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第18話 給料分は働くべし

第18話、投稿します。

今回は2話連続投稿です。

Side 御子柴 陽一




俺が魔獣を前にして剣を構えた時だった。



「ヨウイチ、(わらわ)も共に戦うぞ」



今まで指輪の中にいたアリビアが実体化してきた。



(わらわ)の精霊魔術があれば鬼に金棒じゃぞ。

 幸い指輪を介して、おぬしから膨大な魔力を頂いておるからな・・・」



不敵な笑みを浮かべるアリビア。

精霊魔術とやらに相当の自信があるらしい。


精霊魔術・・・確か彼女(アリビア)がマスタと認めた人物と契約することで、指輪を介して与えられる精霊の力だったか。

今の言い方からすると、精霊魔術とやらは彼女単体でも使用出来るみたいだ。

契約によって指輪の持ち主にも、その力が使えるようになるといったところか。


ここで俺は彼女について考えてみる。


彼女は俺をマスターとして認めてくれたが、結局、俺は彼女とは契約できず、ただ指輪を所有しているだけの状態。

そういう意味では、俺は正規のマスターとは言えない。

本当に彼女はそんな現状に満足しているのだろうか?


正規のマスターと巡り合えていない以上、言い方は悪いが彼女は就職浪人中。

見る限り新しいマスターを捜そうとする様子もない。

つまりこれは・・・


(なんだ、ただのニートか)


合点がいった。

そう言えば肝心の契約とやらは出来ていないのに、彼女の活動に必要な魔力は今も提供し続けている。

働いてないのに、魔力()に困らない。


(なんてうらやまし・・・・いや、けしからん生活だ)


彼女に持っていかれる魔力なんて俺からすれば微量だが、貢がされているみたいで嫌だ。

何らかの形で働いてもらわないと・・・



「それじゃ遠方から援護お願いします。

 俺は剣で攻撃するんで・・・」



俺は彼女の提案を受け入れる事にした。


彼女なりにニートな現状を心苦しく思っていたのだろうか。

だからこそ共闘を提案したのかもしれない。



魔獣の方は、突然実体化したアリビアに驚いた様子はない。

それどころかニヤニヤ嗤って、余裕の表情を崩さない。


しかし



「グッググゥウ”ウ”ウ”ウ”ウ”ァ”ア”ア”ア”ア”・・・」



突如奇声をあげ始めた魔獣。

何をするつもりなのか・・・

そう思い身構えていると



『ガァアア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ウ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”ッ!!!!』



口から得体の知れない『何か』を吐き出した。



ボトッ


ボトッ


ボトッ


ボトッ


ボトッ



吐き出された『何か』は5つ。

野獣の口から吐き出されて、地面に転がり蠢いている。

そして、それぞれが立ち上がり始めた。



『『『『『ク”ケ”ケ”ケ”ケ”ケ”ケ”ケ”ケ”』』』』』



それは魔獣の小型版だった。

親と同じゴリラ型で、小型版といっても2メートルぐらいだ。

俺よりもずっとデカイ。それが5体。



ますますもって、こんな魔獣見たことがない。

その場で、子供を生みだす魔獣なんて・・・

それとも体内に飼っていたとかだろうか・・・?



『『『『『ク”キ”ャ”キ”ャ”キ”ャ”キ”ャ”』』』』』



生み出されたばかりの魔獣たちは、俺たちを見るなり臨戦態勢を取っている。

子供というよりは、俺たちと戦わせるために生み出した手駒といったところだ。



「ヨウイチ、こ奴らは全て(わらわ)が片付けよう・・・」



アリビアが俺に言って来た。



「え・・・? 前衛は必要ないんですか?」



魔術師は後衛に徹して、剣士に前衛を任せるのがテンプレだからな。

前衛抜きで精霊魔術とやらが使えるのだろうか?



