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SA-006 さあ、仕事を始めよう


 烽火台に3人、崖の上にある岩の影に3人だから、根城に残ったのは30人足らずだ。いくらなんでもマリアンさん達には向いているとは言いがたいので、実質の襲撃は20人と言うところだろう。

 街道での山賊行為なら十分に可能だ。


「良いですね。絶対に騎士と感づかれないようにしてください。個人名は禁止します。愛称やあだ名で呼び合ってください。丁寧な言葉づかいも無用です。簡潔に要点だけ伝え合ってください。

引き上げは南に向かいます。森の入り口で止まり、崖の上からの光信号で梯子を上って帰ります」


 あまり納得していないな。一度練習しないとダメかも……。

 そんな事を考えていると、マリアンさんが皆にお茶を入れてくれた。

 覆面を外して、お茶を頂く。


「いよいよじゃな。我はこの槍で良いのじゃな?」

「ヤグーと一緒に、後ろで全体を見てください。逃げだす者がおるやも知れません」


 ザイラスさんが丁寧に戦力外通知をしているけど、王女様はやる気満々のようだぞ。

 武器は槍が主体だが、3人は弓を持っているし、手斧をベルトに挟んだ者までいる。

 形は山賊らしく見えるけど、最初の襲撃は夕刻が良いな。

 だけどこればっかりは相手次第だからな。


 全員がニヤニヤと笑みを浮かべているのが、ちょっと不気味ではある。

 ひょっとして、盗賊をやったことがあるのだろうか?

 ふと、王女様の隣に座る女性に目が行った。同行者が7人と聞いていたから、その中で攻撃魔法が使える女性を人選したのだろうが……、乳母のマリアンさんまで入っているぞ。お揃いの衣装だから間違いなく参加するつもりだ。

 メタボな体形だからザイラスよりも貫禄があるな。

 魔法が使えたのだろうか? 王女様もお転婆そうだから、必要に迫られて覚えたのかも知れないな。


「手向かえば殺すという事で良いのじゃな?」

「手向かう者、影から矢や魔法で攻撃しようとする者に、情けは無用です。武器を棄てて投降する者はひとまとめにして、尋問の後で街道に解き放ちます」


「尋問は? 俺とザイラスさんで行うつもりです。我らに従うか否かを確かめるのは、仲間が一緒では問題もあるでしょう」

「そうだな。俺も賛成だ」


 ワクワクしながら皆は待ってるんだけれど、お客が来ないのではどうしようもないな。

 昼も過ぎて、今日は開店休業かと思っていた時だ。

 バタンと急ごしらえの扉が開くと、騎士が飛び込んで来た。通信兵を命じられた若い騎士だな。


「やってきました。西からです。馬車が3台。警備は確認出来ぬと。先頭が袋積み。真ん中には檻、後は荷車ではなく乗用馬車とのことです」


 全員が一斉に席を立つ。


「行くぞ! 我らの初仕事であるとともに王国再興の第1歩だ!」

「「「 オオォ!」」」


 ザイラスさんの言葉に部屋に集まっていた全員が唱和した。

 改めて覆面を被り、得物を持って外に飛び出し、南への小道を走っていく。遅れないように付いて行くのがやっとだ。

 やはり、訓練しないとダメなんだろうな。とりあえず1日30分程歩く事から始めよう。


崖の上の3人にその後の状況を確認する。

「荷馬車1台が故障したようです。後ろの馬車で数人を確認したと」

「という事は、3台で10人程度の兵もしくは用心棒という事だな。カイナンは俺と一緒に東だ。9人で馬車を止める。バルツはバンターと王女様を連れて西で逃げて来る連中を待ち伏せしろ。リーゼルは6人だったな。街道の南で状況を見て参戦してくれ。以上だ! 質問は?」


 ザイラスさんの問いに全員が頷く。

「絶対に、名前を言わないで下さいよ。騎士であることは、アジトに帰るまで忘れてください!」

 もう一度、俺が念を押しておく。

 何と言っても初めてだからね。場合によっては、全員を殺すことになってしまいそうだ。


 崖から、ハシゴを2本下ろして素早く街道に降り立つと、直ぐに南のがけ下に滑り降りる。そこで左右に分かれて進めば、封鎖用具の傍にハシゴが待っている。


 西に向かって300m程進むと崖に三角の骨組みをした丸太が立て掛けられてあった。

 丈の長い草に埋もれているから、街道から見下ろす位では見つかることは無いだろう。例え見付けてもこの道具の使い方が分かる筈もない。

 梯子も近くに置いてあるが、3mにも満たないものだ。

 横に並んで2m程のがけ下にあるやぶに身を隠す。


ガラガラと車輪が街道を進む音が遠くから聞えて来た。

身を乗り出しことなく、車輪の音が通り過ぎるのをひたすら待つ。

音が近づき、頭の上に来たかと思うと、ゆっくりと遠ざかって行った。

急に音が小さくなったのは崖の曲がり角を過ぎたのだろう。


ゆっくりと体を起こして街道を覗く。やはり通り過ぎたようだ。

片手を振って、街道を指差す。

ごそごそと音がするのは封鎖用具を皆で持ち上げているのだろう。

ガタンと音がしたところをみると、無事に街道に持ち上げられたようだ。直ぐにハシゴが掛けられ、俺達は街道に出た。

封鎖用具で街道を塞ぐと、その前に手製の槍を持って立つ。

さて、何人位逃げて来るかな?


