第30話 戦争開始
第30話、投稿します。
かなり間を空けてしまいましたが、ようやく執筆再開。
亀更新に変わりないですが……
今回、視点が変わりまくりです。
Side 勇者 リーズ
「遂に、魔族軍の侵攻が始まったってわけね」
近いうち、この日が来るであろう事は分かっていた。
突然、侵攻してきた魔族の軍勢。
魔族軍の中でも凶悪な魔獣を使役し、破壊と殺戮の限りを尽くすと恐れられる魔獣部隊。
ある日そいつらは国境を越え、人間側へと侵略を開始した。
魔族軍の侵略開始から1週間が経過。魔族は破竹の勢いで進軍し、既に国境近くの砦4つを落としている。
アタシたち勇者に与えられた指令は、第5の砦にて魔族軍を迎え撃ち、これ以上の魔族の進軍を阻止する事だった。
「……緊張するね」
隣に並んだエリナが、偽りのない本心を口にする。
その言葉を裏付けるように、エリナの声は明らかに震えている。
怖い……という感情も含まれているのだろう。
アタシも怖くないと言えば嘘になる。
勇者なんて呼ばれてるけど、アタシたちは本当に魔王を倒せるのか?
アタシたちの力は本当に魔王に届くのか?
でも今日という日のために、アタシ達は精進を続けてきた。
魔王がどれほど強かろうが、後は全力を尽くすのみ。
恐れや迷いを抱えては、この先、戦う事なんて出来ない。
……だというのに……
「ファヴ、いつまで落ち込んでるつもりよ。
これから戦いが始まるんだから、もっとシャキッとしなさい!」
この期に及んで、落ち込んでいる馬鹿が一人。
まあ、気持ちは分からなくないけど……
アタシだって、それを知った時はショックだった。
「…………ああ、分かってる」
覇気のない返事を返すファヴ。
本当に分かってんだか……
でも無理もないわね。
ミコシバが……アタシたち勇者の仲間になる筈だったアイツが、国王陛下暗殺を企むなんて……
暗殺は未遂に終わったらしいけど、アイツは国王陛下を殴り飛ばして逃亡。
王子のピエロも毒を盛られて今も動けないって話だし、姫殿下もひどく怯えた様子だったわ。
あの後、ミコシバは魔族国の刺客に違いないって噂が立って、当然アイツを連れてきたファヴとアタシの責任問題に発展しそうになった。
でも国王陛下は、ミコシバの邪心を見抜けなかった自分の落ち度だって、結局アタシたちが罰を受ける事はなかったけど……
ファヴのヤツはこの通り、すっかり落ち込んじゃってるわ。
自分が連れてきた人間が、国王陛下の暗殺未遂事件を起こしたわけだからね。
確かに変人でデリカシーの欠片もないようなヤツだったけど……それでも悪いヤツには見えなかったわ。
アタシだって、ミコシバが仲間になってくれたらって……そう思わなくもなかったわよ。
ミコシバ……アンタ、一体何を考えてんのよ?
「申し上げます!
魔族軍の魔獣部隊のうち数騎が、凄まじい速度で上空から飛来しています」
突然、伝令が駆け込んできた。
言われなくとも分かってる。
ここ一週間で魔族軍に落とされた4つの砦。
それぞれ砦から生還した者たちが、口々に同じ事を言う。
『深紅の鎧を纏った、黒髪の魔族の少女にやられた』
そして、さっきからピリピリと肌に感じる、今まで感じた事もないほどの凄まじい魔力。
侵攻してきた魔族軍の中で一際強く存在をアピールするそれは、明らかに他の魔族を凌駕している。
この魔力の持ち主……恐らく件の少女である事は間違いないんだろうけど、
アタシの予想では、ソイツは魔族の中でもかなりの上位に位置するであろう、恐らくは魔王に近い存在。
流石に魔王本人ってオチはないと思うけど……それでもヤバい相手である事には変わりない。
この砦は人間側の魔族軍に対する最後の防衛線とも言うべき場所……ここを越えさせるわけにはいかないわ。
『クギャァアアアアアッ!!』
「っ!!??」
突然、上空から凄まじい魔獣の咆哮が響く。
上空を見上げると、いつの間にか5匹の飛竜が旋回していた。
遠目にしか判んないけど、そのうちの一体に騎乗しているのは、深紅の鎧を纏った人物。
恐らくは噂の魔族……
そしてアタシたちと視線が交錯するや、その魔族はその場で飛竜から飛び降りてきた。
「向こうはヤル気満々みたいね。迎え撃つわよ。
失敗した分は、敵をぶっ飛ばして取り戻す!
