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亡国の王女は敵国の隻眼皇太子の独占愛に囚われる  作者: 宮永レン
第三章

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5.目隠しのままで

「セヴラン!」

 生け垣の間を抜けていつもの場所へやってきたアルエットは、ベンチに腰掛けるセヴランの姿を確認してホッとした。息を切らしながら、メイドキャップを取って彼のもとへ歩み寄る。


「リエル? どうしたんだ、その恰好は……」

 驚きで目を丸くしたセヴランが立ち上がる。


「私……あの……っ」

 胸を押さえ、乱れた呼吸が治まるのを待ってから事情を説明しようとするが思ったように言葉が出てこない。


 ――さよなら、ひと時の幸せをありがとう。

 別れの前にただその一言さえ届けられたらいいと思っていた。終わりが来ることなんて最初からわかっていたことだ。それなのにセヴランの顔を見たら言葉が喉の奥でつかえてしまう。


(やっぱり私……ううん、だめ。明日には帰らなきゃいけないんだから、ちゃんと話さないと……)

 アルエットはキャップを両手できつく握りしめ、真っ直ぐにセヴランを見上げた。


「明日、国へ帰ることになったの。外に出てはいけないと言われたんだけど、メイドが私の身代わりになってくれていて、それでこの服装で……」


「明日? ずいぶん急な話だ。何かあったのか?」

 セヴランは眉をひそめる。


「……縁談が……、私の、縁談が、決まって……」

 声が震えた。本当は言いたくなかったが、嘘をついても仕方がない。


「では今日ならまだ時間がある?」


「え?」


「リエルに見せたいものがあるんだ、俺の別荘に」


「セヴランの?」


「そう。ただし場所がわかると好奇心旺盛な君のことだから、すぐに俺のことなんて調べてしまうだろう、これは好きな物とは違う」

 彼のことを知りたくて好きな物を質問した日のことを思い出して恥ずかしくなった。やはりセヴランは気づいていたのだ、アルエットが探りを入れていたことに。


「もう詮索したりしないわ。今日は遅くても夜までに戻らないといけないけど……」


「それなら大丈夫だな。少々予定は変更しよう」

 呟くように言ったセヴランはポケットからスカーフを取り出す。


「別荘につくまでこれで君の視界を塞がせてもらう」


「……何も見えなくなったら歩けないわ」

 スカーフで目元を覆われ、かすかな光しか見えない。頭の後ろでしっかりと結び目を作られ、アルエットは戸惑った。


「心配ない。こうすれば解決だ」

 セヴランの腕が回されたかと思うと、アルエットは体が傾いて小さな悲鳴を上げた。力強い腕に横抱きに抱えられたのだ。


「お、重いんじゃ……」


「抱いていないとどこかへ飛んで行ってしまいそうなほど軽い。歩くからしっかりつかまっていてくれ」

 セヴランの歩調に合わせてアルエットの体が揺れるが、それはかすかなものでまるでゆりかごのような心地よさだった。


 目の前にはセヴランの端正な顔立ちがあるはずだが何も見えない。ただ、そばにいると優雅で深い色気のある彼のいつもの香りがして、胸がきゅっと切なくなる。


「たとえ目に映らなくても……こうしてあなたを感じられる」


「リエル?」


「すぐ目の前に見えるものだけがすべてではないのよね。離れた場所にいても、ずっとセヴランの目がよくなることを祈るから」


「目の前に見えるものだけがすべてではない……か」


「だから、元気でね、セヴラン」

 涙がスカーフに滲んでしまう。


「勝手に終わらせないでもらえるか、リエル」

 セヴランが苦笑した空気を感じる。


「ごめんなさい。見せたいものがあるのよね?」

 どれくらい歩いたのか、抱き上げられていると感覚がつかめなかったが、どうやら別荘の敷地に入ったらしかった。


 さわさわと葉擦れの音しか聞こえないが、足元は街の石畳とは違うもっと硬質な靴音に変わっている。目が見えないと他の感覚が鋭くなるものだとアルエットは新たな気づきを得た。


 どこかの扉の開く音がした。


 セヴランはアルエットを両腕で抱いているので、開けたのはおそらく使用人だろうが、こうして子供のようにしがみついているところを見ているのかと思うと恥ずかしい。


 やがて別荘の中の部屋に通され、背後で扉が閉まった。


「ここは……?」


「俺の部屋だ」

 そう言ってアルエットの体は柔らかな場所へ降ろされた。おそらく広いベッドのようなものだと思う、よく洗われ綺麗に干された日向のような匂いがする。スカーフを取ろうとすると手を止められた。


「リエル。もう少しそのままで」

 ぎしりとベッドが軋んで、セヴランの体躯がアルエットの上に重なった。


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