口論
広大な庭園を抜けると、ようやく建物が見えてきた。二階建てほどの鐘楼で、頂上には王国の旗がはためき、目立つ大きな銅の鐘が吊るされている。鐘の音が鳴り響き、王宮全体に響き渡った。
少年は鐘の音を聞いて小さく呟くと、馬車の速度を速めた。
「六時か……ちっ、他の連中はどうするんだ……」
クレメニは少年の呟きを聞きつけたらしく、軽い調子でからかうような口調になった。
「シェレ、どうしたの? なんか他に用事がありそうな顔してるね。こんなに遅くなっちゃって本当にごめんね」
少年は私の隣に座るクレメニの方を振り返り、手にした手綱を無意識に強く握りしめ、顔を引きつらせながら笑っているのか笑っていないのかわからない表情を浮かべた。
「あなたも知ってたの? 知らないと思ってたよ。前回ちゃんと話しておこうと思ってたんだけど」
「それは本当に申し訳なかったわ。今日は確かに遅れちゃったけど、やっぱり案内はお任せするしかないよね。庭園の“御者”さん、あなたがいなかったら大门から王宮まで本当に遠いんだから」
「……もういいよ、この“サディスト男”。お前の話聞いてると気分が悪い。王族の執事じゃなきゃとっくに追い出してる。お前の方が隣のあの女よりタチが悪い」
私は極めて困惑しながらその白髪の少年を見た。なぜ彼らの口喧嘩に私が巻き込まれるのか。ただ静かに馬車に乗って晩餐会に向かっているだけなのに、「あの女がひどい」ってどういう意味? 見込み違いだった。あいつはただ口の利き方を知らないガキだ。
「ねえ、あなた、シェレって言うんだっけ? あの女って何よ? あなたたちの喧嘩に私関係ないでしょ? 私を巻き込むならあなたこそ何よ? この白毛ガキ!」
シェレは明らかに怒っている様子で、歯を食いしばりながら私を睨んだ。でも私は負けじと視線を返した。こういうガキには弱みを見せちゃダメだ。
「お、お前……この女……! ちっ……失言だった、ごめん。気をつけるよ……」
こんなにすぐ折れるとは思わなかった。もう少し言い返してくるかと思ったけど、私と喧嘩を続ける気はないみたいだ。
それはそれでいいことだ。少なくとも馬車の中はこれ以上騒がしくならず、静かに王宮へ向かえる。
「ははっ、シェレ、君ってそんなに簡単に……」
「あなたもよ、この執事さん。静かにしてよ。口が軽すぎるんじゃない? あとでマルグリットに言いつけるから!」
私がマルグリットに言うと言ったら、彼は慌てて謝ってきた。小犬が悪さをした後みたいに頭をそっぽに向けた。一つ確信できたことがある。この“執事”は執事じゃない。ただの臨時でしかない、あるいはもっと深い理由があるのかもしれない。
彼の本当の正体はまだわからないけど、マルグリットなら知ってるはず。後で聞けばいい。
「ごめんなさい……どうかご主人様には言わないでください……」
「さっきまではあんなに上品だったじゃない。どこへ行っちゃったの? マルグリットはあなたをちゃんと躾けてないの? あなただって彼女の執事でしょ? 命令に従うってこういうことなの?」
どの言葉が彼の神経を逆撫でしたのか、クレメニは微妙な反応を見せた。耳が少し赤くなり、誰にも見られたくないという様子で体をわずかに右へ向けた。
シェレはくすくす笑い、小さな声で何か呟きながら、後ろのクレメニを振り返った。目にはからかいと軽い嫌悪が混じっている。
「本性は隠せないものだね」
御者と口喧嘩をする執事。多余なことで取り乱し、こんなに態度を崩す。シェレの言葉と合わせれば、私の隣に座るこの男——執事の皮を被った“素人”だという推測がますます確信に変わる。
「着きました。お二人とも降りてください。ここがシャスフェル宮です」
目の前に現れたのは、外壁が青空のような色の主宮だった。まるで天から降りてきた宮殿。青空に包まれた城塞。貴族の極端な奢りが、金で作られた頂上の太陽によってより強調されている。金の太陽は代替不能な存在を象徴し、絶頂の王室を表す。人など彼らの玩具にすぎない。再び高位の貴族であっても、この王宮の前では卑小に見える。門の前だけでも百人以上の衛兵が立ち、それぞれが力に満ち、姿勢を正し、王室に永遠に忠誠を誓う王家親衛隊。その威容は言葉では表せない。
クレメニが先に降り、優雅に手を差し伸べて私をエスコートした。今さらどれだけ完璧に振る舞おうとも、私はもう何も感じなくなっていた。




