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SA-009 襲う相手が多くとも石弓があれば


 何時ものようにアジトのテーブルに主だった連中が集まっている。

 王女様に乳母のマリアンさん。俺とザイラスさんに3人の分隊長。ドワーフのリーダスさんとネコ族の元猟師であるラディさんだ。

 

 廃村にはネコ族の1家族に逃げ出した農民たちと元貴族の娘さん達が開墾に従事している。戦が出来る者達と、見張りの少年達がアジトにいるのだが、当初の計画通りには上手く運ばないのが計画ってやつだよな。

 この頃、上手く山賊の仕事が出来ないので王女様がイライラしてる。

 

 バタン! と少しは形になった扉が開かれ、通信兵が入って来た。

「烽火台から通信です。『荷馬車30台以上。護衛の兵士は1個小隊』以上です」

「ご苦労。襲撃は見合わせじゃ!」


 直ぐに通信兵が外に飛び出した。崖の見張りにも伝えるのだろう。

 この頃、山賊に荷を奪われないように護衛の数が増えている。1個小隊は指揮要員を含めて45人程度になるらしい。俺達の襲撃要員は少しは増えたが、それでも30人程度だ。

 武器の相違があまりなければ、ランカスター法則で俺達が大敗してしまうのは見えている。かといって俺達の部隊が急に膨らむことも無い。膨らむには奴隷商人の荷を襲って、売られた領民を仲間にする必要があるからなぁ……。


「やはり、石弓をもっと作る事で何とかしたいですね。最初に10人以上倒せば何とか優位に立てるでしょう」

「あれか? 二の矢に時間が掛かるが、威力は凄いな」

 バルツさんは俺の放った石弓の威力を良く見ていたようだ。


「石弓隊を作るのか?」

「石弓を撃つのはそれ程難しくありません。弦を引くだけの体力があれば十分です」

「使えるのは元貴族の娘と少年だな。開墾を彼女達にやらせるのは忍びないし、王国への恨みもあるだろう」


 崖の上に5人の石弓隊、リーゼルさんの部隊の5人を石弓隊とすることで、ザイラスさんの了承を得る。


槍衾やりぶすまを作って、石弓で倒していくんだな? 突出する輩を斬り捨てられる者ならいくらでもいる。総崩れが怖いくらいだ」

「その為の魔導士です。目の前で火炎弾が爆ぜれば逃げ足は止まるでしょう」


 作戦は、輜重しちょう部隊を襲撃した手順を使う。石を転がさずに崖の上からの石弓の一斉攻撃が最初だ。部隊の三分の二が通り過ぎるか、荷車が通り過ぎたところで襲えば、後ろに逃げずに急いで通り過ぎることを優先するだろう。

 その先にはザイラスさんが阻止用具を街道に横たえて待ち構えてる。慌てて後ろに下がろうにも、後続が走り込んでいるからな、兵士が多いだけに混乱するに違いない。

 3発はボルトを撃てるんじゃないか?それだけで20人は倒せるだろう。


「後は、崖の上と後ろから倒して行けば片付きます」

「ザイラスの方向に敵兵を追い詰めれば良いのじゃな。南が開いておるが、逃げ出すやからを無理に追わずとも良い。これで、我らの存在が確実に敵に知れることになるが?」

「山賊ですから、討伐隊が組織されることも念頭に置かねばなりません。石弓の数とボルトをこのまま増やせば今の人数で相手が100人程であれば対処できます」


 数日過ぎて、準備ができる。

 輜重隊から奪った食料はまだまだ十分にあるから、手ごろな獲物が街道を通るのをひたすら待つことになった。

 

