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23~24 Side Tsukasa 01話

 翠からの電話が鳴り、図書室のロックを解除する。

 現在進行形でイベントの準備中。でも、準備は翠が仕事部屋に入ってから開始となるため、今のところ見られて困るものはすべて隠してあった。もちろん、簾条も書架の奥に潜んでいる。

「秋兄のところ?」

 わかりきった質問。

「はい」

「大丈夫なの?」

 声のトーンを落として訊くと、

「わからない……。気持ち上では大丈夫なはずなんです。ただ、身体が拒否反応を起こすというか――。でも、近寄りすぎなければ大丈夫だと思うから」

 と、すでに思いつめた顔をしていた。

 そんな顔を見ても、俺が口にできる言葉は限られている。

「……何かあればここにいるから」

 そう言って、翠をカウンターの奥へと送り出した。

 近寄りすぎなければ大丈夫、って……その時点で無理してるんじゃないか? それでも、そうまでしても秋兄に会いたいのか……。

 閉まったドアからしばらくは目が離せなかった。

「司?」

 茜先輩に呼ばれて振り向くと、

「翠葉ちゃん、何かあった?」

 茜先輩も俺と同じで仕事部屋のドアを見つめていた。

 生徒会メンバーには話しておいたほうがいいだろう。

「一端作業中断してこっちに集って」

 声をかけると、各々の作業をしていたメンバーがテーブルに着く。

「事前に知っておいてもらいたいことがある。今、翠は男全般がネックになってる。触れるとパニックになる。大丈夫なのは俺と海斗、それから一年B組のクラス委員、佐野のみだと思ってくれていい。だから、イベント中は細心の注意を払ってもらいたい。それから、簾条。簾条は常に翠の側についててやって。海斗、おまえは会場でアクシデントがあった場合、すぐに動ける場所にいること」

「「了解」」

 簾条と海斗が口を揃えた。ほかのメンバーは要領を得ないものの、

「じゃ、俺が茜先輩のエスコートするってことでいいよね」

 朝陽が確認のように口にした。

「頼む」

「俺は広報委員とクラス委員に人員規制を徹底するように念を押しておくわ」

 そう口にすると、優太は図書室を出ていった。

「不安なんて感じさせないくらい楽しいイベントにしなくちゃね」

 茜先輩が席を立つと、その場はイベントに備えて作業を再開した。


「ちょっと……大丈夫なの?」

 簾条がよそよそしく近づいてきた。

「翠は大丈夫って言うけど、全然大丈夫な状態には見えない」

「……あんたもよ」

 言われて思わず目を瞠る。

「さっき秋斗先生の部屋に見送るあんたの顔、珍しく人間らしかったわよ」

 唖然としていると、

「だから、大丈夫かって訊いてるのっ」

 と、簾条が声を荒げた。

「心配はしてる。でも、俺にできることは限られてる」

「……できることをやればいいじゃない」

 ぼそりと口にして簾条は作業に戻った。


 翠が仕事部屋に入って一時間半が過ぎた頃、奥のドアが開き、「司っ」と秋兄に呼ばれた。

「……翠葉ちゃん、頼む」

 言って、図書室を出ていく。

 瞬時に仕事部屋へ踏み入れると、翠がソファの前で蹲っていた。

 過呼吸は起こしていないものの、その顔は涙に濡れ、悲壮感が漂う。

「翠……」

 声をかけると、泣いたままの顔で俺を見た。

 昨日も泣いていたけど、それとは比べられないほど顔中をぐちゃぐちゃにして泣いていた。

「無理はするなって言ったのに……」

 翠の前に膝を付くと、

「司、先輩……こんなの、やだ……。こんなの、嫌なのに――」

 言葉もまともに話せないくらいにしゃくりあげて泣いていた。

 昨日のテストで俺はクリアだったけど……。

「……とりあえず確認」

 手を差し出すと、彼女が自分の手を重ねる。

 大丈夫か……?

