閨蜜の洋裝店
「うわぁ、このスカート、ちょっとぴったりすぎない? 前みたいにコルセットでぎゅうぎゅう締め付けるんじゃなくて、着た瞬間にちょうどいいの! しかもめっちゃ快適! さすが一流の生地ね!」
「それってすごくいいじゃない~。この子はジェミニのドレスなのよ。シリーズの中でもトップクラスに特別なの。私がカプリコーンで、あなたがジェミニって、すごくお似合いだと思わない?」
私たちは王家御用達の裁縫店で試着に来ていた。この「双子座」のドレスは予想外に体にぴったりで、深いネイビーとエメラルドグリーンの組み合わせが、どこか深遠で落ち着いた気品を漂わせている。胸元にはサファイア色の宝石が放射状に散りばめられ、より一層の高貴さを演出していた。
……とは、私が思っただけなんだけど。
その宝石が胸の谷間に完全にハマって、めっちゃ不快なんですけど!!
しかも放射状だから、先端が肌に刺さって超痛い!
「この宝石……胸に挟まっちゃって……」
私がそう呟いた瞬間、裁縫師さんが盛大に無言で私を見た。設計図をちらっと確認してからまた私を見て、ため息をつくと、宝石を外し、細いリボンに通して再び装着してくれた。
隣でマーガレットが腹抱えて笑ってる。涙まで流してる。
「そんなに……大声で笑わなくてもいいでしょ! 本当に痛かったんだから! ほら、あなたも私の胸見てみなさいよ!」
「だって、めっちゃ面白かったんだもん!!! 胸の谷間がデカすぎて宝石が挟まって、痛がってる人なんて初めて見た!! ぷぷっ、あはははは!!!」
あんなに楽しそうに笑われたら、こっちもなんか悔しくなってくる。
「ふん~、あなたは胸がないからこういう苦しみを知らなくていいんだよね~。本当に羨ましいわ~。どんな服着ても挟まらないもんね~」
「っ……」
私がそう言い放つと、彼女の笑顔が一瞬で凍りついた。でも無理やり笑顔を保ってる。目が完全に殺意で染まってる。
最高。この嫉妬と憎しみが混じった表情、めっちゃ満足~♪
そうよ、他の人もみんなこうやって私に嫉妬するべきなの。私が妒まれることで心地よくなるし、心が満たされるの。特にマーガレットみたいな、本来はみんなから妒まれるべき高位の人間に妒まれるなんて……最高に気分いいわ。
「まあ、マーガレット、そんな顔しないで? あなただって素敵じゃない~。その愛らしいお人形さんみたいな顔立ち~」
「……うん、褒めてくれてありがとう。すごく嬉しいわ」
その笑顔、めっちゃ気持ち悪い(いい意味で)。妬ましいけど反論できないから、他のところで怒りを爆発させるしかないんだよね。
「ねえ裁縫師! あんた、マーガレットのドレスまだなの!? いつまでかかってるのよ、早くしてよ!」
案の定、怒りの矛先が裁縫師に。最初の犠牲者はやっぱり彼か。八つ当たり範囲が広すぎて、他の被害者もちょっと可哀想になってくる(少しだけね)。
「は、はい……もうすぐです……お嬢様、もう少々お待ちを。というのも、彼女のバストサイズが以前のデータと……」
「は? バスト? この無責任な裁縫師ったら、サイズもちゃんと測れないくせに、言い訳ばっかり! もう次からは別の人に頼むわよ……あなた、プロ失格ね」
「こ、これは失礼いたしました……!」
マーガレット、指さして罵倒しまくってる。裁縫師さん、どんどん後ずさって、最後には裁縫台にぶつかってた。
やっぱり彼女の機嫌は絶対損ねちゃダメね。感情が全部顔に出るから、見てて本当に面白い。まるで芝居を見てるみたい。
「まあまあ怒らないでよ~。裁縫師さんもちょっと遅れてるだけなんだから。急がば回れって言うでしょ? 特にこのドレスみたいな特別なやつはね~」
私が言うと、彼女の目に一瞬殺意が宿った。でもすぐに私に向き直ると、また満面の笑顔に戻る。私にだけはこうなんだよね。
私の最高の親友は、やっぱり彼女。表面上は笑顔で、私への感情を必死に抑えてる、この偽りの優しさ……他の姉妹よりずっと好きだわ。
「……あなたのためを思って言ってるのよ。彼がこんなに遅いと、あなたもずっと立ってなきゃいけないでしょ? それに、この後の晩餐会、間に合わなくなっちゃうよ? 従兄様の時間もかなりタイトなんだから」
慌ててテーブルの上の精巧な鳥時計を見たら……もう五時!?
やばい、間に合わない! 晩餐会って七時からだよね!? こんなところでドレスに時間かけてる場合じゃない!
「あんたこの裁縫師! 早くその宝石直しなさいよ! 私、間に合わなくなっちゃうじゃない! 遅れたらあんたのせいだからね!」
裁縫師さん、めっちゃ困った顔してるけど、仕方なく宝石を外して再び嵌め直す。でも彼、宝石職人じゃないから手仕事が荒い。
まあいいわ。間に合わないよりマシ。たかが宝石のために晩餐会に遅れるなんて本末転倒よ。
改めてリボンで宝石を首に掛ける形にしてもらって、これなら胸に挟まらない。飾り一つ付けるだけでこんなに面倒だなんて。
……この宝石、私のだったらよかったのに。残念、マーガレットのなんだよね。