「心配するな、ヨウイチ。

 精霊が精霊魔術を使うのに、なぜ長ったらしい呪文なんぞが要る?

 前衛など不要じゃ」



なるほど、そういう事なら納得。

その言葉を聞いて安心した。



「それにな・・・・・・

 あんな下っ端をわざわざ戦わせるあたり、

 あのエテ公、(わらわ)たちで遊んでいると見える。

 お遊びはいい加減にしろというところを、見せてやりたいのじゃ」



・・・それ、なんかすごく死亡フラグっぽいセリフだ。

具体的には自爆に巻き込まれて爆死しそうな・・・

その言葉を聞いてすごく不安になった。


止めた方が良いんだろうか?





Side 指輪の精霊 アリビア




ようやく(わらわ)の出番か・・・

思えばヨウイチと出会ってからはカヤコに取り憑かれ、ひどい目に遭ってばかりじゃったからな・・・

高位精霊じゃというのに、マスターのヨウイチにそれらしいところを一回も見せておらん。


ここはひとつ、カッコイイ勝ち方をして、(わらわ)の名誉を一気に挽回じゃ。

このエテ公どもには、そのためのかませ犬となってもらおう。

・・・これからもヨウイチの美味な魔力は頂きたいし・・・



『ク”ケ”ャ”ケ”ャ”ケ”ャ”ケ”ャ”』



一匹のエテ公が、ヘラヘラ嗤いながら(わらわ)に近づいてくる。

マヌケめ・・・完全に(わらわ)を甘く見ておるな・・・


(わらわ)はマヌケ面で嗤うエテ公に向かって



火炎弾(ファイア)!!」



指先から炎の弾を撃ち出した。



『ッ!!?? ク”カ”ャ”キ”ャ”ッ!!??・・・』



マヌケ面に炎の弾が直撃し爆発。

短い断末魔をあげ、呆気なく絶命するエテ公1匹。


残りの4匹のエテ公は唖然としておる。

一方、肝心の親玉は余裕そうな貌・・・気に入らんな・・・



「どうした三下ども?

 まさか降参というわけではあるまい?」



言葉が通じるか分からんが挑発してみる。

所詮はケダモノ、頭に血が上れば上るほど(わらわ)の思うつぼじゃからな。



『『『『ク”、ク”キ”キ”キ”キ”キ”・・・』』』』



歯を剥き出しにして(うな)るエテ公ども。

挑発が効いておるのか、それとも仲間を()られた事に怒っておるのか・・・

親玉の方は相変わらずじゃが、子分の方はイイ感じに頭に血が上っているようじゃ。



『『『『キ”ャ”ァ”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!』』』』



耳障りな声をあげ、一斉に襲いかかって来るエテ公4匹。



火炎弾(ファイア)!!」



とりあえず馬鹿正直に直進してくる一匹のエテ公に向かって、先ほどと同じく炎の弾を撃ち出す。


じゃが



「むっ!?」



流石に同じ手は喰わないのか、横っ跳びで炎を避けるエテ公。

・・・一応の学習能力はあるようじゃ。



しかし悠長に考えておる暇はない。

敵は一匹ではないのじゃからな・・・



火炎弾(ファイア)!」「火炎弾(ファイア)!」「火炎弾(ファイア)!」「火炎弾(ファイア)!」



続けて(わらわ)に攻撃を仕掛けようとした残り4匹に向かって、火炎弾を4つ連射。

しかし妾の攻撃のことごとくを避けるエテ公ども。

なるほど、本気になったヤツらは少しは手強いかも知れん・・・



(わらわ)の周りを取り囲むエテ公ども。



(なるほど、四方から一斉に攻撃を仕掛ける腹積もりか・・・)



