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SA-115 準備を急げ


 次の日夕刻になって、マデニアム王国の農民蜂起がどのように進展しているかが分って来た。


「どうやら、王都に迫りつつあるようじゃ。町2つが呼応しておらぬが時間の問題ではあるのう……」

 サディが重々しく呟いた。これがマデニアム王国の落日になるのだろうか?


「この2つの軍は、マデニアム王国救援というよりは切り取りを狙っているようだな。前の戦で恨みもあるのだろう」

「だが、トルニア王国が動かぬ理由が分らん。何を狙っているのだろう……」


 マデニアム王国とトルニア王国を結ぶ街道の状況は、もう1人のネコ族が遅れてこちらに向かっているそうだ。

 

「やはり、監視台作りと狼の巣穴への資材輸送は早めにやっておいた方が良さそうだ。機動歩兵とキューレ達の部隊で監視台作りを行い、トーレルは食料輸送をやっておいてくれ。俺達は一旦王都に戻り西への備えを万全にするつもりだ」


「よろしくお願いします。マデニアム王国も王都に2個大隊は温存している筈です。早々に落ちるとは考えられませんが、狙う王国が周辺にあることも確かです」

「まあ、我等もその一味にはなるのじゃが……。我等にとっては報復手段ともなろう。他国に侵略される前に我等が版図を広げるのじゃ!」


 サディの言葉に皆が頷いてくれた。

 少し早まってしまったが、こればかりはどうにもならない。場合によっては、ウイルさんに迷惑を掛けることになりそうだな。


 打ち合わせが終わると、深夜だと言うのに皆が砦を去っていく。

 少しでも早く自分達が出来ることを、と考えてくれているんだろうな。……頭が下がる思いだ。


 翌日には、南の砦からの使者がやって来た。

 俺に書状を渡すと、休むことなく砦を去っていく。


「中身は?」

「元義勇軍が再度義勇軍としてザイラスさんの下に集うとの事です。バイナム殿のサインがありますね」

「我等の非力を知っておるからのう……。頑張れとの事じゃな」


 西は何とかするから東の対応に努力しろって事か? それなら分かり易く書いてくれれば良いんだけどね。この文章から察しろというのはちょっと問題があるな。

 とは言え、これも周辺王国を見ての事だろう。

 この書状がウォーラム王国の手に渡っても何のことかさっぱりだと思うな。


 急いで、機動歩兵を呼んで、王都のザイラスさんに書状を届けて貰う。

 すでにやって来てるだろうけど、書状があれば安心できるだろう。


 さて、準備は何とかなりそうだ。

 問題は、それを実行に移す時期になる。

 ラディさん達は、数人を連れて再びマデニアムに向かい、状況を監視してくれている。

 連絡手段は狼の巣穴から光通信でと頼んでおいたから少しは時間短縮になるだろう。

 

「大戦になるのじゃろうか?」

「トルニア次第ですね。ニーレズムとマンデールはカルディナの俺達を壊滅させるために、無理な徴兵まで行っています。ですが、俺達の反攻作戦でかなりの犠牲を強いられました。自軍は3個大隊程度でしょう。マデニアムの割譲した土地を果たして守り切れるか……」


 自分に言い聞かせるようにして地図を眺める。

 地図は不正確だがマデニアムの領土は以前よりも2割近く失っているのだ。

 軍の士気は最低まで落ちてるだろうな。そこに農民の蜂起が民衆の反乱にまで広がると、王族の皆殺しだけでは済まなくなる。

 軍の指揮系統がめちゃめちゃになった時に、トルニアが侵攻して来たら簡単にマデニアムの土地はトルニアの版図になってしまうだろう。

 少しはマンデールとニーレズムが王侯貴族の縁戚関係で救援部隊を派遣するだろうが、トルニアの軍を見たら過ぎに自分達の領土に逃げ込んでしまうだろう。

 すでに、新しい国境には防衛線を張っているはずだ。

 簡単な防衛戦でも、自国の全軍で支えれば侵攻して来るトルニア軍を足止めできるだろう。

 トルニアとしても一気に他の王国まで攻め入る事はしまい。

 出来ないことは無いが、退路を断たれたらおしまいだからな。先ずはマデニアム、次は……と軍を進めると考えるのが適切だろう。

 

「やはり、峠を押さえる事と東の砦を攻めるまではやっておきたいですね。東の砦が攻めきれない時は破壊する事にします」

「こういう事なら爆弾をたくさん作っておくのじゃったな。まだ残っているのか?」


 あまり使いたくはないから、王都攻略以降は作ってなかったんだよな。

 カタパルト用が数本にラディさん達が同じく数本持っているだけなんじゃないか?

 まあ、この世界だと超兵器に該当しそうだから、あまり使って他国が真似をする方が問題だろう。


「我が勇猛な兵士をもってすれば跳ね返せるでしょう。問題は戦線が長い事ですね」

「南北に新たな国境を作る事になるからな。それで国境に目印でも置くのか?」

「一応、簡単な柵を作ろうと思っています。分らなかったとは言えないようにしたいですね」


尾根の東のふもとから50mも離れていれば十分だ。尾根の木を切って柵をつくるのはそれ程困難な話ではない。

 時間があれば南北に真っ直ぐな柵を作りたいが、状況次第になりそうだな。

 

 翌日の昼下がり、トルニア軍の状況が見えてきた。

 マデニアム王国への街道にずらりと兵を並べているとの事だ。

 

「規模は3個大隊というところです。マデニアム王国に斥候を放っていますが、軍は動く様子がありません」

「ご苦労さまです。ゆっくり休んでください」


 俺の言葉に、深く頭を下げると広間を出て行った。

 すでに民衆を巻き込んで蜂起は反乱の段階に入っている。王都を幾重にも取り囲んでいるようだから、果たして春先まで持つんだろうか?

