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SA-004 峠の屯所はアジト向き

 廃村って聞いてたけど、村の跡なんてどこにもない。ススキのような背丈の高い草が生い茂っているだけに見える。

 皆の後に付いて歩いて行くと、少しずつ生活の跡が見て取れた。

 崩れた井戸の石組や、一抱えほどある石が四角に並べられていたりする。朽ち果てた柱が転がっているし、少し離れた場所にはや並んだ木々に新芽が芽吹いている。果物が取れるんだろうか?

 確かに廃村だ。しかも廃村になってからかなりの年月が経っているぞ。


 本来はここで休息を取るつもりだったようだが、先ほど長い休息を取ったから、このまま行軍を進めるようだ。

 東に向かうのかと思ったら、少し進路を南に取っている。

 野原を過ぎるとこんもりとした森が俺達の行く手を阻む。その森のきわに雪ダルマのような丸い岩の上に小さな岩が乗っている。

 どうやらそこに向かって進んでいるようだ。

 

 ダルマのような岩まで100m程に近づいた時、岩の後ろから1人の騎士が現れた。

 そのまま列に加わり、ザイラスさんに何事か告げている。

 俺を呼ばないところをみると、烽火台には異変は無いようだな。

 

獣道のような小道が続いている。これが間道なのだろうか? そんな道をたどって、低い尾根を2つほど超えると2m程の低い崖に出る。

崖の下は広場のようだ。石を積み上げた小屋が奥に見えた。どうやらここが烽火台の屯所らしい。


 ザイラスさんが口笛を吹くと、小屋から騎士が走って来る。

 崖ににわか作りの梯子を掛けてくれたので、それを伝って下の広場に下りて行った。

 ラバは丸太を並べた坂道を下している。中々言う事を聞いてくれないようだけど、らばだからねぇ……。


「烽火台に監視を出せ。それと、街道をから屯所に来る道にもだ!」

「屯所の中は?」

「一応片付けてあります。【クリーネ】を使いましたから、王女様達のお休みには問題ないかと」

「バンターも、来い!」


 ザイラスさんに付いて小屋に入った。

 扉はさすがに使い物にならないが、石作りの壁や天井に問題は無いようだ。

 そこは広間になっていて、10人以上一緒に食事が取れる大きなテーブルと暖炉がある。椅子はベンチのようなものだがまだ使えそうだな。

 チリ一つ無く、綺麗に掃除がされている。2人で頑張ったのかな?


 部屋の奥に扉がある。こちらはどうにか原型を保ってるぞ。

 ギィー……と油の切れた蝶番が音を立てて扉が開くと、奥にも通路が伸びている。3つ右に扉があるから小部屋があるんだろう。

 分隊長の部屋と兵隊の寝所って感じだな。1つを覗いてみると、中にはベッドの残骸があるだけだった。


 一旦、広間に戻ってテーブルに着く。

 乳母だと言っていたおばさんが暖炉に火を焚いてポットを乗せている。


「ここは尾根の谷間になる。街道からはまるで見えないし、峠に近いから風もある。煙を大きく出さない限り見つかる恐れはないぞ」

「ここをアジトに山賊をするのだな? 中々おもしろそうじゃ」


 中々前向きな王女様だ。だけど、これからが大変なんだよな。

 お茶を頂きながら、短期、中期に分けてやるべき仕事を考える。

 俺を頼りにされても困るから、少しは皆に考えて貰おう。


「見張りはこことここだ。烽火台の跡は峠の尾根続きだ。国境の峠を境に両方向の街道を見ることができる。屯所の兵を交替するのは街道のこの位置で崖を上る。この位置が一番低い。街道に沿って10ディー以上の崖だ」


 地図を取り出して説明してくれたんだが、一度は見ておいた方が良いだろうな。

 単位が分からなかったが、長剣を取り出して、刃渡りが3Dだと言ってくれた。見た目では、刃渡りは1mは無さそうだ。おおよそ1Dは30cmと考えれば良いか。


「反対側は?」

「同じく崖だが、そちらは落ち込んでいる。と言っても8D(2.4m)程だがな」


「俺達は山賊ですから、どこで襲うかを考えなければなりません。それは少し後でも良いでしょう。先ずは、水の確保。次は食料がどれだけ持つか。最後にこのアジトで全員が休めるかを考えませんと」

「今、昔の泉の底をさらっているところだ。最初は沸かさねば飲めぬだろうが、5日もすればそのまま飲めるだろう。食料は10日と言うところだ。昼食を抜けば13日と言うところだろうな」

「この部屋に20人、奥に王女様達と分隊長が泊まれば、何とかなるでしょう。それに烽火台と街道の崖に見張りを出さねばなりませんから、ここに寝るのは10人を超える程度になる筈です」


 ザイレンさんの言葉に、補足してくれたのはザイレンさんの副官もしくは分隊長なんだろう。


「最低でも5日は余裕があるということじゃな。最初の獲物が楽しみじゃのう」

「その辺りも少し考える必要があります。絶対に騎士の仕業と分からないようにすること。これが襲撃の鉄則です」


 俺の言葉にテーブルの全員が俺を注視した。

 何を、バカな! という感じなんだが、これは仕方がない話だ。


「もし、俺達の襲撃を逃れた者が『長剣を振う一団に襲われた!』と王国の軍隊に報告したら、俺達の正体が直ぐにばれてしまいますよ。

風のように襲い掛かり、風のように姿を消すと言うのが望ましい襲撃です。当然、相手の息の根を全て奪う事は出来ないと思います。となると、俺の言った意味も分かると思いますが?」


