第24話 続・俺のおバカな布教活動
第24話投稿します。
次の投稿はお盆休み明けになります。
Side 御子柴 陽一
「やれやれ疲れた、どっこいせっと」
俺は大広場のベンチに腰掛け、懐から竹皮に包んだオニギリを取り出した。
「うまくいかねぇもんだな~~……ちくしょう……」
そうぼやきながらオニギリを頬張る。
あの忌まわしい落ち武者事件後、俺はいい歳して泣き喚くナミヘイさんを宥めるのに苦労した。
苦肉の策としてナミヘイさんの頭にチョンマゲを結えようとして見たが、素人の知識でどうにか出来るものではなく失敗。
より無様になったナミヘイさんの頭を見て、周囲の野次馬達はさらに爆笑。
またナミヘイさんが泣き出すわで悪循環の繰り返し、当然布教活動どころではなくなった。
結局、長く伸びた側頭部の髪を切る事で一応は事態を治めたが、あの一件でナミヘイさんの心に大きな傷を残したのは間違いない。
その後、何度か場所を変えて仕切り直してみたものの、噂が広まる速さというのはまことに恐ろしい。
行く先々で『今度はどんなネタ見せてくれるんだ?』なんて言われてしまった。悪い意味で有名になってしまったのだ。
もしかして、俺は新手のコメディアンか何かと勘違いされているんじゃないだろうか。
あるいは『腰や失明を治せるくせにハゲは治せない男』という微妙な認識をされているかもしれない。
いずれにせよ、気が滅入る話である。
こうまでケチが付いてしまうと、モチベーションも下がってしまう。
心なしか、今朝せっかく気合いを込めて握ったオニギリも味気ない。
奇跡っぽい技を適当に見せておけば、民衆の心理をガッチリ掴む事が出来る筈だ!
……なんて当初は安易に考えていたが、全く当てが外れてしまった。
この街で実験的に布教活動を行い、それが上手くいったならば王都などのより大きな舞台に移って活動しようと思っていたのだが……
街一つ攻略出来ないようでは、当然ながら国を攻略出来るとは思えない。
……いや、途中までは上手くいっていたんだ。
失敗したのは、やはりイレギュラーの乱入が大きな要因だ。
あそこでナミヘイさんさえ登場しなければ、あんな事にはならなかった。あと幼女もな……
あそこでケチが付かなければ、今頃俺の布教活動だって順調に進んでいたと思う。
確かにナミヘイさんは気の毒だったが、俺だって立派な被害者だ。
何が悪かったのかと聞かれたら、間が悪かったとしか答えようがない。
俺の腹筋の緩さなど些細な問題。
結論、さっさと活動拠点を王都に移すべし。
場所を移して心機一転という理由もあるが、元々は王都でも活動しようと思っていたのだ。
この街での反省を生かしてもう少し謙虚に活動すれば、あんな事件はもう起こるまい。
あとはナミヘイさんや幼女のような危険因子に気をつける事ぐらいだ。
上手くいけば俺の噂は数日で国の上層部の耳に入るかも知れん。
「よしっ!!」
そうと決まれば、いつまでもこんな場所でくすぶっているわけにはいかない。
俺は次のステップに移るべく、気合いを入れて立ち上がった。
そして一旦、宿に戻ろうと大通りに差し掛かったところだった。
「おいおい、だからよぉ~~~っ!!
どうしてくれるかって聞いてんだよぉ~~~っ!!」
何やら怒声が聞こえた。
声の聞こえたほうを見ると、何やら人だかりが出来ている。
何やらイザコザが起こって、それに野次馬達が集まっていると言ったところだろうか。
はて、何だろうか……?
俺とて人並みの野次馬根性は持ち合わせている。
当然何が起こっているのか見極めてやろうと、人だかりの中に入って奥へと進んでいった。
「その嬢ちゃんがよぉ~~~
俺様にぶつかって来たせいでよぉ~~~
飲んでた酒がよぉ~~~
俺様のズボンにかかっちまっただろうがよぉ~~~」
「も、申し訳ありませんっ!
お酒も服も弁償しますのでどうかっ」
「弁償して済む問題じゃないんだよぉ~~~
見ろよぉ~~~今の俺様の姿ぁ~~~
まるでお漏らししちまっているみてぇじゃねえかよぉ~~~」
見ると若い女性が、いかにもチンピラといった風体の男に絡まれていた。
そして女性の服に小さな女の子がしがみつき、目に涙を溜めている。
母娘なのだろう…………って、この母娘はっ!?