先ほどの(わらわ)の攻撃が一方向のみだと気付いたからか、グルグルと(わらわ)の周りを徘徊しながら、攻撃の機会をうかがっておる。

・・・頭はそこまで悪くないようじゃ・・・


確かに(わらわ)の火炎弾は一方向のみ。

撃ち出している隙に、背後から攻撃されては一貫の終わり。



周りを徘徊していたエテ公どもがニタリと嗤った。


そして



『『『『ク”キ”ャ”ャ”ャ”ャ”ャ”!!!!』』』』



四方から一斉に妾に襲いかかって来るエテ公ども。



だが



「あまいっ!!」



火炎弾だけが妾の精霊魔術ではない。

そうとは知らず、間合いに入ってきた愚かどもに対し



氷結嵐(ブリザード)!!!」



(わらわ)を中心に冷気を纏った竜巻を起こした。



『『『『ッ!!?? ク”キ”キ”キ”!!??・・・』』』』



突如起こった竜巻に巻き上げられ、さらに冷気によって一瞬で凍結するエテ公ども。

4つの氷塊と化し、宙を舞うエテ公ども。



火炎弾(ファイア)!」「火炎弾(ファイア)!」「火炎弾(ファイア)!」「火炎弾(ファイア)!」



そこへ(わらわ)はさらに火炎弾で追い打ち。

火炎弾が直撃した4つの氷塊は、空中で爆散。中のエテ公もろとも粉々に砕け散った。

粉々となった氷の欠片が跳び散り、光を反射してキラキラ輝く。



(決まった・・・)



今の(わらわ)は最高に輝いておるに違いない・・・





Side 御子柴 陽一





正直驚いた。

精霊の中でも高位に位置すると言っていたが、まんざら嘘でもなかったらしい。

最近はカヤコに怯えているイメージしかなかったからな・・・


精霊魔術とやらが思いのほか地味だった感があるが、実にあっさり勝ってしまった。

空中コンボでトドメなんて、なかなか出来るもんじゃない。


とにかく懸念事項だった爆死(ヤムチャ)フラグもあっさり折れた。

流石にバラバラにされては敵も生き返りはしまい。



「ふっふっふっふ・・・

 どうじゃ、ヨウイチ・・・

 (わらわ)もなかなかやるであろう?」



彼女は得意気だ。最高にハイになっている。

活躍らしい活躍は今までしたことなかったもんな~~~彼女・・・



「驚きました。

 流石にここまで強いとは思っていませんでした」



偽らざる気持ちを簡潔に口にする。



「む・・・

 それは流石に見くびりすぎというものだぞ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 そうじゃのぅ・・・

 あまりにあっさり勝負が着きすぎて、少々物足りないと思っていたところじゃ。

 あのエテ公の親玉も(わらわ)が片付けてやろう」



・・・少し調子に乗り過ぎじゃないだろうか?

いい加減止めないと、さらに死亡フラグが立ちそうな気がする。



「いや、しかしですね・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 そうだ、魔力を随分消費したんじゃないんですか?

 そろそろ休憩したらどうです」



少し心配になってきたので、休憩を勧めてみるも



「ふっ・・・・・・

 何を言っておるんじゃ、ヨウイチは・・・

 おぬしから補充した魔力がたかが数発の魔術で尽きる筈がなかろう?

 まだまだ余裕じゃ」



困ったことに魔力は充分、ヤル気も満々だ。

・・・まあ危なくなったら実体化を解いて、指輪に戻ればいいし・・・

・・・そもそも指輪が本体みたいなこと言っていたから、指輪さえ無事ならいいのか・・・?