「来るでしょうか?」

「奴隷を持ち帰るような連中ですからまともな者はいないでしょう。自分の命を惜しむならこっちに逃げてきますよ」

前に立つバルツさんが俺に振り返って聞いてくるけど、俺だって本当のところは良く分からない。でも、そう言っておけば騎士の人達は安心するんだろうな。


阻止用具の直ぐ前に魔導士が立ち、その前に俺と王女様とマリアンさんが立つ。俺の前には騎士達8人が立っているから、俺まで順番が回って来るか疑問だな。

それでも向かってきたら、槍を突き出せば向こうも飛び込んでは来れまい。


「「ウアアァァ……」」

 東から叫び声と金属音が聞えて来た。どうやら始まったようだぞ。

カシャカシャという甲冑の音が聞えて来た。

人数的には3人ってところかな?

前衛が槍を構える。そうとは知らずに崖の影から突然3人の男が現れると、俺達を見て驚いて立ち止ろうとしたのだが、坂道を駆け下りてきた身体が急に停止できるわけがない。1人はどうにか止まったが、2人は前のめりに街道にひっくり返ってしまった。


「「ウオオォ!」」

 前衛が突っ込んで甲冑の隙間に槍を突き入れる。

 残った1人が俺に向かって走ってきたから急いで槍を突き出した。

 長剣を頭上に構えて俺に飛び込もうとした男に、後方から火炎弾が飛んで弾ける。

 ふらついた男にマリアンさんが振るったものは、フライパン?

 ばたりと倒れた男に止めを刺したのは王女様の槍だった。

 

 とんでもなく強い乳母さんだな。これは日頃の行動に気を付けねば……。

 男達の使えそうな武具を奪って、用意した布に包む。封鎖用具と梯子は崖の下に落とすと、3人が崖を下りて草むらにハシゴと一緒に隠している。


 そのまま、街道を上っていくと、檻から捕虜を救出しているところだった。

 俺を手招きしているのはザリオンさんだろう。急いで傍に歩いて行く。


「3人程、逃げたようだが?」

「俺以外の人達がちゃんと始末しました。後は檻の中の連中の扱いですね」

 

「貴族の娘が2人に少年が3人。それと職人の一家が2家族だ。全て俺を知る者達だから、ここで俺の顔を明かして、我らに引き込みたいのだが……」

「ザイラスさんの判断で良いと思います。できれば王女様にも了解を取った方が良いでしょう」


 俺を残して、ザイラスさんが王女様のところに向かった。

 ザイラスさんが見込むほどなら問題は無いだろう。馬車は欲しいが維持できないからな。使えそうな物を下して、崖の上にロープで上げる。亡き骸は檻に押し込んで馬の尻を叩くと、街道を西に向かって駆けて行った。

 襲撃がばれないように、血だまりに砂を撒いておけば、初仕事は無事に終了って事になる。

 皆で荷物を背負い意気揚々とアジトに引き上げる。


 アジトに戻ると、夕食の準備をマリアンさん達が始めた。

 分隊長達はニヤニヤしながら獲物を確かめている。

 数本の酒ビンがあったようで、俺達はテーブルに座って少し早めに飲み始めた。


「最初は上手くいったな。仲間も15人以上増やすことができた。少年達には見張りをして貰えるし、少女達には食事の支度を手伝って貰える。それに、早々と工房が開けそうだ」

「工房?」

「職人はドワーフ達だ。金属加工はお手の物だ」


「わしが、職人のリーダスじゃ。家族ごと世話になるぞ。もう1家族はワシの知り合いだ。一緒にお前さん達を手伝う事にした」


 声の主はテーブルの端に座っていた人物だ。子供位の背丈で髭面、筋骨たくましい姿は正にドワーフそのものだな。という事はその能力も俺の知るドワーフと同じって事になる。これは助かるぞ。


「甲冑が5体分。服が20着に長剣が6本。弓が2セットに短剣が6本です。食料は10人で2日分。酒のビンが7本に現金が13,000レクと言うところです」

「食料と酒はマリアンさんに、武具はリーダスさんで良いだろう。初回は上手くいったな。次はいつになるか分からないぞ」


「それだが、町を出る時に兵糧を運搬する部隊と、街道ですれ違うと言うような事を言っていたぞ」

 リーダスさんが髭をしごきながら呟いた。

 街道の途中で野宿をするんだろうか? それとも真っ直ぐに西に進むのか……。


「真っ直ぐ西に向かうとすれば、深夜に襲撃場所付近を通るという事になる」

「問題は輜重部隊の編制です。馬車が3台と言うことは無いでしょう。どう考えても10台位は無いと進軍した兵士に行き渡りませんよ」

「電撃戦で王都を囲まれた。たぶん3個大隊。約3千人と言うところだろう。一人の配給を1日あたり四分の一G(ガル:1kg)とするなら、750Gが1日の必要量だ。征服した王国の穀倉を開く事も可能だが、奴らは穀倉に火を放った。町村からの略奪が始まるぞ」


 どうやら、荷馬車10台と言うのは、標準的な輜重部隊の車列らしい。1台に乗せる食料は100G(400kg)と言うところだろうか? 10台だとすれば無理をしても5tに満たないって事だ。

攻め込んだ部隊の必要量の1日半って事じゃないか!

これは、民衆の不満が出て来るぞ。


「一か月も経たずに部隊の半分を返さねばなるまい。かつての王国の投降兵をどうするかも問題だろうな。多数の部隊を返すとなれば反乱を抑えきれないし、隣国の王国の干渉も考えねばなるまい」

「なら、それを早めるためにも、荷を奪う事になりますね。基本は昼間と同じです。捕虜の運搬が失敗したことを知っても、夜に討伐部隊を放つことは無いでしょう。食料をたっぷり頂ければ、しばらくはなりを潜めることもできます」


 夜の襲撃には明かりが必要になる。

 松明を用意しようと言うと、魔法で照明球を作る事が出来ると教えてくれた。

 魔法はかなり便利に使えるようだ。種類と俺にも使えるかどうか教えて貰おう。


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