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第22話 吾輩は猫である。名前は○×△

第22話投稿します。


かなり間が空いてしまいました。

スイマセン。

Side 御子柴 陽一




本日もいつもの宿のいつもの部屋で作戦会議だ。

メンバーもいつもの代わり映えしない面子で……と思いきや、今日は一味違う。



「ウミャイ、ウミャイ」



俺の横には、嬉しそうにゴチソウを頬張る黒い毛ムクジャラが一丁。

舌足らずに「ウマイ、ウマイ」と連呼しながら、俺が献上したマグロの刺身を一心不乱に食べているのは、新マスコット・黒猫のシュレディンガー(♂, 推定5歳)だ。

以前、俺が街を散歩に見かけて、その瞬間一目惚れしてしまったほどの美猫だ。

とても利口で行儀よく、良いところのお坊ちゃんって感じがする。

元は金持ちに飼われていたのかもしれない。


(もっと)もそんなシュレディンガーも初めて出会った頃はガリガリに痩せ細っており、気が立っていたのか「シャーフシャーッ!」と威嚇ばかりしていた。

猫まんまとムツゴロウさんばりのスキンシップですっかり俺に懐き、今に至るわけである。


少しイジワルして皿ごとマグロを取り上げてみる。



「ウミャァァ~~~………」



悲しそうな声で鳴きながら、俺を見上げるシュレディンガー。

その潤んだ瞳が『ナゼ? どうしてイジワルするの?』と訴えているように見える。

皿を返してやると『アリガトウ』とひと鳴きして、またマグロを食べ始めた。



萌えるじゃねぇか、コンチクショウ!



思わず頬が緩んでしまう。

こんな可愛らしいぬこの姿が見れて、俺の機嫌も最高潮だ。



「ヨウイチ」


「なんですか?」



視線をシュレディンガーから外し声の主をたどると、俺とは対照的に不機嫌そうなアリビアがいた。

どうしたんだろうか?



「妾たちの昨日の夕食は何だった?」



唐突にそんな事を聞かれた。



「え~~と、ご飯と沢庵」



視線をシュレディンガーに戻し、形の良い背中を撫でながら答える。

シンプルなメニューだったから、すぐに思い出せた。



「それじゃ一昨日の夕食」


「ご飯と目玉焼き」


「その前」


「ご飯とパンの耳」



適当に聞き流しながら答える。

……そう言えば、最近ロクなもの食べてない気がするな。


ダークマター・プロジェクトが動き出し、これから物入りになるだろうからと質素倹約を実施しているワケだが、流石にこれは極端過ぎだったかも知れない。



「今、このニャン公が食べているものは?」


「マグロの刺身」



シュレディンガーの喜ぶ姿を見たくて、少し奮発してしまったよ。

案の定、彼は喜んでくれているみたいだ。

奮発した甲斐があったってもんだ。



「このニャン公が妾たちより明らかに良い物を食べているのはどういうことじゃ?」




ふむ、待遇の差に不満があるわけか……

仕方ない、語るとするか。



俺は『シュレディンガーの猫』について語った。

狭く暗い箱の中に閉じ込められ、いつ来るか分からない毒ガスの恐怖と、空腹にひたすら耐えなければならなかった黒猫・シュレディンガー(便宜上そう命名。黒猫は俺の勝手なイメージ)。

人間の身勝手(エゴ)のために、とうとう生きて箱から出られなかった悲劇の猫。


猫好きの俺は誓った。

一匹でも多くの恵まれない猫に『シュレディンガー』の名を与え、天寿を(まっと)うするその時まで存分に可愛がると……可能な限り怖い思いもひもじい思いもさせまいと……。

シュレディンガーという名の猫たちを幸福にしてやる。それが『シュレディンガーの猫』を救済する唯一の方法だと信じて……

笑いたけりゃ笑うがいい。



「ウミャイ、ウミャイ」



隣で美味しそうにマグロを食べるシュレディンガーを見ていると、俺のやっている事が間違いではないのだと改めて実感できる。



「ヨウイチの言いたいことは分かった。

 しかしな……………………………………

 ………………………………………………

 ………………………………………………

 そのなんとかの猫とやらはあくまで(・・・・)例え話ではなかったのか?」



痛いところを突かれてしまったが、もはや開き直るしかない。

俺はシュレディンガーの頭を撫でながら元気に答えた。



「うん!」



ゴスッ!!



