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SA-008 襲撃すると仲間が増える


 人数が増えたが、計画にはまだまだ足りない。

 ネコ族の12人は俺達の仲間になって、偵察と監視を受け持って貰っている。

 廃村の道筋と崖の上に2人ずつ付いて貰ってるが、廃村側の山道では時々獲物を持って帰って来る。

 ネコ族は猟師の集団らしいから、ある意味適正が高いという事になるんだろうな。

 ネコ族の男達3人が偵察部隊として、ふもとの村近くまで足を延ばしてくれる。

 さすがに村に入ることはしないが、それでも兵達の状況が分かるから、数日おきの偵察はありがたい話だ。


「やはり、武器は槍と斧ですか……」

「長剣を使いたいのは理解できますが、アジトで練習するだけにしてください。まだまだ人数が足りません。敵が1個小隊で来たら、あえなく全滅する可能性だってあるんです」


 ザイラスさんにそう告げたけど、中々あきらめきれない過顔をしている。

 ドワーフ達は、炭焼きをしようと計画しているようだが、あれは煙が出るんだよな。

 上手く拡散させる方法が見つからないうちは許可できない話だ。それでも、輜重部隊の運んでいたタルに大量の炭があったから、それを渡して武器を作って貰っている。

 食料は、荷車を分解した木材を使って仮小屋まで作るほど大量に手に入れた。俺達の人数なら一か月以上食い繋げるだろう。


 輜重部隊を襲撃してから10日程経ったが、街道に現れたのは農民だけだった。4家族を保護して、廃村での開拓をお願いすると快く引き受けてくれた。

 ネコ族の1家族が監視要員として廃村に同行して貰っている。一緒に家つくりや開拓を楽しんでいるらしい。

 収入の当てがあるなら俺達も移動したいが、何といっても山賊で稼がないといけないからな。ここは良い狩場だと思ったのだが……。


「どちらからも街道にやって来ないな」

「海路という事もあるのでしょうが、それなら別の王国の領地を通ります。やはり、この尾根の街道を使った物資の移動が無いと、隣国を亡ぼした利益が全くないですからね」


 長剣や槍の練習をしているのに飽きてきたようだな。

 だけど山賊は縄張りに獲物が来るのをじっと待つ業種だから仕方がないんじゃないか? 盗賊なら積極的に獲物に襲い掛かることができるけど、王国再興を忘れて盗賊団として有名になりそうな気がするから、ここは黙っていよう。


「そう言えば、変わった弓をドワーフが作っていたが、バンターが頼んだのか?」

「ああ、石弓ですね。そうです。とりあえず3個作って貰おうと思っています。極めて強力ですよ。難点は次の攻撃に時間が掛かるんですが、誰でも弓の名人になれます」


 俺の言葉にピクリと眉を上げたのは王女様の釣れてきた魔導士の1人だ。

 魔導士の杖も持って入るのだが、山賊の仕事をする時には弓矢を担いでいるんだよな。その腕は確かに一流だ。俺も助けられたことがある。


「弓は簡単ではありませんよ?」

「それは俺も分かってます。ですから弓を加工してるんです。飛ばす矢はこれなんですけど……」


 先行して作ったボルトと呼ばれる石弓の矢をテーブルに乗せると、直ぐに王女様が興味を示して手に取った。


「確かに矢であろうな。ヤジリも付いておるし、後ろには羽も付いておる。だが、少し短くないか? レイザンの持つ矢の半分も無いぞ!」

 後ろの魔導士の1人にボルトを渡している。


 レイザンさんというのか。ジッとボルトを見て観察している。

 癖のない金髪に整った顔立ちは、カメラがあれば良いモデルになれるだろうな。手に持ってジッと見つめているのが花では無いのが残念だ。

 やがて、身を乗り出してテーブルにボルトを戻してくれたので、急いでバッグに入れておく。


「投げて使うのでしょうか?」

「いや、変わった仕掛けの付いた弓をドワーフが作っていた。あれで撃つのであろうが、問題はその威力……」

「金属鎧を突き破れますよ!」

「何だと!」


 今度はザイラスさんが大声を上げた。

 思わず立ち上がって叫んだことに恥じ入って、王女様に頭を下げて腰を下ろしてる。


「矢の威力は何で決まるか。これを考えたことがあるでしょうか? 矢の威力は矢の重さと弓を離れた時の速度によって決まります。強弓と呼ばれる、力のない者に引けないような弓が放たれた時の威力はそういう事に由来します。俺が作ろうとする石弓は左右の腕を伸ばして引くこともできぬ弓です」


 王女様の退屈しのぎにはなったかも知れないけど、このまま獲物がやって来ないと、本当に盗賊でも始めかねないぞ。


 そんないらいらした王女様に、質問をすると色々と答えてくれる。

 ある意味暇つぶしなんだろうけど、俺にとっては都合が良い。敬語を上手く話せないのは、図書室の奥で暮らしてたような者にきちんとした言葉使いが出来るわけがないと言ってたから、言葉使いで不敬罪を問われることは無さそうだ。


 周辺の王国に付いて質問した時は地図を使って説明してくれたし、魔法に付いて聞いた時は、外に出てその効果まで教えてくれた。

 魔法が使えるように、魔法を刻んであげようか? という話になって、喜んで頷いたら、マリアンさんに上半身を剥かれてテーブルに押さえつけられた。まさか、ナイフで体に魔法の発動紋を刻むとは思わなかった。かなりの激痛だったぞ。