 

 従兵を呼んで、簡単な状況メモを通信兵に届けて貰う。

 少しは間がありそうだが、雪解けまでは待てないかも知れないな。


 マデニアムの農民が蜂起して10日が過ぎたところで俺達はふもとの砦に移動する。アルデス砦の守りとミクトス村の守りは北の村とミクトス村の民兵が頼りだ。

 リーダスさんが率いてくれるから安心できるな。


 カナトルの引くソリに乗って俺達はふもとの砦に移動した。

 俺達をトーレルさんが迎えてくれたが、その日の夜にザイラスさん達もやって来た。仮の屯所を作っておいたそうだが、そうでなかったら雪の中でテントで寝る兵士も出て来たに違いない。


「騎馬隊が5分隊、機動歩兵が6個分隊。それに重装歩兵が3個分隊だ。これで何とかしなければならん」

「ラディさんとキューレさんが3個分隊をそれぞれ率いてます。それに魔導士部隊が1個分隊ありますから、山賊時代に比べればはるかに戦力が増してます」


「それで、我等は?」

「通信兵は2個分隊確保してますね。現在は烽火台と狼の巣穴に通信兵を置いています。通信兵を5名ずつに分けて、新しく作った尾根の監視所に配置します……」


 尾根の監視所は3カ所だ。もう1つは東の砦に置く分として俺達と行動を共にする。

 重装歩兵を監視所に1個分隊ずつ割り当てれば、とりあえず尾根を越えて来る者は始末できるだろう。


「キューレさんの部隊は柵を作る準備をしてください。尾根沿いに杭を打って丸太を縛るだけで十分です。俺達が乗って来たソリにカスガイもありますから、あらかじめ横木を打ちつけておくのも良いでしょう……」


 柵を作る時には機動歩兵3個分隊も加わることで、相手の攻撃にも備えられるだろう。

 それにしばらくは西に目を向けるとは考えられない。先ずは王都の攻略を徹底的に行うだろうからな。


「上手く行けば街道の出口にある東の砦は無血入場が可能です。王都に砦の守備兵が全員向かうでしょうから。それでも1個分隊程度は留守を守っている可能性があります。これは先行してラディさんに偵察をお願いしたいところです」

「場合によっては我等で攻略してもよろしいと言う事ですな。承りました」


「冬場ですから馬は使えませんよ。カナトルのソリに荷を積んで何度か往復する必要があります。俺達が出番を待つのは……。ここです!」


 隘路を抜けた広場がある場所だ。ここなら歩いて3時間も掛からずに東にあるふもとの砦に出られる。


「明日から始めるのか?」

「機動歩兵3個分隊を先行させます。先ずは街道の封鎖、通信兵の残り5名も一緒に行かせます。簡単な屯所を作らねば戦の前に凍死してしまいます」


 テントを二重に張って、焚き火用の焚き木も持って行かねばなるまい。

 食料や水も必要だ。カナトルでの物資移送はラディさんの部隊が引き受けてくれた。


 翌日、砦の広間に下りていくと席に着いていたのはトーレルさん夫妻だけだった。

 あれ? ザイラスさんやグンターさん達はまだ出番はないはずなんだが……。


「皆、朝一番で出掛けましたよ。ザイラス殿も奥方を連れてマデニアムの砦の偵察に向かったようです」

「まだ先なんですけどね……」

「しょうがあるまい。我も誘ってくれたなら出掛けたところじゃ。ところで、尾根の一番南の監視所は船着場に近くないか?」


 気が付いたようだ。確かに近すぎる位置だ。

 これはマデニアムに版図を広げた後の布石でもある。

 あの辺りに、高い場所がないのだ。あの尾根の突端の岩場に監視所を作れば、ニーレズムの動きも知ることが出来る。

 トルニア王国が次に目指すとなればニーレズムだからな。ニーレズムを落せば3方向から同時にマンデールに攻め込める。

 ニーレズムが落ちた段階で、マンデールは降伏を選択することになりそうだ。

 とは言え、ニーレズムとマンデールはマデニアムと同盟を結んだ事もあるのだ。2か国が協力したらニーレズムに攻め込むと同時にマンデールがトルニア本国を攻めることだって出来ないことは無い。

 だが、果たしてその選択をするだろうか?

 俺達との戦で2つの王国共に戦力を大きく落としていることも確かなのだ。


「クレーブルに再びニーレズムが攻め込むと言う事か?」

「攻め込むとしたらトルニアでしょう。尾根の南端の監視所ならば、それが起こる前に知ることが出来ます」


 全くとんでもない事になったものだ。

 まだ見ぬ東への交易路を開拓しようと思っていたんだが、これだとやはり10年後の計画になりそうだぞ。



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