頭を殴られた。

HAHAHA……俺も自分で馬鹿だと思うよ、全く。



そんな事を考えながらも、俺はシュレディンガーの小さい顎を撫でる。

くすぐったそうに身をよじる様が可愛らしい。



「もういいっ!!」



アリビアは何やら怒って向こうに行ってしまった。



まあ、今日あたり奮発してゴチソウでもするか。

それで機嫌も直るかもしれない。





「では陽一、映すぞーい」


「はいよー」



今回も前回に引き続き、遠見による魔族国の偵察だ。

というのも、前回で重大な見落としがあったことに気付いたからだ。


『あれ? そう言えば一回も魔王を見ていない』


勇者とは面識があるが、魔王についてはあった事がないどころか情報もほとんどない。

唯一分かっている事は、魔王は俺と同じくこの世界では稀な黒髪も持ち主だという事だ。


せっかく遠見という便利な能力(しかも音声付き)があることだし、顔ぐらい拝んでおいても損はない筈だ。

偵察というよりは個人的な興味である。



鏡面が光り輝き、ここから遥か離れた光景を映し出す。

鏡に映ったのは玉座に鎮座する一人の男。



「これが……魔王……」



……………ただのオッサンにしか見えない。



顔立ちは端正と言っていいのだが、それの他に特筆すべきところが見つからないのだ。

鋭い眼光とか、百戦錬磨のオーラとか……etc.

強いて言うならば、特徴が無いところが特徴だ。

……そんなもの当然特徴とは言わない。


これが実は相手を油断させるために普通のオッサンを装っているとかだったら逆に尊敬するんだが……

裏があるのではないかと疑えば疑うほど、深みに(はま)って分からなくなりそうだ。



魔王らしき男は、傍に控える大臣らしき初老の男と何やら話をしている様子。



『魔王様、魔獣部隊編成の予算は………』


『うむ』



どうやら軍備に関する話らしい。



『予算案は、今日中にまとめておきます。

 そして、これが侵攻部隊の編成表です。お目通しください』


『うむ』



魔王は受け取った書類に目を通していく。



『うん……?

 魔剣士部隊の隊長はバルディウス卿ではないのか?

 指揮能力に長け、個人的な武も高い。

 適任だと思ったのだが……』


『バルディウス卿は現在、幽閉処分中です。

 魔神だの世界の破滅だの騒ぎ立てた挙句、事も有ろうに人間どもとの共存を訴え出したのですから……

 これ以上放っておくと、今度は何を仕出かす事やら……

 よって奴を侵攻部隊に加えるワケにはいけません』



マジッ!?

バル君、幽閉されたのかよ!?

大丈夫なのか……アイツ……



『例のダークマターとかいう……確かに眉唾ものではあるな。

 バルディウス卿も何でそんな話を信じるのやら……』



そう言うと、魔王はこれ以上興味なしといった感じで書類に視線を戻した。

その口ぶりからすると、魔王もダークマター否定派か……



『……おい』



書類に目を通していた魔王が不意に大臣に呼びかけた。

何故か表情が強張(こわば)っている。



『なんでございましょう?』


『魔獣部隊の隊長だが、余の娘と同じ名前だな……』


『それはもう、姫様ご本人でございますから』



魔王は玉座から立ち上がり盛大に叫んだ。



『待て待て待て待て!! 聞いておらんぞ!!!

 どうしてノヴァが侵攻部隊に加わっておるのだ!?』



『姫様たってのご希望なのです。

 一人でも多くの人間を葬り去り、勇者も魔王の血筋である自分が倒すのだと……』



『冗談ではないぞっ!! 貴様!!!

 ノヴァはまだ16なのだぞっ!!! 戦など早すぎる!!!

