第17話 王の帰還 (※ロード・オブ・ザ・リングではない)
第17話を投稿します。
Side 御子柴 陽一
「魔族の国に・・・ですか?」
突然の神様からの出張命令に俺は驚いた。
「・・・偵察目的ですか?」
人間と魔族の争いを止めるのが、俺が神様から押し付けられたこの世界での役割だ。
偵察により、双方の内情を知るというのは確かに重要かもしれない。
しかし、あいにく俺は政治屋さんではないからな・・・
内情を知ったくらいで、そう簡単に争いを止められるとは思わない。
「いや、目的は偵察ではない。
正確には、魔族の国にあるガリュグの森と呼ばれる所に向かって欲しいのじゃ。
今回の事はなにぶん、ワシにも予想外のことでのう・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
神様の話によれば、魔族の国にある『ガリュグの森』という魔獣の住む森にて、生態に大きく異変が起きているそうだ。
俺への依頼とはこの異変を治めて欲しいとのこと。
驚いたことに、この『ガリュグの森』とは俺がこの世界に召喚されて最初に居た森で、ガリュグとはその森の主の黒竜のこと。
それを俺があっさり倒してしまい、しばらくは俺がその森の王者として君臨していたが、ずっと以前から虎視眈々と王者の座を狙い続けていた別の魔獣が居たらしい。
そいつは狡猾で自身も強力な魔獣でありながら、ガリュグが生きている間は鳴りを潜め、安易に戦おうとはせず機会を狙い続けた。
ガリュグが倒れた後も、警戒してしばらく表舞台に現れることはなかったそうだ。
道理で俺も知らない筈である。
俺が森を出て行ってからしばらく経って、天敵が居なくなった事を悟り、そいつが好き勝手に暴れまわり森の生態系を乱しまくっているそうだ。
「分かりました。
ガリュグの森とやらに行ってきます。
その話からすれば俺も無関係というわけではないので」
無関係ではないというより、思いっきり俺の責任のような気がする。
「おお、行ってくれるか。
まあ、ガリュグを倒したおぬしならば容易く倒せる相手じゃろう。
尤もずる賢い分、ガリュグよりも厄介かもしれんがの・・・
しかし、せっかく魔族の国に行くんじゃから、
ついでにさっきおぬしが言ったように偵察してきたらどうじゃ。
どうせ解決案もなにも浮かんでおらんのじゃろう?」
「偵察は・・・まあ、気が向いたら・・・」
正直に言うと解決案を何も思いついていないわけではない。
実は候補として考えていたものがあるのだが・・・
あまりにご都合的過ぎるというか・・・
文字通りデウス・エクス・マキナというか・・・
本当に実行していいものなのか悩んでいるのだ。
「ところで陽一よ・・・」
俺が少し考えにひたっていたところに神様が話しかけてきた。
「何です?」
「おぬし、いつの間にか敬語に戻っておるぞ」
「・・・・・・」
・・・いつの間にか猫をかぶる癖がつき過ぎてしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そんなことがあり、現在、俺はガリュグの森とやらに来ている。
あの後、神様から騒動の元凶である魔獣の特徴をしっかり教えてもらった俺は、街から全力疾走でその日のうちガリュグの森に到着した。
何せ一刻を争う問題。
ガリュグの森には友達だって居るし、俺個人としても心配だ。
『・・・ヨウイチ、おぬしどういう体力しておるのじゃ?
街からガリュグの森まで、あんな馬鹿げた速さで、しかも一回の休憩もなく・・・
流石はあのカメンライダーと同類といったところか・・・』
「・・・・・・」
指輪を介してアリビアと念話で会話する。
ちなみに彼女は現在、指輪の中。
一緒に徒歩で来ていたら、森に着くまで一日じゃ足りないからな。
彼女には俺の力は隠さないことにした。
いつの間にか俺は彼女のマスターみたいになっているし、俺も特に拒む理由はない。
ただし神様についてや、その神様に俺が異世界から召喚された事についてはお茶を濁している。
流石にアレが神様だというのは胡散臭すぎて信じられないだろうし、そんな胡散臭いヤツに召喚された俺も傍から見れば充分怪しい。
ぴよしやカメンライダーとともに世界平和のために奔走している・・・と抽象的にボヤカすのが関の山だった。
それでも胡散臭そうな目で見られたが・・・
『しかしヨウイチ、ガリュグの森は強力な魔獣の巣窟じゃぞ?