 手ぐすね引いて待っている俺達に、通信兵が飛び込んで来た。

「烽火台から連絡です。『西より荷馬車の隊列。数は15。荷馬車の前と後ろに10人以上の護衛兵士。その他として松明を使っていない』以上です」


「ふむ。おもしろい相手じゃな。黄昏時だが、街道の山道は道が悪いはず……」

「我らに見つからぬようにという事でしょうか?」

「俺達にはネコ族が付いています。ネコ族に手を出したのが問題だと分からせてあげるべきでしょうね」

 俺の言葉にラディさんが口元だけで笑っている。相当怒ってるみたいだな。


「それでは、襲撃の順序はバンターが教えてくれた通りじゃ。行くぞ!」

 王女様の言葉に全員が席を立って我先にと外に出て行く。

 何時も遅れるのは俺だからな。槍を持って皆の後に付いて駈け出して行く。

 

 崖からハシゴで俺達が下りると、ラディさん達がハシゴを引き上げている。

 それが終われば石弓の弦を引いて待機するはずだ。

 高さが3mにも満たない崖だが、ほぼ垂直だから足場が無ければ上がることは困難だ。背伸び等しようものなら、崖の上に顔を出したところを槍で一突きにされてしまう。


 崖を下りたところから100m程下って、街道南側の草むらに隠れるのは何時もの事だ。すでに俺の石弓の弦は引かれている。他に2人が石弓を持っているが、6人の魔導士がいるから、騎士は8人で十分だ。

 マリアンさんのフライパンの腕前は何度見ても惚れ惚れするからな。


 すでに日が落ちている。俺達の覆面は赤い布だが、赤は夜は目立たない。マントも黒布だから、草むらに隠れる俺達に気付く者はいないはずだ。

 カチャカチャと馬の蹄鉄が小石を踏む音と人の足音が近付いて来た。

 街道に仄かな明かりが見えるのは松明ではなく、荷車に備えたランプだろうか……。


 長い隊列が俺達の直ぐ上の街道を通り過ぎ、足音が遠ざかっていく。

 俺達はまだジッとして、その時を待つ。


「「うわあぁ……」」

 叫び声と、先ほどとは全く異質の足音が遠くに聞こえる。

 声と足音、それに馬のいななきまで混じってきた。

 案の定、後ろに下がらずに先に向かったようだ。


「行くぞ!」

 王女様の短い指示に俺達は立ち上がると街道に出て、道幅一杯に広がる。最前列はバルツさんと8人の騎士だ。手作りの槍を構えて前進する。その後ろを石弓を持った3人が続き、最後尾は王女様とマリアンさんそれに3人の魔導士だ。

「距離を取るのだぞ。荷馬車が来たら全員北の崖に張り付くのじゃ!」

女性特有の甲高い声が夜の街道に響く。


 ガラガラとこちらに荷馬車が走って来る。

 音を頼りに魔導士が火炎弾を街道を東に向かって放つ。

 馬のいななきと共に、大きな音を立てて荷馬車が街道に横倒しになった。

 火炎弾は騒いでいる馬の直ぐ目の前に着弾したみたいだな。

 荷馬車の後ろから十数人の兵士が長剣を振りかざして迫ってきたが、槍衾と火炎弾の攻撃で俺達に近付いて来れないようだ。

 前を守る騎士の間から石弓のボルトを敵兵に放っていく。弓の矢よりも太くて短い矢であるボルトが、敵兵の革ヨロイに深々と突き刺さると、苦悶の表情を浮かべながら兵士が街道に倒れていく。


 石弓で3射すると、すでに敵兵は数人が俺達の前にいるだけだ。

 「ウオォー!」と声をあげながらバルツさん達が突撃すると、一斉に東に逃げていく。


「たわいない者達じゃ。一斉に槍衾に飛び込めば乱戦に持ち込めたものを……」

「所詮、輜重兵という事でしょうか? 構えもなってはいませんから農民を徴用したのでしょうね」

 