 もしもの事があったらどうするつもりだっ!!!!』


『お言葉ですが魔王様……

 姫様は御年16歳にして魔族国でも有数の実力の持ち主、次期魔王として期待を集めていらっしゃいます。

 こたびの戦で姫様が出られれば、一騎当千の活躍をされることは必定。

 それにより我が軍の士気は高まり、さらに魔王の一族として勇者を倒す事が出来れば……』



大臣は一呼吸置いて言った。



『人間どもの士気はガタ落ち……一気に決着をつける事が出来るやも知れません。

 魔族国の……いや我々魔族の未来のためです。

 無論、姫様の補佐として副隊長には信頼できる者を『こうしてはおれんっ!!』……ちょっ、魔王様?』



話の途中で魔王はどこかに走り去ってしまった。

残された大臣は溜息をついている。




魔王の娘ね……



「よし、『ついで』に魔王の娘とやらも見ておきますか」



『ついで』の部分を強調しておく。

テンプレでは魔王に娘がいる場合、美少女、または美女と相場は決まっている。

別に期待しているわけではない。

そう、あくまで『ついで』だ。



「おう、んじゃ魔王の娘とやらを映すぞい」



空気を読んで、快く乗ってくれるぴよし。



鏡に映る光景が変わっていく。

映し出されたのは屋外らしき場所。



「!?」



そしていきなりの驚愕。

なぜなら一人の女性が魔獣と取っ組みあっていたからだ。


女性は腰まである長い髪を一本の三つ網にして纏めている。

格好は露出の多い鈍色のビキニアーマー、浅黒い筋肉質の肉体を惜しげもなくさらしていた。

これが噂の魔王の娘なんだろうか?

……だとすれば、えらくワイルドな魔王の娘さんだな。


一方の魔獣は、魔王の娘(仮)の倍はあろうかというイノシシ型。



『ぬふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……っ』


『ブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……っ』



体重差は歴然、それにも拘わらず両者の力は拮抗している。




周りには槍や剣を持った兵士をチラホラ見える。

各々素振りをしたり、組み手をしたり、魔王の娘(仮)とイノシシの取っ組みあいを観戦したりしている。

どうやらここは訓練所らしい。



『ぬぅぅううううう………ウラァアアアアッ!!』




魔王の娘(仮)が、イノシシの牙を掴み、イノシシの巨体を抱え上げた。



『ズリャァアアアアアアア!!!』



そしてそのままグルグルと振り回し始めた。ジャイアントスイングだ。


え~~~と、魔王の娘(仮)は肉体派ということなのか?



『ンダッアアア~~~ッ!!!!』



凄まじい気合いとともに、ハンマー投げよろしくイノシシをブン投げる魔王の娘(仮)。

途端、周囲で見学していた兵士たちから拍手喝采が上がる。

魔王の娘(仮)は、そんな周囲をよそに、(たくま)しい腕で額を拭っている。実に漢らしい。

まあ、きっと頼れる姐さんタイプなんだろう。



さて、魔王の娘(仮)はどんな顔をしているのか。


俺は息をのんで魔王の娘(仮)の顔をじっくり観察する。



顔つきは精悍そのもの。

鋭い眼つき、太い眉、ワシ鼻、二つに分かれたケツアゴに、額に二本の角が生えているときた。

先ほどの雄姿を見た後ならば、ある意味期待を裏切らない漢らしい顔といえよう。



騙された……



それが俺の心境だった。

別に『魔王の娘が美少女でなければ……』なんて法律があるわけではない。ゆえに騙されたもクソもない。

魔王の娘が美少女じゃないからって、俺が損するわけでも得するわけでもない。


だが物事にはお約束というものが存在し、少しだけそれに期待していた分、裏切られた気分だ。

まさに世界に騙されたといった感じだ。



「おっと、スマン。

 間違えとった。

 魔王の娘はコッチじゃ」



唐突にぴよしがそう言い、再び鏡の映像が変わる。



『ノヴァ! ノヴァ!!

 開けなさい! 今すぐに!!』



映し出されたのは魔王が扉を叩いている光景だった。



え~~と、つまり先ほどのオーガみたいな女は魔王の娘ではなかったと……



そして今度の光景は魔王の娘の部屋の前らしい。

中から鍵をかけられているみたいで、魔王は部屋に入りたくても入れないようだ。


それにしても『アンタ本当に魔王かよ?』とツッコみたくなるようなシュールな光景だ。



ガチャリ



突然、扉の向こうから鍵を開けた音がした。

そして部屋の中からノブが回され、ゆっくり扉が開いていく。



キィ……



そして半開きなった扉の隙間から、スーッと一人の少女が姿を現した。

それにしても登場の仕方がやけにおどろおどろしい。


しかし今度こそ魔王の娘で間違いないようだ。

先ほどのトラップのせいもあり、少し警戒気味に魔王の娘を観察する。


歳は俺と同じか、少し下だろうか?