いいわね?」
「ええ!!」
「ああ! 分かってる!!」
エリナ、ファヴとともに獲物を構える。
エリナは元より、ファヴもいつの間にか真剣な表情に変わってる。
流石に落ち込んでいる状況じゃないって分かってるようね……安心したわ。
シュタッ
アタシ達3人の前に上空から降り立って来た一人の魔族。
……噂通り深紅の鎧を纏い、長い黒髪、そしてアタシ達とそう歳も変わらなさそうな女の子。
身の丈ほどもある巨大な大鎌を担いでいる。見た目に反して何てゴツイ獲物を使ってんのよ……
続いて他の魔族たちも次々と降りて来る。
コイツら……全員強そうね。
この場に控えていた兵士全員が一斉に武器を構える。
一応、数の上ではコッチが断然有利。
でも相手は間違いなく魔族の精兵達……苦戦は必至。
でも敵がいくら強かろうと、アタシ達は勇者。
こんな所で躓いてなんていられない。
コイツら倒して、必ず魔王も倒さないと。
Side 魔族青年 バルディウス
遂にこの時が来てしまったか……
ミコシバ殿から教えられた、この世界の真実。そして世界滅亡の危機。
国に戻った私は世界滅亡を回避すべく、すぐさま人間との戦を止めて和平を結ぶ事を訴えた。
しかし誰も私の話に耳など貸さず、私は馬鹿にされ変人扱いされた挙句、屋敷にて謹慎処分を喰らう始末。
そうこうしている間に、とうとう魔族軍の人間国に対する侵略が始まってしまった。
もはや屋敷で謹慎など喰らっている場合ではない。
屋敷を飛び出した私は飛竜を駆り、戦場へと向かっている。
非力な私に出来る事など無いのかも知れん。
しかし、このまま魔族と人間が争い続ければ、文明は進歩を止め、やがては衰え……
ダークマターなる存在により、この世界もろとも我々は滅ぼされてしまう。
「……そうはさせるか!」
何が出来るかなんて、着いてから考えればよい!
最後の最期まで足掻き続ける。
それこそが、私が敬愛する彼らの想いに報いる唯一の方法なり。
「この世界は、命に代えてもこのバルディウスが救って見せる!!」
Side 御子柴 陽一
なんかね、今の状況を一言で表すとするなら……カオスだな。
現在、俺は上空にて待機中。
胡坐をかいたまま浮遊しながら、俺の遥か下の様子を窺っている。
時刻は正午を回った頃。本日は晴天なり。
おかげで下の様子もよく見える。
剣や鎧で武装した魔族たちがそれぞれ魔獣に騎乗し、人間国側の砦に押し寄せている。人間側も砦に立て籠って応戦。
つまり戦争やっているってわけだ。
流石は本物の戦争だけあって、作りモノの映画なんかとは迫力が違う。
さて……この混沌とした戦場の中で今、俺が注目しているのは砦の屋上。
かなりの数の人間兵と少数の魔族兵が争っているが、その中で俺の知った顔たちも戦っていた。
3人の勇者……ファヴ、リーズ、そしてエリナ。
それに対峙するのは深紅の鎧を身に纏い、身の丈ほどもある巨大な鎌を担いだ黒髪の少女…………驚いた事に魔王の娘だった。
たしかノヴァって名前だったか。
俺の視線の先では、勇者たち3人と魔王の娘が激しい攻防を繰り広げていた。
前衛はエリナとファヴ。それぞれ剣と斧を獲物に魔王の娘と斬り合ってる。
時に交互に時に同時に魔王の娘に攻撃を仕掛けるが、魔王の娘は大鎌で難なくこれらを受け流している。
そしてリーズは魔術師らしく後方で援護。
エリナとファヴの合間を縫うように、魔王の娘に向かって後方から火の玉や氷の槍を撃ち出している。
