帰宮
シェレが真剣に念を押してくるほど、かえって心配になってくる。どうしてポモディスが一日姿を見せないだけでこんなに深刻な事態になるんだろう。彼の言い方からすると、何か重大な事件が起きる予感がする……
「でも、なんで私に教えてくれるの? 私なんてただの部外者だし、宮廷に入ってまだ日が浅いのに、そんなに信用してくれていいの?」
「よかった、そう言ってくれるなんて。やっぱり私の見立ては間違ってなかった。外の人だからこそ、この役目を任せられるんだ。で、お前は一体何が欲しくてここに入ってきたんだ? 自分でもわかってるだろ」
そう聞かれて、私は少し考えた。何のためかって? そんなの決まってるじゃない。果てしない富、果てしない権力。惨めな過去の生活から抜け出すために、ポモディスにこの条件を突きつけたのだ。人より上に立つために。
「権力、お金、そして……幸せな生活……それと……」
続けようとした瞬間、シェレが私を制した。彼は小さく微笑みながら王宮の方を見やる。
「もういい。それだけで十分だ。つまらない願いだけど、お前みたいな平凡な人間にはちょうどいい。だから言ったろ? お前たちって本当に欲が単純だな。だから……頼むよ」
あのツンデレが、私に頭を下げて頼んできた! これは本当に深刻な事態だ! でも彼が言わなくても、私は手伝うつもりだった。あの人だって私の伴侶なんだ。見捨てるわけにはいかない。もし彼がいなくなったら、私は何の後ろ盾もないただの人間に戻ってしまう。私の富も栄華も、彼にかかっているんだから!
……でも、そう思う一方で、この一ヶ月ちょっとの間に、ちゃんと彼に対して気持ちが芽生えていた。たとえ私がただの愛人だとしても、いつか正式に結婚式を挙げる日が来るはずだ。アンロクニンの魔の手から逃れて、ポモディスは弱くても優しい人なんだ。あんな檻の中に閉じ込められてちゃいけない。
「わかった! あんたがそこまで頼むなら、絶対に手伝うよ! 小僧、さっさと何をすればいいか言えよ。陛下を探すんだよね? 他に何かあるなら早く言って!」
私は彼の耳元に顔を寄せて、めちゃくちゃ大きな声で叫んだ。馬車の揺れで声が揺れるから、思いっきり大きくしないと伝わらない。
「もうない! なんでそんな大声出すんだよ! とにかく、お前が見たものは何でもいいから慌てるな。覚えておけ、心と体、両方だ。心を抑えるのは難しいだろうから、完全に平静でいろとは言わない。ただ、あんまり“大きく揺れる”な。よし、もう入るぞ。これ以上は話せない」
王宮の庭園の鉄柵の門が開き、馬車が中へ入っていく。周りを見回しても、いつもと変わらない。草木は変わらず青々と茂り、両側の彫像は相変わらず堂々と馬車を見下ろしている。像のそばでは飼われている鹿がのんびり草を食んでいる。なんて穏やかで平和な風景だろう。老庭師がにこにこしながら手を振ってくれる。もう完璧に整えられた芝生を、彼はまだせっせとハサミで刈り続けている。
私は少しホッとした。シェレが言っていたほど恐ろしい雰囲気じゃない。言っていたような怪奇な出来事も見当たらない。でも、シェレのいつもの顔の下には、明らかに警戒の色が浮かんでいる。表に出さないようにしているけれど、油断はできないし、仮面をかぶり続けなければならない。
シャファール宮の正門。衛兵たちはいつも通り厳粛に立っている。変わったところはない。でも私は彼らに対して、いつもより慎重な視線を向けた。紺碧の空とシャファール宮が溶け合い、空全体が宮殿の一部のように見える。
私はゆっくりと馬車から降りた。シェレは不器用にぎこちない笑顔を浮かべて、私に軽くうなずく。気をつけろよ、うまくやれよ、という合図だ。
「親愛なるアナ様、次にお出かけの際はぜひ私をお呼びくださいね〜。私は先に別の用事を済ませてまいります。素敵な一日をお過ごしくださいませ〜」
……うん、いつも通りっちゃいつも通りだけど、明らかに演技がオーバーだ。普段のシェレなら絶対にこんなこと言わない。むしろ「はぁ? 早く降りろよ! 俺の優雅な時間を邪魔すんな!」って毒づくはずだ。
私の口元が自然と緩む。こんなこと言われて、笑いそうになるのを必死で堪えた。でも今はもっと大事な目的がある。ここで失敗するわけにはいかない。