よくよく見ると、以前ナミヘイさん落ち武者ヘッド爆笑事件の引き金となったあの憎き幼女とその母親ではないかっ!?
まさかこんなに早く、この母娘を再び見る事になるとは思わなかった。
話の内容からして、酒を飲みながら歩いていたチンピラ男にあの幼女がぶつかってしまい、チンピラ男のズボンに酒が掛ってしまったようだ。
酒は股間部分に掛ってしまい大きな染みを作っている。確かにお漏らしに見えなくもない。
しかしこの場合、非は昼間っから酒を飲みながら大通りを歩いていたチンピラ男の方にあるだろう。
「おい、あの男……」
「ああ、女喰いのチャップだ。
前もああやって若い女性に絡んでたな……」
「やばいじゃねぇか!
今すぐ助けに行った方が……」
「馬鹿言うなよ!
アイツは人間のクズだけど、腕っぷしはメチャ強いんだぜ。
あの母娘も気の毒に……」
周囲の人間のヒソヒソ話が聞こえる。
今、母娘に絡んでいるチンピラ男は質が悪い事で有名らしい。
『女喰い』なんて分かりやすいというか不名誉というか、一発でどういう奴か分かってしまう呼び名だ。
周囲はチンピラ男にビビって、母娘を助けにいけないようだ。
「おい、嬢ちゃんよぉ~~~
俺様はよぉ~~~嬢ちゃんのせいでよぉ~~~
いい歳してよぉ~~~お漏らししたって思われちまうんだよぉ~~~
どうしてくれんだよぉ~~~っ!!」
「ひっぐ、うぇ~~~ん……
ごめんなさいなのぉ~~~」
チンピラ男に凄まれて泣き出す幼女。
だが侮ってはいけない。
何しろあの幼女に俺は先ほど嵌められたのだ。
あんな風に可愛らしく泣いている今も、腹の底ではどんなエゲツない手段でチンピラ男を撃退しようと考えているか……
……なんてアホな事を考えてないで助けてやるか。
周囲には他に助けに入ろうとする人はいないみたいだし、この街での最後の締めとして一つぐらい善行を積んでいくとしよう。
「どうしても許してほしいんだったらよぉ~~~
誠意ってもんを見せてもらいたいもんだぜぇ~よぉ~~~」
「せ、誠意……ですか……?」
「へっへっへ~よぉ~~~」
舐めまわすような視線で女性の体を見るチンピラ男。
「俺様ぁよぉ~~~
人妻でもよぉ~~~イケる口なんだぜぇ~よぉ~~~」
「ひっ!?」
『女喰い』の名は伊達ではないらしい。
チンピラ男の露骨な狙いに気付いて怯える女性。
俺は背後からチンピラ男に近づき、肩に手を置いた。
「んあっ? 何だぁ~~~テメェはよぉ~~~
やんのかぁ~~~コラぁ~よぉ~~~」
俺に気付いたチンピラ男は、俺の胸倉を掴んでガンたれてきた。まったくもって見た目を裏切らない態度だ。
こういった輩は徹底的に精神的に参らせなければ、また同じ事を繰り返すに決まっている。
よって、目には目をで対抗しなければならない。
俺は周囲の人間には聞こえないように、さらには絡まれていた女性と幼女にも聞こえないように小声でチンピラ男に言い放った。
「やらないか」
「……………………
……………………
……………はぁっ?」
俺の唐突な一言に唖然とするチンピラ男。『何言ってんだコイツ?』みたいな顔をしている。
「その女性の代わりに私が相手をしよう」
俺はチンピラ男の肩を掴む手に力を入れた。
「イデデデデデッ!?