おぬしだけで本当に大丈夫じゃったのか?』
「大丈夫ですよ。
剣も飛び道具もありますんで・・・」
剣は以前召喚された異世界で手に入れた物で、今は背負っている。
頑丈さは折り紙つきで、そう簡単に壊れることはない。
飛び道具とはもちろん、おなじみのビーダ○ン。
ネタ武器ゆえに、これが通じる通じないかは相手の魔獣の強さによる。
最終的に暴走魔獣を倒すか否かは、その魔獣の気質による。
目的は暴走魔獣をくい止め森の混乱を治めることだ。
出来れば力を示して屈服させて治めたいが、下手にプライドの高い奴は息の根を止めるまで戦い続ける。
『・・・っ!? ヨウイチ!!
気をつけろ、魔獣の気配が・・・』
突然、こちらに向かって何かが近づいてくる気配がする。
この森では魔獣しかいないだろう。
そして、この気配を俺は知っている・・・
「「「「ウホッ・・・・ウホホーーーッ!!」」」」
突如、草むらから現れたのは9体のゴリラ。
以前、山賊退治の際に召喚したとき魔獣たちだ。
ちなみに全てメス。
あの時は、俺の一方的な都合で呼び出し、あげく徒歩で帰らせる羽目になったが・・・
みんな無事に森に帰れていたようだ。
「久しぶり、元気だったか」
軽く片手をあげて挨拶する。
「「「「ウホッウホッ」」」」
彼女たちも、ニカッと歯をむき出しにして、サムズアップで応える。
暴走魔獣が森を荒らし回っていると聞いて心配していたが、みんな元気そうで何よりだ。
「ホッホッホッウホッ」
一匹のゴリラが自分の背中をツンツン指さし、クルリと振り返る。
「えッ?」
その背中には、ゴリラの子供(?)がしがみ付いていた。
大きさからして、まだ生後間もないと思われる。
時折、鼻に指を突っ込んでほじほじしている。
「子供が生まれたのか・・・おめでとう」
言ってから「はて?」と思った。
以前会ったのはほんの一週間ほど前、その時は妊娠していた様子はなかった。
それが一週間後、既に子供が出来てるって・・・?
普通じゃ考えられない。
しかし彼女たちは魔獣。
通常のゴリラとは生態が違うんだし、そういうものだと納得していいんだろうか?
ゴリラの赤ん坊は、先ほど鼻をほじった指を舐めている。
俺が無理やり納得しようとしていると、他のゴリラたちもニカッと笑い、クルリと背中を向けた。
「えっ? 全員子持ち?」
驚いたことに、彼女たち全員の背中に赤ん坊ゴリラが張り付いていた。
・・・そう言えば父親はどうしたんだろう?
以前、発情期真っ只中だった彼女たちは、深刻な男日照りに悩んでいた筈だ。
そこまで考えて、俺は恐ろしいことに気付いた。
以前、俺は彼女たちを召喚した先で、愚かな山賊どもを性奴隷としてプレゼントしてやったはず・・・
彼女たちも喜んでいた・・・
(まさか・・・父親たちって・・・・・・)
もしそうだとすれば、まさに種を超えた軌跡。
そういえばあの後、山賊どもはどうなったんだろう?
発情期のメスゴリラを前に、人間の理性ってどれくらいまで保てるんだろうか?
知りたくもないけれど・・・
『・・・・・・・・・・
・・・ヨウイチ・・・?
わ、わらわの気のせいじゃろうか・・・?
おぬしが魔獣と何やら会話しているように見えるのじゃが・・・』
アリビアは俺が魔獣と会話しているのが信じられないらしい。
「会話といっても簡単なものですけど・・・
以前、この森を訪れたときに色々ありまして、それで仲良くなったんですよ」
流石に全裸で狩猟生活していた件は説明したくない。
詳しいことはお茶を濁させてもらおう。
『・・・いや・・・仲良くなったって・・・
おかしいぞ、それは!!
よいか!! ヨウイチ!!
魔獣にとって人間なんぞ、餌も同然っ!!
決して相容れぬ存在!!
それがこの世界の摂理じゃ!!
