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亡国の王女は敵国の隻眼皇太子の独占愛に囚われる  作者: 宮永レン
第六章

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4.お仕置きとご褒美

 王宮に帰ってくると、フェザンの言っていた通りミレイユの姿があった。すでにドレスに着替えていて、長い髪を揺らしながら急ぎ足でやってくる。


「お義姉さま! 戻ってきてくれたのね」

 うるっと金色の瞳に涙を浮かべた彼女はアルエットに手を伸ばそうとして、フェザンに阻まれた。


「白々しいぞ、ミレイユ。すべて把握しているからな」

 フェザンはアルエットを背中に庇いながら、妹に侮蔑の目を向ける。


「あら。私は見たままを話しただけ。買い物に行っている間にアルエットお義姉さまがいなくなっていたの。いい機会だと思って逃げたのかと思ったのよ。でも祖国が恋しいなら無理に止めるのも悪いでしょう?」


「嘘をつけ。お前には失望した」

 フェザンはきっぱりと言い切った。


「お兄さま――」


「もう二度とアルエットに関わるな」

 笑いかけたミレイユに向けて、瑠璃色の瞳が冷たく光る。


「そんな。私はただ……」


「聞こえなかったか。下がれ」

 氷輪のような鋭い言葉がミレイユに刺さり、彼女の美しい顔は血の気を失った。


「お兄さま……っ」

 肩をぶるぶると震わせ、嗚咽を漏らしたミレイユはその場に立ち尽くしている。


 呆れたため息をついて離れようとしたフェザンの服を、アルエットはきゅっと掴んだ。


「フェザン。あなたが私のことを一番に想ってくれるのは嬉しい。だけど、そのせいで、フェザンの家族がばらばらになるのはいや……」


「アルエット……」

 肩越しに振り返ったフェザンは目を瞠った。


「私はフェザンしかいらない。あなたが私を見てくれるなら、どんなにつらいことがあっても耐えられるから」


 だから、家族にひどいことをしないで――。

 翡翠色の双眸からはとめどなく涙が溢れていた。視界は滲み、フェザンの顔もミレイユの姿も見えない。


「本当に……君は優しすぎる光だ」

 フェザンはアルエットの背中に腕を回すと、反対の手でピンクブロンドを労わるように撫でた。


「お……義姉さま……」

 ミレイユはぽかんと口を開けてアルエットを見つめる。


「アルエットはこう言っているが、俺はお前を許していない。勝手な行動は己を滅ぼすとその心に深く刻め」

 フェザンが冷徹な口調で言い放つ。


「は、はい。わかりました……」

 ミレイユは鼻をすすり、頭を下げると、くるりと体の向きを変えて足早にその場を去っていった。


「フェザン、あの、私――」


「アルエットが意外と頑固者だということが知れてよかった」

 頬を流れる涙を指で掬ったフェザンはそれを舐め取る。


「俺しかいらない――か。かわいいことを言ってくれる」

 アルエットの濡れ輝く翡翠に、どろりと甘く蕩けたフェザンの瞳が映った。


「その野暮ったい恰好も悪くないが、君の魅力が半減するな」

 今回はそれが功を奏したかもしれない、とフェザンは小さく笑った。その意味がわからず首をかしげるが、彼はそれ以上教えてくれなかった。


 皇太子の私室に連れられて中に入ると、控えていたブラウンのくせ毛の若い男が軽く頭を下げる。


「レオニート。今日はもう下がっていい」


「はい」

 心得たという風に口元に笑みを浮かべた色白の青年は、慇懃に一礼してすぐに部屋を出ていった。


「アルエット――」

 ソファのそばまで進み、そこに座るものだと思っていたアルエットは、突然窓辺の近くの壁に体を押しつけられ、戸惑った。


 背後から逞しい腕で抱きしめられ、目を丸くする。結い上げて露わになっているうなじにキスされる。


「フェザン……?」

 戸惑うように尋ねる。


「ここで君を抱く」

 振り返ろうとするアルエットの耳に甘い毒のような囁き声が滑り込んだ。


 髪を結っていたリボンを解かれ、緩く崩れた髪が陽光に反射して桃色に輝く。


「でも、ここベッドもないのに――」


「反論するのか? そんな悪い子にはお仕置きをしないとな」

 ぞっとするほど熱のこもった声色に、アルエットの足が小さく震えた。


「それに耐えられたらご褒美をやろう」


 けれど、結局、与えられたお仕置きもご褒美もアルエットにとっては同列のものだった。


「フェザン……」


「ご褒美はもっと欲しいだろう?」

 もう十分受け取った、そう答える間もなくアルエットは横抱きに抱え上げられた。


 フェザンには敵わない――。

 その後、完全に気を失うまで何度も抱かれ、夜が更けて、ようやく穏やかな時間が訪れたことを、銀砂の撒かれた空に浮かぶ月だけが知っていた。


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