何なんだテメェッ!? いきなり何しやがるっ!!!」
俺の行動に頭に血が上ったチンピラ男が殴りかかってくる。
避けも防ぎもせず、無抵抗で頬にチンピラ男の拳を受ける俺、
周囲から悲鳴が上がるが、俺にとっては赤ん坊が殴りかかってくるようなモノ。当然効きはしなかった。
「テ、テメェ……
何で俺様の拳が効かねぇんだよっ!?」
今の一撃には自信があったのだろう……それを受けても直立したまま意に介さない俺にうろたえるチンピラ男。
ここからが俺のターンだ。
「さ、向こうに人気のない裏路地がある。私と来るのだ。
共に新境地を開拓しようではないか」
「ひぃっ!!??」
ここでチンピラ男は初めて怯えた表情を見せた。
構わず俺はチンピラ男の肩を掴んだまま、裏路地へと引きずっていく。
無論、これはいつもの狂言。本当に俺にそんな趣味があるわけではない。
「ちょっ……まっ……
だ、誰かっ!! 助け、むぐぅ!?」
余計な事を口走らないよう、チンピラ男の口を塞ぐ。
俺の言葉が聞こえないであろう周囲の野次馬達は状況が読み込めない様子。
先ほどまで絡まれていた女性は、何だか分からないが助かったという安堵の顔をしている。
一方、幼女の方は目に涙を浮かべたまま可愛らしく首をかしげている。
「むがむぐむげむげぇ~~~むぁっ~~~!!(助けてぇ~~~アッーーー!!)」
俺は涙目で必死で抵抗するチンピラ男を、力尽くで裏路地へと連行した。
Side 指輪の精霊 アリビア
「はい~~、Bランク【野盗討伐クエスト】達成を確認いたしました~~
こちらが報酬の500Gとなります~~」
「うむ」
無駄に語尾を伸ばす受付嬢に軽く苛立ちつつ、報酬を受け取る。
「またのご利用お待ちしてます~~」
(……やれやれ、まったく)
ギルドから請け負った野盗退治のクエストをこなし、ようやく妾は報酬を受け取り帰路に就いた。
本当は野盗退治なんてしょぼいものではなく、もっと高いランクのクエストで大金を一気に稼ぎたかったのだが、高ランクのクエストは全て受注済みだったから仕方ない。
「何で妾がこんな事を……ブツブツ……」
何で妾がギルドでクエストをこなしているのかというと、マスターであるヨウイチの指示だからだ。
布教活動で忙しくなるから、ギルドでクエストを請け負って食費を稼いでこいとの事。
ヨウイチの奴……相当な金を貯め込んでいると聞いたのだが、それを崩すつもりはないらしい。
まあ、あんな怪しげな恰好をして布教活動に参加させられるよりは幾分マシだ。
当初は妾も布教活動に参加させるつもりだったらしいが、断固として拒否を貫いた。
まったくもって冗談ではない。
大体、アレは布教活動と呼べるほど上等なモノなのか?
あんなデタラメな話、広めたところで子供だって信じはすまい。
ヨウイチも一体何を考えている事やら……
まったく、あんな変人をマスターを持つと本当に苦労する。
しかし今の妾の心労の種はそれだけではない。
”しっかり稼いできたニャ?
今日はもっとマシなモノ食わせるニャ”
ギルドの出入り口で妾を待っていたのは一匹の黒猫。
ヨウイチが拾って来たシュレディンガーとかいうニャン公。
こいつがひどく煩いのだ。
”久しぶりにマグロが食べたいニャ。
脂身たっぷりの大トロがいいニャ”
(うるさいぞニャン公!
畜生の分際で贅沢を言うな!!)
精霊としての能力で妾は魔獣以外の動物と会話できるのだが、今はそれが恨めしい。
妾が動物と会話できる事を知って以来、こうやって話しかけてくるのだ。
”畜生とは何を言うニャ!
ボクは誇り高き猫族の漢ニャ!!
ボクの世話を出来る事を有り難く思うニャ!!!
これである……
ヨウイチから任されたもう一つの役目……それがこのニャン公のおもり。
あの爺……ぴよしが所用があるとかでどこかに消えてしまい、なし崩しでニャン公の世話まで妾に押し付けられる事になってしまったのだ。
”歩くのメンドイニャ。
抱っこしてニャ”
(甘ったれるな)
”どうしたニャ?
あの人間のオスにボクを世話するように言われてるハズだニャ?”
(くっ……)
”分かったら誠心誠意ボクに尽くすニャ!”
放っておくと永遠に煩いので、言われたとおりに抱いてやる。
ヨウイチも名まで付けて可愛がっている猫が、ここまで腹黒いとは夢にも思わないだろう。
”ニャ~~~!?
抱き方がなってないニャ!!
それじゃボクのデリケートなオシリが痛んでしまうニャ!!”
(……ニャン公。
半分生きて半分死んだ気分というものを味わってみたくないか?)