どこの世界に魔獣と心を通わせられる人間がいると言うのじゃ!?』
どこの世界にいるのかって・・・図らずも的を得た問いだと思う・・・
・・・少なくとも他の世界にはいるわけだし・・・俺が。
それに俺など正直たいしたことはない。
この世界には種族を越えて、魔獣と子供を作っちまった漢たちがいる・・・かもしれないんだし・・・
俺が種を超越したロマンスに思いを馳せながら、興奮するアリビアをいかに落ち着かせようか考えていると
『ク”ォ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”ッ!!!!』
突然、地獄の底から響くような咆哮が聞こえた。
・・・・・・・・・
Side 魔族青年 バルディウス
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」
ガリュグの森に再び異変が起こった。
以前の異変は、ガリュグの森の主にして最強の魔獣『魔竜ガリュグ』が倒されるという事態。
ガリュグを倒したのは、謎の野人・オッパッピー。
強大な力を持ち、さらには魔王陛下と同じ黒髪を持つと考えられるため、魔人オッパッピーとも称される。
そのとき調査でこの森に赴いていた私は、オッパッピーと闘い、これに敗北・・・
オッパッピーはそのままこの森から姿を消した。
そして今回の異変とは、ここ数日で森に住む魔獣の数が激減していること。
古来より、我々魔族は戦において魔獣を兵器として使役する。
人間側への侵攻をあと1週間後に控え、この事態はまさに我々魔族にとって寝耳に水。
幸い必要な数の魔獣は既にそろえ、魔獣部隊の編成は終了しているものの、魔人オッパッピー再来の可能性もある。
私はガリュグの森の調査に志願した。
そして調査隊を率いて、私はガリュグの森へと入った。
目的はあくまで調査であり、戦闘ではない。
ゆえに隊の規模は以前の1/3、大所帯で目立たないためという理由だ。
そもそも仮にオッパッピーが居たとして、かの魔人は数を揃えれば勝てるという相手ではない。
オッパッピーと直接戦った私だからこそよく分かる。
だが・・・
「はぁっ、はぁっ・・・・・・
い、一体なんなんだ!?
あの化け物は!?」
森で我々を待ちかまえていたのは、オッパッピーなどではなかった。
しかし、我々の想像をはるかに超えた恐るべき怪物・・・
『ク”ォ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”ッ!!!!』
必死に逃げる私の背後から禍々しい咆哮が響く。
いくらここが強力な魔獣が生息する森とはいえ、あんな化け物が存在していたなんて未だに信じられない。
森に入った我々は、まず魔力の残留に気付いた。
魔獣が死んだあと、しばらく残るわずかな魔力・・・
それも複数の魔力の残留が感じられ、それはつまり複数体の魔獣が近くで死んでいるということ。
検証のために魔力の残留を追い、そこまで来た我々は大量の魔獣の死骸を発見した。
そこはまさに魔獣の墓場。
そして墓場の中央で死骸を貪り喰うアレと遭遇。
アレは我々に気付くや否や、いきなり咆哮をあげ襲いかかって来た。
通常、魔獣は我々魔族に従うものだ。
強力な魔獣であるほど従いにくいが、それでも我が隊は高位魔族で結成された少数精鋭。
高位の魔獣であっても従えられる筈だった。
しかしアレは違った。
魔竜ガリュグのように規格外の魔獣なのだろうか?
そしてアレは明らかに殺意をもって我々に襲いかかってきた。
敵意ではなく殺意・・・
本能ではなく、明確な意思のもと攻撃してくる・・・
トドメとばかりにアレには魔術は全く通じなかった。
ガリュグは別として、高位魔獣といえど流石にアレは反則だ。
あんな恐ろしい魔獣が今まで存在すら知られずに、この森に潜んでいたなんて・・・
炎も冷気も雷もあらゆる攻撃をモノともせず、次々と我が同胞を惨殺していった怪物。
ある者はその恐るべき怪力で体を引き裂かれ、またある者はその邪悪な牙で頭ごと噛み砕かれ・・・
我々は虫けらのように蹂躙された。
今では残ったのは私一人のみだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・・・クソッ!!」
何故、我々があんなクソッタレな化け物に我が物顔で蹂躙されねばならんのか・・・
死んだ部下たちも同じく悔しいに違いない。
あんな無残な殺され方をしたのだ。
そして、アレは嗤っていた。
心底楽しそうに。
あの愉快そうな顔が癪にさわる。
刺し違えてでも部下たちの仇を討ってやりたい・・・
だが・・・
「わ、私はまだ・・・
死ぬわけにはいかない・・・」
私には目的がある。
ここで死ぬわけにはいかない。
確かにアレに対する恐怖も大きい。
死なずに逃げ帰れるものなら、ぜひともそうしたい。
だが、そんなことよりも
「あの魔人に・・・オッパッピーに・・・
再び会うまでは・・・」
オッパッピー・・・・・・私の人生で初めての敗北。
私の前に立ちはだかった巨大な壁。
再びヤツに会って、私は・・・
私は・・・
(私は、一体何をするつもりなのだ・・・?)
