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亡国の王女は敵国の隻眼皇太子の独占愛に囚われる  作者: 宮永レン
第五章

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6.初めての皇都

 小さな馬車は、遠くに見える橙色の屋根の並ぶ街並みを目指して一気に駆け下りていった。


「お義姉さまは、お忍びしたことがないの?」

 揺れる馬車の中で、ミレイユがこちらに好奇心旺盛な瞳を向ける。


「部屋から出てはいけないことになっていたから……」


「まあ。厳しいのね。でもそれでどうやって兄とお知り合いに? エグマリン国とはあまり交流がなかったと思うのだけど」


「フェザンとは、ミスダールで会ったの」

 閉ざされた冬の保養地で、芽吹いた恋の花は春に可憐に咲き零れた。未来がみえなくて立ち止まって泣いていた自分に、生きる意味をくれた力強い道しるべの光が、今この瞬間もこの胸に宿っている。


「ミスダール、綺麗な所よね。子供の時にしか行ったことがないけど。たしかあれはまだ春になるかならないかの頃だったわね?」

 ミレイユがそう言った時、馬車が停止したので二人で降りる。


 賑やかな町の入り口には近衛が立っているが、アルエットたちを見ても呼び止めることはなかった。


「私は、冬にミスダールに行くように父に言われて……」

 アルエットはぽつりぽつりと身の上を話し始めた。フェザンと出会って救われたこと、二人で図書館に通ったこと、再会の約束をして別れたこと――。


 ミレイユは相槌を打ちながら、時々質問を挟みながら話を最後まで聞いてくれた。


「病で失明した時、兄はとても苦しんでいたわ。周囲に当たり散らすようなことはしなかったけど、ずっと神経を張りつめているみたいだった。父ももっと言葉を選べばよかったのにね」

 ミレイユは歩きながらため息を零す。


「片目が使えない不利な状態で万が一刺客に襲われたら、戦場に赴く必要があったら……厳しい結果になるかもしれない。だから父はそれを心配して兄に皇太子の座を辞せよと進言したの。そんな心配がないことを兄自身が証明したわけだけど」

 肩をすくめたミレイユは、アルエットに同意を求めて視線を送ってきた。


「フェザンは強くて、国の未来をちゃんと考えていて、とても立派な人」


「さすがお義姉さま。兄のことをよくわかっているのね」

 くすっと笑ったミレイユは、広場にある噴水の前のベンチを指さす。


「少し座りましょうか。私、あちらで何か食べるものを買ってくるわ」

 屋台や店の並ぶ通りを見つけて、アルエットは頷いた。


「まだ帰らなくて大丈夫? フェザンが心配しないかしら」


「来たばかりで何を言っているの。せっかく外へ出られたんだからのんびりしていきましょう」

 そう言ってミレイユは行ってしまった。


 一人になり、アルエットは落ち着かない気分になる。


 大きくてにぎやかな街だった。人々の顔には活気があり、幸せで溢れているようだった。

 しばらくぼんやりしていると、隣のベンチに座る人の顔ぶれが何度か変わる。


(遅いな、ミレイユ……)

 彼女が歩いていった方向に姿を探すが、こちらに戻ってくる気配も、屋台の前にいる人混みの中にも見つけることができない。


「もしかして、何かあったんじゃ……」

 何度かお忍びで来たことがあると言っていたが、もし皇女だということがばれて誘拐されてしまっていたら、どうすればいいのだろう。


 予想が悪い方へ傾くと、それは勢いを増してアルエットを不安に駆り立てた。


 思い切って立ち上がると、アルエットは店のある方へ向かい、何軒かに声をかけるが、ミレイユのような人を見たと話す者はいなかった。


(どうしよう……ミレイユに何かあったら私のせいだわ)

 部屋で退屈そうにしていた自分を気晴らしに連れ出してくれた彼女に、危害が加えられたらその全責任はアルエットにある。なによりフェザンの大切な妹だ。


「他のお店に行ったのかも――」

 アルエットの足は自然と速くなり、石畳の上を強く蹴っていた。たしかに、この服装は動きやすくてよかった。


 出会う人に声をかけながら、アルエットはあちこちを駆けずり回る。息が切れて、壁に寄りかかると、細い路地の向こうにも建物が見えた。古い通りなのか、寂れた印象だ。


 久しぶりに体を動かして萎えそうな足を叱咤し、アルエットはそちらに進んだ。曲がり角を曲がった時、足元に大きな塊があってぎょっとする。


 薄汚れた服にぼろぼろの帽子をかぶった大男が座り込んでいたのだ。


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