場を離れていった。
「……………ら………」
「はい?」
王女がこちらをキッと睨む。
「私は貴方と一切馴れ合う気はないから!!」
「は、はぁ……」
そう言い捨てるとクルッと後ろを向き、何処かへ歩いて行く。
「ど、何処へ?」
「少し風に当たりにいくだけよ!!」
俺は会場に1人残されてしまった。