「それがバンターの言う山賊という事になるのだな。たかが山賊に軍は動かぬ。精々、商人が私費で用心棒を雇うぐらいのものじゃろう。そうなると襲撃の得物が問題じゃな。皆も考えてみるが良い。時間は十分にある」


 夕食まで間があるから、屯所の周囲を見て回ることにした。

 広場はそれ程大きくは無い。30m四方っと言う感じだな。東と南に細い道が伸びている。周囲は林のようだ。木々が揺れているから風があるようだ。

 水場は西の外れにあった。泉と言うから大きなものを想像していたが、岩の割れ目から流れ出る水を石組で出来たタライのような受け皿に集めている。それでもちょっとした水道並みの水量だから数十人の飲料水なら十分にまかなえそうだ。


 騎士達が周囲の林から、真っ直ぐな木を伐り出している。斧ではなくノコギリを使っているのは街道に近いためだろう。

 どうやら、柵を作っているようだ。敵を阻止するなら、ちょっとした柵でも役に立つんだろうな。

 明日は烽火台と、街道の崖に行ってみよう。この足では今日は無理だ。

 

 夕食が終わったところで、ザイラスさんと3人の騎士、それに俺が一部屋で眠ることになった。ベッドが使えないからマントに包まっての雑魚寝だけど、板張りの床は土の上よりは過ごしやすいし、風も避けられるから暖かく感じる。

 疲れを取るには寝るのが一番だから、早めに寝床を何とかしたいな。


 翌日、朝食を終えると、ザイラスさんが付けてくれた分隊長の1人、バルツさんの案内で烽火台に向かった。

 峠の尾根にあると言うだけあって、上り坂を30分程歩くことになったが、そこに出た時はちょっとした感動を覚えた。


 見晴らしが良い。北を見れば延々と連なる山脈が遠くに見えるし、峠の尾根は遥か南に延びている。東と西は尾根裾から伸びる畑が遠くに見える。そんな中にぽつんと林が見えるけど、あれは集落じゃないかな?

 街道は……、東西とも九十九折だから真っ直ぐに見通す事は出来ないが、3km先の街道位までが見えるようだ。実際にはもう少し距離があるかも知れないけど、大勢の兵隊が移動してくるのを見付けるなら、この場所で十分だったのだろう。

 問題は、ここで獲物を見付けてもアジトにどうやって知らせるかだ。少し考えねばなるまい。


 次に街道の崖に向かう。一旦アジトに戻って、改めて細い道を歩いて行く。少し歩くと、どうやらこの道が大雨が降った時に沢になることに気が付いた。

 結構深く掘られている。そこを道にするために、2人が並んで歩けるくらいに切り開いたようだ。これなら簡単に敵を防げるぞ。

 そんな溝を通り過ぎると急に周囲が広がる。どうやら岩場に出たようだ。ゴロゴロした岩の影に街道の見張りをしている3人がいた。


「あそこにぽつんと石が置いてあるでしょう。あの位置が一番崖の低い場所です。下りるにはハシゴがいりますよ」

 確かに場違いな石がある。少し離れた草むらに向かい、草の間から街道を眺めると、道幅3m程の街道が真近に見える。

街道は左右200m程の見通しだ。襲撃と撤収には都合が良さそうだな。

 

 そんな周囲の状況確認を終えて屯所に入ると、丁度昼食が終わってお茶を飲んでいるようだ。

 席に着いた俺達にお姉さんの1人がスープとパンを運んでくれた。

 お腹を減らしていたから夢中で食べてしまったのを、王女様達がおかしそうに微笑んでみている。

 食後のお茶をのんびりと飲んでいると、王女様が口を開いた。


「周囲の状況を見たという事は襲撃の計画も考えておるのじゃろう。昨日の続きを話し合おうぞ。確か長剣を使うな、と言うところじゃったな」

「はい。それは我らが身分を隠すために必要な事。ところで、俺は騎士の戦いというのを見たことも聞いたこともありません。もし、食料を満載した荷馬車を騎士が襲うとしたら、どのように襲いますか?」


 ザイラスさん達が考えはじめたぞ。

 しばらくして、俺を案内してくれたバルツさんが小さく片手を上げて話を始めた。


「俺からで良いでしょうか?」

 王女様とザイレンさんが軽く頷くのを確認してバルツさんが話を続ける。

 それによれば、荷馬車の前方に左右の崖から現れて進路を塞ぎ、名乗りを上げて、荷を奪い、御者や一緒にいる連中を追い払うという事だった。

「……逃げる者は追いません。向かってくる者は長剣で渡り合います」


 やはりそうなるよな。騎士が山賊をするってのは、思想教育から始めないといけないようだ。


「一発で騎士だとバレてしまいますよ。その噂が伝われば、やはり王国軍が動く事になるでしょうね。」

「どこがいけないのじゃ?」


「先ずは名乗りを上げることは厳禁です。『無言!』この一言です。そうすれば相手が色々と想像を働かせてくれます。

 次に、進路を塞ぐのは問題ありませんが、退路も絶ってください。相手を逃がすにしても、一旦は集めるべきです。もし、向かってくる相手を倒したら、その近くが良いでしょう。残忍さを誇張できます。

逃がす方向は、荷車の進行方向と反対側にまとめて追い払います。これで、様子を見に引き返して来た者達との接触時間を長くすることができます。

最後に、長剣はいけません。相手を皆殺しにする場合は使っても構いませんが、それ以外は絶対に避けてください。だいたい、長剣を使う者は騎士がほとんどではありませんか?」


「確かに、騎士以外に長剣を使うのは、よほどの物好きだな。なるほど、全員が長剣だという事は我らの正体を明かす事に繋がるという事か」


 皆が考え始めたぞ。長剣を使わずに相手を襲う事がどれほど難しいか、分かってきたみたいだ。



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