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08話

「どうして紬を行かしたの?」

いつの間にか月代の後ろに燈子が立っていた。どうやら一部始終見ていたようだ。

「私達の願いを成就させる為よ。それには紬の成長は不可欠でしょう」

「そう・・・かもしれないわね」


月代のくれた地図の目的地には黄泉の国と書いてあった。二人の目的地なのだろう。指示されている道のりは一見、遠回りに思えたが、実際に行ってみると、なるべく人と関わらない、かつ気持ち悪い気配を感じない道が選ばれていた。お陰で紬が戦うような場面は無かった。颯が余計なことを言うまでは。旅が順調だった事もあって紬も気が緩んでいたのかもしれない。

「つむぎん!ちょっと待った!」

「なに?まだ二人に追いついていないんだからゆっくりしている余裕はないよ」

「なぁんか嫌な匂いがするぜぇ。こいつは人と・・・俺の大嫌いな旧鼠の匂いだ」

「妖怪が人を襲っているって事!?」

「わからねぇ。が、匂いは同じ方角からするな。俺はどちらでもかまねぇが・・・どうする、つむぎん?」

「月代さんからは出来るだけ戦闘は避けるように言われているけど・・・颯、匂いのする方向を教えて」

「にゃはは!お前ならそう言うと思ったぜ!久々の旧鼠退治だ!いこうぜ、つむぎん!」

紬は颯が言う方角へ木々を飛び移りながら最短距離を駆け抜けた。山から下り、しばらくすると村が見えてきて入り口に娘が一人倒れていた。

「お姉さん、大丈夫かい」

「ああ、お嬢さんは?」

「ボクかい?通りすがりの陰陽師さ。怪我をしているようだね。家まで肩を貸してあげるよ」

そう言って、紬は娘を家まで送り届けた。娘はお礼に温かい食事を用意し、一泊泊まっていくように勧めてきた。それに応じた結果、紬はこんな格好で小屋に放り出されていた。


「なるほど。なるほど」

大分頭がはっきりしてきた。つまり娘の用意した食事には薬が盛られており、寝ている間に縛られたのだ。意地汚くおかわりまでせがんでいたら薬も良く効くわけだ。でも何故助けた娘にこんな仕打ちを受けているのだろう。紬がそう考えていると昨日の娘が小屋に入ってきた。

「おう、目が覚めたか」

「おはよう。お姉さん。昨日と話し方が随分変わってしまっているけど、ボクはなんで縛られているのかな?」

「それはな、お前が陰陽師だからだよ!」

「陰陽師に恨みでもあるのかな?」

「ああ、俺の仲間が随分殺されたよ。陰陽師にな!この村にはお前を歓迎する奴は一人もいねぇんだよ!」

ここまで話してやっと理解した。ここは旧鼠に取り憑かれた人の村だったのだ。しかし『憑き人』とは違ってまだ助ける事は出来そうだ。

「ねぇ、ボクの持ち物はどうしたのかな」

「全部山に捨ててきてやったよ!」

「山に・・・ねぇ・・・せめて川に捨てればよかったのにね・・・颯!」

紬が叫ぶと縛っていた縄が千切れた。知らない人が見たら紬が物凄い力で引きちぎったように見えただろうか。実際は紬の背中に子猫が潜んでいたのだが。

「にゃはは!つむぎんの間抜けな恰好は見ていて愉快だったぜぇ!」

「こうなる前に何とかしておいてよ。旧鼠は嫌いなのでしょ?」

「まぁ、つむぎんに社会勉強させてやりたくてよぉ」

よし、片が付いたらこの馬鹿猫を川に流してやろう。少しは泳げるようになるかもしれない、と紬は思った。

「お札は?」

「俺は気が利くからな。元通りにしておいてやったぜぇ」

「気が利く・・・ね」

じろりと颯を睨みつけたが、とにかく先に済ますことをやってしまおうと呆気に取られている娘に素早く近づき額にお札を張り付けた。

「ぎゃああああ!」

娘は苦しみだし、娘の身体から大きな鼠が飛び出してきて逃げ出した。

「颯!」

「まってましたぁ!にゃはは!」

颯は嬉しそうに叫ぶと猫又に変化し、あっという間に旧鼠に追いついて左の爪で切り裂いた。お札を張った娘は糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちそうになったのを紬が受け止め、そっと小屋の中に横たわらせた。颯の後を追って小屋の外に出てみると旧鼠が五匹、颯を囲んでいた。

どうやら、少しでも攻撃しやすくする為に人の身体から出てきたようだ。

「つむぎん、どうしよっかぁ?俺、弱い物虐め嫌いなんだよぉ」

颯はにやにやしながら聞いてきた。結局は全員仕留めるくせに。

「じゃあボクは先を急ぐから颯は旧鼠に食べられればいいよ」

「おいおいおいおい!ここの村人を見捨てるのかぁ!そっかぁ!つむぎんはお姉ちゃんたち以外はどうでもいいんだぁ」

「本当にその口直さないと怒るよ・・・」

そう言いながら、両腕の袖からお札を二枚取り出し旧鼠に素早く張り付けた。張り付けられた二匹の旧鼠は紬の「滅」という言葉と同時に内側から爆発したように身体が破裂し、肉片が飛び散った。

「ボクの分の仕事は終わったよ」

「にゃはは!残りは・・・こうだ!」

颯は残りのうち二匹を食いちぎった。一匹は戦意喪失し、かなり遠くまで逃げていた。紬はいつの間にか鎖鎌に形を変えていた颯を投げつけると旧鼠は綺麗に真っ二つになった。

 その後、正気に戻った村人達に感謝された紬は照れながら、今度は薬が入っていない食事をご馳走になった。食事後、村を出た紬は颯を問い詰めていた。


「ねぇ」

「あぁん?」

「今回颯の悪戯に付き合ってあげたんだ。そろそろ燿姉と桃姉がどこら辺にいるか教えてくれてないかな?」

「そんなの、月代の地図通り行けばいつか会えるだろ?」

「ボクを馬鹿にしているのかい?悠と黎の気配を颯が捜せる事位分かっているのだよ?」

「・・・」

「そこの川、流れが強そうだねぇ」

「わ、わかったよ!ちっ、意外と分かってやがる・・・あそこに山があるだろ?あそこにいるよ」

「!?そんな近くにいるの?」

「ああ、間違いないなぁ」

「そっか・・・颯、もう一つお願い聞いてもらってもいいかな」

紬はそう言うと颯に説明した。

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