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第27話 クララが立った!

第27話、投稿します。


最近スランプ気味で、しかしお気に入り登録も900を超えた事だし、

それをバネに力を振り絞って書いたら3話分に……

Side 御子柴 陽一




「一同、(おもて)を上げよ」



現在、俺が居るのは謁見の間。

目の前の玉座には、豪華な衣装を身に纏い頭に王冠を乗せた、分かりやすいほどテンプレな王様が座っている。

俺のすぐ前には三人の勇者……ファヴ、リーズ、エリナが片膝をつき、頭を垂れている。臣下のポーズ(?)とやらだろう。



「久しぶりだな。

 勇者ファヴ、勇者リーズ、勇者エリナよ。

 武者修行の旅、ご苦労であった。以前より精悍さが増しておる」


「勿体無きお言葉でございます」



勇者三人を代表してファヴが答える。

いつものおチャラけた態度ではない、まさに王に仕える騎士のソレである。

こうしてみる限り、三人の中ではファヴが勇者チームのリーダー格のようだ。


そして俺はと言うと、邪魔にならないように三人の一歩後ろで控え中。

ただ突っ立ってるだけじゃ無礼だと睨まれそうだし、家来でもないのに臣下のポーズ(?)を取るのも違和感がある。

そこで俺が繰り出すは日本人の十八番THE・土下座。

周囲から奇異の視線で見られてはいるが今のところ文句は言われていない。



「そちか。姫の足を治せる賢者というのは」



国王が勇者三人の後ろ……土下座している俺に視線を向けた。

まだ治せると確定したわけじゃないがな。



「お会いできて光栄でございます陛下。

 私はルー御子柴と申します」



とりあえずツッコミどころ満載の名前だが、俺とてネタばかり優先しているわけではない。

賢者ならばその実力に見合った称号があって然るべきと愚考した次第なのだ。



「『ルー』とは我が一族に古くから伝わる言葉で、

 一族に伝わる全ての叡知を継承し、修めた際に名乗る事が許される称号でございます」



これは(にわ)かで考えた追加設定ではある。

謁見の間に向かう途中、勇者たち三人にも話しておいた。

みんな「フーン、だから何?」みたいな反応だった。

俺の自惚れかもしれないが、ネタだと意識しなければ『ルー』って悪くない響きだよね?



「余は人間国ヒューマニア第58代国王だ。

 よろしく頼むぞ。ミコシバよ」



あれ? ルー御子柴って呼ばないのか?

結構、勇気を振り絞って名乗ったんだが……



「ところでミコシバよ。

 そちは手をかざすだけで、あらゆる怪我や病を癒す事が出来ると聞いたが本当か?」



早速本題に入ったか。

とりあえず『ハゲは治せない』とだけは主張しておきたいが、今そんな発言をしても恥をかくだけである。

それに流石にまた『ワシの不毛症を治してくれ』とは頼まれまい。

目の前の国王はハゲているようには見えないし。



「本当です。

 死人を蘇らせる事と、よほど特殊な例を除いては……」



何でも出来ると思われても困るので、とりあえず予防線を張っておく。

それでも俺の返答に満足したのか、国王は「うむ」と頷くと



「そして魔術師のような杖や詠唱なしでも不思議な術を使うそうだな。

 話によると、宙に浮いたり雷を起こしたり、火を吹いたりと……

 すこし見せてはくれないだろうか」


「お待ちください、父上」



話の腰を折ってきたのはピエトロ王子。



「いかがした? 王子よ」


「誰も何も言わないようなので、あえて私が指摘させてもらいますが……

 ここがどういう場所なのか(わきま)えているのかね? 君は?」



俺を指差し、嫌味ったらしく溜息をつくジェスチャーをするピエトロ王子。

何の事を言われているかは大体想像はつく。



「君は目の前の人物が誰だか理解しているのかね?

 その乞食のような恰好もそうだが、父上の……一国の王の前でその妙な黒メガネとその…帽子みたいなものを被っているつもりなのかね?