今更だが気付いた。
会ったところで何をしたいのか分からない。
何のために私はヤツを追っているのか?
雪辱を晴らすため、戦いを挑む?
馬鹿馬鹿しい。
相手は魔竜を葬るほどの怪物だ。
私ごときが勝てるはずがない。
結果は分かり切っているのに勝負を挑むなど馬鹿馬鹿し過ぎる。
それとも説得して魔族側に引き入れる?
魔竜ガリュグの後釜というわけではないが、彼が同じく魔人ならば魔族側に着くのが道理。
尤もオッパッピーが人間なのか魔族であるのかは、実のところは判らないのだが・・・
しかし人間であれ魔族であれ、あの力は脅威だ。
人間側に着けばとてつもない脅威に、
我々魔族側に着けばこれ以上ない戦力になる事は確か。
・・・しかし、あれほどの力の持ち主が国という集団の中におとなしく納まるものなのか?
安易に取り込もうとすれば、現魔王陛下を蹴落として、我々魔族の国を乗っ取るやも知れん。
引き入れるのも難しいければ、扱うのはさらに難しそうだ。
『オ”オ”オ”オ”オ”オ”・・・』
「くっ・・・」
思考が脱線してしまった。
その間にもアレが迫って来る。
途中ある木を次々と薙ぎ倒しながら迫って来る。
(も、もうすぐ追いつかれる・・・
どこかに、身を隠せる場所はないのか!?)
走りながら周りを見渡す。
あった。洞窟だ。
入り口は私が辛くも入れるだけの大きさ。
アレには小さすぎて通れまい。
とりあえずはあそこに避難を・・・
『カ”ァ”ア”ァ”ア”ア”ア”ア”ア”ァ”ァ”ッ!!!!』
ブォォオンッ
「っ!?」
アレの咆哮とともに、私のすぐ傍を何かが通り過ぎた。
ドォオオオオンッ
大岩だった。
直径にして私の三倍はあろうかという大岩が飛んできて、洞窟の入り口にぶつかり、そのまま蓋をしてしまったのだ、
逃げる場所を失い、私は完全に追い詰められた。
「・・・クソッ、クソクソクソクソクソ!!」
思わず悪態をついて、アレを見る。
ニヤリ・・・と、アレは悔しがる私を嗤っていた。
明らかに楽しんでいる。
私という獲物をジワジワと追い詰め、絶望していく様を見て嗤っている。
「・・・おのれ・・・」
あんなふざけたヤツに、私は殺されてしまうのか・・・!?
オッパッピーに再び会うことも叶わず、私の人生は終わってしまうのか・・・?
「認めん・・・
絶対に認めんぞ・・・」
しかし、無慈悲にもアレは迫って来る。
薙倒した大木を片手で持ち、ニヤケた貌で迫って来る。
わざわざあんな大木を持ち出して、私を撲殺するとでも言うのか・・・?
「ふざけおって・・・」
気が変わった。
こうなったら何としてでもアレに一矢報いる。
あんなふざけたヤツに、この私がおとなしく殺されていい道理などある筈がない。
魔術は一切効かなかった。
ならば・・・
私は腰に下げた剣を、鞘から引き抜き、構えた。
私の抵抗の意を感じ取ったのか?
