帝国の軍が辺境の地に攻め込んだと聞いて戦場に向かいました
「げっ、クリス!」
「クリスティーネ様!」
俺は頭上からの怒りをひしひしと感じていた。
これはまずい奴だ。俺は怒り狂ったクリスとやりあって勝てた試しはなかった。
俺の背中に冷汗が流れた。
「レオン! あなた、何をこそこそと私のことをリックに聞いているのです?」
「いや、クリス、これはだな……」
「言い訳は不要です!」
「はい!」
ここは素直に頷いておくしかない。過去ここで反論して思いっきり張り倒されたことがあった。当時から俺は帝国の皇太子だったのにこいつはそんなの全くお構いなしだった。
命は大切にしないといけないのだ!
「リック、あなたもよ! まさか約束破ったりしていないでしょうね?」
「それは……」
ガキもクリスに睨まれていたが……いや待て、こいつはお前を嵌めてこの国から追放した奴らの子供だぞ。何を普通に話しているんだ? それも前からの知り合いのようだが、何がどうなっているんだ?
「お母様。そんなの無理よ。私は学園に来たんだから、リックがこの国の第2王子様なことも、お母様が元公爵令嬢で陛下に婚約破棄されて断罪されたことも周りから全部聞いたわよ」
アミが出さなくても良い助け船を出した。それを聞いてクリスは頭を抱え込んでいたが、やはりこいつはアミに何も話していなかったんだ……
いずれバレることを隠しても仕方があるまい。
クリスが断罪されて追放された事なんてこの国の人間なら誰でも知っていることだろう。帝国にまでその噂は広がっているんだから。何をしているんだか……
「だからあなたには学園に行くなって言ったのに! これで判ったでしょう。お貴族様と関わっても碌な事がないのよ。あなたなんて単細胞の脳筋はえん罪を着せられて処刑されるのが落ちよ。すぐにアンハームに帰っていらっしゃい」
クリスは嵌められた自分を棚に置いて説教を始めたが俺からしたら笑止なんだが……
「何言っているのよ。家から出て行けって言ったのはお母様じゃない。私は絶対に家に帰らないんだから」
二人は言い合いを始めたが、
「帰るところがなければ俺の帝国にくれば良い」
と思わず言いそうになっていた。
クリスの手前言わなかったが……そうなれぱ愛しいアミと一緒に暮らせる。
学園長に帝国との交換留学生の話をしよう。それにアミが応募するようにすれば良いんだ。
俺はよいことを思いついた。
「私は絶対に家には戻らないんだから!」
「ふんっ、この頑固なところは誰に似たんだか」
「それはクリスに似たんじゃろうて」
ヨーゼフが言ってくれたが本当にその通りだ。
「ヨーゼフ先生、何かおっしゃいまして?」
なんか頭上の女が更に怒り狂ったのが判った。
頭が重い。先生、余計な事を言うなと俺が思った時だ。
「いや、儂は何も言っておらんぞ……そうじゃ、言ったのはレオじゃよ」
ヨーゼフ先生はなんと俺に振ってくれたのだ。
「レオ!」
「ヨーゼフ先生、私に振るのは止めて下さい。リック君でしょう」
「ちょっとレオさん。俺にも振らないで下さいよ」
「ええい、もう煩い!」
「ギャー」
あろうことかクリスは思いっきり俺の頭を踏んでくれたのだ。
頭が割れそうに痛かったんだが……
そのドタバタの後でガキがお茶を入れてくれた。
まともなお茶で、皆褒めていたが、
「まあ、王子がお茶入れられても仕方がないけれどな」
俺は断言してやった。お茶など下僕に入れさせれば良いのだ。
尤も俺の下僕のヒューゲルは全く入れられなかったのだが……少しはお茶を入れる特訓をさせるか、俺がそう思った時だ。
「あら、でも、野営の時とか便利じゃない」
「はい。どこにでもついて行かせて頂きます」
「いや、ちょっとリック、それは危険だから止めた方が良いわ」
「何言っているのよ! 好きな女の横にいようとするなら、私についてこれるくらいじゃないとね」
クリスが余計な一言を言ってくれたが、
「いや、待て! 俺はそんなことは許さんぞ」
そうだ。可愛いアミの横にあの陰険やろうと卑怯なディアナの息子なんていさせられない!