「さあ来い、親玉!!」



俺の心配をよそに、彼女は魔獣を指差しビシッと決めている。


魔獣はそんな彼女を見て、口の端を歪めると



クイックイッ



人差し指で挑発している。

まるで撃ってこいと言わんばかりに・・・



「・・・余裕じゃな・・・エテ公・・・」



この仕草が癇に障ったのか、アリビアは目を細め



「喰らえ、火炎弾(ファイア)!」



彼女の人差し指から撃ち出された炎の弾は、吸い込まれるように魔獣の顔に直撃し・・・



直撃しようとして、見えない壁に阻まれたように霧散した。



「なっ!!??」



驚愕するアリビア。

そして何事もないようにたたずむ魔獣。



火炎弾(ファイア)!!」



何かの間違いだと言わんばかりに、アリビアは再び炎の弾を放つ。

しかしその炎の弾は・・・またもや魔獣に直撃する寸前で霧散する。


明らかに魔術がキャンセルされている。

魔獣は魔力障壁のようなもので守られているようだ。



火炎弾(ファイア)!」「火炎弾(ファイア)!」「火炎弾(ファイア)!」「雷撃波(サンダー)!」「雷撃波(サンダー)!」「氷結嵐(ブリザード)!」「火炎弾(ファイア)!」



様々な魔術を織り交ぜて連発するも、一向に破れない魔力障壁。

魔術が通用しない敵なんて、彼女にとっては想定外らしい。

『そんな馬鹿な』という表情で、魔術を乱れ撃ちだ。



「おのれっ! 火炎弾(ファイア)!!」



なおも諦めないアリビアだが、俺はここで彼女の異変に気付いた。



「ちょっと待ったっ!?

 アリビアさん、体が・・・」


「はぁ、はぁ、何じゃ? ヨウイチ・・・」



息を切らしながら、自分の体を見るアリビア。



「!? しまった、魔力が切れかかっておる!!」



彼女の体は透けていた。

まるで透明人間のように消えかかっていたのだ。

どうやら、魔力が切れかかっているらしい。

魔術を連発しすぎて、実体化に必要な魔力まで使ってしまったらしい。


とりあえず俺は息を切らしている彼女に声をかけた。



「君・・・解雇な・・・」


「そんなっ!!??」



精霊にも解雇という概念は通じるらしい。

悲痛な声で反応する彼女。



「あんな馬鹿みたいに魔術連発して、魔力を全て使い潰すなんてあり得ないでしょうが」



俺はちゃんと覚えている。彼女の実体化には、この世界で所謂一流と呼ばれる魔術師一人分の魔力が必要だと。

俺にとっては雀の涙みたいな魔力消費ではあるが、それとこれとは話は別。

経費を無駄に浪費されて、しょうがないで済ませる雇用主はいない。



「うぅ・・・」



アリビアは返す言葉が無いのか、うつむいたままだ。

かわいそうだし冗談はこれぐらいにしておこう。



「まあ、解雇うんぬんは冗談ですけど・・・

 今度からは気をつけてください」



「・・・わかった。

 ・・・もうすぐ魔力が切れるから、(わらわ)はもう指輪の中に戻る」



分かってもらえたのは結構だが、思った以上に落ち込みが激しい様子。声に元気がない。

今にも消えそうな体が、余計に哀愁を漂わせている。


あそこまで意気込んで戦いを挑んでおいて、魔術が通用せずに早くも打つ手なしという結果だったしな・・・

出オチ・・・そんな言葉が頭をよぎるが、流石に口にはできなかった。



「でも、結構頑張った方だと思いますよ・・・俺は・・・

 雑魚っぽいの5匹倒したし・・・」



フォローしたつもりが、咄嗟に気のきいた言葉が言えない俺。

下手すれば、嫌味に聞こえそうな言葉をかけてしまった。



「・・・・・・ふんっ

 (わらわ)は逃げたわけではないぞ!

 魔力補充のために、仕方なく撤退しただけじゃ!!」



今の言葉が神経を逆なでしてしまったのか、負け惜しみを残して彼女は指輪の中に戻っていった。


・・・どうでもいいけど、俺さり気に充電器扱いされているな。

今回は指輪の精霊さんが少し頑張った話。

雑魚は余裕で倒すも、肝心の親玉は倒せず・・・

まあそれは物語上、仕方のないこと・・・


次回、いよいよ親玉との戦い。

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