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[僕の終わり・君の始まり]

 あなたは暗闇の中で目を覚ます。なにも思い出せない。名前も記憶も自分がどんな存在であったかも。

ただなんとなく大切な使命があった気がするだけだった。悶々と考えに浸っているとだんだん目が暗闇に慣れたのか視界がハッキリしてきた。辺りを見回すとそう遠くない位置に膝に本を置き座っている女性を見つけた。彼女はあなたが何も言わずに見つめているのに気が付いたのかあなたを見て微笑んだ。

「気分はどう?あれだけ眠っていたのだし幾分かはスッキリしているんじゃないかしら?」

確かに倦怠感などは感じない、彼女が言うように結構眠っていたのだろう。あなたが小さく頷くと彼女は短く「そう」とだけ言い膝上の本をめくり始めた。

「何も覚えていないようね…」

少し寂しそうに呟く彼女に申し訳なさを感じ黙っていると

「思い出すのを手伝うわ、私はそのために来たのだし。」

彼女はあなたの思い寄らないことを言い出した。この暗闇の中で記憶を思い出すなんて夢物語も甚だしいことである。この空間には何もないのだ二人と一冊の本で何が出来のだろうと思っていると。

「この本には全てが詰まっている。この暗闇の世界の記憶がね、この記憶の果てであなたは全てを手にすることができる。」

そう言った彼女はあなたの瞳を捉えあなたに記憶を取り戻す覚悟があるのかを問うてるようだった。

「…ああ、頼む記憶を思い出させてくれ。」

その答えに彼女は大きく頷き本を読み聞かせ始めた。


 雨と花の国レイニーローズ。

洋風な街並みと至る所に生えた花々が綺麗な国でこの世界線で唯一神座がある国である。

そこに住んでいる少女フリージア・トレイシーは近衛騎士の父と小説家の母を持つ文武両道、才色兼備、礼儀正しいご近所に人気の少女で、いつも日課のように大図書館に入り浸っている。

 ある日、フリージアが大図書館で本を読んでいると突然少女に声をかけられた。

この大図書館にはフリージアと司書くらいしか居ないのでフリージアは驚きつつ少女に目線をやるとフリージアと同い年くらいの少女が深めにフードを被り辺りをキョロキョロと見ながら立っていた。

「ええと…どうしたの?」

恐る恐る声をかけると少女は少し挙動不審になりながらも自己紹介をしてくれた。

「あっ…急に話しかけてごめんね。僕はエルシアって言うんだ。その…い、一緒にその本読んでもいいかい?」

エルシアあまりにがあまりにも恐る恐る聞いてくるものだからフリージアは少し笑いながら頷くとエルシアは少し照れくさそうに隣に座り一緒に本を読み始めた。

エルシアはレイニーローズではあまり見ない服やアクセサリーをつけていたのでフリージアは気になってどこから来たのかと聞いてみるもエルシアはどれも曖昧な返答をし誤魔化していたため聞かれたくないものなのだろうと思いあまり詮索するのはやめてそのまま本の続きを読み始めた。

 数時間後、帰る時間になったのでエルシアの方へ視線をむけるとフリージアの視線に気が付いたのかフリージアの方を向き微笑んだ。

「エルシアちゃん私は帰らなきゃいけない時間なんだけど…良ければ一緒に帰らない?」

フリージアが一緒に帰ろうと提案をするとエルシアは目を輝かせて首が取れてしまいそうな程に頷いた。

「うん!!一緒に帰ろう!!」

「エルシアちゃん!!そんなに頷いてたら首とれちゃうよ!!」

エルシアはハッとした顔で首を抑えていた。フリージアが本棚に本を返し二人は手をつないで帰った。

街の中央にある噴水で二人は明日も一緒に本を読む約束をして別れてお互いの帰路へと着いた。

新たな友達はとても純粋無垢でコロコロと表情を変える不思議な子だと両親に早く自慢したいと心を躍らせながらフリージアは家へと帰った。

その後何日もフリージアとエルシアは一緒に本を読んだ。推理小説を読んで先に犯人を予想したり、噂の名作を読んでお互いに感想を言い合ったりと二人は毎日を楽しく過ごしていた。

 だがそんな日々は長くは続かなかった。レイニーローズは前々から神座を巡って他国と戦争が続いていたのである。ここ最近は苛烈さを増し若い男女は徐々に戦場へと向かわされていた、そしてとうとうフリージアの番が回って来たのだ。フリージアの戦場へ行く前の最後の日一緒に大図書館から帰っていたエルシアにその旨を伝えた。

「…そっか…」

エルシアは何か言葉を飲み込んだように見えた。そして苦しそうな笑みを浮かべまた一緒に本を読む約束をしてお互いの帰路へと着いた。

フリージアはエルシアが何かを隠してるのは気が付いていたがきっと自分が知らなくてもいい事であると思ってあの時飲み込んだであろう言葉について詮索はしなかった、そんな野暮なことはしたくはなかったのだ。


