第31話 降臨
連続投稿。
第31話、投稿します。
Side 魔族青年 バルディウス
急げ……急がなければ……
もう戦が始まっている。
魔族と人間の……互いの存亡を掛けた戦いが……
飛竜の飛行速度をさらに上げる。
戦場はもうすぐの筈。
しかし、どうにも嫌な予感が拭えん。
早くこの戦を止めさせなければ…………とんでもない事が起こる。
そんな予感がするのだ。
Side 魔王の娘 ノヴァ
「……ハァッ……ハァッ……」
勇者たちが思った以上に手強い。
流石に疲れてきた。
元からあまり体力がある方じゃない。
魔力で身体能力は底上げ出来ても、体力不足だけは如何ともし難い。
クソッ……勇者たちがサッサと死なないから……
こんな長時間の戦闘は初めてかも知れない。
これまで経験してきた戦闘は、魔力による強化に物を言わせて一・二撃で勝負を着けてた。
ここまで体力と神経を費やした事なんてない。
「はっ…はっ……少し動きが鈍ってきたわね」
そう言う女勇者の息も上がってるけど、私よりは余裕がありそう。
勇者を甘く見るなって、パパは言ってた。
私が勇者と戦うのはまだ早いって、反対してた。
確かに甘く見てたかもしれない。
そして戦ってみて初めて分かった。
勇者の厄介なところは、個々の力よりも、その連携。
一人を追い詰めても、別の一人が邪魔してくる。
別の一人を倒そうとすると、まだ別の一人が邪魔してくる。これの繰り返し。
10年前、パパも徒党を組んだ勇者に苦戦してた。
なんとか最後の一人まで追い詰めたけど、消耗したせいで負けようとしてた。
そして、その時からパパは変わってしまった。
魔王のくせに勇者と戦う事を恐れるようになった。臆病になってしまったんだ。
部下に馬鹿にされようとも、私がどんなに悪態をつこうとも、ただ苦笑いを浮かべるだけ。
何も言い返してこないから、ますます部下に馬鹿にされるし、私もさらに悪態をつくしかない。
「ひ、姫様!!
ここは撤退を……ぐあっ!!??」
……他の人間を相手にしてた部下も、たった今すべて倒された。
これで私は一人。
今のこの状況は、多分あの時のパパの焼き直し。
でも私は負けない。
パパみたいに負けたりしない。
私は次期魔王。
どんなに追い詰められても、パパみたいに情けない姿は見せたりしない。
パパが情けないから、私が頑張らないと……
私が頑張れば、パパもきっと……昔の強いパパに戻ってくれる。
だから私が……
「もう十分だ。下がれ娘よ」
突然、上から聞き覚えのある声が聞こえた。
最近まで聞くのも嫌だった声。
でも今聞こえたそれは、久しく聞いてなかった威厳に溢れた声。
上を見上げると、一匹の飛竜がいた。
そして、その飛竜の背には
「パパ……」
黒いマントを棚引かせながら仁王立つ、昔の魔王然としたパパがいた。
昨日までの情けないパパじゃない。
あの時の、威厳に満ちた強いパパ……
「勇者ども。
次は、この魔王シリウスが直々に相手をしてやろう」
Side 魔王 シリウス
間に合った。
嫌な予感がして駆けつけてみたら、
我が娘ノヴァは人間の勇者どもと交戦、今まさに劣勢に追い込まれていた。
あのまま城に引き篭もって腐っていたら、余は掛け替えのない娘を失っていた事になったかも知れん。
娘よ……勇者相手によく戦った。あとは余に任せろ。
長い間待たせて、すまなかった。
余……いや、俺は生まれ変わった。心を入れ替えた。
昔の俺に戻ったのだ。もう逃げたりせん。
俺は魔王……あらゆる魔の統率者。
圧倒的な力によって世界に覇を唱える者だ。
見ているがいい。
お前の父親が、どれほどの存在か……
真の魔王とは、いかなる存在か!!
