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09話

すいません、颯のルビを振り忘れていたので07話に振りました。

読み方が分からないという方は確認してみてください。

―その頃、桃と燿―


「ごめんなさい。ごめんなさい。見逃してください」

その娘はしゃがみこんで必死に叫んでいる。人魂のような物が娘を中心にぐるぐると回っている。

数刻前、娘は父親に頼まれたお酒を買い、家に急いでいる最中だった。その時に酒屋の店主から、最近急に人が変わったように暴れだす村人が増えているから気を付けるように言われたばかりだった。その帰り道だ。急に寒気がしたと思った瞬間、目の前に『自分』がいた。何が起きているのかと思っていると、『自分』は人魂に変わった。それを見て妖怪か何かだと感じた娘は、腰が抜けてしまいその場にしゃがみこんでしまった。その人魂は娘の周りを飛んだ後、背中から娘の身体の中に入り込んだ。びくんと身体を仰け反らせた娘は買ったお酒が手から落ちたのも気にせずにそのまま動かなくなってしまった。しばらくすると、娘は力無く立ち上がり、左右に揺れながら一歩ずつ歩き出した。その娘の顔は青白く、瞳の辺りは空洞のようになっていて、その中心に黄色い光が射している。


「また間に合わなかった!」

娘の後ろにいつの間にか燿が息を切らしながら悔しそうな顔をしている。娘は『憑き人』化していた。陰陽師の村を出て、目的の黄泉の国まで半分位の距離を来ただろうか。これまでに『何人』もの『憑き人』を桃と燿は殺してきた。世の中では風邪程度の頻度で発生していて、

一日進めば必ず『憑き人』に出会った。旅を始めた最初のうちこそ祓う手段がないかと燿は使える陰陽師の術を試していたが、全てが無駄だった。最後には殺すしかなかったが、燿は人の形をした『憑き人』を殺す度に心が曇っていくのがわかった。それならば、と『憑き人』になる前に何とか出来ないかと気配を感じた瞬間に二手に分かれて探すが、いつも間に合わない。今回もそうだった。

「燿、来るぞ」

悠が忠告した途端、『憑き人』は燿に向かって突進してきた。燿は歯を食いしばりすぎて口から血が出ているのにも気付かずに、印を結んだ。

『憑き人』が燿の目の前まで着た瞬間、燿は白い扇子を広げ仰いだ。すると、『憑き人』は苦しむ間もなく一気に燃え上がり、崩れ去った。

「いい加減、人を殺す事には慣れたか?」

「慣れるわけがないでしょ!それに『憑き人』は人じゃないわ!」

燿と悠が言い合っている所に桃が合流した。

「お姉、大丈夫?」

「ええ・・・今回も間に合わなかったわ」

そう言うと燿は歩き出した。桃は気まずそうに後ろを付いていく。燿が『憑き人』を殺すといつもこうなる。桃が殺しても同様だ。燿の悲し気な瞳が死体を見つめるか桃を見つめるか違うだけだ。それが桃には堪らなかった。

「今回は俺たちの出番は無しかい?」

「お姉が『憑き人』の気配に気づく前に黎が感じたら教えて。もうお姉には殺させない」

「そりゃいいが、桃がやっても多分燿は喜ばないぜ?」

「それでも、お姉にはもう殺させたくない」

桃にはそれしか出来ないと思った。燿の心を助ける事は出来ないけれど、代わりに『憑き人』を殺す役は引き受けようと決めた。


夜も更けてきたので二人は眠れる場所を探した。たまに宿を取る事もあるが、基本的には野宿だ。二人は焚火を焚き、暖を取っている。悠と黎は子狐に変化し丸まって寝てしまったようだ。先程の事を思い出しているのか、二人とも何も喋らない。焚火の音だけが響いていて空気が重い。桃が焚火に小枝を入れた時だった。不自然に強い風が吹き、焚火が消え暗闇に襲われた。

燿と桃は素早く立ち上がり、お互い背中合わせの形で死角を無くしつつ気配を探ったが、かすかに妖気を感じるものの、殺気は感じられない。

いつの間にか燿の手には扇子が、桃の手にはすらりと抜かれた黎の刀が月の光で鈍く光っていた。

「桃!」

「!」

木の上から何かが飛んできて、焚火の跡がはじけ飛んだ。燿の一声で二人ともその場から飛び跳ねていたので怪我は無かったが、二人の距離は離されてしまい、それぞれ木を盾のようにして身を潜めていた。

「おいおい、この気配は・・・」

「悠、お願いだからそれ以上言わないで。頭が痛くなってきたわ・・・」

桃は一気に飛び出し気配のする木の上まで駆け上った。意表を突かれた相手は右手に持っている鎌のようなものを投げようとしたが、桃の方が早く、左手で手を掴まれてしまった。気配の相手は斬られると感じ目を瞑り身体を強張らせた。

「痛い!」

痛みは刀で斬られたものではなかった。桃は飛び出す前に刀を置いてきており、素手だった。桃は残った右手で相手のおでこを弾いたのだ。

「何、やっているの?」

「桃!二人とも無事?」

桃が相手に質問している間に燿は木の下まできていた。

「とにかく降りてきなさい。紬」

襲撃者は・・・紬だった。


「にゃはは!だからすぐにばれるって言ったじゃねぇか!」

颯の嫌味な声が森の中で響いている。焚火の後を砕いたのは颯が変化していた鎖鎌だった。紬は桃が手を放した途端、するりと木の下まで降りて俯いてしまった。後を追って桃も降りてきた。

「桃姉に殺されるかと思った」

「妹を斬るわけない」

「だって、ボクだってわからなかったら」

「紬だってすぐにわかったよ?」

桃に断言された紬は泣き出してしまった。燿は紬の頭を撫でながら

「私たちが分からないわけがないでしょう?颯まで使って・・・追いかけてきたの?」

「当たり前だよ!起きたら燿姉と桃姉が居なかったボクの気持ちわかる!?」

「燈子さんと月代さんに止められなかったの?」

「止められたよ!でも待っていられるわけないじゃないか!ボク達姉妹でしょ?何でボクだけ置いて旅に出たのさ!」

「燿姉に何かあったら紬しか後を任せられないから」

「そんな、そんな都合の良い話ないよ!抜け駆けはずるいっていつもボク言っているじゃないか!」

燿の胸の中で紬は泣きわめいた。ここまで来てしまったからには一人で帰す方が危険だ。燿と桃は紬を黄泉の国まで連れていく事に決めた。


紬が合流してからの旅は一言でいえば姦しいだった。紬の底抜けの明るさは燿の心を少しずつ癒しているようで桃は自分にはできない事を自然とやってのける紬が羨ましくもあり、誇らしくもあった。紬が来てくれてよかったと心から思った。



― ???


「紬が無事合流したぞ」

「そう、感動の再開ね」

「一人で来させるなんて危険ではなかったのか?」

「当たり前よ。紬の周りに『憑き人』を配置していないのだから」

「なるほど、な。また連絡する」

「ええ、頼むわ」

「ふふ。さぁ無事に帰ってきて頂戴」


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