 バルツさんもそんな感想をもらしている。

 訓練された兵と、間に合わせの兵の違いなんだろが、俺には一斉に抜かれた長剣は恐怖そのものだったぞ。


 頭上から松明が投げられた。荷車の左右に分かれてバルツさん達を先頭に東に歩き始める。

 荷車の下まで松明で確認しながらだから、ご苦労さまの限りだ。

 数台目を過ぎたころから、前方より争う声と金属が打ちつけられる音が聞えて来る。


「頑張ってるようですね」

「だが、基本は我らと同じ。槍で牽制し石弓で討ち取る。じゃが、あれは乱戦に持ち込まれたようだな」


 乱戦になっても石弓は有効だ。少し離れた場所から確実に兵を倒しているだろう。崖の上からもボルトが飛んで来るから、荷馬車の進路が遮断された時に、彼等の運命が決まったも同然なのだ。

 荷馬車が残り3台となった時に前方から聞こえてきたのは、ザイラスさん達の勝どきだった。


「終わってしまいましたね」

「我は一度も敵兵の相手をしておらぬぞ!」


 アジトで待っていた時よりも、王女様の機嫌が悪くなってるぞ。

 あまり近付かない方が良いのかも知れない。


「ご無事でしたか!」

「次は我らが先頭じゃ。後衛はおもしろさが無い!」


 ザイラスさんへの返答がツボにはまったようで、忍び笑いが覆面から漏れている。

 別の被害が出ない内にさっさと引き上げよう。

 ザイラスさんにひそひそと話をすると、大きく頷いて、部下に指示をてきぱきと与え始めた。

 さて、俺達も引き上げるか。

 荷馬車の積荷は後で教えて貰えるだろう。


 王女様達と一足先にアジトに戻ると、マリアンさんがお茶を出してくれる。

 ホッと一息ついたけど、3人を殺してしまった。殺し合うのがこの世界では当たり前なのかも知れないが、俺が育ったところでは殺人罪だよな。

 もし帰れたとしたら、近くの交番に自首すべきなんだろうけど、果たして信用してくれるかどうか……。


「どうした? 沈んでおるな」

 俺がいつになく沈んでいるのを王女様が見とがめたようだ。

「ええ、……何と言ったらいいか。今夜、始めて人を殺したんです」

「いつまでも覚えておくが良い。その心がある限り、お前は悪人になれん。人を殺して何も感じぬようでは、兵士と同じじゃ」


 兵士って事は、軍隊って事だよな。確かに人殺しに一々俺のような呵責かしゃくを感じるようでは負けてしまいそうだ。


「それに、奴隷や手枷を付けられた者達を開放できるのだ。あのまま街道を行けば処刑される者達もおったであろう」

 思わず、俯いていた顔を上げて王女様を見た。俺の視線に小さく頷いている。

 荷馬車を大まかに確認したようだ。俺は敵兵がいつ飛び出してくるかとヒヤヒヤだったのだが。


 お茶を飲み終えた頃、ザイラスさん達が分隊長を率いて帰って来た。

 崖の上で石弓を使っていた4人は俺達より早く引き上げてきたようだ。夜も遅いからすでに寝床に入っている。


 ザイラスさんが席に着くと、今度はワイン出て来る。

 美味しそうに一息で飲み干したカップに、魔導士のお姉さんがワインを注ぎたしている。


「どうやら、税を払えぬ農民と家の改めに反抗した家具職人一家のようです。護送の指揮を執っていた一家は貴族の端くれでした。敵方の王国に付いたようです。私兵を10人持っていたようですが……」

「それで?」

「王国に反旗を持った者の罰の内、一番軽い措置を取って逃がしました。我らの顔が分かりませんから殺すまでの事はありません」

「さて、どうなるものかな? 銀貨5枚ではのう」


 テーブルの連中は、その話に顔がほころんでいる。

 殺しはしていないようだ。それに銀貨5枚を与えたという事は当座の暮らしを考えたものだろうが、それを笑うという事は、自分達の境遇と比較して過酷な刑だという事になる。

 いったいどんな刑を執行したんだろう?


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[気になる点] 武器の相違があまりなければ、ランカスター法則で俺達が大敗してしまうのは見えている。 → ランチェスターの法則では? 誤字ではないので
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