一層、ニヤリと嗤うアレ。
そして
『オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”ォ”ォ”!!!!』
大木を棍棒のように振り上げ、再び私に襲いかかって来た。
「っ!!!」
敵のあの巨体では、下手に間合いを取ると逆に危ない。
こっちから接近して、超近距離にて剣を・・・
そう思い、敵に向かって足を踏み込んだ。
瞬間
ドォオオオオンッ
突然、アレの側頭部が爆発し、アレは横に吹き飛んだ。
Side 御子柴 陽一
突然、近くで咆哮が聞こえたので向かってみると、鎧姿の人物が巨大な魔獣に襲われていた。
咄嗟にビーダ○ンで魔獣の頭部を狙い撃ち、吹き飛ばした。
しかし、その瞬間しくじったと思った。
この森は一度足を踏み入れたら、弱肉強食が掟の世界。
人だからそいつを助け、魔獣だからで攻撃する道理は使えない。
最悪でも、魔獣の足元を狙って、威嚇に止めておくことも出来た筈なのに・・・
メスゴリラたちのような友達もいる分、少し心苦しい。
しかし後悔してももう遅い。
ビーダ○ンの一撃は、魔獣の側頭部に直撃。
これで死んでたら、流石に悪いじゃ済まない気がする。
・・・もし子持ちだったら、俺が面倒を見ないといけないのだろうか・・・
一方で助けた人物は、突然魔獣が吹き飛んだ事に頭が追いつかないようで固まっている。
あの男、どこかで見たことがあるような気がする・・・
男の方に気を取られていると、
『ク”、ゥ”ウ”ウ”ウ”ウ”ウ”ウ”ウ”ウ”ウ”ッ!!』
倒れていた魔獣がのそりと起き上がる。
その眼は血走って真っ赤になっており、歯を剥き出しにして唸っている。
もしかしなくても怒っている。
その矛先は、言うまでもなく横槍を入れてきた俺だろう。
殺さずに済んだなんて、ホッとしている場合ではなさそうだ。
どう考えても謝って許してもらえる雰囲気ではない。
いきなり頭を撃たれたら、そりゃあ怒るだろう。
魔獣は立ち上がった。
10メートルは優に超えている。
鈍色の体毛と褐色の肌をしたゴリラ型の魔獣だった。
ゴリラ型の魔獣だったらこの森でたくさん見てきたが、こんなヤツは初めてみる。
(・・・って、このゴリラ、神様の言っていた・・・)
ここで俺は、この魔獣が神様の言っていた魔獣と特徴が合致することに気付いた。
なるほどと思う。
怒っているせいもあるかも知れないが、魔獣の眼は狂気で満ちており、まさに目につくモノすべてを破壊せんとする意思が感じられる。
こんなヤツをのさばらせたら、それこそ森の生態系はメチャクチャになるだろう。
共存などという言葉とは明らかに無縁そうなタイプ。
力を示しても、素直に従うタイプにもとても思えない。
『ク”コ”ォ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”ッ!!』
俺の前に立ち、巨大な咆哮を上げて大気を震わせる魔獣。
見るからに殺る気満々だ。
完全に俺を敵と見なしている。
だとすれば
(戦うか・・・)
ビーダ○ンで奇襲した事については俺に非があるだろうが、戦うと決めれば話は別だ。
魔獣の様子をじっくり窺う。
魔獣の頭蓋はよほど頑丈なのか、側頭部に俺のパワーショットをまともに喰らったというのに、大して効いていない様子だ。
弾が無限に撃てるなら、同じ箇所に集中すればいずれは致命傷に届くだろう。
しかし、あいにく弾であるビー玉は5つしかなく、そのうち1つは魔獣を撃ったときに粉々に砕けて回収不能。
ビー玉は残り4つしかない。
これ以上、ビーダ○ンを使い続けても無意味だ。
そう結論付けて俺はビーダ○ンをしまう。
『ヨウイチ、どうするのじゃ?
おぬしのビーダ○ンとかいう武器、確かにすごい威力じゃが。
あの化け物、まるで効いておらんぞ』
アリビアも想像以上の魔獣の頑丈さに驚いているようだ。
ネタ武器とはいえ、俺だって少しは驚いている。
魔獣に襲われていた男が何者かは知らないが、人の目がある以上はビーダ○ンで倒して済ませたかったがそれも使えなくなった。
ビーダ○ンなら特別な武器だと押し通して、俺の力を隠蔽できそうなんだが・・・
こうなったら仕方ない・・・
「今回は、少し真面目に戦うとしようか・・・」
俺は背から剣を引き抜いた。
・・・引き抜いた後、ビーダ○ンで目を狙えば良いんじゃね?と思ったが、今さら剣を戻すのは躊躇われた。
GWとは関係ありませんが、陽一が久しぶりに森に帰郷する話でした。
そこで以前、この森で戦った魔族青年バルディウスと再会。
バルディウスは、陽一こそが自分が追い続ける野人(?)だと気づけるのか?
次回、暴走魔獣との戦闘。