俺がそう思ったのに……
「はああああ! レオは黙っていなさい」
「何でだ! 俺はアミの……」
「レオ!」
俺が危うく本当のことをバラしそうになってクリスが切れてくれた。
そうしたらなんとアミとリックが手を取り合って俺たちから離れてくれたんだが……
「おい、貴様、どさくさに紛れて何故アミの手を引いている!」
俺は激怒した。
「いや、俺は……」
「良いのよ! お母様からリオを守るのは昔から私の役目なんだから」
「アミ、何か言った?」
「そうだぞ、アミ、そんな男の手は離してお前のおと……ギャーーーー」
怒り狂った俺の言葉に切れたクリスが雷撃を見舞ってくれた。
「ところでクリス、ここに来たのはレオを雷撃するためか? 他に用があったのではないのか?」
ヨーゼフ先生が他人事のように聞いてくれた。
「ああ、そうだったわ。アンハームの領主から緊急で救援依頼が来ていたのよ」
「えっ、救援依頼ってまた古代竜でも出たの?」
「それはどうかは知らないけれど、ランフォース王国と魔導公国が共同で攻め込んできたみたいよ」
クリスの言葉を聞いて俺は思わず飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。
はああああ!
帝国の属国がこの国に攻めて来ただと!
俺の許可も無しに?
しかし、あの国には帝国の騎士達も派遣していたはずだ。
あいつらは何をしている?
俺が切れた時だ。
「まあ、大したことは無いと思うけれど」
クリスはそう言うと指をならした。
いきなり線上の画面が出てきて、そこには帝国の鎧が映っていた。
な、何だ、これは?
俺の命令なしにそこに帝国の騎士達まで戦っているのだが……
「ちょっとお母様、のんびりして良いの?」
「これはクリスティーネ様!」
画面に一人の男が現れた。こいつがアンハームの領主らしい。
「お願いです。すぐにお助けください」
「高々敵の一万や二万、あなた方で防げないの?」
面倒くさそうにお母様が言うんだけど、
「敵はランフォース、魔導公国、それに帝国までいるのです。何卒、何卒……ギャーーーーー」
その瞬間だ。
その男の悲鳴が画面から響いて、画面が血に染まったのだった……
「アンちゃん!」
クリスが悲鳴をあげた。
「おのれ、帝国の奴らめ、絶対に許さない!」
クリスが俺を睨み付けてきて俺は慌てた。
「いや、ちょっと待て、クリス! 俺はアンハームに攻め込むなんて、一言も聞いていないぞ! そんなこと知っていたら止めさせていたから! だから、待て、早まるな!」
俺は必死に説得した。こいつが切れるとさっきの雷撃なんて可愛い物だと思えるほどの雷撃がくる。
「じゃあ、直ぐに止めさせなさいよ!」
「言われんでもやるわ」
俺は叫んでいた。
「先生、ちょっと、行ってまいりますわ。その間、アミとこの坊やを宜しくお願いします」
「いや、待って、お母様! 私も行くわ。生まれ故郷の危機をほってなんておけないわ」
アミが言いだしてくれた。まあ、最悪俺が連れて行けばいいだろう。
「俺も行きますよ。自分の国の一大事なのに安全なところで黙って見ているだけなんて無理です!」
何故かガキまでが行くと言い出してくれた。
「足手まといになるんじゃないわよ!」
クリスが言い出して、二人を連れていくつもりみたいだ。
「リックはレオに連れてきてもらいなさい」
「いや、俺はアミと」
俺はアミと行きたかったのに、さっさとクリスがアミを連れて転移してくれた。
俺の前にガキが残された。
最悪だ。
まあ良い。それよりも俺にやることがあった。
宰相のバウアーを魔導通信で呼び出した。
「これは陛下。やっと帰って来られることにして頂けたのですか?」
宰相の嫌みを無視すると
「それよりもバウアー、誰がノルトハイムと戦争をしろと命じた?」
俺は切れていた。
「はい? ノルトハイムと戦争をするなどあり得ませんぞ」
「じゃあ、アンハームに攻め込んでいるのはどこの軍隊だ?」
「いや、そのようなことは」
「俺はこれからアンハームに向かう。直ちにどんなことがあっても止めさせろ!」
俺はそう叫ぶや画面を切った。
「行くぞ、小僧」
俺はそう言うとやりたくなかったがガキの手を取った。
そして、転移したのだった。