 賢者というからどれほどの者かと思いきや……礼儀作法も知らぬ田舎者というわけかい?」



やっぱり突っ込まれてしまったか……それもよりにもよってピエトロ王子から。

特にグラサンはやっぱり不味かったようだな。一部とはいえ、人相を隠しているんだから……

正論と言えば正論なんだが……

その語尾にイチイチ疑問符を取り付けたような物言いが腹立つ。



「大体、君はだね」



「よい」


「父上?」


「もうよいと言っておるのだ。ピエトロ。

 余に恥をかかすつもりか!」



調子に乗って毒を吐くピエトロ王子に、国王が叱咤した。

フッ……怒られやがった。ザマァ。



「ワシは実力の話をしておったのだ。外見の話などしておらぬ。

 外見などいかようにも着飾れるが、実力は着飾る事は出来ん。

 我々上に立つ者は曇りなき眼で、まことに実力のあるものを見出しまとめ上げ、民の利になるよう努めねばならん」



国王の言葉に押し黙るピエトロ王子。

彼とて父親である国王には頭が上がらないみたいだ。

それにしてもファヴの言うとおり、国王は相当の実力主義みたいだな。



「そういうわけでミコシバよ。

 そちの力を疑うわけではないのだがな。

 姫の身を一時預けるのだ。もしもの事があってはならん。

 ワシとしても安心して姫を預けたいのでな……まずそちの実力を見ておきたいのだ」



それって結局は疑っているって事ではと思ったが、

せっかく与えられたアピールの場。存分に活用させてもらおう。



「分かりました」



俺はその場に座り込み胡坐(あぐら)をかくと、両掌を合わせた。

精神を集中し、術式を起動。

体を宙に浮かばせる。


まわりから驚きの声が上がる。

とくに魔術師らしき恰好をした連中は口をあんぐり開けている。



「こ、これは驚いた……

 勇者リーズ」


「は、はい陛下」


「確認するが、空を飛ぶ魔術はまだ開発されておらんはずだったな」


「は、はい。

 人体というものは、鳥のように風を受けるようには出来ておらず……

 そのため風の流れを制御しながら自在に宙を舞うという事が非常に難しいのです。

 現在多くの研究所で鳥の翼を模した補助具を使って飛ぶ研究がなされておりますが、

 彼のように生身で飛ぶなど聞いた事がありません」



要するに風は起こせても、航空力学に沿わない生身の体では上手く風を受けれずに飛べないとのこと。

とりあえず鳥に(なら)って、ベルヌーイ(流体を司る精霊?)と仲良くなる事から始めているそうだ。

重力操作で飛んでいる俺には縁のない話だ。


俺は5メートルくらいに高度を保ち、ゆっくりと円を描くように動く。

自在に飛べますよーというアピールのつもりだ。

しかしこれだけでは寂しいので、次の術式を起動。


さあ見たまえ、ラ○ュタのイカズチを


俺は全身に電荷を溜め、雷として一気に放出する。

バリバリという放電音が謁見の間に響き渡り、青白い極光が俺の全身を(ほとばし)る。



「「「おおおおおおぉっっっ!!!???」」」



これも皆さまの度肝を抜くのに成功。



「……素晴らしい。

 素晴らしいぞ、ミコシバ。

 そちになら安心して姫の治療を任せられる。

 姫をここに!」



まだ色々やらされるだろうと考えていたが、早速クララ姫の治療に当たる事になった。

意外に国王がせっかちなのか、それとも杖無し・無詠唱で空中浮遊と雷ってのは予想以上に効果があったのか。


しばらくして謁見の間に少女……車椅子の少女が連れてこられた。

ピンクのウェーブのかかった長い髪に白いドレス。お人形さんのようなお譲様でもちろん美少女。

魔王の娘の時みたいに初見殺しがあるかもしれないと心配もしてたが、杞憂に終わった。



「あなたがわたくしの足を治してくださる方?」



鈴のように凛と澄んだ声。

うむ、外見が美しければ声も美しい。



「私はルー御子柴。ミコシバとお呼びください。

 しがない修行僧にすぎませんが、貴女が歩けるようになるために尽力いたします」



相手はクララ姫。

失礼のないように、考え付く限りの紳士として振舞う。



「フフ……

 ありがとう、ミコシバ様。紳士ですのね。

 自己紹介が遅れましたわ。

 わたくしはヒューマニア第一王女エレノワ。エレノワとお呼びになって」



流石にクララという名前ではなかったが、

エレノワ……うん、良い名だ(←何様だ)



「私に全てお任せください、エレノワ姫。

 早速治療に取り掛かります」



俺はクララ姫改めエレノワ姫の前で腰を屈めると、彼女の両脚に両掌をかざした。

エレノワ姫は目を(つぶ)っている。不安とも諦めとも取れる表情だ。

これまで幾度も名医や神官に診てもらい、その度に落胆してきたのだろう。

彼女は今こう思っているのだろう。


『きっと今回もまた……』


失敗しても潔く受け入れるつもりなのだ、彼女は。

……これはぜひとも治してやりたい。




---治癒(ヒール)




