外出する
翌日、私は王宮を出て、マーガレットに会いに行くことにした。 彼女なら何か事情を知っているかもしれない。 ちょうど馬車に乗り込もうとしたその時、またあいつに会ってしまった。 初めて私を王宮に送ってくれた、あの口の悪い少年――シェラーだ。
「えっ、またお前かよ!」
「久しぶりだな、女。今日は俺が送る番だ。お前はやっぱり相変わらず……いや、何でもない。早く乗れよ」
あー、やっぱり口が臭い。 でも今回は少し自制してるみたいだ。 きっと私を怒らせたくないんだろうな。 ある意味、いいガキだよ。……まあ、口が臭いのが欠点だけど。
「おい、乗るのか乗らないのか! こんなにのろまなことして、何やってんだよ! 太陽が照りつけてんだぞ!」
イライラしながら眉を寄せて急かしてくる。 明らかに我慢の限界って顔だ。 やっぱりガキはガキだな! 口本当に臭いわ!
「何をそんなに急かしてるのよ! このお嬢様、今やこの王国で第二の権力者なんだから! どれだけ遅くたって待つのが当然でしょ! このガキ!」
「チッ……本当に面倒くせえ女だな。わかったよ、王女様~。今すぐお乗りくださいませ~」
ようやく折れた。 言葉に皮肉がたっぷり混じってるけど、根っからの意地っ張りな性格がよく出てる。 これがこいつの素だ。
「早く行って。マーガレットの屋敷よ。 でも彼女がいるかどうかわからないわ。最近何日も会ってないし」
馬車は巨大な花壇を通り抜け、王宮の門を出た。 初めてこの世界に来た時も、この長い道を通って入ってきたっけ…… しかもあの時もこのガキが御者だったんだよな……うわ、嫌な思い出……。
もう二ヶ月近く王宮から出ていない。 外の世界がずいぶん変わった気がする。 何とも言えない違和感。 ただ、久しぶりに窓の外の景色を見たせいで、ちょっと感傷的になってるだけかもしれない。 一気にここまで上り詰めた感覚……本当に夢じゃないのかな。 あまりにも大きな美夢すぎて。
ずっと現実と非現実の間で揺れていて、 この前なんて、王宮のベッドで目が覚めた時、まだ夢の中にいると思ってしまったくらいだ。
「こんな平凡な景色、久しぶりに見てちょっと感慨深いわね……」
私がしみじみ呟いていると、 シェラーが例の極端に口の悪い口で話しかけてきた。 でもその声には、ほんの少し心配そうな響きが混じっていた。
「そんなに自慢すんなよ。外に出てる時が一番マシだ。 貴族の水に触れるってのは、外とは違うんだぜ。 鏡の水面みたいに、表面は綺麗に見えるけど、中じゃ誰がこっちを睨んでるかわかんねえからな」
「へえ、あなたって意外と人のこと心配するタイプなの? 口が悪いだけかと思ってたのに」
「フン! 余計なお世話だ! 聞きたくなかったら聞くな!」
馴染みの石畳の通りを抜け、ようやくマーガレットの屋敷に着いた。 私は従者にマーガレットの執事を呼びに行かせ、門を開けてもらうよう伝えた。 少し話した後、執事は門を開けず、従者が戻ってきてこう告げた。 マーガレットは五日前、首都を離れ、別の領地の屋敷に行ったそうです。
……おかしい。 普通ならマーガレットは私に一言連絡をくれるはずなのに、 今回は何も言わずに首都を離れるなんて。 それに国王も昨日から姿が見えない。 あんな大物が消えたのに、誰も知らないなんて……。 胸の奥に、かすかな危機感が広がった。
「シェラー、こんなことって前にもあった? 陛下が……昨日からまるで消えたみたいなんだけど……」
「何!? 兄貴が……いや、陛下が一日も姿を見せてないって? 昨日? 何時頃からだ?」
シェラーが明らかに動揺した。 こんな事態は知らないみたいだけど、顔色を見れば深刻さが伝わってくる。 それに……今、聞いた言葉がすごく引っかかる。
「兄貴……? え? 陛下って……あなたの兄貴なの!? あ!?!」




