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亡国の王女は敵国の隻眼皇太子の独占愛に囚われる  作者: 宮永レン@書籍コミック発売中
第二章

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6.助け出す方法(ヒーロー視点)

「フェザン殿下」

 生け垣の間からガサっと顔を出したレオニートが声を弾ませる。


 リエルの小さくなっていく後ろ姿を見送っていたフェザンは、音もなくレオニートに向けて拳を振り上げた。


「ひぇっ、な、何をなさるんですか、殿下!」

 顔面が潰れるすんでのところでそれを交わしたレオニートは、一度顔をひっこめてから生け垣の陰から姿を現した。


「彼女に気づかれたらどうするつもりだ?」


「気配は殺していたので大丈夫だったかと――」

 頭をかきながら釈明するレオニートに、フェザンは機嫌の悪そうな視線を送る。


「で、こんな所までどうした?」


「調査の続きのご報告を」


「そんなもの別荘に戻ってからでかまわないだろう」


「そういうわけにはまいりません。私の本来の役目は護衛なわけですし……」


「俺の目の届かない範囲にいろ」


「それは無茶ですよ。いつどこに刺客が潜んでいるとも限らないわけですし、すぐに飛び出せる間合いにいませんと……」


「リエルを守るくらいなら俺一人で十分だ」


「いえ、私は殿下の護衛を……えっ、あっ……」

 言いかけてから彼は腑に落ちたような顔になった。


「まさか、今のキスは本気で……?」

 レオニートはそう零してから両手を押さえたが、口にした言葉はすでにフェザンの耳に入ってしまったようだ。


 凍てついた氷山のような感情を押し殺した瞳で見つめられ、レオニートの全身に鳥肌が立つ。


「決して、のぞき見をしていたわけはなくてですね……。すぐにご報告した方がよいと思いまして急いでまいりましたら、出るに出られず……」

 額に冷や汗を浮かべながらレオニートは頬を引きつらせる。


「報告とはなんだ。言ってみろ」


「あ、あの、今の娘のことです。別荘周辺を探りまして情報を掴みました。彼女の名前はアルエット・リュシュ・サリアン。正統なサリアン王家の娘、第二王女のようです。滞在理由までは聞き出せませんでしたが」


「アルエット……第二王女」


「いかがなさいますか? 見たところ、アルエット王女は殿下を慕っている様子でしたが……」

 自分から先ほどののぞき見の件を蒸し返してしまったレオニートは、再び鉄槌が飛んでくるのを恐れてハッと顔をこわばらせたが、フェザンは逆に口に手を当て気まずそうに目を逸らしただけだった。


「本当に慕っているように見えたか?」

 ちらりと伺うような目元は微かに熱をはらんでいる。


「へ? そ、それはもちろんです。本物の恋人同士のようでしたよ」

 それを聞いてフェザンはホッとした。


 言葉を交わさなくても、そばにいるだけで優しさに包まれているような安心感があった。それはリエル――アルエット自身がまとっている空気なのだろうが、本人にまったく自覚はないようだった。なぜあんな無垢で澄んだ心の持ち主が自国で蔑まれているというのだろう。


 日差しを浴びたアルエットがまるで天使のように見え、手放したくなくて衝動的に口づけていた。


 アルエットは嫌なことがあっても全て諦めていると言っていたので、フェザンのすることをただ拒めないだけだったのかもしれないと不安になっていたのだが、レオニートの言うことを信じるなら心配はないのだろう。


 部下に見られていたのは不本意だが、客観的な視点はこういう時役に立つものだ。


「ですが、エグマリン国の人間となりますと、これ以上は関わり合いになられない方がいいのでは――」


「彼女を助け出したい」

 レオニートの声を最後まで聞かずに、フェザンは首を横に振った。


 もしアルエットの話してくれたことが真実なら、彼女は孤立している。もし国に戻ればまたつらい日々が始まるだろう。


「助け出すとは……?」


「方法は一つ」

 アルエットを救えるとすれば、早い話が自分の妃として帝国に連れ帰ることだった。だが、それは同時にエグマリンとも深い縁ができることになる。アルエットはいつまでもその暗い存在を憂いて過ごしていくことになるかもしれない。


 ――アルエットを苦しみから救いたい。そして誰にも渡したくはない。

 

 結論はほとんど出ているようなものだった。


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