俺の両掌から黄金の光が発せられ、エレノワ姫の両脚を包み込む。



「あ……」



エレノワ姫が声を漏らす。

彼女は目を開いて少し驚いた表情をしている。



「両脚が温かいですわ。

 なんだか本当に癒されているみたい……」



そう感じるのなら治療が進んでいるのだろう。

俺は最後まで集中を切らさぬよう治癒に努めた。






「さあ、治癒が完了しました。エレノワ姫。立てますか?」



俺はエレノワ姫の前に立ち、手を差し出す。



「え、えぇ……

 やってみますわ」



エレノワ姫は差し出された俺の手を、恐る恐る両手で握った。

そして不安を吹き飛ばすように息を吐き出すと、



「ッ………」



ゆっくりと車椅子から腰を浮かせていく。



「「「「 !!!! 」」」」



周りで息を呑むのが分かる。

おぼつかない足取りで、それでもしっかりと上を見据えてエレノワ姫は立ち上がった。



「ああぁ……

 わたくし、立ってるわ。

 自分の足で……ちゃんと立ってるわ。

 こんな事初めて……」



歓喜のあまり目に涙を浮かべながら言葉を漏らすエレノワ姫。



「次は歩いてみましょう。」



俺はエレノワ姫の手を引き、ゆっくりと歩きだす。


エレノワ姫も俺に牽かれて、たどたどしく歩き出す。

たどたどしくはあるが、しっかりとした歩み。

彼女の両脚に力が宿ったという、この上ない証である。



「手を放しますよ。

 自分の足だけで歩いてください」



彼女は一瞬だけ不安そうな顔をするも



「分かりました」



顔を引き締めると、彼女は俺の手を放した。

俺という支えを手放した彼女は、どうすればよいのか戸惑った様子だったが、

さきほどの要領を思い出しながら、ゆっくりと歩を進め出した。

彼女が真に自分の力で歩いた瞬間だった。


周りから大喝采が上がる。



「エレノワ! ああ我が可愛い妹よ」



感極まったピエトロ王子が駆けつけてきた。

嫌な奴ではあるが妹に対する愛情はあるのだろう。



「どけ!」



俺を突き飛ばして、エレノワ姫に駆け寄るピエトロ……訂正、やっぱりコイツはピエロな。本当にクズ野郎だ。



「お兄様、わたくしやりましたわ。

 ついに歩けるようになったんですわ」


「ああ、よくやった。よくやったよエレノワ。

 流石、僕の妹だ」



周囲は抱き合って喜び合う兄弟を見て、拍手喝采、中には涙する者までいる。



「……素晴らしい。

 素晴らしいぞ、ミコシバ。

 そちこそ英雄……そちこそ我ら人間の宝だ」



そんな中、国王は比較的落ち着いていた。

娘の足がなおったんだから、もっと取り乱して喜ぶかと思っていたんだが。

なんだか人間国宝認定されてしまったし。









「まさかあんなにあっさり解決しちゃうなんてね……」



俺の前を歩くリーズが呟いた。

あの後周囲のテンションが収拾不可能なくらい高まり、いったんお開きとなった

今は勇者たち三人と客間に移動中だ。



「姫殿下の足って原因不明の病らしくて、

 今まで何人もの名の知れた医者や神官に診てもらってて駄目だったのに……

 こうまであっさり解決しちゃうと、何だか拍子抜けね」


「ミコシバさんって、本当に凄い人だったんだ。

 人は見かけによらないって本当なのね」



エリナはすっかり感心した様子。

見かけによらない云々はスルーする。その発言に悪気は無いものだと信じたい。

リーズが膨れっ面で俺の顔を覗き込んだ。



「……本当よね。認めたくはないけど

 こんな奴が実は凄いだなんて、世の中本当に不思議だわ。

 変態ルックでデリカシーゼロで怪しいし不気味だし……

 それにええと、変態ルックなのに……」


「リーズ……

 それ、最初に言った」


「だ、大事なことだから二回言ったの!」



リーズにとって変態ルックは大事なことらしい。

誤魔化すようにゴホンッとすると、急にリーズは真面目な顔になった。



「それはともかくとして……

 ミコシバ、アンタこれから苦労するわよ」


「あの王様の前で、あれだけ実力を見せつけちまったわけだからな」


「国王陛下、間違いなくミコシバさんを勇者にするために勧誘してくるわね」



勇者たち三人が口々にそう言う。

テンプレ展開ですね、分かります。

しかし、そうなると俺は()められた事になる。

俺はリーズとファヴを見る。



「言っとくけど、アタシは一応止めようとしたわよ。

 ファヴが強引に押し切っちゃったけど」


「ヒッヒッヒ……

 断るのには骨が折れそうだぜ~~~

 俺たちも結局は勇者やってるし」



リーズはともかくとして、やはり主犯はファヴである。

しかし当の本人に悪びれた様子はない。

それどころか、してやったりってな顔だ。


それにしても今のファヴの発言から察するに、

この三人は国王から直々に勇者という役を頼まれたんだろうか?



