1.知りたい
セヴランに会ったらどんな顔をすればいいのだろう。ずっとそのことを考えていたら答えが出ないまま外が明るくなっていた。早朝に少しだけうとうとしたが、短い夢をいくつも見て目が覚めてしまった。
都合よく解釈すれば、アルエットのことを好きだということになる。もしセヴランが婚約者でもう結婚も控えている、それくらいの関係ならばキスをすることなど何の違和感もないのだが。
「まだ会ったばかりなのに……お互いのことを何も知らないのに……」
――キス。
その前に色々と済ませておかなければいけないことがあるのではないだろうか。せめてアルエットをどう思っているのか教えてくれなければ、このもやもやとした心は晴れない。
「でも、もし好きだと言われても……私たちだけで将来を決めるなんてできない」
そう言ってしまってから、顔が熱くなった。
それは、はっきりとセヴランを好きだと認めているようなものだったからだ。それに将来などと思考が飛躍し過ぎて失笑ものだ。
「セヴランのことが好き……」
誰か想いを寄せるのは生まれて初めてのことだ。
これまでアルエットは腫れもの扱いされてきた。舞踏会では義理で踊ってくれる親族はいたが、みな彼女の顔を見ようともしなかった。優しい言葉をかけてくれる者もいたが、それがすべて社交辞令だと気づいてからアルエットの瞳が輝くことは一度もなかった。
セヴランに会うまでは――。
だがミスダールにいられるのはあと一か月くらいだろう。暦を見れば今月には姉の挙式が行なわれるはずだ。そうすればまた王城に戻される予定になっている。
迎えなんて来なければいい。このまま穏やかな毎日が続けばいいのに。
アルエットは唇を噛んだ。
セヴランの方もいつまでもここで療養というわけにはいかないだろう。いつか彼も自分の国へ帰ってしまう。仮に好意を持ってくれたとしても、それはここにいる間だけの話ではないのだろうか。世の中には軽い遊びのような感覚で際どい関係をもつ男女がいると聞いたことがある。
(そうよね。私みたいにつまらない人間を好きになってくれるはず……ない)
もし、本当に好きでいてくれても、結婚の権限を持つ父が二人のことを認めてくれるわけがない。せめてセヴランがどこの国のどういう立場の人間なのかわかれば、あるいは可能性がないわけではないのだが。
いろいろなことを考えすぎて長いため息をついた。すべてが自分の憶測で、ここで考えてもどれも答えが出ないものばかりだ、自身の気持ち以外は。
「詮索はしない約束だけど……」
どうにかしてセヴランのことを知る方法はないだろうか。
「そうだわ」
クローゼットの中から薄桃色のデイドレスを取り出し、着替えながら一つだけひらめいた。