魔王の供物
いよいよ雌雄を決する時が来たのだ。勇者はこの日の為、大神殿に見出された聖騎士だ。右手に握った聖剣が彼をここまで導いてくれた。
黙って睨み合っていた暗黒の瘴気を纏った魔王と、銀の聖なる輝きに包まれた勇者が、同時に其々の剣を掲げる。
魔王が勇者よりも速くその剣から黒光りする雷を放つが、勇者が展開していた光の結界により霧散してしまう。魔王が怯んだその一瞬を突いて聖剣が振り下ろされ、聖剣より放たれた破邪の光が魔王の懐に深く突き刺さった。
魔王は膝をつく。破邪の光に瘴気の魔力を奪われ、最早立ち上がる力は無い。
「ぐっ……ここまでか……」
「魔王よ降伏せよ。」
「仕方あるまい。朕の世は終わった」
「殺しはしない。だか……」
「構わぬ、どのみち朕にはもう力など残っておらぬ……ところで勇者よ、魔王とは何者か知っておるか?」
「……何の話だ?」
「魔王とは魔王を破った者だ」
「……は?」
「いや、だから、一番強い者がなるの。子に継承とかじゃなくて、魔王に挑んで勝った者が魔王」
「えっと?」
「今君勝ったよね?朕に挑んで勝っちゃったよね?」
「……まぁ、はい」
「じゃ、君今から魔王ね。引き継ぎの書類とマニュアルは、その棚に用意してあるから」
「待って。わかんない。引継とか。え、俺に魔王やれってこと?」
「さっきからそー言ってんじゃん。あ、ちゃんと就任パーティー準備してあっから。楽しみにしとけよ」
「しとけねーよ。何で準備万端なんだよ。つーか俺魔族じゃねーよ。魔王になれる訳ねーだろ!?」
「朕だって魔族じゃねーよ。宿に泊まったら隣の部屋が夜遅くまでウルセーから文句言いに行っただけの只の行商人だよ。」
「……勝っちゃったのか?」
「……その頃オセロにどハマりしてたんだよ」
「…………」
「…………」
「……なしで。ノーカンで」
「無理だな、もう力そっちに移っちゃってるもん。自分の足もと見てみろよ。」
勇者が視線を下げると、己を覆っていたはずの銀の光が脚先から赤黒く変色し始めていた。
「な、無理だろ?まあ、パーティーには旨い酒用意してあるからよ。元気出せ?」
「イ、イヤァァァァァァ!」
「いやぁ、たった5年で勇者が来てくれるなんてラッキーだったわぁ」