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SA-007 食料強奪は相手を良く見て


 輜重しちょう部隊は主に食料を運搬する部隊だ。弓矢のような使い捨ての武器も運搬してるのだろうが、すでに攻め入った王国は滅んでいるのだから武器の運搬よりも食料に重点が置かれているに違いない。

 問題は、仮にも軍隊に組織化された部隊であると言う事になる。

 輜重兵はまがりなりにも兵士なのだ。最初に襲った奴隷商人らしき車列とは明らかに異なる。


「輜重兵ならそれ程訓練は受けていまい。多くは周辺の村人が動員されているはずだ。指揮を執る連中も第一線を引退したか、そこでは使い物にならない連中だからな。護衛だって精々2分隊だ」

「狙うに問題はないということか?」

 王女様の言葉にザイラスさんが頷いている。


「荷馬車の口取りに1人。護衛を20人として、荷馬車の隊列が15台以下であれば襲撃も可能でしょう。護衛は前後に展開している筈ですからね。ですが、15台を超えるのであれば、護衛の部隊が2分隊とは限らないでしょう。襲撃は取りやめです」


「まあ、良い判断だな。俺も賛成だ。やり方は先ほどと同じで良いだろう。今度は俺達が西になるが、南に逃げられたら厄介だ。その辺りはリーゼルに任せるぞ」

「我は、後ろで良いのじゃな。先ほどはマリアンに出し抜かれたが、今度は我の番じゃ!」


 王女様がやる気を出しているから、マリアンさんが呆れているぞ。

 だけど、マリアンさんがいれば後列は安心できるな。

「今度はワシも一緒だ。武器は……。おい若いの。その斧を貸してみろ!」

 俺の事か? 目が合ってるから俺だろうな。渋々手斧をベルトから引き抜くと後ろにいる騎士の1人に渡して彼に届けて貰う。

 手斧を受け取ると、刃先を眺めながら頷いているから結構良く出来た物なんだろう。

 酒をお茶に替えて、知らせを待つ。


 中々知らせが来ないところをみると、今夜は野宿でもしたんだろうか?

 そうなると、食料の入手を別な手で考えないといけないな。

 数人で村に行って食料を買い込むのは、長いスパンで考えると不信感を持たれそうだ……。


 突然、乱暴に扉が開かれると通信兵の若者が飛び込んで来た。

「烽火台からの知らせです。街道を東から松明の列が昇って来るそうです。数はおよそ20個。その他は不明との事です」

「場合によっては補充兵とも考えられそうです。兵の数が多ければ崖の上で合図をして貰う必要がありますよ」


「見張りに任せよう。あの岩の上でランプを掲げれば良い。それで俺達は襲撃を断念する。王女様達も、襲撃の声が聞こえない時は大急ぎで避難してください」

「うむ。相手を見て戦をせよとは。父君が良く口にする言葉であった。それを実践するにやぶさかではないぞ」


 そんな王様がいても王国は敗れたんだよな。色んな戦訓があるから、現状に合った言葉を素早く応用していくことが肝心なんだろうな。


「さて、出発じゃ。夜じゃから、早めに向かわねば間に合わぬぞ!」

 王女様の言葉で一斉に立ち上がり、南に向かう小道をひた走る。

 崖をハシゴで降りて、街道を横切り崖を滑り下りると今度は東に向かう。


 ハシゴと封鎖用具を探して、直ぐに持ち出せるように準備をしていると、東の方に灯りがちらほら見えて来た。


「やってきます。もうすぐここを通りますが、やはり輜重部隊のようです」

「よし、ちゃんと隠れていろよ。俺達の出番は奴らが通った後だからな」


崖の近くにある薮に身を潜める。何人かは少し離れた木立に身を潜めて、俺達に簡単な動作で街道を通る部隊の動きを伝えてくれる。

 ガラガラと言う車輪の音が段々と近付いて来る。木立が松明で照らされてきたから、かなり近くまで来たようだ。

 頭の上を通る車輪の音で、荷馬車が何台かも分かるぞ。どうやら12台というところだ。ザイラスさんの話では、使い物にならない兵士が2分隊と言っていたな。それでも兵士なんだから俺よりは遥かに腕が立つに違いない。

 前と同じにこの槍を突き出してジッとしていよう……。


 やがて車輪の音が遠ざかり、周囲に再び闇が訪れる。

 山道の街道は九十九折だから直ぐに姿が見えなくなるのが良いな。

 街道に誰もいない事を頭だけ崖から出して素早く確認する。片手を上げて合図を送ると、皆が次々と姿を現し、阻止用具を街道に担ぎあげた。

 ハシゴで街道に上がり、西と東に見張りを出す。


「全く退屈せぬのう。もう少し早く、山賊を初めても良かったように思えるぞ。山賊の頭を城に呼び寄せ、正しい襲撃の仕方を教えて貰いたかったとつくづく思うておる」

 そんな事を言うからマリアンさんが呆れているのが覆面をしていても分かってしまう。


「さすがに将来山賊で暮らしを立てると言うのは、国王が許さないと思います。ですが、見方を変えればそれに近い兵種を育てる事は可能ですよ」

「ほう、ちなみに何という兵種になるのだ?」


「2つあります。山岳猟兵部隊と浸透部隊ですね。大きな違いは作戦地域です」

「山岳というからには、山での戦に秀でた集団という事だな。浸透とは?」


「村や町に潜んで、敵兵とは直接交戦を極力避け、敵の屯所や食料庫を破壊する部隊です。ですが、一般領民に紛れ込みますから、一般領民に害が及ぶ可能性が出てきます」

「なるほどのう。騎馬兵と弓兵、それに軽装歩兵だけではないということか。我も、もう少し城で本を読むべきであったかも知れんのう」


 そんな王女様の言葉にマリアンさんが頷いているって事は、あまり城に滞在しないで野山を走り回ってたって事か?