確かこのニャン公の名前の由来となった実験だったか……
リョウシリキガクとやらはよく分からんが、このニャン公の末路にふさわしい事には間違いない。
”ンミ"ャ~~~!?
ボ、ボクのオシリにかすり傷一つでも付けてみろニャ!!
ボクのご主人さまが黙っていないニャ!!”
(……いつおぬしの尻の話などした。
……ところでニャン公、おぬしの主人とやらの事だが……)
ピクリッ
主人という言葉にニャン公が過剰に反応した。
(おぬしが居ない事に随分と心配しておったな~~~おぬしの主人~~~)
”な、なんのことニャ……?”
明らかに動揺した様子のニャン公。
元々確信はあったが、これはもう決定だな。
(隠しても無駄じゃ。
あの時、鏡を見たおぬしの様子を見れば一目瞭然。
久しぶりに主人の姿を見て恋しくなったか?)
”う、うるさいニャ……
お前には関係ないニャ”
(会いたいのなら帰ればよかろうに……)
”ふ、ふんだニャ!!
お前らが怪しげな事を企んでるみたいだから、それを突き止めてやるんだニャ!!
何を企んでいるか知らないけど、ボクのご主人さまにかかればお前らの悪巧みニャんて……”
(ふむ、そうなると妾も黙ってはおれんな……
おぬしが我が主に害を為すならば、妾はそれを排除せねばならん)
これは単なる脅しではない。
このニャン公が良からぬ事を企んでいる場合は、殺す事も辞さないつもりだ。
あのヨウイチがニャン公に冷酷な真似を出来るとは思えんし、だからといって放っておくのは危険。
そうなると妾がしっかりせねばなるまい。例えヨウイチの意思に反する事になろうともだ。
”ニ"ャニ"ャッ!?
ボ、ボクとヤル気かニャ!?”
単なる脅しでない事を感じたのか、妾の腕から離れ地面に降りるニャン公。
”ボ、ボクもご主人さまに悪さをしようとする奴らは、ゆ、許さないニャ!
引っ掻いてやるから、か、覚悟するニャ!!”
毛を逆立て歯を剥き出して威嚇し出すニャン公。
後ろ脚がガタガタ震えているから全然様になっておらんが……
そんな情けない姿を見ていたら、なんだか気が削がれてしまった。
(……まあよい、妙なマネをしない限りは妾も手を出さんと約束しよう。
おぬしが居なくなれば、我が主も悲しむからな)
ヨウイチのニャン公に対する溺愛ぶりは尋常ではないからな。
……その半分でいいから妾も…………そう考えると悲しくなってきた。
”……分かったニャ。ここは一時休戦ニャ。
アイツには空腹時にご飯をもらった恩もあるし、せいぜい可愛がられてやるニャ”
素直でないな……こういうのを『ツンデレ』というんだったか?
耳を伏せてしおらしくするニャン公を再び腕に抱いてやる。
”……そ、それにエリザベスちゃんにも、まだ告白してないしニャ……///”
エリザベス……?
ああ、宿の女将が飼ってるあの白猫の雌か。
ヨウイチは勝手にタマと呼んでおったが……確かにエリザベスなんて派手な名前は似合わんな。
しかしなるほど……こちらが本当の理由だったか。所詮はケモノか……
”あ、あんな綺麗な猫族の女性は初めて見たニャ……///
ボクの初交尾の相手は、ぜひエリザベスちゃんに……///”
コイツ、最低……
”でもボクはシャイなんだニャ。
恥ずかしくてなかなか声が掛けられないニャ……///”
(しかもヘタレか……)
”ミ"ャ~~~!?
ボクはヘタレじゃないニャ~~~!!”
おっと、思考が漏れていたか。
(ヘタレ~~~)
”ンミ"ャ~~~!?
いい加減にしないと怒るニャ!!”
とりあえず、からかいのネタが出来ただけでも良しとするか。
さて、気分も幾分晴れてきたことだし何か美味な物でも買ってやるとしよう。
……流石に脂身たっぷりの大トロとはいかないが。
”……ところで、あの人間のオスはどこで何やってるニャ?”
(さあ……どうせまたアホな事でもやっておるのだろう)
Side 御子柴 陽一
「ひぃいいいっ!?
た、助けてくれぇえええっ!!」
裏路地に入った後、俺はチンピラ男を人気の無い奥へ奥へと連行した。
壁際に追い詰められたチンピラ男はすっかりアッー!!されるのだと思い込み、絶望的な表情で俺にガタブルしている。
グラサンを掛けていて俺の表情がうかがえない事が、チンピラ男の恐怖心にさらに拍車を掛けているのかもしれない。
「か、勘弁してくれぇえええっ!!
