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亡国の王女は敵国の隻眼皇太子の独占愛に囚われる  作者: 宮永レン
第三章

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3.虹色の幸せ

「……私は、大丈夫」

 ようやく絞り出すように言うと、アルエットはセヴランの胸に手を当てて押し返した。


「リエル、どうした?」


「あ、あなただってミスダールに入れるくらいの身分だもの、わかるわよね? こんなことは婚約者にしかしちゃいけないのよ。他の人にはあんまり優しくしない方がいいわ」


 初めてアルエットの声に耳を傾けてくれた、そばにいてもこわくない、一緒にいると心が安らぐ人。寒い冬を越えてめぐってきた春のような温かいセヴラン。何もかも嫌になって泣いていたアルエットの涙を止めてくれた。


 想うだけで胸がときめく。好きなのだ。本当ならずっとそばにいたい。だが、やはり現実的に考えて父に彼のことを――好きな人ができたなど、なんと言われるかこわくて話せるはずがない。


 セヴランにしても、アルエットが実際に国でどういう扱われ方をしているのか目の当りにしたら気持ちは醒めてしまうかもしれない。それに煌びやかな姉と対面することになったら、アルエットの存在など霞んでしまうだろう。


 その時になって絶望するくらいなら、今ここでセヴランを拒まなければ。


「こんなこと、とは、どういうことだ?」

 そう言いながらもう一度セヴランに抱き締められた、今度はアルエットの細い腕で抵抗してもびくともしないくらい強く。


「だから、ち、近すぎるの……っ」

 少しだけ腹がたった、懸命に忘れようとしているのに言うことを聞いてくれない彼に対してなのか、もう一度抱きしめられてときめいてしまう自分に対してなのか、それはわからない。ただ喉の奥が苦しくなって息を呑むことしかできなくなって下を向く。


「俺はリエルが思っているほど優しい人間じゃない」

 俯いた顔を指先で掬われて、セヴランの真剣なまなざしに見つめられる。一つの深い瑠璃色の瞳に心を覗かれているようで胸の鼓動がさらに早くなっていく。


「泣くほどいやか?」


「そうじゃ……ない」

 端整な面立ちが近づいてきて、アルエットは潤んだ瞳を閉じた。


 唇が触れる――。

 昨日の別れ際のキスよりもはるかに長いキスだった。


 重なる体温が少し冷たく感じられたが、啄むように幾度も口づけが繰り返され、徐々に熱を帯びていった。


「リエルが欲しい」


「ほ、本気、なの……?」


「もちろんだ。リエルが俺の心の火をつけた」

 いくらセヴランが本当にアルエットのことを好きだとしても、これだけは気持ちの問題ではない。


 それは、頭ではわかっているのに――。

 もう独りにはなりたくなかった。温もりを与えてくれる人を離したくない。

 傷ついた心の隙間を埋めてほしい。


「セヴラン……」

 か細い声は強い雨音にかき消され、罪悪感と一緒に流されていった。

 すぐそばにあったベッドに導かれるように横たわると、セヴランの影がアルエットの上に落ちた。


「キスは俺が初めて?」

 そう聞かれて、アルエットはこくこくと頷くしかなかった。


「リエルの初めては全部俺がもらう」

 嬉しそうに笑ったセヴランの瞳に情欲の炎が灯る。


 まるで夢でも見ているかのようだった。

 心から好きだと思える相手に愛される幸せな時間。

 アルエットの知らない世界の扉を開いてくれた愛しい人に捧げる初めての瞬間。


(セヴラン、大好き……)


「リエル。自分のことよりも他人を気遣える優しさと人を疑わない純粋さに、俺は心が震えた。誰よりも守らなければいけない愛しい人を見つけたと思ったんだ」


「セヴラン……」


「だから、君を絶対に離したりしない」

 瑠璃色の隻眼で真っ直ぐに縫い留められる。偽りのない輝きに、アルエットは小さく頷いた。


 彼にすべてを捧げ、時間が経つのも忘れるほど心が満たされる。陶酔しきった瞳から涙を溢れさせたアルエットの意識がとぎれとぎれになって、しっかりと目を開けた頃にはもう雨が上がっていた。


「窓の外が見えるか?」

 隣に横になっていたセヴランの指先をたどると、そこには雨上がりの大きな虹がかかっていた。


「なんて綺麗なの……」

 感嘆のため息を漏らしたアルエットを引き寄せ、セヴランが額に口づけをくれる。逞しい腕の中で、アルエットは幸せな時間を噛みしめていた。


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