 昨日と同じように、手をつないだまま横に座る。

「俺はクリアね……」

 そこまでしてほっとする。

 翠はまだ全身を引くつかせて泣いていた。それをどうにかしたくて、「ほら」と翠の腕を引き寄せ肩を抱く。

 これは御園生さんが翠にやる接し方。ここ数ヶ月見ていて覚えた光景。

 俺では御園生さんの代わりにはなれないだろう。でも、今はこの方法しか思いつかない。

 一瞬、ビク、と肩を揺らしたけれど、翠はそのまま俺の胸に縋るようにして泣きだした。

 その様に安堵する。こんなつらい状態をひとりでこらえられなくて良かった、と。

 明日には秋兄に返事をすると言っていた。だから、それまでは側にいたかったのだろう。

 なのにこんな状況だ……。

 胸に縋って泣く翠の背中を自然とさすっている自分がいた。

 こんなふうに甘えてくれるなら、頼ってもらえるなら、ごく当たり前のことのように身体が勝手に動くんだな……。


 その状態が十五分ほど続いた。大泣きしていた翠も徐々に落ち着きを取り戻す。

「記録更新……。俺、三日連続で翠の泣き顔見てるんだけど……。これ、新手の嫌がらせか何か?」

「……すみません。とくに嫌がらせをしているつもりはないんですけど……」

 雅さんに接触したときも俺だし、街中で声をかけられて無防備だって怒ったのも俺だ。

 翠の泣き顔をどうして連日見る羽目になっているのか……。

「なんか、俺ばかりがこういう状況に遭遇している気がしてならない」

「ごめんなさい……」

「別にいいけど……。少しは落ち着いた?」

「……はい」

「なら、そこで顔洗ってきて」

 時計を見ればもう三時前。遅くても三時半には嵐たちに翠を渡さないといけない。

 ……ちょうどいい、ここを試着室に使えば少しは時間の短縮になるだろう。

「先輩、お願いが……」

「今度は何」

 まだ何かあるのか、と振り返ると、

「髪の毛、持っててもらえますか?」

「あぁ……」

 少し拍子抜けした。けど、触れたいと思っていた髪に触れることができた。

 タオルで顔を拭いている翠を横目に、冷凍庫から氷を取り出し袋に入れる。

「これで目冷やして」

「ありがとうございます……」

「今三時――あと三十分で瞼の腫れ引かせろ」

 さすがにその顔でドレスはない――。

「えっ!?」

 ……簾条、こいつ誕生会のこと忘れてないか?

「今日、誕生会なんだろ?」

 言われて思い出した、そんな顔。

 何か一言見舞おうと思ったとき、携帯が鳴りだした。

「はい」

『俺だけど……。翠葉ちゃん、大丈夫? だめそうなら湊ちゃんに連絡するけど』

「もう大丈夫」

『そう……。悪いんだけどノートパソコン駐車場まで持ってきてほしい』

「了解」

 携帯を切ると、

「……秋斗、さん?」

「そう、心配してた。姉さんをこっちのよこそうかって言われたから大丈夫って答えたけど?」

 無言の彼女を確認しつつ、秋兄のノートパソコンをシャットダウンする。

 確かに、今日はもう翠の前には出ないほうがいいだろう。

 これから本社に戻って仕事か、自宅に戻って仕事。そんなところだろうな。

「あとでこの部屋に簾条を入れる。それまで目を冷やして少し待ってて」

 それだけを言うと、俺はパソコンを持って仕事部屋を出た。


「翠葉、大丈夫なの?」

 仕事部屋を出ると、すぐに簾条に話しかけられた。

「一応……。今、目の腫れを引かせるために顔を冷やしてる。三時半になったら中に入れるから、それまでに準備しておいて」

「わかったわ」

「司っ! これ、司の衣装っ!」

 嵐が黒っぽい衣装を片手ににじり寄ってくる。

「見て見て! 俺、すっごい似合ってると思わない?」

 と、その黒っぽい衣装を身に纏った朝陽が華麗にターンしてみせた。

 実に最悪なほどに似合ってはいるが、とくにコメントは残さず図書室を出た。


 駐車場で、秋兄は運転席のシートを倒して横になっていた。

 窓を叩くとシートを起こして窓を開ける。

「助かった。ありがとう」

 ノートパソコンを助手席に置くと、

「翠葉ちゃんは……?」

「あれから十五分くらい泣いてたけど、今は割りと落ち着いてる」

「そう……。じゃ、悪いけどあとは頼むわ。俺はマンションに戻る……って所在を明らかにしておいたところで、今の俺にできることはないか」

 秋兄は自嘲気味に笑って車を発進させた。

 ライバルとはいえ従兄で、実の兄よりも近しい存在。その秋兄の立場になって考えてみれば、翠と同等につらい思いをしているのは明らかだった。

 自分には何ができるだろうか。

 これから始めるイベントのバックアップ体制は手抜かりなくしてある。

 怖がらせず楽しませたい。翠を笑顔に戻してやりたい――。


 図書室に戻ると、、

「とっとと着替えなさいよっ」

 と簾条に噛み付かれた。

 渋々着替えると、最悪を極めていた朝陽と丸きり同じ格好になる。

 マントが付いている意味がわからない……。

 嵐の家は結婚式の貸衣装店であり、コスプレに組する商売はしてないはずなんだが……。

 げんなりしつつメンバーの前へ出ると、

「あら、すてきっ!」

 と、茜先輩。

「これで口さえ開かなければ問題ありません」

 と、簾条。

「マント作った甲斐あったわ」

 と、嵐……。

 このマントは嵐のお手製か……。

 辟易しながら、

「仕事部屋に入るけど準備は?」

「今の今まで藤宮司待ちよ」

 と、簾条が吐き捨てるように口にした。


 仕事部屋に入れば翠が目をまん丸にして俺を見てくる。

「先輩……これから仮装大会でもするんですか?」

 仮装大会……強ちはずれてはいない。

「……そんなところ」

「翠葉、泣いたんだってっ!? ちょっと顔見せてっ」

 メイクをすると意気込んでいた嵐が翠に詰め寄り凝視する。

「ま、これくらいならなんとかなるわ」

「翠葉、これに着替えなさい」

 簾条が翠に差し出したのは淡いピンクのドレスだった。

 それを見て、「え……何?」と翠は首を傾げる。

「「「ドレス」」」

「え……?」

 女子から俺に視線を移し、「本当に何?」と視線で訊かれる。

 とりあえずは――。

「おめでとう。翠も仮装大会の招待客らしいな」

 そう言って、あとは女子たちに任せることにした。


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