それだけは、それだけは許してくれぇえええっ!!!」
許してくれだと……?
「勝手な事を言いやがって!
お前はそうやって許しを乞う何人もの女性を毒牙に掛けたんだっ!!」
「ひいいいいいっ!!?
ごめんなさいごめんなさい!!!」
チンピラ男は泣きながら土下座し、何度も地面に頭を打ち付けている。
ふむ、このぐらいやれば充分だろう。
「……まあいい、行け。
今回だけは勘弁してやる」
「ひっぐ……ほ、本当ですかっ!?」
涙と鼻水で汚れた顔で俺を見上げるチンピラ男。
俺がチンピラ男に与えた恐怖は相当なものだったようだ。
「二度と悪い事するんじゃねぇぞ。
オメェのツラはもう見たくねぇ……」
「ひゃ、ひゃいぃ~~~!」
ほうほうの体でこの場から逃げていくチンピラ男。それを見送る俺。
……これで二度と女性に悪さはしないと思うが、念のためにもうひと押ししておくか。
「……なんて本当に逃がすと思ってんのか! 待てやコラ~~~ッ!!」
「ひいい~~~っ!? そ、そんなっ!!?
さ、さっきは許してくれるって……んぎゃぁあああああぁっ!!?」
ダッシュで追いかけてくる俺を見て、悲鳴を上げて逃げ去るチンピラ男。
ムシャクシャしてやった、後悔はしていない。
ここまでやれば本当に充分だろう。
襲われる側の恐怖を徹底的に叩きこんだのだ。
あのチンピラ男が今後、女性を襲う事はもうない筈だ。
大通りに戻った俺を迎えたのは拍手喝采の嵐だった。
「ニイちゃん、やるじゃねぇか!」
「カッコイイーっ!!」
「女喰いのチャップが泣きながら出てったけど、一体何があったんだい?」
ふむ、最後にちょっとだけ偉そうな事を言ってみるか。
「皆さん、先ほどの男性は私と語り合い、もう二度と悪事を働かないと誓ってくれました。
どんな相手でも必ず話し合いで分かり合えるものです。
皆さん、その事だけはお忘れにならないように。
私が皆さんに伝えたかったのは、その一点です」
再びどよめく周囲の人々。
流石に『だから魔族とも仲良くしましょう』までは言えなかった。
やはり宗教家のように、人々の心を完全に掌握する事は難しい。
「マジかよ!? あの人間のクズに悪い事しないって誓わせたのかい!?
スゲェよ、ニイちゃん」
「いや~~~助かるよ!
あの女喰いには本当に迷惑してたんだ」
「聖人君子ってのは本当にいるもんだな!」
とはいえ、人々にとっては結果が全てと言ったところか。
一斉にチンピラ男更生の偉業を称える周囲の人たち。
拠点を移すと決めた矢先にこの人気……世の中つくづく上手くいかないものである。
「あ、あの……助けていただいて、ありがとうございます」
先ほど助けた女性が礼を言ってきた。
「いえいえ、どういたしまして。
困っている者を助けるのは、人として当然の行為です」
とりあえず聖人君子っぽい言葉を返しておく。
「おにいちゃ~~ん、ありがと~~う」
今度は、満面の笑顔で幼女が俺の腰に抱きついてきた。
「わたしね~~おおきくなったら、おにいちゃんとけっこんする~~」
……この幼女……微妙に嬉しい事を言ってくれるじゃないか。
俺は断じて幼女趣味ではないが……
幼女……なるほど、悪くない。
心の隅でそう思ったのは内緒だ。
もう一度言うが、俺は断じて幼女趣味ではない……筈だ。
そして大勢の人の拍手に見送られ、今度こそ帰路に就いた時だった。
「そこのアンタ、ちょっと話があるんだけど……いいかい?」
唐突に声を掛けられた。男の声だ。
声をした方を振り向くと、そこには冒険者風の恰好をした若い男と魔術師風の恰好をした少女という二人組がいた。
主人公が憎き敵であった幼女と和解するという内容でした。
あとシュレディンガーが意外に腹黒いというところ……黒猫だから腹が黒いのは当たり前なのですが……
次回、謎の二人組から持ちかけられた話とは……?