フリージアが戦場へ行ってから一週間がたった。フリージアは救護班として怪我を負った兵士たちの治療を主にしていた。今日も兵士たちの治療をしていた時外から地面を揺らす程の轟音が響いた。

「フリージア!!外を見てきてくれ!!」

看護婦長が指示を出しフリージアはシェルターの外へと出た。外は炎の海になっていた。人一人見当たらないただ灰色の煙が静かに漂うだけの荒野になり果てていた。

フリージアはまだ人がいるかもしれないと炎をよけてみて回っているとポツリ、ポツリと雨が降り始めた。

フリージアが空を見上げていたら微かな足音が聞こえた。

「フリージア…」

その声に振り向くとそこには一週間前に別れた友達、エルシアがいた。

だが現われたエルシアの姿はいつもの深くフードを被った姿ではなかった。その姿は人々から神としてあがめられた少女の姿であった。

「…あ…」

フリージアは声が出なかった。燃え盛る荒野に居すぎたせいかそれとも目の前にいる神の姿をした友達を信じきれないのかただそこに立ち尽くしていた。

「騙していてごめんね。」

酷く優しく響くその声はいつもの純粋無垢なエルシアには似合わない生温い夢のようにそして残酷にその事実をフリージアに突き付けた。エルシアは神であると、この戦争の勝者の報酬、人々から搾取されるだけの願望機のような何も映さない空虚な瞳がエルシアの人生を物語る。

欲望に塗れた者たちにすり減らされた精神が今にも千切れそうな糸がエルシアを繋ぎ止めている。

エルシアはフリージアの手を取って静かに歌う戸惑うフリージアを無視して生温い夢のように何も考えなくてもいいようにこれが二人で遊ぶ最後の時間と言うように。

ふとエルシアは歌うのを止めてフリージアにハンドガンを渡す。まるで自らを殺めてくれと言うように。

フリージアはハンドガンを握りエルシアの意図を秘密を想って涙を流す。

「…いたいな…」

酷く冷たい雨がフリージアに刺さる。いつもは好きな雨音も今はただうるさい雑音のようだった。

エルシアはやっと楽になれると微笑みながら雨の中踊っていた。フリージアは苦しみを悲しみを噛みしめながらエルシアに狙いを定めた。ここで無駄な偽善でエルシアを繋いでいる糸を切らなければまた欲望によってエルシアが擦り減ってしまうから。これがエルシアのためと自分に言い聞かせて震える手を早くなる鼓動を抑えて。引き金を引いた。

蝶も花も儚くて最期は一瞬にして散りゆくモノそれは神も同じエルシアは繋いでいた糸が切れて満足そうに笑って地面に崩れ落ちたそして薄い水色の粒子となって空へと昇っていった。

フリージアはその場に崩れ落ちた。静かな荒野に慟哭が響く短い時間であったが楽しかった記憶をエルシアを助ける方法を考える事を放棄しエルシアを撃ってしまった事を想ってとめどなく涙が溢れた。

数時間後泣き止んだフリージアはエルシアを見届けるとエルシアが消えた場所に何かが落ちているのを見つけた。

それはローマ数字でⅠと書かれた水色の宝石であった。フリージアが宝石を手にすると何かがフリージアの体を駆け巡った。

「これが…神の力…」

フリージアにはこれが神の力だとなんとなく理解ができた。それはエルシアが最期に残したフリージアのためのモノであった。きっとフリージアは神殺しの重罪人として大変な人生を送るだろうと考えたエルシアの贈り物、それはフリージアを新たな神として戦争を終わらせることだった。

突如フリージアの頭の中に機械音声が聞こえた。

『新たな神として君臨しますか?』

その声に答えるように宝石を握りしめた。

『生まれ死すもの《ボーンデッド》起動』

水色の光が身を包む、万物の知恵と浪漫の力を手にして此処に新たな神が生まれたのだった。

「フリージア・ボーンデッドが宣言する!!願望の神は潰えた…!!これより私がこの星の神となろう!!」


「これが第一の物語…生まれ死すもの《ボーンデッド》の記憶よ。」

読み終えた彼女はあなたの方を見た。

あなたは微かに一人の男性との記憶を思い出す。

一番年上でお兄さん気質なしっかり者の男性でよく魔法を教わっていた。彼の名は…

「エンシャント…」

その名を聞いた彼女は微笑んで頷いた。

「そう、一人ずつ思い出しましょう。あなたのことを大事に思っていた人たちをこの物語の作者をね。」


クロノスノーツⅠ[僕の終わり・君の始まり] 追想

初めまして謎の人です。つたない文章で申し訳ございません。良ければ最後までお付き合いしていただければ幸いです。

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