比較的小柄な少女で、腰まであるロングの黒髪が特徴的だ。

姫と呼ばれていたが意外なことにドレス姿などではなく、普通に年頃の少女っぽい服を着ている。



しかし何よりも……



(よかった……普通に可愛い娘で……)



少々無愛想っぽいが、間違いなく美少女と呼べる容貌だ。

魔王の娘が先ほどのようなオーガみたいな厳つい女ではなく、テンプレ通り美少女であった事に心底ホッとする俺。



そう言えば、すっかり失念していたが魔王の娘も魔王と同じ黒髪だったはずだ。

さっきのオーガ女はよくは覚えていないが、少なくとも黒髪ではなかった気がする。



それにしても魔王の娘が美少女だというだけで、無条件に安堵してしまうとは……

俺は自分が思っていた以上に浅ましい人間だったようだ。


本気で落ち込みかける俺。



「「ジ~~~」」



ふと、俺の背後からチクチク刺すような視線がある事に気付いた。

嫌な予感がして振り返ると、ジト目のぴよしとアリビアの姿があった。


どうやら俺の浅ましさはバッチリお見通しだったらしい。

ぴよしの口元が笑っているあたり、俺は完全に()められてしまったようだ。

文句の一つでも言ってやりたいが、今の俺にはその資格もない。



どうしよう……この空気……





「ンミャ~~~ッ!

 ウミャ~~~ッ!!」



窮した俺に救いの主が現れた。

空気の読める猫・シュレディンガーだ。



見ると、シュレディンガーは鏡に映された魔王の娘を見て(せわ)しく鳴いている。

仕舞いには鏡に爪を立て、バリバリ引っ掻き始めた。



「ちょっ!? 止め……ワシの大事な宝具に傷がっ!!?」


「コラッ! ニャン公!!

 耳障りな音を立てるでない!!!」


「ミャ~~~ッ!!!」



俺そっちのけで、たちまち場はカオスと化していく。



いいぞ! シュレディンガー!!

もっとこの場を掻き乱すんだ!!!



この場はシュレディンガーに任せ、俺は偵察を続行する事にした。



『や、やあ……ノヴァ……元気だったかな』



あれほど息巻いて跳び出して行った魔王だったが、いざ娘の前に立つと急に尻ごみし始めた。



『…………』



対する魔王の娘(真)は無表情のまま、何も反応しない。

重苦しい空気が二人を包んでいるのが映像越しにも良く分かる。



『……今日もいい天気だな

 ノヴァは何をしていたのだ?』



早く用件を言えば良いのに、まるで関係のない話題を振り出す魔王。

どうにか場の空気を変えようと必死なのだろう。



『…………』


『……おや? その手に持っているものは何だ?』



魔王は娘が手に持っている物に気付いたようだ。

俺としてはあまりツッコミたくなかったのだが、魔王の娘は何故かワラ人形を握っていたのだ。



『は、ははは……人形遊びかい?

 ノヴァもまだ人形遊びに興じる年頃なのだな』



どう見たって人形遊びなんて可愛いモノではなさそうなのだが、テンパってそんな事にも頭が回っていないのか、勝手に話を進めていく魔王。



『して、人形の名は何と言うのだ?』


『……シリウス』


『ほう、余と同じ名前か……』



あ、魔王が嬉しそうな顔になった。

娘が人形に自分の名前を付けたのが嬉しいらしい。

それにしても魔王の名前はシリウスというのか……覚えておくか。



『余と同じ名前の人形でどんな遊びをしていたのだ?』



だんだん調子づいてきたのか、止めればよいのにさらに話題を掘り下げようとする魔王。



『刺してた』


『……』



娘の簡潔な答えに絶句する魔王。

確かにワラ人形には所々に刺したり切り裂いたりした跡がある。


何……何なの、この娘……

何でこんなに怖いの?

何で親娘なのに、こんなに仲が良くないの?



『ノ、ノヴァ……今日は一段と……その、機嫌が良くないな。

 何かあったのか?』


『……………………………別に』



無表情でそっけなく答える魔王の娘。

その割には答えるまでの間が異様に長かったし、目が多少泳いでいたようだった。


確かに嫌な事でもなければワラ人形を傷つけたりしないよな……

いや、嫌な事があっても普通はワラ人形を傷つけたりなんてしないけどな……



『そんなこと言わずに……

 困っている事があれば余が何でも力になるぞ』


『………』



娘の様子がおかしい事を感じ取ったのか、意外にしつこく粘る魔王。

そんな魔王(父親)にとうとう折れたのか、魔王の娘は口を開いた。



『……ミャーが帰ってこない。

 偵察に行ったきり……』


『ミャー?

