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亡国の王女は敵国の隻眼皇太子の独占愛に囚われる  作者: 宮永レン
第九章

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4.幸せを永遠に閉じ込めて

 深紅から純白までさまざまな色の花弁が湯船の上に浮かんでいた。さらには薔薇から精製された香油を垂らしてあるので、さながら湯に浸かりながら薔薇園の中心にいるかのような錯覚をおぼえる。


 まだ舞踏会の演奏が耳に残っている。煌めくシャンデリア、心弾むダンスに愛しい人の笑顔、つないだ手の温もり、耳元で囁かれる愛の言葉、それらを思い出してアルエットはうっとりとため息を零した。


 うつむき加減の潤んだエメラルドに長い睫毛の影が落ち、頬はほんのりと染まっている。


「アルエットさま、そろそろ上がりませんとお風邪を召されますよ」

 ジゼルに促され、ついと目線を上げたアルエットは「そうね。あんまりにも素敵なお湯だったから見惚れてしまって」と言って湯から出る。


「明日の朝はゆっくり起こしにまいりますね」

 同性でさえときめかせてしまう愛らしさをまとった彼女に、フェザンが気づかないはずがないだろうとジゼルたちは予想し、にっこりと笑った。


「ありがとう、でもいつも通りでかまわないわ。おやすみなさい」

 何も気づかず無邪気な笑顔を浮かべたアルエットは、髪や体を拭いてもらい、夜の支度を終えるといつも通り寝室に向かった。


 ベッドに上がるとちょうどフェザンも自室の方から姿を現し、抱き寄せられて唇を重ね合った。そのままゆっくりと押し倒され、口づけが深くなる。


 ぎゅっと掌を合わせて指が絡められる。アルエットよりも大きくて力強い手は軍人らしい逞しさがあった。


 キスは何度も交わしているはずなのに、一度も同じだと思ったことはなく、触れる度に幸せが塗り重ねられていく。


 誰にも渡したくない。誰の方も向いてほしくない。


 なんてわがままな人間になってしまったのだろうと、アルエットは時々自分が怖くなる。それを伝えたら嫌われてしまいそうで、言葉にできない。


「アルエット。今夜は俺のために立ち上がってくれてありがとう」

 甘い光を宿した瞳に見下ろされ、すでにキスだけで幸せに浸っていたアルエットは小さく首を横に振った。


「当たり前のことをしただけ。誰にもあなたを傷つけさせない」


「アルエット……」

 フェザンは手を解くとアルエットを抱き起こした。


「今でも体で痛む所はあるのか?」

 そう問われて、アルエットは反射的に両手をぎゅっと握りしめる。


「いいえ、もう大丈夫」

 思い出したのは、あの舞踏会の一瞬だけだ。


「二度と嫌な記憶が蘇らないように……」

 握った手を開かれて、フェザンの柔らかなキスが掌に落とされた。右と左に、それぞれ指先にも唇が触れる。


「これからは俺の口づけを思い出してくれ」


「フェザン……」

 胸がきゅうっと切なく疼いた。翡翠の双眸が潤む。


「大好きよ」

 頬を寄せて目を合わせれば、吸い寄せられるように唇が重なった。


「アルエット。俺だけのアルエット――愛している」


 ――幸せにしたい、君を。

 ――幸せになりたい、あなたと。


 絶対に離れたりしない。自分たちはきっと出会うために生まれてきたのだ。


「愛している、アルエット」

 フェザンはそう告げると彼女の体を再び抱きしめた。


「私も……愛しているわ、フェザン」

 唇を重ね、言葉にならない愛を伝え合う。


「俺を家族だと言ってくれてありがとう。どうせなら賑やかな家庭を築きたいものだ」


 フェザンと、フェザンの家族と、そして――。

 アルエットは彼の頬を撫でて微笑んだ。


 それまで当たり前のように行われていた戦争は、やがてクライノート帝国を中心に平和協定が結ばれ、武力による争いは徐々に減っていった。


 人々は光の時代と呼び、ディエルシカ王家の長きにわたる繁栄を祈り続けたのだった。


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