 そのおかげで、身体強化の2割増しという【ガッツ】と、対処物の汚れを取ると言う【クリーナ】の魔法が使えるようになった。

 派手な攻撃魔法は、更なる激痛があるってザイラスさんに脅かされて止めたんだけど、4人の娘さんは使えるみたいだから、それほどじゃないのかも知れないな。

 その魔法だって、1日に3回という話だったから、やはり俺には向いていないのかも知れない。


「人間で魔法の使用回数が3回と言うのは初めて聞くぞ。ネコ族でさえも5回以上は使えるはずだ」

「戦に向いていないという事だな。まあ、我等の相談役に納まっておれば、それほど危険な目には合わぬだろう」


 そんな話で盛り上がるんだから、困ったものだ。

 夜になると、街道を歩く農民を保護することも多くなった。

 輜重部隊を襲撃してから20日程で8家族に廃村の住人が増えている。

 クワや鎌を背負いカゴに入れて、なけなしの食料と着替えだけで街道を歩いて来る。

 どうやら、重税を課したようだ。俺達が食料を奪ったのも効いているのだろう。


 ドワーフが作ってくれた石弓は予想以上の威力だ。敵兵の着ていた胸だけの金属鎧を2枚重ねても30m程の距離ならば貫通してしまう。

 撃つのが少し面倒ではあるけど、阻止能力としては十分だとザイラスさんも認めてくれた。

 俺と魔導士の女性が持つことでとりあえずは納得してくれたけど、将来は1分隊を石弓隊にしたいと思っている。


 全く獲物が通らないので、皆のいらいらが頂点に達しようとしていた時だ。

 扉が乱暴に開き、通信兵が大声で叫んだ。


「西から荷馬車の隊列です。約15台。ゆっくりと進んでいます!」

 直ぐに立ち上がろうとした面々を慌てて呼び止める。


「待ってください。少し頭を冷やしてからでも遅くありません。問題はあえてゆっくりと見張りが強調した点です」

「荷馬車ならそれ程遅いはずがない……。徒歩の軽装歩兵が随行してるという事か?」

「まず、間違いないでしょう。襲撃方法を少し変えねば俺達が危ないですよ。通信兵に、松明がどのように並んでいるか確認させてください」


 直ぐに烽火台からの返事が帰って来た。

 テーブルにカップを並べて配置を確認する。

 松明の後ろにランプが並んでいると言うから、先頭に1分隊がいるって事だろう。ランプが連なった後ろの松明が何本かあるって事は、荷馬車の後ろに2分隊以上が存在するという事だ。


「襲撃はかなり危険ですよ。どうします?」

「戦利品を運ぶ荷馬車なら襲うに決まっておろう。して、作戦は?」


 実行するって事だな。

 この場合は荷馬車と後続の兵士をどうやって分断するかに掛かってる。

 実行部隊の数は増えたけど、素人だっているのだ。


「ザイラスさん。1組で先を行く兵士を潰せますか?」

「何とかなる。だが、場合によっては長剣を使うぞ!」

「槍を投げてからなら良いでしょう。最初は槍ですよ!」


「問題は後続をいかに分断するかですが、崖から石を落しましょう。矢を射かければ、あえて突撃する者はいないと思います」

 皆が頷いて席を立とうとした時、ネコ族の男達とドワーフの男が入ってきた。

「わしらも一緒だ。少しは気も晴れるじゃろう」


 人数が増えるのは良い事だ。直ぐに街道に向かって走り始める。

 ぐずぐずしてるとやって来るからな。ザイラスさん達は崖を下りると街道を走って行ったぞ。

 俺達の隊はバルツさんの部隊と王女様達だ。崖の上に2人の魔導士とネコ族の猟師それにリーゼルさんが待機する。

 石はあらかじめ運んであるから、リーゼルさん達が落してくれる手筈だ。その後で、矢と火炎弾を浴びせられれば、2個分隊なら止まる筈だ。


「我等は石が落ちてから出るのだな?」

「そうしてください。相手が多いですから飛び込まれないようにお願いします」


 離れているなら、石弓で少しずつ削れるだろう。ボルトは各自6本持っているから、全部使えば全滅させられるんじゃないか?

 

 南のがけ下の藪に身を隠す。すでに石弓の弦は引いてあるから、ボルトを咥えてその時を待った。

 人の話し声が聞こえ、その後ろに長くガラガラと車輪の音が聞こえてきた。

 いよいよだ。ゆっくりと進む車輪の音を数えながら、襲撃の時を息を凝らして待った。


ドスン! ドスン! と背中に振動が伝わって、何かが爆ぜる音が聞こえてきた。

「待ち伏せだ! 崖の上にいるぞ」

 隣を見ると、王女様がジッと俺を見ている。大きく頷いて石弓を持って立ち上がると、10m程先の兵士に向かってトリガーを引いた。


「ウオオォォ!」

 俺の声を合図に皆が一斉に躍り出る。崖の上からは数人の男達が滑り降りてきた。

 道幅一杯に槍衾を作って、石弓で確実に倒していく。

 崖の上からは矢と火炎弾が兵士達の上に落ちるから、たちまち総崩れになって敗走して行った。

 次はザイラスさんの方向に横一列で移動する。

 荷馬車の列の間を逃げてきた兵士は、マリアンさんのフライパンの餌食になってたぞ。


 襲撃時間は15分も無かったんじゃないか?

 兵士達の装備を剥ぎ取り、荷馬車の中身を確認する。


「おどろいた。子供達じゃないか!」

「身売りでしょうか。恰幅の良い商人とその配下が数人おりましたぞ」


「早く出してやれ。ぐずぐずしてはおられんぞ。リーゼル。南の工作を頼む!」

 数人が南の森に何個かの袋を担いで去って行った。

 子供達は生気を無くした顔をしているが、ちゃんと食べれば少しずつ良くなるだろう。

 30人以上の子供達を保護し、商人の日用品を奪い取って俺達はアジトに引き返した。

 


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