 ああ、確かノヴァが使い魔にしてた猫だったな。

 そうか、使い魔が戻ってこないのか……』



ほう、魔王の娘は猫を使い魔にしているのか。

魔王の娘は愛猫家だったりするのだろうか?

可愛がってる猫が戻ってこないとあれば、凹む気持ちもよく分かる。



『まあ所詮はただの猫だし、どこかで野垂れ死んでいるのかも知れんな。

 よかったら余が代わりの使い魔を』



ちょ……魔王! 空気読めよ!!

その発言はナンセンス過ぎる。



ポトリ……



ワラ人形の頭が落ちた。


誰がやったかは言うまでもない。



魔王の今の無神経な発言に、娘はキレてしまったようだ。

相変わらず無表情だったが、眼だけは明らかに怒っている。

無残なワラ人形(シリウス)の姿が彼女の怒りを体現している。


もう一方の魔王(シリウス)は顔面蒼白である。



『ミャーは賢いし勇気がある。

 そう簡単に死んだりしない』


『そ、そうだったか! ス、スマン!!

 心配せずともミャーはそのうちきっと無事に帰って『確証もないのに適当なこと言わないで』……はい』



黙りこむ魔王。

これ以上は口を開くのも許されないといった空気だ。





「ミャ~~~ミャ~~~ミャ~~~!!」



さっきからどうしたね? シュレディンガー?

会話が聞こえないからもうちょっと静かに頼む。





『用が無いなら……』



魔王の娘は扉を閉めようとする。



『ちょっ……ノヴァ!!

 考え直してはくれぬか? お前はまだ16だ。

 その歳で戦に赴くなど……』


『…………』


『それに、人間の勇者をあまく見るな。

 確かにお前は、我が国でも有数の実力の持ち主、お前に期待している者も多いと聞く。

 しかし、もしもの事があったら余は……』


『チクショウ~……究極体になりさえすれば~……』



唐突に魔王の娘はそんな言葉を呟いた。

何だろう、どこかで似たようなフレーズを聞いたような……



『うっ!!??』



魔王はそれを聞いて固まってるし、何かトラウマでもあるのだろうか?



『ノ、ノヴァ!

 確かに8年前の勇者との戦いで、余は不覚をとった。無様に敗れたさ。

 だが、余は……いや俺はあの時の俺ではない!

 あれ以来、俺は慢心を捨て、もっと慎重になろうと……』


『…そして臆病になった』


『うっ……』


『臆病者に用はない』



これ以上話す事はないとばかり、魔王の娘は扉を閉めた。

後に残されたのは、項垂(うなだ)れた魔王と頭だけワラ人形のみ。



『……』



魔王は無言でワラ人形の頭を拾い上げると



『クソッ!!!』



床に叩きつけた。

大きくバウンドし、そのままどこかへと転がっていく頭。

魔王はそれを見届けることなく、部屋の前から立ち去った。



俺も偵察はこのあたりで打ち切ることにした。




…………




さて、今回の偵察をまとめるとだ……


魔王の名はシリウス。

見た目を裏切らない重度のヘタレで、娘ノヴァとの仲がよろしくない。

正確には娘の方が一方的に嫌っているのだが、その原因は8年前に勇者との戦いで無様に負けてしまい幻滅したかららしい。

その娘にしても……こう言ってはなんだが性格は暗くて無口。しかし侵攻軍に参加するあたり人間との戦争には積極的っぽい。



あとは………魔王の娘の使い魔が行方不明らしい。

名前は『ミャー』といったか。

意外なことに使い魔は魔獣の類ではなく、普通に猫らしい。


まあ偵察目的だったら、確かに猫は都合が良さそうだ。

どこにいても怪しまれないし、可愛いから駆逐される心配もないし。



(もっと)も、ここは関係の無い話だ。忘れてもよかろう。

ただし、一人のぬこ好きとしてはミャーの無事を祈らせてもらおう。



「ミャ~~~」



おや? シュレディンガーもミャーの心配かい?



「ミャ~~~ッ! ミャ~~~ッ!! ミャ~~~ッ!!!」



え? 違う?



「ミャァア~……」



HAHAHA……なんだか分からないが可愛いヤツだな~~~。

吾輩は猫である。名前はシュレディンガー。


というわけで、ぬこが活躍する(?)話でした。


久しぶりに出た魔王……そして魔王を嫌う魔王の娘。

今後、彼らを絡ませていく予定です。


次回、ついに布教活動開始……?

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