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06話

月代が桃の事を考えていると、まいった、と言う事が聞こえてきて意識を戦っていた二人に戻した。燿と紬の戦いは、どうやら燿に軍配が上がったらしい。

「燿姉は術の発動早すぎる!」

「修行が足りないのよ。でも二連敗なんて恥かかなくてよかったわ」

「今度は桃姉とやる!せめて一勝したい!」

「疲れたから、ごめんね」

月代はため息をもう一度してから三人が騒いでいるところに歩いて行った。




ある夜、紬以外の四人が囲炉裏を囲んでいた。紬はとうに眠ってしまったようだ。燿は二人に大事な話があると切り出した。

「ここから少し離れた島に、とても強くて悪い邪気の吹き溜まりを感じるの。このままではいずれこの村にも、災いが訪れてしまうわ。今のうちに桃と二人で島の様子を見てくるわ。もしも危険と判断した場合は即封印、または祓ってくる」

燈子と月代は驚き、お互いの顔を見合わせた後に燈子はゆっくりと口を開いた。

「あの島はね、鬼ヶ島と言われていて妖怪の中でも強力な『鬼』が巣食っているの」

初めて聞いた燿は驚き、口を開こうとしたがそれを制して燈子は話を続けた。

「今までは島から何物も出てくる事が出来ないよう結界を張っていたのだけれど、結界が弱まって燿も感じ取れるようになったのね」

「そ、それなら急がないと!」

「結界でどうにかしてきた鬼ヶ島を二人で行って無事に帰って来られると思っている?燿は確かに強くなったわ。だけどまだ実践経験が全然足りない。想定外な事が起きた時に一瞬だけど躊躇する癖があるわ。その隙は命取りよ。例えば鬼ヶ島には『鬼』の他にも『憑き人』も沢山いるの。『憑き人』と戦って燿は殺せる?」

「え・・・」

燈子が言った『憑き人』とは、妖怪に憑かれた人間の事を指す。祓う術は無く、器となった人間もろとも殺すしか手立ては無いと言われている。幸い村にはまだ『憑き人』が出ていない為、二人は対峙した事は無かった。

「そういう事よ。どうしても行きたければしばらく旅をして心も鍛えなさい。そうね・・・修行も兼ねて黄泉の国まで行ってくるのはどう?その間にこちらも準備をしておくから。鬼ヶ島の話は旅から帰ってきた燿を見て結界を張り直すか戦うかを改めて決めましょう」

「修行が足りないというのであればここでも出来るわ。どうして黄泉の国なんて何処にあるかも分からない場所に行かなければいけないの?」

「黄泉の国は死者の入り口と言われているところから入れるの。場所については地図を描いてあげるから安心して。何も無ければ今の季節が終わる頃には戻ってこられると思うわ」

「時間がかかりすぎるわ・・・しかも死者の入り口なんて縁起が悪そうな所に行けなんて。納得する理由があるのかしら」

「もちろんあるわ。まず、ここで暮らしてから今まで村を出たことがないでしょう?修行だけはしていたけど、それしかしてないわ」

「修行をしていれば充分じゃない。他に何が必要だって言うの?」

「ほら、そういう所よ。燿は視野が狭いのよ。まずは旅をして外を見てくる事。そして心を磨きなさい。正しき道を進む時に躊躇わないように。そして黄泉の国に有らせられる『イザナミノミコト』から『憑き人』を人間に戻す方法は本当にないのか。そして、弱まっている結界を張り直す為に必要な『ある物』をお借りしてきて頂戴。島に行くのはそれからよ」

続いて月代は桃に冷たく言い放った。

「桃は残りなさい。陰陽師としては申し分ないけど、燿は特別な子なの。『普段』の桃では確実に足手まといだわ」

「お姉が行くなら行く」

「・・・命を落とす事になったとしても?」

「うん」

「桃!月代さんも!行く前から縁起でもない事は言わないで!確かに今は私よりも陰陽師の力は無いかもしれないわ。でも誰よりも強い子になるのは桃なのは二人もわかっているでしょ。だからこそ桃には色々な経験を積んで欲しいのよ」

それでも目を閉じたままの二人を見て燿は続けて訴える。

「もう時間がないの。このままでは本当に間に合わなくなる。旅に出ろと言うのなら、せめて村の人たちを連れてここから離れて。二人の話ならみんな聞いてくれる筈よ」

「本当に桃と二人で行くのね?・・・燿の覚悟はわかりました。許可しましょう。」

「?」

三人の会話に少し桃はついていけないようだったが、それでも黙って聞いていた。

「貴方達は離れない方がいいと私も思うわ。ではこちらから改めてお願いするわ。二人で『イザナミノミコト』にお会いになってきて頂戴。村の皆の事は心配いらないから無事に帰ってくると約束しなさい」

「燈子さん・・・月代さんもだけど、どうしてそう落ち着いていられるの?」

そう言われると燈子と月代は笑いながら言いました。

「燿は観察眼も足りてないのね。ここは陰陽師の村よ。村人皆陰陽師なの。私たちは鬼ヶ島を見張る役目でここに村を作り、住んでいるのよ」

そう。燿、桃の住んでいるこの村は陰陽師の隠里だった。その事にすら気づけなかった燿はこのまま島に行っても何もできない事を悟り、

燈子と月代の言う通りに、黄泉の国の『イザナミノミコト』にお会いに行く事に決めた。紬に話せば一緒に行くと言い出すのはわかっていたので二人は黙って翌朝早くに家を出た。見送る月代は少し怖い顔をしていたのが気になったが、怒ってはいないようで二人の手を強く握りしめて小声で一言だけ二人にだけ聞こえるように呟いた。

「二人ともどんなにつらい事が降りかかっても、決して考える事を辞めないでね」




「紬は怒るよね」

「お姉の代わりは紬だけ」

「そうね・・・とにかく急ぎましょう」

「おいおい、俺たちの事まさか忘れてないような?」

「二人じゃなくて四人だぞ。」

刀と扇子から声がした。

「あら、貴方達は匹で数えるのではないの?」

「刀がしゃべると目立つから黙って」

そんな会話をしながら二人と二匹は黄泉の国に向かう旅が始まった。

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