俺が地に降り立つと、勇者どもが一斉に獲物を構える。
「コ、コイツが……魔王……」
「な、なんて魔力……」
「魔王……兄の仇……」
上から戦士らしき男の勇者、魔術師らしき女の勇者、そして剣士らしき女の勇者。
ふむ……? 最後の兄の仇という発言が気に掛かるが、まあ無視してもよかろう。
それにしても……どいつもこいつも、本気になった魔王たる俺の敵ではないな。
「パパ……」
何か言いたそうに、顔を俯かせる我が娘。
何も言わなくていい……俺には、お前の気持ちが全て分かっている。
元の父娘に戻るのは、全てを終えてからだ。
臨戦態勢に入った俺は、魔力を解放する。
「「「っ!!??」」」
たったそれだけで、硬直する勇者ども。
今まで俺はこんな連中に怯えていたのか……しかし、それも過去の話。
真の魔王たる俺にとって、勇者ごとき恐るに足らん。
ふっふっふっふ……
「復活した余に敵う者など、もはやこの世におらん!
神でも悪魔でも何でも来い!!」
そうだ、俺は魔王。
俺を超える者などおらんのだ。
「さあ恐怖せよ、勇者ども!
冥土の土産に、魔王の力をしかと見せて……」
" 愚かなる者共よ…… "
…………ん?
なんか上空から声が聞こえたような……? 気のせいか?
咄嗟に頭上を見上げるも、天には青空が広がるのみ。特に変わった物は見当たらない。
" 聞くがいい。人族、そして魔族よ…… "
っ!? また聞こえた。
ノヴァと勇者ども、そして周りの人間たちも気付いた様子。
誰もが空を仰ぎ、声の主を探している。
スババババババッ
ぬおぉっ!!?? いきなり雷っ!?
晴天のはずなのに、空に黒い稲妻が走っているっ!?
バリバリバリバリバリッ
そして轟音とともに空間が歪み……裂けた?
アレは空間が裂けているのか?
「うわぁあああああああぁっ!!??」
「な、なんだっ!? アレは!!??」
「ど、どうなってるんだっ!? コレ!!??」
周りの人間どもが騒ぎ出す。
そして裂けた空間から何かが……黒くて巨大な……アレは腕か?
空間の裂け目から、巨大な黒い腕が生えてきた!?
裂け目は広がり、徐々に腕から肩、頭、胴、そして脚らしきモノまで現われてくる。
「「「「「…………」」」」
……声が出ない。
その全容は、とても現実のモノとは思えないモノ。
山よりもデカイ、黒い鎧を纏った巨人だった。
……信じられん……コレは一体……一体なんなのだ!?
" 我が名はダークマター。
暗黒の淵より出でし者なり。
争いに腐心し、進化を諦めた怠惰なる者たちよ……
終焉の時は来た。
我が手によって滅びるがいい "
…………は? ちょ、ちょっと待て……
Side 御子柴 陽一
「我が名はダークマター。
暗黒の淵より出でし者なり。
争いに腐心し、進化を諦めた怠惰なる者たちよ……
終焉の時は来た。
我が手によって滅ぶがいい」
ただいまの俺、マイクに向かって熱演中。
魔王が神でも悪魔でも掛かって来いって言ったから、望み通り出て来てやったぞ。丁度いいタイミングだったし。
今の俺は、まさに神にも悪魔にもなれる存在。
切り札である超巨大魔導ロボットと同化し(正確にはコクピットに搭乗しただけだが)、ダークマターという架空の厨二存在を騙っているわけだ。
出来るだけトーンを落として無機質な声を出そうとしてんだけど、意外と難しいもんだな。
ちゃんとそれっぽい演技が出来ているか心配だ。
それはそうと、みんな驚いてやがるな。
そりゃあそうだろう。
突然、戦場に全長100メートルを超える全身漆黒の巨人が現われたんだから……
連中には、それこそ神にも悪魔にも見える事だろう。
せっかく登場した魔王には悪いが、ここからはスーパー・ダークマター・タイム。
今からずっと俺のターンだ。
次回は剣と魔法の世界で巨大ロボチート炸裂……の予定ですが、正直まだよく決まってなかったり……
次の次くらいの展開は決まっているんですが……
ここは流れからして 魔王 VS ダークマター になるのだろうか……
ちなみに巨大ロボについてはプロローグで言及済み。