これらの攻撃も、魔王の娘は無駄のない動きで難なく回避。なかなかやるな。
おっ? 攻守が入れ替わった。
今度は魔王の娘が大鎌で斬り掛かっている。
あ……斧で防いだファヴが吹き飛ばされた。
ちょ……今度はエリナも……って、彼女は何とか持ち堪えたみたいだ。
お……リーズの放った炎の矢も避けられた。
魔王の娘、結構強いな。エリナたち勇者も決して弱いわけじゃないのに……
小柄なのにあのパワー……なんだかチート臭がするな。
頑張って筋肉鍛えてた俺は何だったんだ……て感じだ。
さて観戦はこれくらいにしておいて、少し早いけど俺もスタンバイするか。
Side 勇者 エリナ
「勇者、死ね!!」
鋭い一撃が私の首を胴を斬り裂こうとする。
「くっ!?」
ガキンッ
辛うじて剣で防ぐも、凄まじい衝撃が腕に伝わる。
私よりずっと小柄なのに、凄い力。
さっきは力自慢のファヴも吹き飛ばしてた。
「猛き炎よ、敵を射抜け!
ファイアーアロー!!」
追撃してこようとしてきた魔族の少女に、後方からリーズが魔術を放ったけど
「……ふっ」
この少女は軽快なフットワークでそれを回避。
力だけじゃなく動きも速い。
この子……もの凄く強い。
仮にも勇者に認定された私たち、三人掛かりを全く寄せ付けないなんて……
一見すると人間、それも私たちとそう変わらない年頃の子にしか見えないけど、やっぱり魔族って事ね。
魔王はこれより更に強いのかしら?
それにしたって……
どうにも気に掛かるのは、この女の子の髪の色…………
偶然だとは思うけど、私が以前に出会った男の子・ヨウイチと同じ黒い髪。
彼の事をどうしても思いだしてしまう。今はそんな場合じゃないっていうのに……
「勇者、死ね!!」
ガキンッ
「くっ!?」
集中しないと。
今は戦いの最中……殺し合いの真っ只中にいるんだから。
「勇者、死ね!!!」
ガキンッ
「な、何なのよ……この子……」
この子、さっきから「勇者死ね」しか言ってない。
決して気負けしてるつもりはないけど……なんか少し怖い。
何か勇者に恨みでもあるのかしら?
何にしても今は耐え凌がないと……
個人の力では、目の前の魔族の少女には敵わないのかもしれない。
でも勇者はパーティーでこそ、仲間と支え合ってこそ、その力を発揮できる。
それこそが魔王を倒すカギとも言われる。
いずれ相手にも隙は生まれるはず……この勢いがいつまでも続くとは思えない。
3対1なら必ずチャンスが開けるはずだから。
Side 魔王の娘 ノヴァ
人間たちの中に、勇者らしきヤツらを見つけた。
この日をどんなに待った事か。勇者だけは私の手で倒す。
「勇者、死ね!!」
ガキンッ
ありったけの怒りを、目の前の勇者にぶつける。
まずは、この女の勇者から倒してやる。
勇者……一人一人は弱いくせに、パーティーだか知らないけど徒党を組んで、よってたかって魔王を倒そうとする卑怯な連中。
強かったパパが弱くなったのは、コイツら勇者のせいだ。
私が根暗になったのも、コイツら勇者のせいだ。
「勇者、死ね!!」
ガキンッ
使い魔の猫が帰ってこないのも勇者のせい。
ピシ……ッ
っ!? お気に入りの鎌にヒビが……勇者のせい!!
刃の欠けた鎌を捨て、近くで雑魚を相手に戦っていた部下に言う。
「鎌っ!」
「はっ、ただいま」
駆けつけた部下が、予備の鎌を差し出す。よし……
「勇者、死ね!!!」
続きます。




