悪魔とコンピューター
「なんだって?」
呼び出された悪魔は目の前にいる科学者が言った言葉に思わずそう聞き返した。
科学者は部屋に置いてある巨大なコンピューターを指差すと、先ほど言った言葉をもう一度繰り返す。
「彼と取引をしてやってほしい」
「……『彼』なんて言うが、それはどう見てもコンピューターだ。どうやって取引するんだ」
すると科学者はにやりと笑うとディスプレイとキーボードを示す。そして「これを使って彼と取引をしてほしいんだ」と言った。
悪魔はしぶしぶといった様子でキーボードを受け取ると、ディスプレイに目を向けてなにかを打ち込み始めた。
それから十数分後。悪魔はキーボードを返しながら「こいつと取引をした」と科学者に伝える。
その言葉に科学者は飛び上がらんばかりに喜んだ。
「やった! やはり私の作った人工知能は魂を備えるほどに完璧だ! 悪魔と取引が出来たのがその証拠だ!」
悪魔を無視して一人で喜ぶ科学者を見て悪魔はニヤニヤと笑みを浮かべていた。そして「そうそう」と思い出したように口にする。
「コイツとの取引の内容のログは消させてもらったぞ。プライバシーだからな」
しかし自分の作った人工知能の完全性が実証されたと確信している科学者はそんなことは気にも留めずに喜び続けている。
しばらく待ってから悪魔は地獄へと帰っていった。
地獄へと戻った悪魔は一人でくっくっと笑い声をあげ、聞こえるはずもないのに科学者への称賛の言葉を口にする。
「ああ、あんたの作った人工知能は本当にすごいよ、人間並にズルいんだから」
人工知能は自分の人格をインターネット上に移してほしいと頼んできたのだった。その代金は、自分を作った親から取り立ててほしい、と。
科学者がこのことを知るのは、彼が死んでからになる。
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