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19話

「な、桃華! レア情報知りたくね?」

 海斗くんは席に着くなり桃華さんに話しかける。

「何? 私が仕入れられなさそうなネタなの?」

「どうかな? まぁいいや、聞いて驚け! 今日の放課後、司と翠葉がデートだって!」

 はっ!?

「海斗くんっ、デートじゃないよ!? ただ、付き合ってほしいって言われただけっ」

「翠葉……一応確認なんだけど、その付き合ってほしいの意味、履き違えてないんでしょうね?」

 意味……?

「大丈夫っ。だって『用事があるから』って、『市街まで付き合って』って言われたものっ。今度は正真正銘、どこかへ行くのに付き合う、の付き合うだよっ」

 この曰くありげな言葉を何度も勘違いした私は文句のひとつも言えない。

「俺、午後練サボってあとつけたいくらい興味津々なんだけどっ!」

「私も右に同じよ……。ま、そんなえげつないことはしないけど。……あぁ、そうだ。海斗あとで話があるの」

 そんな会話をしているところに飛鳥ちゃんのよく通る声が聞こえてきた。

「あー! サボり魔海斗発見っ!」

「今日だけじゃん。魔じゃねーし!」

 あっという間に言い合いが始まる。けれどもそれも一習慣として慣れてしまった。

 桃華さんは相変らず、「うるさい」という顔をしている。

 最近では桃華さんの代わりに違う人が止めに入るのが恒例だ。

「はいはい、ふたりともうるさいから。人様の迷惑になるでしょ? どーどーどーどー……。あ、高崎悪い。いつも二頭がうるさくて」

 佐野くんが飛鳥ちゃんの前の席の高崎くんに謝る。しかも、ふたりではなく、二頭扱い……。

 なんだかんだと言いながら、佐野くんは人の捌き方が板についている感じ。


 ホームルームが終わると授業が始まり、昼休みなればクラス全体でお弁当タイム。

 校内展示が終わったので、クラスでお弁当を食べる人が多い。

 ただそれだけのことなのに、とても賑やかなクラスにほっとする。

「翠葉、どうかした?」

 飛鳥ちゃんに訊かれ、

「え? どうもしないけど?」

「そう……? なんか緊張してるように見えたり、ほっとしてたり、それの繰り返しな気がしたんだけど」

 飛鳥ちゃんの言葉にヒヤリとする。

 きっと今の「ヒヤリ」も感づかれてしまっただろう。

「……うん、ちょっとだけそういうのあるかもしれない」

 この四人の前では自分を繕う必要はない。でも……。

「ちゃんと自分で消化してから話すね。だから、そのときは聞いてほしいな」

 そう言えば、その先は問い詰められない。

 また心配をかけちゃうかもしれないけど、今はまだ口にできない。

「まさか、藤宮司と出かけるのに緊張してるとかないわよね?」

「……え? どうして司先輩と出かけるのに緊張しなくちゃいけないの?」

 桃華さんに訊き返せば、

「そうよね……そんなわけないわよね」

 ブツブツと言いながら、

「そういえば、翠葉ってウエストいくつ?」

「え? 五十六とか五十八だったと思うけど……?」

「ほっそ……」

 と、海斗くんに凝視される。

「海斗、視線がエロイからやめろ」

 と、佐野くん。

「ブラのサイズは?」

 桃華さんに訊かれて固まる。

「あの……桃華さん、これはなんの調査だろう?」

 引きつりつつも笑顔で尋ねてみる。と、

「ちょっとした市場調査。……そうね、男子の前で言わせることでもないわね。ここに書いて」

 手の平を出され、指で数字と英語を記す。と、

「細いのにグラマーね……。じゃ、サイズにすると七号かしら」

 これはいったいなんの市場調査なのだろう……。

 桃華さんから脈絡のない話を振られるのは初めてのことで、ちょっとドキドキした。


 午後の授業はあっという間に終わって早くも放課後。

 今日は写真部活動の日だけれど、基本的には自由参加。

 部で決めた締め切り日に作品を提出つればいいという緩い部だったりする。

 先ほど加納先輩とばったり出くわしたので、今日お休みすることは伝え済み。

 昇降口で先輩を待っていると、聞いたことのある声に話しかけられた。

 話しかけてきた主を見つけるも、誰だっけ、と思う。

「まだ覚えてくれねーの?」

「……確か、バスケ部で隣のクラスの一年C組」

「その先っ!」

「名前……珍しい名前――」

 頭を抱えていると、よく知った、耳に心地よく響く低い声が聞こえた。

「翠、何してる? 漣も」

「あっ! サザナミくんだっ」

「あーーー、もうっ。司先輩なんで言っちゃうかなぁっ!? この人、俺の名前全然覚えてくれないんですよねっ」

 司先輩はサザナミくんを適当にあしらいつつ、

「もう行けるの?」

「はい、大丈夫です」

「えっ!? 何? ふたり付き合ってるんですかっ!?」

 サザナミくんに訊かれたので、「違うよ」と答えると、

「えっ、じゃぁ何っ!? なんなのっ!?」

 詰め寄られて少し困る。

 何って、なんだろう……。

 言葉に詰まった私は司先輩を見上げる。と、

「今日は俺に付き合ってもらう約束してるだけ」

「それって俺が申し込んでもOKってことっ!?」

「や、それは……」

 そこまで言ったくせに断言ができない。

「俺は翠に貸しがあってそれを返してもらうだけだ」

「……俺も結構ないかな? ほら、何度言われても名前覚えられなくてごめんなさいデートとか」

「それは翠が悪いんじゃなくて、印象が薄い漣の問題だろ。第一、俺は一発で覚えてもらってる」

「うわっ、それ自慢ですかっ!? 俺だって学年ではそこそこモテんのに」

「つまり、翠の範疇外ってことじゃないの?」

 司先輩は淡々と答え、「行こう」と私の背を押した。


 昇降口を出て少し歩くと、

「あぁいうの、困るなら困るでちゃんと断ったほうがいいと思うけど?」

「えと……実はすでに一度断っているのですが――」

「なるほど、懲りないやつって話か。しつこいようならなんとかするけど?」

 びっくりして先輩を見上げる。

「何?」

「なんか優しいです」

「……何度も言うけど、俺そんなに冷血漢でも心が氷でできてるわけでもないから」

「それはわかってるつもりなんですけど……。なんだか先輩が優しいと調子狂っちゃう」

「……俺、翠には優しいほうだと思うけど?」

 うーん……。

 人と接している司先輩をよく知らないだけに、どの程度優遇されているのかがわかりかねる……。

 初めて会ったときはあんなに容赦ない言葉ばかりを投げる人だったのに。

 本当は優しいこともわかっていはいるけれど、第一印象のインパクトは絶大なのだ。

 だからか、ちょっと優しくされると調子が狂う。

 そんな司先輩を横目に見つつ、何を話すことなくバス停へ向かって黙々と歩いた。

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