「アタシ、本当は戦うのとかあんまり好きじゃないんだけど……

 魔術の研究支援をちらつかされちゃってつい……」


「俺も俺も!

 没落した実家を再興してくれるって条件で……

 あん時は両親に尻叩かれて嫌々だったけど、今ではハーレム構築っつー素晴らしい目的も出来たわけだけどな」


「私は……その、兄の仇を取れる機会だからって……」



そう言えばエリナの兄ちゃんも勇者なんだったっけ……

とにかくみんなそれぞれ事情があって、それを交換条件に出して優秀な人材をかき集めているってわけか。



「ま、それだけ聞くと悪どい王様って感じもするけど、

 結果を出せばそれに見合った褒美をくれるわけだし、やりがいはあると思うぜ。

 実際うちの実家も助かってるし、両親大喜びしてるぜ」


「うん、国のトップが実力主義者ってのは悪い事じゃないわね。

 仕えてみたら分かるけど人格者だし、ちゃんと実力を評価してくれるっていうのはありがたいわ。

 ……それだけに息子のピエロが残念だけど」



確かに、謁見の間で見た限り王様は人格者っぽいし、その娘のエレノワ姫もお淑やかで理想のお姫様って感じだった。

唯一の汚点は息子のピエロ王子くらいだろうか。

しかもそのピエロを勇者の一員に加えるなんて……

まあ実力主義とはいえ、あの王様にしても王家の血筋やら権威やらは大切だろうし、それを守るためだったら多少の無茶は仕方ないかも知れん。

尤も勇者ピエロってのも実質的にはお飾りみたいなもんで、魔王討伐とかは他の三人だけで頑張る事になるのだろう。

……しかし実際はエリナやリーズには迷惑掛けまくっているみたいだがな、あのピエロ王子。


そんな事を考えていると



「ハァ……ハァ……ミ、ミコシバ様~~……」



廊下を歩く俺たちの後ろから、思いもよらぬ人物が追いかけてきた。

息を切らせながら走って来たのは、先ほど俺が治療したエレノワ姫本人だった。



「どうされたのですか、エレノワ姫。

 いくら治ったとはいえ病み上がりの、しかも慣れない体で走ったりなど」



「ハァ…ハァ…

 ごめんなさい。それでもわたくしの口から直接あなたに伝えたくて」



一呼吸置いて、エレノワ姫は意を決したように俺に言った。



「もしよろしかったら……その……今晩わたくしとご一緒にお食事をいかがですか。

 その、何かお礼もしたいし……

 あ、父も兄も一緒なんですけど」



国王とピエロとエレノワ姫と俺の4人でお食事会を開こうってことか?

国王はともかくとして、ピエロと一緒ってのはちょっとヤダな……

場の雰囲気が悪くなりそうな予感しかない。



「あの……駄目でしょうか……?」



慣れない運動をして火照っているせいか、頬を赤く染め上目づかいでウルウル見つめてくるエレノワ姫。

……そんな目で見られたら勘違いしてしまうじゃマイカ。

それにわざわざ俺のために病み上がりの体で……断れそうもないな、これは。



「王様も一緒って事は、早速勧誘だな多分」


「アンタも国王陛下に話があるんでしょ?

 いい機会じゃない」



ファヴとリーズが小声で言ってくる。


確かに丁度いい機会……しかしである!

俺は国王に世界滅亡を警告し、魔族との戦争停止を訴える。

国王は俺を勇者に迎え入れ、魔族と戦えって言ってくるのだろう。

つまり(はな)から両者の主張は対立してしまう事になる。


そうなると分かってて、俺をここに連れてきたファヴには本当に恐れ入る


しかし、だからといってここで退いては意味が無い。

俺はエレノワ姫にこう答えた。



「分かりました。エレノワ姫。有り難くごちそうになります」

サブタイトル通り、治療は問題なく済みました。


次回、国王の勧誘。

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