 俺は王女様の後ろにいた方が安全かも知れないな。


 遠くでトキの声が上がる。

 どうやら始まったみたいだ。


「全て攻め入った王国の連中です。武器を上げる者は抹殺で対応してください!」

「無論じゃ。良いか一人も生かして帰すでないぞ!」


 俺達は義賊なんだぞ! と言ってもこの状態では無理だろうな。

 王女様の言葉に全員が大きく頷いているし。


「阻止用具の左右に分かれてください。馬車が引き返して来たらはさまれます!」

「魔導士は阻止用具の後ろで援護じゃ。武器を持つ者だけ前に出よ!」


 松明が1本こちらに向かってくる。

 どうやら逃げ帰ってきたようだ。確かめもせずに騎士の1人が崖から身を伸ばして槍を突き出した。

 その場で倒れたから一撃で絶命したんだろうな。鮮やかすぎるのも問題かも知れないぞ。

 数人が続いてやってきたが前にいる分隊の6人が血祭りにあげてしまった。

 段々と王女様がイラついて来たのが分かる。一人位、残してくれないと俺が刺されそうだぞ。


 ガラガラという音が近付いて来る。

 俺達が崖に身を寄せると阻止用具に盛大に荷馬車が激突した。衝撃で馬具が外れたのだろう。動かない足を1本引きづって馬が街道を東に向かった。 


「おうりゃ!」

 勇ましい声に振り返ると、何人かの兵士達を相手に王女様が戦っている。騎士達も懸命に槍を別な集団に振るっている。

 俺も飛び込んで行ったが、槍を突き付けて牽制するだけだ。

 次々と火炎弾が後ろから敵兵に向かって爆ぜると、怯んだところに王女様の槍が突き刺さる。

 そんな中、火炎弾を掻い潜って王女様に剣を向けようとした兵に、思わず持っていた槍を投げた。

 横腹に突き立った槍を見て男が俺を睨んだが、その隙に王女様が止めを刺したようだ。


 武器を持たない俺に向かって来た兵士にマリアンさんのフライパンが顔面に命中する。頭が完全に背中に付いていたから、頸椎を折ったかも知れないな。恐るべき威力だ。


「これを!」

 放ってくれたのは長剣だったが、俺には使い方さえ分からない。とりあえず肩に担いで、敵兵に目を向けると、怖気づいてくれた。

 そんなちょっとした動作が、命取りになる。横から騎士が素早く槍を突き入れた。

 バタバタと走り込んで来たのは味方の連中だ。どうやら、慌てて後ろに逃げ出したらしい。


「ご無事でしたか?」

ゆっくりと歩いて来たのは、ザイレンさんだ。

王女様の姿に少し安心したのか、ホッとした目で王女様を見ている。

「中々に楽しめたぞ。バンターも使えるな。もう少し、訓練が必要だ。その辺りはザイレンが面倒を見てやれ」


「分かりました。それで、次は?」

「少し工作が必要です。荷車の1台に前と同じように亡き骸を積んで東に向かわせましょう。阻止用具は隠して、ハシゴはぞんざいに投げておけば良いです。

 前に、南の尾根に焚き火の跡を作りましたね。もう一度、その場所に大きな焚き火を作ってください。食料をばら撒き、周囲を踏み荒しておけば勝手に解釈してくれます」


「カイナン、南の工作を頼む。念入りにやっておけよ。だが夜明けには帰るのだぞ!」

「了解です。酒は残しておいてください」


 後は、奪った食料の移送だな。背負える分だけ持って行くしか無さそうだぞ。

 崖の上からロープを垂らして、布袋やタルに入った食料を崖の上に運んでいると、10人程を連れた騎士が俺達のところにやってきた。

「先ほどの馬車にいた者達ですが、輜重兵とは違いますので捕縛しておいたのですが……」


 どんな奴だ? と思ってよく見ると、猫耳に頬からピンとした髭が伸びている。どう見てもネコと人間のハーフに見えるぞ。尻尾も伸びているけど、力なく下を向いている。


「ネコ族の者達だな。我らの戦には係わらぬ者達だ。解放してやれ。……済まぬな。我らの争いに巻き込んでしまった。好きなだけ食料を持って種族の元に帰るが良い」

「俺達が、種族から離れて20日以上も経つ。すでに所属は別の場所に移っているだろう。

争いにケリが付いて、山に再び我らの種族が戻るまで置いて貰えぬだろうか? この部隊なら、我らに矢を射かける者はいないだろう」


「どうやら、ネコ族を攻撃して捕虜として使われてきたようだな。我らは一人でも欲しいところだが、一応、山賊だぞ」

「今は山賊だろう。あれだけ訓練された動きが山賊にできるわけがない」


 思わず、ザイラスさんと顔を見合わせてしまった。

 もう少し、山賊らしく振る舞わないと見破られそうだ。


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